https://researchmap.jp/KatsuyaShirai/
遼東の公孫氏が朝鮮半島北部を制圧すると、楽浪郡の南部を帯方郡として分離しましたが、それ以前から両地の文化は違っていました。そして分立ののちは、西日本にいた倭人は、楽浪郡ではなく帯方郡が所管するようになります。倭人にとって弥生時代終末に当たる時期でした。
西日本の遺跡で朝鮮半島北部由来の遺物が出土すると「楽浪」遺物として取り扱います。私もそうしてきました。しかし、楽浪と帯方の文化が違っており、倭人の交渉相手も交代するなら、「楽浪」と呼んできたものたちを楽浪と帯方に区別する努力も必要かと思います。スライド18ページ目を示します。
遼東の公孫氏が朝鮮半島北部を制圧すると、楽浪郡の南部を帯方郡として分離しましたが、それ以前から両地の文化は違っていました。そして分立ののちは、西日本にいた倭人は、楽浪郡ではなく帯方郡が所管するようになります。倭人にとって弥生時代終末に当たる時期でした。
西日本の遺跡で朝鮮半島北部由来の遺物が出土すると「楽浪」遺物として取り扱います。私もそうしてきました。しかし、楽浪と帯方の文化が違っており、倭人の交渉相手も交代するなら、「楽浪」と呼んできたものたちを楽浪と帯方に区別する努力も必要かと思います。スライド18ページ目を示します。
しかし、前面や右面に同じ型を使いながら、上面に特殊な縄目を表さない塼も存在します。確実に同じ製作者が作った、と言えそうな塼の組み合わせが見つかっても、このくらい違えば別の人、といえる基準をも示せなければ、研究は不完全です。スライド15ページ目を示します。
そんなわけで、華々しい結論にたどり着けぬまま、この報告は終わりです。その代わり、研究の副産物をもとに問題提起を。
楽浪塼と帯方塼は、見慣れると見分けが着くようになります。違いを論文で示された方もいます。平安道の楽浪と、黄海道の帯方には、文化的な違いがありました。(次回が最終回)
しかし、前面や右面に同じ型を使いながら、上面に特殊な縄目を表さない塼も存在します。確実に同じ製作者が作った、と言えそうな塼の組み合わせが見つかっても、このくらい違えば別の人、といえる基準をも示せなければ、研究は不完全です。スライド15ページ目を示します。
そんなわけで、華々しい結論にたどり着けぬまま、この報告は終わりです。その代わり、研究の副産物をもとに問題提起を。
楽浪塼と帯方塼は、見慣れると見分けが着くようになります。違いを論文で示された方もいます。平安道の楽浪と、黄海道の帯方には、文化的な違いがありました。(次回が最終回)
▶ 小野響2025『五胡十六国時代―王朝の乱立と権力闘争』早川書房
www.hayakawa-online.co.jp/shop/g/g0000...
▶ 小野響2025『五胡十六国時代―王朝の乱立と権力闘争』早川書房
www.hayakawa-online.co.jp/shop/g/g0000...
上面に特殊な縄目がつけられた塼には、前面や右面の文様にも、一定の傾向がありました。例えば、格子目のモチーフが見られること、線が細いことです。線の太さは、型となる木板に刻んだ溝の幅を反映しており、製作者の個性や使った工具に関わる属性です。
前面や右面の文様の線には幅0.3~0.7cmのバリエーションがあり、だいたい0.5cmくらいです。0.6cmもあると見るからに太く感じ、0.3cmだと顕著に細く感じます。特殊な縄目のつけられた塼では、型作りの文様の線が0.4cm以下になる傾向があります。スライド5ページ目を再掲します。
上面に特殊な縄目がつけられた塼には、前面や右面の文様にも、一定の傾向がありました。例えば、格子目のモチーフが見られること、線が細いことです。線の太さは、型となる木板に刻んだ溝の幅を反映しており、製作者の個性や使った工具に関わる属性です。
前面や右面の文様の線には幅0.3~0.7cmのバリエーションがあり、だいたい0.5cmくらいです。0.6cmもあると見るからに太く感じ、0.3cmだと顕著に細く感じます。特殊な縄目のつけられた塼では、型作りの文様の線が0.4cm以下になる傾向があります。スライド5ページ目を再掲します。
特殊な縄目を用いた塼どうしで、前面や右面の文様が同笵であっても、それだけで製作者が同じとは即断できません。縄目の属性は縄目原体の撚り、縄目の方向変化、縄目の密度という、シンプルでバリエーションの比較的少ないものしか取り扱えていないからです。
