#創作_星の降る街
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（仮題）再会した元カレが担当事件の容疑者だったんだが

#創作BL

一、（1/3）
　――おまえは、いつも綺麗なところから、おれを見下ろすんだね。 　橋の上から見る夜の川面は、白く揺らめいていた。 　月を映したような――と言いたいが、そんなロマンチックなものじゃない。繁華街の後ろのどぶ川に映るのは、切れかけた白い外灯や、ラブホテルの看板だ。 　夕方に降った雨で増水して、腐った水の臭いが鼻をつく。 　午前零時を回った繁華街のはずれは、今は蜂の巣をつついたように騒がしい。人の声、せわしなく人が駆け抜ける足音、赤い人工灯とサイレン。 　脳と視線はひどく落ち着いて周囲を観察して、小説家さながら見たものを脳内で描写していく。その一方で、洸星の腕は押し寄せる人を阻むために広げられ、口は荒っぽく叫んだ。 「ここは通行止めです！　関係者以外は帰って！　そこ、勝手に入るな！」 　数分前に洸星自身が張ったテープをかいくぐろうとした若者の首根っこを掴んで乱暴に押し戻す。油断も隙もあったもんじゃない。誰もがカメラを携帯している時代のせいで、誰もかもがジャーナリスト気取りだ。くそったれ。 「ほら、カメラはしまってー。未成年は補導対象だよー」 　……という本音は口にせず、穏やかな声音で淡々と声を張り上げる。警察官としての融通の利かなさと、朗らかな人の好さが滲み出るいい声じゃないだろうか。我ながら〝いいお巡りさん〟ぶりには満足だ。 　今の時代、感情のまま市民を恫喝しようものなら、動画をネットに上げられて上司が記者会見に駆り出され、当事者の署員は万年ヒラ決定で下手すりゃ減給処分だ。やってらんないね。 　やがて署の当直の刑事がやってきて、ビニルシートで幕を張る。持ち込まれた投光器 のスイッチが入れられ、シートの内側は室内のようにすべてがつまびらかにされる。 　洸星はこのまま警備のために外に立つが、その間際に背後を振り返った。 　静かな夜のさびれた街角を、棒でつついた蜂の巣に変えたのは、とある男――あるいは、身元不明の土左衛門（ジョン・ドゥ）。 　先ほどまで衆目を避けるためにかぶせられていたシーツが、はがされる。一糸まとわない、青白く浮腫んだ体があらわになる。少なくとも、死亡してすぐではないだろう。腐った水の臭いに混じって、死んだ人間の、汚物の臭いが離れた洸星のところまで届く。 　恰幅のいい男だが、元からの体格なのか、水死体特有のガス膨張なのかは、警察四年目で、〝街のおまわりさん〟業の洸星にはわからなかった。 「死後数日は経っていそうだね。見るのは初めてかい？」 「係長」 　ひょっこり入ってきたのは、洸星の上司――警視庁蒲田署生活課の防犯係係長だった。 深夜の呼び出しにも関わらず、眉とまつ毛、そして口紅まで隙が無い。肩までのつややかな黒髪の毛先一つ乱れた様子はなかった。 　姫宮鶴子は洸星に警備の腕章を渡しながら、顔を覗き込み眉を上げた。 「松山くん、顔が真っ白だぞ。寝不足かな？」 「ライトの美白効果ですかね」 「冗談が言えるなら大丈夫そうだね。吐くなら早くしたほうがおすすめだけど、エチケット袋はいる？」 「大丈夫です。鶴子さんは刑事課のフォローですか？」 「そうね。私が出てったらあらゆるところから顰蹙を買うと思うんだけど、理解ある刑事課長のお達し」 　本庁刑事部捜査一課で、女だてらにエースと名高かった――鶴子曰く、『優秀でないと、女で、子持ちなんて、居残れないんだよ』とのことだが――彼女が、なぜ治安だけは悪い、都内とはいえ辺境の大田区の、刑事ですらない生活安全課に異動になったのか。それもまた噂の的だが、周囲の囁きなどどこ吹く風なのが、彼女が大物たる証拠なのか
October 18, 2025 at 5:25 PM
mmmaykooo.bsky.social
