白岩英樹 SHIRAIWA Hideki
georgewillard.bsky.social
白岩英樹 SHIRAIWA Hideki
@georgewillard.bsky.social
大学教員. 『講義 アメリカの思想と文学』白水社, 2023. 共著『ぼくらの「アメリカ論」』夕書房, 2024. など. 『ゲンロン』『群像』『ユリイカ』『現代詩手帖』等に寄稿. 2025-26年度は書き物を小脇に抱えながら、公務の森をさまようことになりそうです🐈
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2日間にわたる〈学校推薦/編入学/社会人〉入試。受験生のみなさん、スタッフの方々、お疲れさまでした。合否にかかわらず、ここからの旅路が「生き直し」に値する日々になりますように!
November 23, 2025 at 11:20 AM
クレール・マラン『はじまり』藤澤秀平訳(法政大学出版局)を拝受。「はじめてを生きること。それはゼロからやりなおすこと」。しかし、その「はじまり」は決して虚無ではない。外から不意にやってくる。思考を撹乱する物語によって、わたしたちはようやく起点を手探りすることが可能となる。

「一冊の書物を、そのつど心揺すぶられて、わたしは何度も再読する。何度読んでもその力強さ、再読ごとの特徴は失われることはない」。マランは彼女自身の言葉そのままに、連続性への安住を拒み、思索の縦糸を縒る。時間の線形性から逸脱し、〈わたし〉の思考を〈わたしたち〉の倫理へとひらく。
October 31, 2025 at 9:29 AM
文・倉方俊輔/画・光嶋裕介『悪のル・コルビュジエ』(彰国社)を拝受。没後60年にして、なお「異端」の輝きを放つ建築家に〈創造的な不服従〉を見出す異彩の書――「自分たちのルールに共感しようとしないものを排除し、いっそう『善』になろうとするこの21世紀に、彼の『悪』はいっそう輝いている」!

一貫しているのは、「善」的かつ散文的表現で囲い込もうとする私たちの理解からコルビュジエを引き剥がし、「悪」の両義性において彼を詩的に捉え直す試み。倉方さんの文体および手さばきは『悪魔の辞典』さながら。対象を傷つけることなく、「罪つくり」な建築家の異端精神を生かしたまま露わにする。
October 26, 2025 at 9:25 AM
『群像』11月号「本の名刺――新田啓子『セキュリティの共和国』」を拝読したのち、ポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』。まさに現代米国の「安全」に「守られ、裏切られ、付け込まれ、翻弄されつつ生きる人物たちの姿」!

私的領域としての「家庭」に留まるのを拒み、娘を残して新たな闘いへ赴く革命家の母(ラディカル・フェミニスト!)。迷走する二人の父親と男性原理。トマス・ピンチョン『ヴァインランド』にインスパイアされつつも、トランプの米国を自画像として描き切る。ジョニー・グリーンウッドの音楽も最高!
October 22, 2025 at 10:49 AM
小川公代さんの『ゆっくり歩く』(医学書院)を拝読。ロマン主義文学の研究から見出された「分有」が、痛苦を有する生身の実存とケア実践を通して、具体的な関係性へと編み直される過程が描かれています――「母のつらさが“分かる”ということはできないけれども、“分有する”ことはできるかもしれない」。

通奏低音として響くのは「可謬主義」。完全に「分かる」ことはできずとも、物語に仮託したり、誤解やずれをも含んだまま分かちあったりしながら、ともに修正しあえる希望です――「「分有」とはもしかしたら“本物”と“偽物”のあいだにある壁が一時的に取り払われることなのかなと思った」。
October 19, 2025 at 10:06 AM
キャンパス間移動の際に、念願の展覧会「《少女と白鳥》贋作を持つ美術館で贋作について考える」@高知県立美術館へ。贋作を「贋作」と認識して美術館で観るのは初めて。くだんの作品の第一印象は……思っていたよりも「薄い」でした。が、それもこれも、学際的な検証結果というレンズ越しに観たからかもしれません。