そこで、見方を変えます。前面や右面の文様が同じ、同笵の塼(同笵群)の間で、特殊な縄目がどのように現れるか、を確認することにします。
画像は、特殊な縄目は使われていませんが、今回の調査対象の一つです。画像出典:ColBase。
特殊な縄目を用いた塼どうしで、前面や右面の文様が同笵であっても、それだけで製作者が同じとは即断できません。縄目の属性は縄目原体の撚り、縄目の方向変化、縄目の密度という、シンプルでバリエーションの比較的少ないものしか取り扱えていないからです。
そこで、見方を変えます。前面や右面の文様が同じ、同笵の塼(同笵群)の間で、特殊な縄目がどのように現れるか、を確認することにします。
画像は、特殊な縄目は使われていませんが、今回の調査対象の一つです。画像出典:ColBase。
特殊な縄目(撚りの方向の違う縄目原体2条を併用した例)は、東京大学と東京国立博物館の塼にいくつも見つかりました。縄目を意識して製作する顕著な特徴があり、たいへん個性の強いものですが、これだけを根拠に同一の製作者というのは、ちょっと乱暴です。
そこで、型作りされた前面や右面の文様や銘文にも着目しました。塼を作るときに組み立て式の木枠にはめるので、木枠に彫られた文様や銘文が塼の前面や右面に現れるのです。同じ木枠で塼を作られた塼どうしの関係を「同笵」と言います。調べると、上面に特殊な縄目を持つ塼どうしで、同笵のものがありました。
特殊な縄目(撚りの方向の違う縄目原体2条を併用した例)は、東京大学と東京国立博物館の塼にいくつも見つかりました。縄目を意識して製作する顕著な特徴があり、たいへん個性の強いものですが、これだけを根拠に同一の製作者というのは、ちょっと乱暴です。
そこで、型作りされた前面や右面の文様や銘文にも着目しました。塼を作るときに組み立て式の木枠にはめるので、木枠に彫られた文様や銘文が塼の前面や右面に現れるのです。同じ木枠で塼を作られた塼どうしの関係を「同笵」と言います。調べると、上面に特殊な縄目を持つ塼どうしで、同笵のものがありました。
熊猫?
それって、京都に、パンダ説!
▶ 京都府向日市の「クマ目撃情報」は見間違いか 市が映像確認「ネコに似ていた」
[京都新聞] www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1...
熊猫?
それって、京都に、パンダ説!
▶ 京都府向日市の「クマ目撃情報」は見間違いか 市が映像確認「ネコに似ていた」
[京都新聞] www.kyoto-np.co.jp/articles/-/1...
2種類の縄目が交互に現れるようにするには、あらかじめ意図的に撚りの方向の違う縄(縄目原体)2条を準備しておいて、これを、縄目をつけるための工具に、交互になるように密に巻きつけなければならず、とうてい無意識に偶然にできてしまうわけがありません。
出来栄えを気にする必要がない部分に、縄目を明確に意識して作業した、個性的な人がいたのです。スライド8ページ目を再び示します。5cmの間に20条も縄目が通るという、異常な多さ(縄目の細さ)にも個性が現れています。右撚りの縄は太く、左撚りの縄は細く、別の縄であることもうかがえます。
2種類の縄目が交互に現れるようにするには、あらかじめ意図的に撚りの方向の違う縄(縄目原体)2条を準備しておいて、これを、縄目をつけるための工具に、交互になるように密に巻きつけなければならず、とうてい無意識に偶然にできてしまうわけがありません。
出来栄えを気にする必要がない部分に、縄目を明確に意識して作業した、個性的な人がいたのです。スライド8ページ目を再び示します。5cmの間に20条も縄目が通るという、異常な多さ(縄目の細さ)にも個性が現れています。右撚りの縄は太く、左撚りの縄は細く、別の縄であることもうかがえます。
個人的な今年の漢字というと、時期によって少し違っていて、「埴」「塼」「瓦」「縄」とか……。
やはり「帯」ですかね。とりあえず「楽」ではなかったです。
個人的な今年の漢字というと、時期によって少し違っていて、「埴」「塼」「瓦」「縄」とか……。
やはり「帯」ですかね。とりあえず「楽」ではなかったです。
縄目に関する観察項目についてお話してきましたが、同じような問題意識を持った人が少ないので、自分で観察の機会を得たものか、詳細な写真・拓本が公開されているもの以外は、縄目がよくわかりません(ただし、写真や拓影からの判断は五人の危険が大きいです)。