「オメガの怪物」①
ミステリーでオメガバース。ロマンチックつがい契約と、アルファとオメガの発情期ロマンスはございません！（一番の注意書き）
続きを同じ形で投稿するかは悩み中～。

#創作BL
　――僕たちは、理性を得てしまった動物だから。 　橋の上から見る夜の川面は、白く揺らめいていた。 　月を映したように――と言いたいところだが、そんなロマンチックなものじゃない。繁華街の後ろのどぶ川に映るのは、白い切れかけた外灯の灯りや、ラブホテルの看板だ。 　夕方に降った雨で増水して、腐った水の臭いが鼻をつく。 　午前零時を回った繁華街のはずれは、そろそろ静かになってもいいはずなのに、今は蜂の巣をつついたように騒がしい。人の声、せわしなく人が駆け抜ける足音、赤い人口灯とサイレン。 　脳と視線はひどく落ち着いて周囲を観察して、小説家のように見たものを脳内で描写していく。その一方で、洸星の腕は押し寄せる人を阻むために広げられ、口は荒っぽく 叫んだ。 「ここは通行止めです！　関係者以外は帰って！　そこ、勝手に入るな！」 　数分前に洸星自身が張ったテープをかいくぐろうとした若者の首根っこを掴んで乱暴に押し戻す。油断も隙もあったもんじゃない。誰もがカメラを携帯している時代のせいで、誰もかもがジャーナリスト気取りだ。くそったれ。 「ほら、カメラはしまってー。未成年は補導対象だよー」 　……という本音は口にせず、穏やかな声音で淡々と声を張り上げる。警察官としての融通の利かなさと、朗らかな人の好さが滲み出るいい声じゃないだろうか。我ながら〝いいお巡りさん〟ぶりには満足だ。 　今の時代、感情のまま市民を恫喝しようものなら、動画をネットに上げられて上司が記者会見に駆り出され、当事者の署員は万年ヒラ決定で下手すりゃ減給処分だ。やってらんないね。 　やがて署の当直の刑事がやってきて、ビニルシートで幕を張る。持ち込まれた投光器のスイッチが入れられ、シートの内側は室内のようにすべてがつまびらかにされる。 　洸星はこのまま警備のために外に立つが、その間際に背後を振り返った。 　静かな夜のさびれた街角を、棒でつついた蜂の巣に変えたのは、とある男――あるいは、身元不明の土左衛門（ジョン・ドゥ）。 　先ほどまで衆目を避けるためにかぶせられていたシーツが、はがされる。一糸まとわない、青白く浮腫んだ体があらわになる。少なくとも、死亡してすぐではないだろう。腐った水の臭いに混じって、死んだ人間の、汚物の臭いが離れた洸星のところまで届く。 　恰幅のいい男だが、元からの体格なのか、水死体特有のガス膨張なのかは、警察三年の生活安全課の洸星にはわからなかった。 「死後数日は経っていそうだね。見るのは初めてかい？」 「係長」 　ひょっこり入ってきたのは、警視庁蒲田署生活安全課防犯係の係長だった。深夜の呼び出しだったにも関わらず、その眉とまつ毛、そして口紅まで隙が無い。肩までのつややかな黒髪の毛先一つ乱れた様子はなかった。 　姫宮鶴子は洸星に警備の腕章を渡しながら、顔を覗き込み眉を上げた。 「松山くん、顔が真っ白だぞ。寝不足かな？」 「ライトの美白効果ですかね」 「冗談が言えるなら大丈夫そうだね。吐くなら早くしたほうがおすすめだけど、エチケット袋はいる？」 「結構です。鶴子さんは刑事課のフォローですか？」 「そうね。私が出てったらあらゆるところから顰蹙を買うと思うんだけど、理解ある刑事課長のお達し」 　本庁刑事部捜査一課で、女だてらにエースと名高かった――鶴子曰く、『女で、子持ちだからこそ、優秀でないと居残れないんだよ』とのことだが――彼女が、なぜ治安だけは悪い、都内とはいえ辺境の大田区の、しかも刑事としてではなく、一般警察として
October 13, 2025 at 2:19 PM
shimizie36.bsky.social
進捗(1/2)