というのも、クリスティーズで競売・落札されたうえ、当該画家研究の第一人者のお墨付き、そして識者たちのフィルターをもかいくぐった作品。もし真実を知らなかったら、きっと異なるレンズで見ていたはず。展覧の内容はいわずもがな、観覧者に配布される小冊子も秀逸。世界でも空前絶後の試みでは!?
October 16, 2025 at 10:28 AM
『声を聴くこと』(春風社)を拝受。思想や文学に軸足をおく身としては、冒頭の國枝孝弘論考に文字どおり「ゆらぎ」を覚えながら頁を繰り始めました。「文学ができるわずかなことは、自分の存在を手放さずに」時空を超え、「自己と他者を重ね合わせること」。そのとき「自己の存在は複数性を帯びる」👥

また、ホイジンガさながらに学生と遊び、歌い、踊りながら文化研究に勤しみ、相互教育に臨もうとする教員としては、安部芳絵論考に蒙を啓かれる思いで、うんうんと深く首肯しながら拝読しました――「『ゆらぎ』に向き合うことで、『ゆらがない力』としての現場の力を獲得することが可能となる」。
October 15, 2025 at 10:44 AM
ベルジャーエフ『ロシア共産主義の歴史と意味』田中西二郎、新谷敬三郎訳(白水社)を拝受。宗教と文学のひだを巡りながら、ロシア精神の深層と矛盾を透視する思想史的試み。共産主義はドイツ由来の外来思想にとどまらず、国際主義と民族主義の狭間から生まれ、革命はロシア内発の歴史的必然でした。

社会活動が困難だった19世紀ロシアでは、あらゆる問題が文学を経由し、「きわめて急進的な姿勢で決断」されたといいます。文学が信仰を代弁したロシア的宿命! とりわけ、ベルジャーエフが指摘するドストエフスキーの両義性(飽満と飢渇)は、プーチンが濫用するスラヴ主義的装置と地続きにある。
October 12, 2025 at 9:23 AM
小倉孝誠『「フランス文学」はいかに創られたか』(白水社)を拝受。19世紀、各国が「国民性」の表現として文学を位置づけ、文学史の整備に踏み出した時代。フランスでは、敗北を経た第三共和政のもと、文学は「社会の表現」かつ「社会を補足する営み」とされ、市民教育的な理念と共鳴していきました。

歴史学や教育制度・批評理論が絡みあうプロセスにおいて、「フランス文学史」がいかに制度として確立されていったのか。本書ではスタール夫人やG・ランソンをひとつの中心点として、文芸が文学へ、そして文学が「国民精神の精髄」へと変容する過程が、丁寧に整理されています。
October 11, 2025 at 9:53 AM
藤原辰史『生類の思想――体液をめぐって』(かたばみ書房)を拝受。いわゆる「環境問題」の背後に潜む差別と貧困の構造を解きほぐし、動物・植物・微生物、さらには書物をも「生類」として捉え直すダイナミックな視座が展開されます。その際、媒介となるのが「畏怖すべき自然の結晶」とされる体液。

皮膚の内側を流れているあいだは自己として認識される体液も、いつかは例外なく外へ漏れ出します。つまり、かつて自己だったものが他者化する。その刹那にこそ、「ケア」が生まれる! 石牟礼道子を反復するのではなく、歴史学を滑走路として、生物学・建築・食文化へと思想を分散させる著者。
October 7, 2025 at 11:00 AM
出張の隙間を縫って、東大前駅そばの「本の店 & company」さんへ。魅惑的な本の「けもの道」を周回しつつ書棚を眺めていたら、小脇に抱えられないくらいの本を手にとっていました。いとうせいこうさんに石牟礼道子&鶴見和子、徐京植さんにタナハシ・コーツと公民権運動、そして「歩く」!

