#140字小説
『あなたのクトゥルフはどこから?』な話題で盛り上がった。ゲームとか映画とか小説とか漫画とか、さまざまなタイトルが飛び交う中、一人が呟いた言葉に場が静まった。「子どもの頃、夜の海で溺れたときに……」雲行きが怪しくなってきた。
#140字小説
February 15, 2026 at 8:45 AM
たまたま手に入れた幽霊画の女があまりに悲壮な表情をしているので、無い足を描き入れてやった翌朝、画から女が消えた。好きなところへ歩いて行ったかと思ったら三日後には帰ってきた。遠くのあくどい高利貸しが変死したとの噂と共に。女はさっぱりと明るい表情になり、ときどき僕に微笑む。
#140字小説
February 16, 2026 at 11:00 AM
夫は嘘をついていた。戸籍は闇で買ったもので、生まれ育ったと聞いていた山奥の村は存在しなかった。こんな遠くまで来たのに。山道で一人泣いていると、草むらから青白い長い手が何本も何本も伸びてきて、夫の骨壺を受け取り、闇に消えていった。最後にちいさな手が私の頭を撫でた。
#140字小説
再掲です
February 15, 2026 at 10:00 AM
悪魔に会って、男は涙を流して歓喜した。「お前はなぜ喜ぶのだ。私に願い事でもあるのか?」「違います。悪魔がいるなら地獄も天国もあると信じられるからです」「天国に行けると思うからか?」「違います。最後の最後に、悪人がその罪をちゃんと裁かれる場があるとわかって嬉しいのです」
#140字小説
February 13, 2026 at 10:01 AM
事故により、彼の記憶は一日しかもたないのだそうだ。だが僕の熱心なファンなのだという。僕の作家デビューは彼の事故より後なのだが。「部屋に本が何冊か置いてあるんですけどね」世話人が語った。「いつも先生の本を選んで読むんです」僕の本は毎日のように彼に初読して貰っているのか。
#140字小説
再掲です
February 16, 2026 at 10:01 AM
若くして亡くなった妻に会いたくて、タイムマシンを作った。結婚前の彼女に何度も会いに行った。愛しかった。ある日ふと『思い出した』。彼女とは結婚できなかったのだ。彼女は僕に言ったのだ。「別れて欲しいの」と。「好きな人ができたの。ずっと歳上で優しくて、寂しい瞳をした人なの」
#140字小説
再掲です
February 14, 2026 at 10:01 AM
クラス全員にチョコを配った日の放課後、バスケ部の女の子がこっそり話しかけてきた。「で、本命は誰なの?」「え」「バレたくないからみんなに配っただけで、本当に渡したい本命が混じってたんでしょ? 誰なの?」「それは」言えるわけない。あなたです。
#140字小説
February 14, 2026 at 3:25 AM
父親から変身セットを渡された。「俺の跡を継いで正義の味方になってくれ」それって世襲制だったの!?と驚いた。友人に話すと、何と友人も父親から似たことを言われたという。「俺の跡を継いで最初は正義の味方の敵だが途中から親友ポジのライバルになってくれ」それも世襲制なの!?
#140字小説
February 13, 2026 at 11:11 AM
ファミレスの後ろの席で別れ話が始まった。聞き耳をたてた。男の言い分がひどい。始めから遊びだった。お前、気が利かないし、頭も良くないし。女の子が泣き出す。私は立ち上がった。「彼女の方が利口だよ。あらかじめ私を呼んだんだから」夫にそう言った。
#140字小説
再掲です
February 12, 2026 at 10:01 AM
February 13, 2026 at 4:44 PM
……俺は『神』だ。山奥の村でそう呼ばれたのでそうなのだと思った。やがて村は廃れ、山を降りた。……俺は『妖怪』だ。町でそう呼ばれたのでそうなのだと思った。嫌われたので悲しくて別の姿をとった。……俺は『可愛い』だ。今はそう呼ばれている。毎日撫でられて愛されてニャアと鳴く。
#140字小説
February 11, 2026 at 1:12 PM
さる有名な名探偵の奥方と話をする機会を得た。「あの人、人ごろしの気持ちはよくわかる癖に女の気持ちはまるでわからなくて」「ははは」「最近やっと私のことはわかり始めたみたい」「女性の感情を学ばれたと?」 「まさか。私がなってあげたの。彼にとってよくわかる興味深い種の存在に」
#140字小説
再掲です
February 11, 2026 at 10:00 AM
メールのダブルチェックのほんの数分、先輩は私の隣に座る

