【アイコン】 Picrew 「白青式メーカー [ウィンターヘアカラー](C2Ykm44Da6)
「あんたには勿体ないが、分けてやる」
「何を……」
ジッと視線を向けているので好都合。当てやすい。黒い服の隙間から徳利を取り出して、男の顔――首のほうが良いか――を狙って投げつける。上から投げられたそれを、反射的に両断した男の顔に、酒がぶち撒けられていった。それでも男は瞬き一つせず、顔から酒をぽたぽたと零しながら刀を構え直した。
「勿体ないな。よぉく味わって呑みなよ、頭目さんよ」
「安酒を飲む趣味はない」
「はぁあ、価値の分からない小童め」
酒を拭うなり回るなりする間にでも、逃げようと思ったが、どうにも相手が悪そうだった。
「あんたには勿体ないが、分けてやる」
「何を……」
ジッと視線を向けているので好都合。当てやすい。黒い服の隙間から徳利を取り出して、男の顔――首のほうが良いか――を狙って投げつける。上から投げられたそれを、反射的に両断した男の顔に、酒がぶち撒けられていった。それでも男は瞬き一つせず、顔から酒をぽたぽたと零しながら刀を構え直した。
「勿体ないな。よぉく味わって呑みなよ、頭目さんよ」
「安酒を飲む趣味はない」
「はぁあ、価値の分からない小童め」
酒を拭うなり回るなりする間にでも、逃げようと思ったが、どうにも相手が悪そうだった。
あの青は、酒を入れた身体で適当にやるには勿体ないな。
今日のところは撤退しようと、擦り足で後ろにジワリと退き始める。が、それを見咎めたように、足元に向かって横薙ぎに刀が振るわれる。
切り落とされちゃ叶わない。
足を踏みしめ、後方に大きく飛び上がる。くるりと空中で回って下を見ると、着地点に既に男が刀で貫こうと待ち構えていた。
「俺が、何の策もなく、飛ぶと、でも!」
あの青は、酒を入れた身体で適当にやるには勿体ないな。
今日のところは撤退しようと、擦り足で後ろにジワリと退き始める。が、それを見咎めたように、足元に向かって横薙ぎに刀が振るわれる。
切り落とされちゃ叶わない。
足を踏みしめ、後方に大きく飛び上がる。くるりと空中で回って下を見ると、着地点に既に男が刀で貫こうと待ち構えていた。
「俺が、何の策もなく、飛ぶと、でも!」
(こっちだ)
刀を捌きながら、わざとゆっくりと口を動かした。それに気づいたのか、眼前の男の刀が止まる。
へっ、引っかかったな。
止まった刀の下を潜り抜け、後ろ足で男の脇腹に蹴りを入れる。思い切り蹴ったのに、僅かに揺れるだけで距離を離せない。
「チッ、頑丈だな」
義手の腕を使ったアレコレも使えるが、やりきれるか分からない相手に手の内を明かしたくはない。となれば、本当にやりたくないが仕方がない。はあー、と大きく息を吐いた。
(こっちだ)
刀を捌きながら、わざとゆっくりと口を動かした。それに気づいたのか、眼前の男の刀が止まる。
へっ、引っかかったな。
止まった刀の下を潜り抜け、後ろ足で男の脇腹に蹴りを入れる。思い切り蹴ったのに、僅かに揺れるだけで距離を離せない。
「チッ、頑丈だな」
義手の腕を使ったアレコレも使えるが、やりきれるか分からない相手に手の内を明かしたくはない。となれば、本当にやりたくないが仕方がない。はあー、と大きく息を吐いた。
「流れ者の成らず者さんよぉ、俺はちゃぁんと警告したのに……喧嘩売る相手も選ばないのかよ」
「黒雲の副組長だろう」
刀を抜きながら歩く。カタカタと瓦が音を立てる。男は振り返らずに酒を飲む。
「あんやぁ、知ってて売ったのか。人斬り中毒集団め」
「はぐれた雲を見つけた好機を逃すわけにはいかないので。それが副組長であれば、なおさら」