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「海と宇宙（仮）」、「進捗」と記載されています。 以下は本文の内容です。 海と宇宙 「我が名は吸血鬼『海と宇宙』！！　天地逆転しろ――ッ！！」 　今日も悠々と、吸血鬼（ポンチ）の声が響く。ここは新横浜（シンヨコハマ）。街を歩けば、イカれた高等吸血鬼が声高々に叫ぶ。そして、イカレポンチがひとたび宣言すると、大抵は碌なことにならない。大体は、ポンチにとって最高の娯楽へと変貌するのだ。 　今夜、街全体に淡い青色の光が伝播する。オーロラのように、半透明の光は帳を降ろし、新横浜中にぶわりと結界が広がる。新横浜湾は騒（ざわ）めき立ち、海洋生物がぬるりと外へと這い出（い）でて来た。 　シンヨコの空からは、星が降ってくる。星に住んでいるおじさんが降ってきたときの星は、土の惑星だった。しかし、今回は恒星らしく、強い光が柔らかく落ちてきている。ただし、それを視認できているのは未（ま）だ、喧騒の中心に居る者だけである。 　顔がワヤワヤした吸血鬼は、確かに満足そうに微笑み、泰然として腕を組んだ。 「よし、これで我が願望は――」 「おらぁっ！！」 　吸血鬼の充足はそこで打ち消された。赤いマントを翻し、黒い拳を飛ばす退治人。名前はロナルド、この世界の主人公である。その傍らには、黒い外套を変化（へんげ）させ、特徴的な髪をシルエットに残す吸血鬼。 　黒い吸血鬼は、ポンチの上空に佇む長身の吸血 鬼へと、声を張り上げた。 「御真祖様！　軽率にポンチへ肩入れしないでください！！」 　かつて『白銀の狼』と呼ばれた高等吸血鬼。ロナルドの相棒ではなく、その父である。ドラルクはタワシに手足が四本生えた奇怪な姿で、父の肩にしがみついている。低い声が底響きする中、複数ある腕の一本をのんびりと天に突き上げた。ピスピス声を上げながら「頑張ってください、お父様ぁ」と呑気に宣（のたま）っている。 　真祖と呼ばれた吸血鬼は、底の見えない静謐な瞳で、じっと自らの血族を見つめた。表情の見えない虹彩は、どこか喜ぶ色が残る。 「楽しそうだったからブイ」 　白いグローブの中で、二本の指が一対、大きな肢体の前に添えられた。おどけた動作に、ロナルドが空に向かってがなり立てる。 「二次創作だからって、やっていいことと悪いことがあるだろ！」 「何も言うな、メタゴリラ」 「殺した」 　殺害宣言とともに、ロナルドはドラウスの肩、正確には肩の上の謎生物へと拳を叩き込む。ドラルクの声帯を模した生物は、一気に灰色の砂へと変わり、地面へと流れていった。本革の靴の傍に居たイデアの丸が、悲嘆の声を上げる。 「ヌー！！」 　ドラルクの使い魔、ジョン・Ｏ・ガーディアン。別名、イデアの丸。メロンパンのように香ばしい背中は、涙を零して丸められた。 　息子を殺された父は、殺害者へと怒鳴った。白髪のアンテナが逆立ち、背景に『オーーッ！！』と いう擬音がついている。 「おい、何をするクソポール！！」 「ポールじゃねえっての！」 　ロナルドとドラウスが掛け合いを始めた。その足元で、砂に変わったドラルクは本来の形を為し、人型へと再生する。使い魔を抱き上げた吸血鬼は、鮮やかな赤の外套の端を引き、同居人へと声を掛けた。 「おい、ポールくん」 「ああ？　んだよクソ砂」 　ドラルクは徐（おもむろ）に、遥か上空を指差した。その表情に焦燥は見えず、自らの視界を報告することだけを、目的としているようだ。 「あれ、魚だよね？」 「はあ？」 　胡乱なものを見るかのように、呼ばれた相手はドラルクへと応える。吸血鬼の相棒は、「ほら」と無言で空を指し続ける。同居人の第二指を碧眼で辿り、空を見て、ロナルドは声を上げた。 「うおっ！？」 　示指の先では、ザトウクジラが宙を旋回していた。下顎、筋の入った凹凸は、夜に溶けることなく、灰がかった銀白色を明確に主張している。空中で遊泳して、背骨でうねりを打っていた。対流圏下でも息を継ぐため、巨大な腹を成層圏へと向け、地上からは艶やかな深い黒藍が露出する。