「根拠なく断定的に決めつける本、攻撃的な内容の本、我の強い本には、ご遠慮願っています。ヘイト本は、タイトルに入っている時点でNGだから『店の棚にヘイト本を置けるだろうか』なんて、悩むわけもありません。...どこかに柔らかさを残したものを置くようにしています」。
t.co/AQnLLxWnDf
October 5, 2025 at 10:50 AM
S. ハートマン『奔放な生、うつくしい実験』榎本空訳、ハーン小路恭子翻訳協力/解説(勁草書房)を拝受。『母を失うこと』(晶文社)で、奴隷制に引き裂かれた黒人女性たちの声を響かせたハートマン。本書では、つねに〈経済・人種・性〉の三重の暴力に晒された「黒い少女たち」の生と実験を呼び戻します。

プランテーションからの逃亡は、人類の実験としての「ゼネラルストライキ」であり、制度への抵抗だった。だが、奴隷制は都市のゲットーにまで忍び寄る。それでも、音と身体による「親密な黒々とした生の革命の反復」がやむことはなかった。「あたしはここにいる」! 困惑のうちに覚醒するデュボイス。
October 4, 2025 at 9:47 AM
さよにゃら九月、またたび十月。あくびとともに新学期(たのしみ!)😹
September 30, 2025 at 11:09 AM
ソロー日記(全12巻)翻訳出版プロジェクトの2冊目。ということは、まだ10冊も読める......全巻+2冊が無事に刊行されますように!ソローとの関係性から(最良の意味で)過剰に言葉を紡ぐ山口さん、両者の関係性から生じる果実を私たちに届けようと(〃)過剰に献身される版元の古屋さんにエールを!
September 28, 2025 at 10:28 AM
『ヘンリー・ソロー日記 1852年』山口晃訳(木菟書房)を拝受。全876頁、約830gのヴォリューム。ですので、少しずつ読み進めることも考えましたが、ソローの過剰な集中にならって、一気呵成に。ソローは関係性から物事を捉え、徹底して関係性に生きる人間だった(だからエマソンとの仲違いに悩んだ)!

エマソンの思想を生活の文脈に置き換え、「森羅万象(ユニヴァース)」との関係性で継承したソロー。彼にとっては「天性(ジーニアス)」さえ、個人の所有物ではなく、私たち「共通の特典」でした。自然と詩、思索と実践、花とハチ、人と人。関係性を捉えるために「凝視」するのではなく「眺める」。
September 28, 2025 at 10:27 AM
さすが鶴見さん、そこまでほぐされていたんですね! 本書にも「市民的礼節」との試訳がありました。野口さん、貴重なエピソードをありがとうございます😊
September 28, 2025 at 12:07 AM
自らソローライフを実践する1945年生まれの著者が熱中するあまり、「顔をしかめる編集者もいた」と述懐する「解説」を加筆修正・解題し、書き下ろしを収録。著者が語る「涙を感じるほどの切実さ」の系譜を、エマソン-ソローを起点に編んだ『講義 アメリカの思想と文学』(白水社)と併せて、ぜひ🙏📚
September 27, 2025 at 9:57 AM
山口晃『歩く人ソロー』(虹霓社)を拝受。悠々と「境界」をまたぐ自由を謳歌したかと思うと、母校ハーバードの図書館を利用させてくれるよう総長に直談判し――総長が折れて、司書に貸し出しを許可した――「異教」の法典を全身で読む。兄の死に際しては、死ぬべきは自分だったと罪の意識と対峙する。

独善的な蛮行として誤解されがちな「市民的不服従」に関しても、「憎しみではなく、礼節、共同の空間」を尊重したソローには、明らかに超絶主義者とプラグマティストを架橋する言動が息づいています――ソローを収監した収税吏さえ「彼は最も気品ある囚人だった」と誇らしげに語っていたといいます。
September 27, 2025 at 9:57 AM
岸本佐知子さん翻訳のマーガレット・アトウッド『ダンシング・ガールズ』(白水社)を拝受。全篇に通奏低音のように響くのは、「選ばれた(エクスクルーシヴ)」者と「排除された人々(エクスクルーディド)」との緊張。仮構の現実に覆われていた地層が、いつしか横へ滑り出し、新たな断層を見せつける。

ジェンダー規範や異能力性、言語ヒエラルキーや階級構造が交わる界面で描かれる愛や善意。それらはあくまで個人的なものです。が、戦火のいま読み直すと、新たな社会分断の導線や潜在的な火種を予感せずにはおれません。短篇ならではの巧みに満ちた待望の復刊。『侍女の物語』も読み返さねば!
September 26, 2025 at 10:09 AM
公務出張の合間を縫って、亡父の故郷・三春町の自由民権記念館を初訪。コロナ禍に高知へ着任して以来、逆輸入的に知った河野弘中。板垣退助や植木枝盛との交流、内戦-戊辰戦争時の無血開城と、死後の大戦-WWII時に受けた非難、自由民権運動と日比谷焼き討ち事件での講和反対演説。