そんなわけで、自分の目で観察する機会を細々と増やしてきた中、製作者の無意識で成り立っていたはずの縄の撚りに、特殊なものを見つけました。縄目をつけるための工具に、右撚りと左撚りの縄を交互に巻きつけている例があったのです。スライド8ページ目を示します。縄目の圧痕が矢羽根状です。
縄目に関する観察項目についてお話してきましたが、同じような問題意識を持った人が少ないので、自分で観察の機会を得たものか、詳細な写真・拓本が公開されているもの以外は、縄目がよくわかりません(ただし、写真や拓影からの判断は五人の危険が大きいです)。
そんなわけで、自分の目で観察する機会を細々と増やしてきた中、製作者の無意識で成り立っていたはずの縄の撚りに、特殊なものを見つけました。縄目をつけるための工具に、右撚りと左撚りの縄を交互に巻きつけている例があったのです。スライド8ページ目を示します。縄目の圧痕が矢羽根状です。
もうひとつ、縄目の密度は、幅5cmの間に縄目が何条あるかを数えます。縄(縄目原体)は工具にびっしり巻きつけてあるので、密度が低い(5cmの間に縄目が少ない)場合もスカスカではなく、太い縄を使っているのです。
7条から25条までバリエーションがありますが、10条~15条で全体の7割くらい。それより密度が低いものや高いものは激減し、8条以下や19条以上の例はごくわずかです。縄が太くなったり細くなったりする手作り感あふれる例もあります。縄の撚りの方向と同様に、縄目の密度は製作者の個性にゆだねられていたとみてよいでしょう。
図はSNS用の新作。
もうひとつ、縄目の密度は、幅5cmの間に縄目が何条あるかを数えます。縄(縄目原体)は工具にびっしり巻きつけてあるので、密度が低い(5cmの間に縄目が少ない)場合もスカスカではなく、太い縄を使っているのです。
7条から25条までバリエーションがありますが、10条~15条で全体の7割くらい。それより密度が低いものや高いものは激減し、8条以下や19条以上の例はごくわずかです。縄が太くなったり細くなったりする手作り感あふれる例もあります。縄の撚りの方向と同様に、縄目の密度は製作者の個性にゆだねられていたとみてよいでしょう。
図はSNS用の新作。
縄目原体の撚りの向きと、縄目の方向変化を比較すると、これといった相関関係は見つかりません(ただし、母集団が少ない)。縄目原体の撚りが右撚りか、左撚りかは、個人の無意識の行動によって生ずる、つまりは製作者の個性の表われの一つと考えましたが、縄目の方向変化は、工房の中での設備の配置や工具の形状、複数の製作者たちによる共同作業のあり方など、製作者の個性とは別の複合的な要因により決定されていたのではないか、と考えられます。スライド7ページ目をもう1回掲出します。
縄目原体の撚りの向きと、縄目の方向変化を比較すると、これといった相関関係は見つかりません(ただし、母集団が少ない)。縄目原体の撚りが右撚りか、左撚りかは、個人の無意識の行動によって生ずる、つまりは製作者の個性の表われの一つと考えましたが、縄目の方向変化は、工房の中での設備の配置や工具の形状、複数の製作者たちによる共同作業のあり方など、製作者の個性とは別の複合的な要因により決定されていたのではないか、と考えられます。スライド7ページ目をもう1回掲出します。
縄目の方向変化は7つに分類しましたが、頻度は偏っています。調査途中の暫定値ですが、これまでみた塼はB1が多数で7割くらい、A0、B0、C1がそれに続いてそれぞれ1割程度です。つまり、右面のあたりでは縄目が塼の左右方向に平行なことが多いのです。
B2はわずか数%ですが、張撫夷塼を含む帯方塼が多くを占めるのが特徴です。C2、C0はほとんどありません。
楽浪・帯方塼は、直方体を基本としていますが、とんでもなく非対称な代物と言えるでしょう。その原因は、工房にあると思われます。スライド7ページ目を再掲します。
縄目の方向変化は7つに分類しましたが、頻度は偏っています。調査途中の暫定値ですが、これまでみた塼はB1が多数で7割くらい、A0、B0、C1がそれに続いてそれぞれ1割程度です。つまり、右面のあたりでは縄目が塼の左右方向に平行なことが多いのです。
B2はわずか数%ですが、張撫夷塼を含む帯方塼が多くを占めるのが特徴です。C2、C0はほとんどありません。
楽浪・帯方塼は、直方体を基本としていますが、とんでもなく非対称な代物と言えるでしょう。その原因は、工房にあると思われます。スライド7ページ目を再掲します。
楽浪・帯方の遺物にみられる縄目は、原体が左撚りのものが多く、1割以下程度の割合で右撚りがみられます。縄文土器や東日本の弥生土器のような複雑な縄目はありません。楽浪・帯方では、縄目は遺物製作上の必要から用い、出来栄えは気にしなかったのでしょう。