「ただの進捗確認のメールなのに随分読み応えたっぷりに作ったね」

当たり前だ、この数分がどれだけ貴重か

「ここだけ少し直しとくよ」

画面よりも気になる先輩の横顔
私の気持ちはいつ送ればいいだろう、直したいのはメールではなくこの片思いの方
#140字小説
February 15, 2026 at 6:37 PM
「雪女でも病なぞに罹ってしまうのか」病で寝込んでいる女にそう言うと、くすくすと笑われた。「あんた、私が雪女だと思ってたのかい?」「だってお前が冬しか姿を見せねえから……」「間抜けな人だねえ。でもそんなところが好きだよ」女が息絶えたあと、そこには白鳥の骸だけが残った。
#140字小説
February 10, 2026 at 1:01 PM
山で銀色の大狐に逢った。大狐は私を見て目を細めた。「取って喰いはせん。お前の一族は代々、みな儂の友だ。お前の母も祖母も曾々祖母も、その前も」一つ引っ掛かった。「ひいお婆ちゃんは?」大狐は顔を歪めた。「お前の曾祖母とは友になれなんだ」「なぜ?」「儂が惚れたからよ」
#140字小説
再掲です
February 10, 2026 at 10:01 AM
彼は国中の誰もが知る有名人で大金持ちだが、心を許せる友人は一人もいなかった。ある日滞在先のホテルで見知らぬ男に馴れ馴れしい態度を取られる。男には病があり、彼を毎日電波で人生について語り合う親友だと思い込んでいたのだ。住む世界の違う二人の奇妙な友情はそこから始まった。
#140字小説
February 12, 2026 at 11:40 AM
#140字小説

星がきらきら瞬くのは澄んだ空気のせいで、吐く息が白いのは寒さのせいで、胸がぎゅうと締め付けられるのは人恋しいせいで。夜中に目覚め、キッチンでココアを淹れる。あたたかななマグカップからは湯気が上がり、甘い香りに少しほっとする。舐める。熱い。夜はまだ長く、飲み干したらもう一度寝たい。
February 13, 2026 at 5:35 PM
#140字小説

ぬいぐるみが「やあ」と話しかけてきたのでびっくりする。これは夢、かと思えば「夢じゃないよ」とぬいぐるみは表情を変えずに続けてきた。「えっとね」と言うところによると、お尻が痛いらしい。ふむ、と手に取り見てやると、なるほど、座らせるために押し付けたのが凹みになっていた。もみほぐした。
February 12, 2026 at 7:58 PM
人魚をだまくらかして、海底の沈没船から宝石を取ってきてくれと頼んだ。「宝石って?」「綺麗に光るものだよ」笑顔で海に潜っていった人魚が、やがて持ってきたのは人骨だった。「あの船でいちばん綺麗なものよ」と人魚は言った。「救命ボートの最後の隙間を譲って死んだ人の骨よ」
#140字小説
再掲です
February 9, 2026 at 10:01 AM
#140字小説

女が触れた先から木々は花を咲かせました。暦の上では春ですが、まだ凍えるような寒さで、つまりはまだ花が咲くような季節ではありません。咲いた花々は寒風に吹かれ凍り付きます。女は哀しい顔をしました。女は凍った花に触れます。氷は融け、花は彩りを取り戻しますが女が手を離せばまた凍るのです。
February 10, 2026 at 8:28 PM
#140字小説
残されたもの
February 7, 2026 at 2:59 PM
#140字小説

惰性で積み上げていたチョコレートはついに城壁とでも言えそうな高さになってしまった。城をぐるりと囲む城壁は、いったい何から城を守っているというのか。チョコレートは今日も運ばれてくる。一つ二つは封を切り、かり、とかじる。甘い。けれど多いのだ。壁の上にさらに積む。いつか塔になるだろう。
February 14, 2026 at 5:16 PM
「お前、何歳だ」と問われて「ドラゴンで言うと400歳かな」と答えるとドラゴンはハハハと笑った。「意外と年寄りだな、人間は歳がわからん」それから何十年か過ぎた。「お前、何歳だ」と問われて「ドラゴンで言うと1000歳かな。もう寿命だから仕方ない」と答えるとドラゴンが泣きだした。
#140字小説
再掲です
February 8, 2026 at 10:01 AM
雪が綺麗だと感じる
#140字小説 #oc #drawing
February 7, 2026 at 1:50 PM
雨の日だけ開くパン屋。
雨蛙みたいなおじさんと、小柄な奥さんがいる。

「なぜ雨の日だけ?」
「雨に打たれた人の雨宿りになりたくてね」

焼きたての匂いに包まれて、
濡れた心まで少し乾いた。
#140字小説
February 11, 2026 at 11:08 PM