矢倉喬士(Takashi YAGURA)
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矢倉喬士(Takashi YAGURA)
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文学研究/翻訳者。

2月27日に『きみはメタルギアソリッドV:ファントムペインをプレイする』という翻訳短篇集が発売されました。ゲームファンも文学ファンも読んで頂けますと幸いです。

共著:『現代アメリカ文学ポップコーン大盛』共訳:タナハシ・コーツ『僕の大統領は黒人だった』デイヴィッド・マッツケーリ『アステリオス・ポリプ』メール→missing_link2390@yahoo.co.jp
ポール・トーマス・アンダーソンの映画『ワンバトルアフターアナザー』はめちゃ面白かった。着想源であるピンチョンの『ヴァインランド』におけるとっ散らかった要素(ゴジラ、マッサージ暗殺忍術、亡霊の群れなど)はほとんど省き、見やすくて飽きない仕上がり。戦いという名の坂が連続する歴史を呪わず、坂そのものを利用して前に進んでいく。

場内からは何度も笑いが起こり、緊張と緩和、スリルと心地よさがリズミカルに訪れる。イデオロギーの衝突ではなく人間のぶつかり合いを描き切った手腕はお見事。
October 5, 2025 at 9:28 AM
8月25日発売、鳥羽和久『光る夏 旅をしても僕はそのまま』

良いタイトル。この対極は「〜には絶対行った方がいいよ。人生観変わるから」だろうか。著者はそのような、変化・成長・向上が目的化し、予め期待したものを確認して帰る移動を旅とみなさない。

普通の旅行記にありがちな、後から整理された「意味」や「物語」にならないように、「揺れ」や「感覚」の記述を目指したというこの本には確かに新しい何かを感じる。安定して一貫した視座から振り返らないので、要約できない出来事に投げ出される。

ジャワ島、スリランカ、ハバナ、アッシジ、ドーヴァー、クレタ島、メキシコ、台湾、普通ではない旅行記をお求めの読者に。
September 24, 2025 at 1:26 PM
7月に発売された、金原瑞人『翻訳ワークショップ』

AI翻訳が台頭し、「翻訳者」から「監訳者」へと役割を移行しつつある翻訳者の現状をまとめる前半。その環境で短編を1本、対訳形式で解説する後半の2部構成。

自分の誤訳を晒すことから始めて、誤りすら力にするしたたかな人間の翻訳を示している。
September 22, 2025 at 11:15 AM
23日に発売されたハーツハイム・ブライアン・ヒカリ『ゲームデザイナー 小島秀夫論』、とても面白かったです。

同時代の地政学的物語、映画的ストーリーテリング、テーマとリンクしたゲーム性、遊び心あるメタ的空間、といったコジマ作品に共通の要素をデスストに至るまでの全ての作品で分析。

素晴らしいのは、小島監督作品におけるスタッフの貢献、分業について論じられているところ。例えば、『MGS2』における強制無線は小島氏、任意の無線会話は福島智和&村田周陽氏が大部分を担当したという分業体制について読むと、ややもすれば1人の名前に帰されかねない功績も適切に理解される。
May 25, 2025 at 2:05 PM
小説翻訳では「一字あけ」を禁じ手と考える柴田元幸さんは、詩の翻訳における「一字あけ」を羨みつつ、小説の翻訳で勝手に一字あけている学生を注意していたらしい(『佐藤君と柴田君の逆襲!!』)

エヴァン・ダーラの『失われたスクラップブック』は、その禁じ手の翻訳をやりまくりである。

『失われたスクラップブック』邦訳版を、英訳版と比較しながら分析おります。

コロンやセミコロンの扱いは高校までの英語教育で習っていない学生が多く、大学の授業でしっかり教えてきましたが、今回の本を訳していてコチャイさんが「セミコロンは時間だ」とおっしゃるので、また文法の経験値が増えました。
April 7, 2025 at 2:12 PM
4月19日(土)に、ジャミル・ジャン・コチャイの短編集『きみはメタルギアソリッドV: ファントムペインをプレイする』とエヴァン・ダーラの小説『失われたスクラップブック』の刊行記念トークイベントを開催します。

cvbks.jp/2025/03/20/k...