巨視的な生命の躍動が、絶え間なく泰然と鰭（ひれ）を動かしていた。 「おぉ……」 　大気圏外のシンヨコハマムーンとのコントラスト、白色のライトが重なって、紡錘形の鯨躰が映える。ロナルドは声を失い、無心で回遊を眺めて いた。 「あそこにも居るよ」 　ドラルクがロナルドに語り掛ける。相棒の様子を見かねてか、声は平生とは異なり、酷く穏やかだ。揶揄も煽りも含まれない和やかな声に、ロナルドは素直に従った。 　肩に添えられた、やや温度の低い手。それとは反対の手が、鯨とは反対の方角を指した。銀髪の青年が、白布で覆われた骨ばった指の先を追い、蒼穹の瞳を見開いた。 「サカナだ……」 　鰯の群れが蜷局を巻いて、東の空を往来している。黒銀の躰が月と街灯の火を反射し、断続的に白腹が点滅する。マイワシの大群はトルネードを為し、空の彼方へと泳いでいった。 　ドラルクがフッと笑い、静寂に張った糸を緩めた。 「七三八六匹、だ」 「何恰好（カッコ）つけてんだよ、キメェ」 　ドラルクにパンチを入れるまでもない、ロナルドは半目で同居人を一瞥する。些細な日常のやり取りが、漸く戻ってきた。状況は未だに変わらない。ミドリガメは足元を通過していて、カブトクラゲが月の代わりに浮遊している。しかし、神妙な空気感は離散した。 「見事なものだな」 「不本意にも見惚れてしまった」と続けてドラウスは告げる。ドラルクは半ば呆れたように、父へと相対した。 「お父様、しんみりターンは終了してますよ」 「俺は空気の読めないウジ虫」 「だから公道で蹲（うずくま）るな」
May 19, 2025 at 7:52 AM
shimizie36.bsky.social
進捗(1/2)
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「海と宇宙（仮）」、「進捗」と記載されています。 以下は本文の内容です。 海と宇宙 「我が名は吸血鬼『海と宇宙』！！　天地逆転しろ――ッ！！」 　今日も悠々と、吸血鬼（ポンチ）の声が響く。ここは新横浜（シンヨコハマ）。街を歩けば、イカれた高等吸血鬼が声高々に叫ぶ。そして、イカレポンチがひとたび宣言すると、大抵は碌なことにならない。大体は、ポンチにとって最高の娯楽へと変貌するのだ。 　今夜、街全体に淡い青色の光が伝播する。オーロラのように、半透明の光は帳を降ろし、新横浜中にぶわりと結界が広がる。新横浜湾は騒（ざわ）めき立ち、海洋生物がぬるりと外へと這い出（い）でて来た。 　シンヨコの空からは、星が降ってくる。星に住んでいるおじさんが降ってきたときの星は、土の惑星だった。しかし、今回は恒星らしく、強い光が柔らかく落ちてきている。ただし、それを視認できているのは未（ま）だ、喧騒の中心に居る者だけである。 　顔がワヤワヤした吸血鬼は、確かに満足そうに微笑み、泰然として腕を組んだ。 「よし、これで我が願望は――」 「おらぁっ！！」 　吸血鬼の充足はそこで打ち消された。赤いマントを翻し、黒い拳を飛ばす退治人。名前はロナルド、この世界の主人公である。その傍らには、黒い外套を変化（へんげ）させ、特徴的な髪をシルエットに残す吸血鬼。 　黒い吸血鬼は、ポンチの上空に佇む長身の吸血 鬼へと、声を張り上げた。 「御真祖様！　軽率にポンチへ肩入れしないでください！！」 　かつて『白銀の狼』と呼ばれた高等吸血鬼。ロナルドの相棒ではなく、その父である。ドラルクはタワシに手足が四本生えた奇怪な姿で、父の肩にしがみついている。低い声が底響きする中、複数ある腕の一本をのんびりと天に突き上げた。ピスピス声を上げながら「頑張ってください、お父様ぁ」と呑気に宣（のたま）っている。 　真祖と呼ばれた吸血鬼は、底の見えない静謐な瞳で、じっと自らの血族を見つめた。表情の見えない虹彩は、どこか喜ぶ色が残る。 「楽しそうだったからブイ」 　白いグローブの中で、二本の指が一対、大きな肢体の前に添えられた。