内戦や大戦への扉が暴力的に開かれつつあるいま、彼の人生から切り離された岐路や彼が死後に受けた非難を凝視することで、リベラリズムの別の可能性をも掘り起こせるように感じています。もちろん、反面教師的な側面を大いに含めて。閉ざされた近代史を、福島と高知の両岸から。またうかがいます!
September 25, 2025 at 10:37 AM
小川公代さんの『NHK100分de名著 ブラム・ストーカー『ドラキュラ』』(NHK出版)を拝受。冒頭「いま必読の書なのです」に導かれるように一気に、けれど血の一滴一滴を味わうように頁を繰りました。同時代の宗教・医科学・帝国的言説を背景に、「科学と神秘の“あわい”」をたどるアプローチはさすが!

登場人物たちが内包する境界の混淆にこそ、交差的かつ複雑な世界の水源があることを再認識させられました――「人間の中にも怪物性はあり、怪物の中にも人間性はある」。同性愛者でもあった作者ストーカーとホイットマンとの交感、近代テクノロジーと反近代的直観の交錯、「ケアの倫理」へのまなざし。
September 21, 2025 at 9:24 AM
青木海青子さんをお招きしての高知県立大学はらっぱフェス「ケアと読書と当事者と 」にお出でいただき、ご関心をお寄せくださり、ありがとうございました! いかに既成の枠組みを「はずして/つくって/やぶいて/かくか」の肝をうかがう時間があっというま。ずっと海青子さんのお話を聴いていたかった!

海青子さんは比喩が多彩かつ巧みなうえに、音楽さながらに〈情〉をぐぐっと惹きつけるんですよね。それでいて勢いに頼るのでもなく、散文的な〈理〉が語りを支えている。わたし自身がずっと打たれっぱなしでした。窓と扉、仕組みとしての図書館、個と社会の不完全性、裸としての自分、AIと司書。
September 20, 2025 at 3:05 PM
ブッシュやトランプへ接続する〈キリスト教国アメリカ=白人のアメリカ〉の系譜を辿りながら、増加しつつある〈非宗教者〉たちの沈黙にも耳をすます。『トピーカ・スクール』の宗教的背景(とりわけレーガン以降!)を照射する補助線としても必読。アメリカ福音派の生成と変貌を精緻に読み解く決定版!
September 19, 2025 at 10:04 PM
加藤喜之さんの『福音派――終末論に引き裂かれるアメリカ社会』(中公新書)を拝受。「神の言葉としての聖書、個人的な回心体験、救いの条件としてのキリスト教への信仰」を〈三位一体〉とする福音派。レーガンの「保守革命」を機に、説教壇の言葉が徐々にホワイトハウスへと流れ込んでいきます。

中絶・同性愛・ポルノ・進化論の教育・壊れた家族――5つの「罪」を悔い改め、アメリカをグレートに保とうとした運動(keep America great)は、やがて公共圏を「終末論」で覆い尽くし......「対立する相手をサタンや悪魔の支配下にあるものとみなす傾向」は、政治言語を信仰の塹壕へと変貌させました。
September 19, 2025 at 10:03 PM
野口良平『列島哲学史』(みすず書房)を拝受。かつて中江兆民は「我が日本、古より今に至るまで哲学なし」と断じました。彼の批判を起点に、自らの哲学を再定義し、日本を「列島」として捉え直す稀有な哲学史。

「人間が世界像のゆらぎを経験した際に、自分ともう一人の自分、自分と他人(たち)との対話を通して、自分の視野を育て、態度を整えていく努力。またその努力を支えうる方法。それを私は哲学と定義する」――敗者の経験や中間地帯の声を両掌で受けとめ、古代から仏教伝来を経て、法然・親鸞・『徒然草』から、福沢・兆民・透谷・鶴見俊輔へ。
September 17, 2025 at 10:02 AM