本は出版されたら読者のものなのであれこれ言わないようにしていますが、トークイベントでは流石にあれこれ言おうと思います。

本全体の読み方に関わる作品解説、原著者とDMで作り上げる翻訳過程、大学授業での反応、現代翻訳文学の傾向と価値、翻訳賞運営の問題点など、木原善彦さんとお話できればと思っています。質問も受け付けます。ぜひご参加ください。
April 6, 2025 at 11:27 AM
コルソン・ホワイトヘッド原作の映画『ニッケル・ボーイズ』をAmazonプライムで鑑賞。

原作小説の叙述トリックを映像化するなら当然その撮り方だろうということで、そこには驚かないけど、黒人少年たちが鞭うたれる瞬間に白黒写真資料が映されるところには唸らされた。

「その瞬間」には到達できない、というわけだ。

『それでも夜は明ける』にてまざまざと見せつけるように映された、鞭うたれる黒い背中と血しぶきとは好対照。

『ニッケル・ボーイズ』は資料の列挙に留まっていて作品として練り上げる時間が足りなかった部分があると柴田元幸さんが原作小説に対して言っていたことが、映画ではやや改善されている。
March 14, 2025 at 1:24 PM
投資会社に勤める夫のセリフは全て "$$$$$"などドル紙幣マークで表される。声が小さいときは "¢¢¢¢¢"と小銭で表記される。

二人の子供の名前はそれぞれ TallとShort。全てが記号的で、ポール・オースターのNY三部作のように、匿名的で記号化された個人を描く都市小説の系譜にある。

この短編も収録されたリン・マーの『ブリス・モンタージュ』が白水社より3月3日に発売。
March 12, 2025 at 4:43 AM
文芸誌『ニューヨーカー』の創刊100周年を記念して、1925年から2025年までの掲載短編の中から傑出した作品を選んだアンソロジーが今月発売されました。

100年の歴史から選ばれたのは、キリのいい100作品ではなく、本当に優れた78作品。

J・D・サリンジャー「バナナフィッシュにうってつけの日」、シャーリー・ジャクスン「くじ」、アニー・プルー「ブロークバック・マウンテン」、ジョージ・ソーンダーズ「十二月の十日」といった文学史上の傑作と肩を並べて、ジャミル・ジャン・コチャイの「きみはメタルギアソリッドV: ファントムペインをプレイする」が選ばれました。

コチャイさん、おめでとうございます。
February 27, 2025 at 1:54 AM
本日2月27日から、ジャミル・ジャン・コチャイの短編集『きみはメタルギアソリッドV: ファントムペインをプレイする』が全国の書店で発売開始です。

アメリカ発の文学でメタルギアシリーズがしっかりと描かれるのは、2013年のトマス・ピンチョン『ブリーディング・エッジ』以来でしょうか。この作品の序盤で、小島秀夫監督がゲーマーたちのコミュニティで神と崇められていることに言及され、作品の終盤では、インターネットが市民を監視するために作られたものであるという陰謀論を支えるためにメタルギアソリッドのシナリオが語られます。

文学とゲームは互いに霊感を与え合い、元気のいいパラノイアを連鎖させているわけです。
February 26, 2025 at 11:27 PM
27日発売のジャミル・ジャン・コチャイ『きみはメタルギアソリッドV: ファントムペインをプレイする』は、大きな書店などでは明日26日から手に入る可能性があります。

短編集を原書で読んだ翻訳者の藤井光さんによれば、「短編集としての質が高いので多くの読者に恵まれるのは間違いないでしょう」とのことでした。藤井さんの訳書ではハサン・ブラーシムの『死体展覧会』が最も近いです。アフマド・サアダアーウィーの『バグダードのフランケンシュタイン』も類書と言えます。

サルマン・ラシュディ、ハニフ・クレイシ、サンドラ・シスネロス、ガルシア=マルケスらも重要な影響元で、これらの作家が好きな方もぜひご一読ください。
February 25, 2025 at 12:18 AM
27日に発売される『きみはメタルギアソリッドV: ファントムペインをプレイする』の見本が届きました!

本の裏面と目次もお見せします。

作品内容を盛り込んでゲームがバグったような質感の美しい装丁は川名潤さんの作品。類書となる『バグダードのフランケンシュタイン』の装丁も手掛けられました。

カバーを外して広げてみると、左上に9.11ツインタワーのYouTube動画が現れ、メタルギアのマップ表示のように「0M」と書かれています。このグラウンドゼロから始まるアフガニスタンとイラクの泥沼を予感させると同時に、MGS: ファントムペインと対を為すMGS: グラウンドゼロズを補完する表現です。
February 21, 2025 at 3:16 AM
21日にイーユン・リーの最新短編集『水曜生まれの子』が発売されます。数々の賞を受けた短編集『千年の祈り』は日本でもヒットし、それ以降途切れなく邦訳に恵まれています。

そのイーユン・リーがカリフォルニア大学デービス校で指導教官として育てた学生の一人がジャミル・ジャン・コチャイです。

2015~2017年にかけてコチャイ氏はイーユン・リーのもとで創作の技術を学び、デビュー長編『ロガールでの99夜』を完成させ、師匠の『千年の祈り』と同じヘミングウェイ賞を受けました。

イーユン・リーとジャミル・ジャン・コチャイという師弟の邦訳が6日違いで、同じ河出書房新社から出るのはなんとも素敵な偶然です。
February 18, 2025 at 1:15 PM
心斎橋パルコのデスストランディング展、クリフが追加されたとのことでもう一度見てきました。