左撚り対右撚りが9対1程度ということは、撚りの方向が、製作者が日常的に使用する手がどちらか、といったことによって無意識に決定されるのが通例であったことを示すと考えてよいでしょう。(スライド7ページ目を再掲)
楽浪・帯方の遺物にみられる縄目は、原体が左撚りのものが多く、1割以下程度の割合で右撚りがみられます。縄文土器や東日本の弥生土器のような複雑な縄目はありません。楽浪・帯方では、縄目は遺物製作上の必要から用い、出来栄えは気にしなかったのでしょう。
左撚り対右撚りが9対1程度ということは、撚りの方向が、製作者が日常的に使用する手がどちらか、といったことによって無意識に決定されるのが通例であったことを示すと考えてよいでしょう。(スライド7ページ目を再掲)
楽浪塼と帯方塼にはそれぞれの特徴があるので、見分けることが可能です。両方を総称するときや、どちらだか判断できないときは、「楽浪・帯方塼」と呼んでいます。
さて、今回の報告(予定だった内容)では、型作りの文様と、上面の縄目の特徴を主に取り上げました。
スライド7ページ目。縄目の原体の撚りの方向、上面の縄目の方向が場所によってどのように変化するか、そして、縄目の密度(一定の幅の間に何条の縄目があるか)を調べてみました。いろいろ分類していますが、実際にはわずかな分類項目に多くの事例が集中します。
楽浪塼と帯方塼にはそれぞれの特徴があるので、見分けることが可能です。両方を総称するときや、どちらだか判断できないときは、「楽浪・帯方塼」と呼んでいます。
さて、今回の報告(予定だった内容)では、型作りの文様と、上面の縄目の特徴を主に取り上げました。
スライド7ページ目。縄目の原体の撚りの方向、上面の縄目の方向が場所によってどのように変化するか、そして、縄目の密度(一定の幅の間に何条の縄目があるか)を調べてみました。いろいろ分類していますが、実際にはわずかな分類項目に多くの事例が集中します。
九州考古学会の会場には行けませんでしたが、要旨が掲載された『九州考古学』第100号が発刊されたはずなので(まだ手にしていませんが)、報告予定だった内容を少しだけ紹介します。
スライド5ページ目。楽浪・帯方塼の各面には定まった呼び方がなく、研究者それぞれに工夫してきました。私は「工房の風景」を考慮した命名法を提案します。このように定めると、ほぼ自動的に興味深い論点を導き出すことができます。……と思っています。
九州考古学会の会場には行けませんでしたが、要旨が掲載された『九州考古学』第100号が発刊されたはずなので(まだ手にしていませんが)、報告予定だった内容を少しだけ紹介します。
スライド5ページ目。楽浪・帯方塼の各面には定まった呼び方がなく、研究者それぞれに工夫してきました。私は「工房の風景」を考慮した命名法を提案します。このように定めると、ほぼ自動的に興味深い論点を導き出すことができます。……と思っています。
「これは長い文書のようです。」
などと表示がでるとき、
「ふッ。AIとやらも、まだまだだな」
と謎の先輩風を吹かせそうになる。
「これは長い文書のようです。」
などと表示がでるとき、
「ふッ。AIとやらも、まだまだだな」
と謎の先輩風を吹かせそうになる。
煽っておいて直前のお知らせとなり恐縮ですが、11月23日(日)の九州考古学会に、事情で行けなくなりました。
予定していた「楽浪塼における特殊な縄目」の内容の大半が、文章の形で発表資料集に載せられるはずですので、ご関心おありの方はそちらをご参照ください。
煽っておいて直前のお知らせとなり恐縮ですが、11月23日(日)の九州考古学会に、事情で行けなくなりました。
予定していた「楽浪塼における特殊な縄目」の内容の大半が、文章の形で発表資料集に載せられるはずですので、ご関心おありの方はそちらをご参照ください。
▶ 白井克也 2001「勒島貿易と原の辻貿易―粘土帯土器・三韓土器・楽浪土器からみた弥生時代の交易―」『第49回埋蔵文化財研究集会 弥生時代の交易―モノの動きとその担い手―』
報告で時間の余裕があれば、24年前に私が報告した内容に問題があったことを指摘します。
▶ 白井克也 2001「勒島貿易と原の辻貿易―粘土帯土器・三韓土器・楽浪土器からみた弥生時代の交易―」『第49回埋蔵文化財研究集会 弥生時代の交易―モノの動きとその担い手―』
報告で時間の余裕があれば、24年前に私が報告した内容に問題があったことを指摘します。