おどけた動作に、ロナルドが空に向かってがなり立てる。 「二次創作だからって、やっていいことと悪いことがあるだろ！」 「何も言うな、メタゴリラ」 「殺した」 　殺害宣言とともに、ロナルドはドラウスの肩、正確には肩の上の謎生物へと拳を叩き込む。ドラルクの声帯を模した生物は、一気に灰色の砂へと変わり、地面へと流れていった。本革の靴の傍に居たイデアの丸が、悲嘆の声を上げる。 「ヌー！！」 　ドラルクの使い魔、ジョン・Ｏ・ガーディアン。別名、イデアの丸。メロンパンのように香ばしい背中は、涙を零して丸められた。 　息子を殺された父は、殺害者へと怒鳴った。白髪のアンテナが逆立ち、背景に『オーーッ！！』と いう擬音がついている。 「おい、何をするクソポール！！」 「ポールじゃねえっての！」 　ロナルドとドラウスが掛け合いを始めた。その足元で、砂に変わったドラルクは本来の形を為し、人型へと再生する。使い魔を抱き上げた吸血鬼は、鮮やかな赤の外套の端を引き、同居人へと声を掛けた。 「おい、ポールくん」 「ああ？　んだよクソ砂」 　ドラルクは徐（おもむろ）に、遥か上空を指差した。その表情に焦燥は見えず、自らの視界を報告することだけを、目的としているようだ。 「あれ、魚だよね？」 「はあ？」 　胡乱なものを見るかのように、呼ばれた相手はドラルクへと応える。吸血鬼の相棒は、「ほら」と無言で空を指し続ける。同居人の第二指を碧眼で辿り、空を見て、ロナルドは声を上げた。 「うおっ！？」 　示指の先では、ザトウクジラが宙を旋回していた。下顎、筋の入った凹凸は、夜に溶けることなく、灰がかった銀白色を明確に主張している。空中で遊泳して、背骨でうねりを打っていた。対流圏下でも息を継ぐため、巨大な腹を成層圏へと向け、地上からは艶やかな深い黒藍が露出する。巨視的な生命の躍動が、絶え間なく泰然と鰭（ひれ）を動かしていた。 「おぉ……」 　大気圏外のシンヨコハマムーンとのコントラスト、白色のライトが重なって、紡錘形の鯨躰が映える。ロナルドは声を失い、無心で回遊を眺めて いた。 「あそこにも居るよ」 　ドラルクがロナルドに語り掛ける。相棒の様子を見かねてか、声は平生とは異なり、酷く穏やかだ。揶揄も煽りも含まれない和やかな声に、ロナルドは素直に従った。 　肩に添えられた、やや温度の低い手。それとは反対の手が、鯨とは反対の方角を指した。銀髪の青年が、白布で覆われた骨ばった指の先を追い、蒼穹の瞳を見開いた。 「サカナだ……」 　鰯の群れが蜷局を巻いて、東の空を往来している。黒銀の躰が月と街灯の火を反射し、断続的に白腹が点滅する。マイワシの大群はトルネードを為し、空の彼方へと泳いでいった。 　ドラルクがフッと笑い、静寂に張った糸を緩めた。 「七三八六匹、だ」 「何恰好（カッコ）つけてんだよ、キメェ」 　ドラルクにパンチを入れるまでもない、ロナルドは半目で同居人を一瞥する。些細な日常のやり取りが、漸く戻ってきた。状況は未だに変わらない。ミドリガメは足元を通過していて、カブトクラゲが月の代わりに浮遊している。しかし、神妙な空気感は離散した。 「見事なものだな」 「不本意にも見惚れてしまった」と続けてドラウスは告げる。ドラルクは半ば呆れたように、父へと相対した。 「お父様、しんみりターンは終了してますよ」 「俺は空気の読めないウジ虫」 「だから公道で蹲（うずくま）るな」
May 19, 2025 at 7:52 AM
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#星の降る街
October 19, 2024 at 10:17 AM
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まとめ絵
#創作_星の降る街
February 7, 2024 at 3:57 AM