地下2階のバーにて、飲み物は1度目が「サムのいつもの」、2度目は「BBソーダ」を注文。

「サムのいつもの」はスパークリングワインとカシスで作られている様子。モンスターエナジーのように甘い炭酸を好んでいたサムなら、キリッとしたカクテルよりもこれを飲むのかもしれない。

PS5を買うタイミングを決めかねているうちに昨年の大幅値上げが来てしまい、デススト2と合わせてとんでもない出費になりそう。

2月27日発売のメタルギアの短編集は2500円+税と比較的お求めやすい値段ですから何卒よろしくお願いします。
February 16, 2025 at 11:34 AM
アーザル・ナフィーシーの『テヘランでロリータを読む』は『きみはメタルギアソリッドV: ファントムペインをプレイする』の先行作品の一つ。読書は場所を変えれば全く別の経験になり、そもそも読むことが危険であったりする。タイトルの形も同じで、 "Reading"が「読む」になったように、 "Playing" は「プレイする」とした。

この2冊はYouTuber的な感性を備えている。「テヘランでロリータ読んでみた」、「アフガニスタン系移民がMGSV:TPPやってみた」という具合に。作品のトーンとの兼ね合いからこれらはタイトルとして採用されないが、逆に、YouTubeでこの2冊のような作品に出会いたい。
February 12, 2025 at 12:08 PM
ドナルド・トランプが好き勝手に憲法を改正して第3期目の大統領任期を務める架空のアメリカを舞台にしたエトガル・ケレットの短篇「ヒエトカゲ」。

米軍は少年兵を確保するために、デストロモンGOなるゲームで「ヒエトカゲ」というレアモンスターを配信。そのレアモンスターをゲットしようと、14歳の少年兵部隊が世界各地の戦場を遊び感覚で転戦する。

2016年10月発表の作品。
February 10, 2025 at 1:34 PM
2月27日発売、ジャミル・ジャン・コチャイの短編集『きみはメタルギアソリッドV: ファントムペインをプレイする』のオビなし版のイメージも各種予約サイトで公開されています。

オビを外して現れるデザインは、タリバンの旗を粗くコラージュしたもの。タリバンが国を制圧しつつあった2010年代後半のアフガニスタンを舞台にした作品が多いです。

カバーデザインは最初にサンプルを頂いてから2回修正作業が行われました。なんとなく怖いイメージが漂っていたところを、コチャイ氏のユーモア溢れる作風を反映するためにも面白い要素が欲しいなと思っていました。すると、最終デザインで兵士が寝ました。いいセンスです。
February 3, 2025 at 7:01 AM
2月27日に発売の短編集のタイトルが『きみはメタルギアソリッドV: ファントムペインをプレイする』に決まりました。書影も今日から解禁です。

O・ヘンリー賞や全米図書賞最終候補に選出され、若くして、短編の名手、新たなる文学の開拓者の地位を確立したジャミル・ジャン・コチャイの初邦訳です。

実在の人気ゲームに由来するタイトルゆえに、文学ファン以外の読者層を期待できそうな一方で、ゴリゴリの文学ファンで、なおかつゲームに興味がない人々には届きにくいかもしれないという懸念もありました。しかし、この本自体が新しいゴリゴリの文学であり、実験性と面白さを兼ね備えています。

ぜひ読んで頂きたく思っています。
January 31, 2025 at 9:06 AM
2月27日、河出書房新社より発売予定、

ジャミル・ジャン・コチャイ『メタルギアソリッドV: ファントムペインをプレイして』(仮→ www.kawade.co.jp/np/isbn/9784... 

2022年度全米図書賞フィクション部門最終候補に選出された、若きアフガニスタン系アメリカ作家の出世作です。

アフガニスタン系アメリカ人青年がゲームを通して父の記憶と自身のルーツを探る表題作の他、12本の短編を収録。

サルに変身する大学院生、ヤギに変身する空軍少尉、123歳女性、天使、地球(!)、奇妙なキャラクターたちが織りなすイスラム・マジックリアリズム。

来月、読んで頂けたら嬉しいです。
January 17, 2025 at 2:03 PM
箕面の喫茶店のオススメといえば、モンキーヒル。昨年はユリイカのポール・オースター特集のための準備をここでやることもあった。

読んでいる本はカナダの政治について。カナダはアメリカの州になった方が良いと最近トランプが言ったとか言わないとか。それではカナダ人はどう受けとめるかというと、なれるもんならアメリカ人になりたい、アメリカに併合してもらった方がいいと考える人は主流ではないにしても確かに存在する。
January 9, 2025 at 11:59 AM
アカウントを作りました。ひとまず、今年出版された仕事を貼っておきます。ユリイカのポール・オースター特集号とデイヴィッド・マッツケーリのグラフィックノベル
『アステリオス・ポリプ』です。

現在、オンラインにてゲスト講師を迎えて『アステリオス・ポリプ』を解説する特別講義を毎週土曜日に行っています。
October 17, 2024 at 5:00 AM