軍人としては完全使い物にならない、と北ベトナム側から見なされたダグは、1969年、最初に解放される捕虜3名のリストに入った。
全員一緒でなければ帰国しない、と解放を受け入れようとしないダグを、同房の捕虜は懸命に説得した。
なぜなら……。

解放され、本国に帰還したダグは、関係者に米軍捕虜256名分の情報、姓名・所属・捕虜となった日付などの情報を詳細に語り、周囲を驚かせた。

彼の記憶した情報が正しい事が確認されると、関係者の一人は彼に聞いた。
「どうやってこんなに大量の情報を、しかも間違えずに覚える事ができたんだ？」
彼は答えた。
「『ゆかいな牧場』の替え歌で」
イーアイ・イーアイ・オー

所構わずにマザー・グースの「ゆかいな牧場」を歌い出すダグを、看守たちは精神に異常をきたしたものと見なした。
無害な存在と見なされた彼は、やがて収容所内の清掃などの軽作業を命じられるようになる。
ある日同房の捕虜が、格子越しに外を掃除するダグを眺めていると、彼が地面を掃きながらゆっくりと収容所のトラックに近づいて行く様子が見えた。
トラックのすぐそばまで近づいた彼は、周囲に看守の目が無いことを確認すると、ポケットの中から一握りの何かを取り出し、トラックの給油口から流し込んだ。
後に同房の捕虜が彼に問いただすと、土を入れたのだという。
彼はこの方法で、収容期間中にトラック５両を故障させた。

ステンブリッジ社が空砲の箱に貼ったラベル。
いわゆる無煙火薬の空砲だけでなく、黒色火薬の空砲も製造していた事がうかがえる。
黒色火薬の空砲は、おそらくは西部劇用だったのだろう。

ステンブリッジ社、撮影用の空砲の製造も手掛けていて、60年代のピーク時には年間43万発の様々なサイズの空砲を提供していた。撮影用の空砲はほぼ独占状態だったらしい。

1940年の時点で既に、ライフル銃7,000丁、リボルバー1,200丁、トンプソンM1921とM1928 などを含む機関銃200丁という銃器を保有してたステンブリッジ社は、国内最大の民間兵器庫の一つと見なされていた。
日本軍の真珠湾攻撃を機に太平洋戦争が始まると、万が一の日本軍の西海岸侵攻に備えて沿岸警備隊（コーストガード）はステンブリッジの兵器庫を接収した。（実包の発射機能、あったんか！？）
同社はカリフォルニア州警備隊（ステート・ガード）とカリフォルニア州兵（ナショナル・ガード）にも武器を貸与し、戦争が終り武器が返還された後、港湾防衛司令部から感謝状を受け取った。

『スカーフェイス』のクライマックスで主人公トニー・モンタナが使うM203グレネードランチャー付きのM16は、本作の武器担当者ジョン・ゼマンスキーの作だが、撮影後にステンブリッジへ売却された。

以後ステンブリッジ・ガン・レンタルはパラマウント一社にとどまらず、ハリウッドの武器庫として2000年代に至るまで様々な作品に武器を提供していくことになる。
1992年に公開されたチャップリンの伝記映画『チャーリー』の制作時に、そのスタッフからステンブリッジ社に連絡があった。
「いま、チャップリンの映画の撮影で、彼が『担へ銃』で使ったのと同じタイプの銃を探してるんだけどさ……」
「実物があるで」
そう、チャップリンが『担へ銃』の撮影に使用した銃そのものがステンブリッジに保管されていたのだ。
そして撮影ではその実物が小道具として使用された。

これは1969年頃のステンブリッジ・ガン・レンタルの社内を写した一枚。

ステンブリッジ・ガン・レンタルは、1920年頃に、米西戦争中にフィリピンでドリル・サージェントを務めたジェームズ・シドニー・ステンブリッジによって設立された。
セシル・B・デミル監督の下でエキストラをしていたステンブリッジは、エキストラに兵士の動きができていないことをボヤくデミルに声をかけ、指導教官役を申し出る。
かくしてデミルとの信頼関係を築いたステンブリッジは、当時流行っていた第一次世界大戦を舞台にした映画の制作陣が小道具である武器の調達に苦労していることに目をつける。
ステンブリッジはデミル監督経由でパラマウントの上層部に出資してもらい、ステンブリッジ・ガン・レンタルが設立された。