男の背後に立つと、その身が影で隠れた。振り上げた刀が光る。
「はぁ〜。一人でも雲として十分だから、単独行動してるってのに。安く見られたもんだな」
男は視線を向けないまま、脇差の鞘で刀を受け止めていた。
「流れ者の成らず者さんよぉ、俺はちゃぁんと警告したのに……喧嘩売る相手も選ばないのかよ」
「黒雲の副組長だろう」
刀を抜きながら歩く。カタカタと瓦が音を立てる。男は振り返らずに酒を飲む。
「あんやぁ、知ってて売ったのか。人斬り中毒集団め」
「はぐれた雲を見つけた好機を逃すわけにはいかないので。それが副組長であれば、なおさら」
男の背後に立つと、その身が影で隠れた。振り上げた刀が光る。
「はぁ〜。一人でも雲として十分だから、単独行動してるってのに。安く見られたもんだな」
男は視線を向けないまま、脇差の鞘で刀を受け止めていた。
珍妙な酒飲みがいる、とは片付けられなかった。
「……あなたは」
彼の腰に差された刀、肩にかかる上着に黒い雲の文様。見過ごすには、符号が合いすぎていた。
「下でガチャガチャ煩いと思ったら、流れ者か。ここはとっくの昔から、雲が流れる場所だ。今なら見逃してやるよ、とっとと帰んな」
男は流し目でこちらをチラと見ると、すぐに視線を戻した。寝転がったまま徳利から酒を注ぎ、腰の刀に手を触れることもない。
「……酒で剣も曇るようだな」
珍妙な酒飲みがいる、とは片付けられなかった。
「……あなたは」
彼の腰に差された刀、肩にかかる上着に黒い雲の文様。見過ごすには、符号が合いすぎていた。
「下でガチャガチャ煩いと思ったら、流れ者か。ここはとっくの昔から、雲が流れる場所だ。今なら見逃してやるよ、とっとと帰んな」
男は流し目でこちらをチラと見ると、すぐに視線を戻した。寝転がったまま徳利から酒を注ぎ、腰の刀に手を触れることもない。
「……酒で剣も曇るようだな」
目が合ったのは0回で、声を掛けられたのも0回だった。
――ベコ、と音が鳴る。
音の方に目を向けると、手の中で缶が形を歪ませていた。それなりに大きな音が室内に響いたにも関わらず、グレゴールの姿勢に変化はない。眠り込んでいる訳ではなく、ただ単に自分の思考の外に意識が向いていないだけのようだった。
通常であれば、この缶を飲み終えるよりも先に、グレゴールがゆるゆると歩いて寄ってくる。そうして、下から伺うようにして見上げて、名前をぽつりと零す。それが常であったはずなのに。
目が合ったのは0回で、声を掛けられたのも0回だった。
――ベコ、と音が鳴る。
音の方に目を向けると、手の中で缶が形を歪ませていた。それなりに大きな音が室内に響いたにも関わらず、グレゴールの姿勢に変化はない。眠り込んでいる訳ではなく、ただ単に自分の思考の外に意識が向いていないだけのようだった。
通常であれば、この缶を飲み終えるよりも先に、グレゴールがゆるゆると歩いて寄ってくる。そうして、下から伺うようにして見上げて、名前をぽつりと零す。それが常であったはずなのに。
「あるかねぇ、そんなの……」
「状況はあくまで仮定の話であり、私が他の誰でもなくあなたのことを危険から守れない。それが問題だ」
「……別にそんな、わざわざ守ってもらう必要ないけどな?」
「本来避けられる危険であるならば、避けるべきだろう」
「それは、そうかも知れないけどさ。……まあ、協力はなるべくしてやるから、好きにしろよ」
「では、原因の検証のために作業を共に行いたい」
「……いつも通りだな」
「あるかねぇ、そんなの……」
「状況はあくまで仮定の話であり、私が他の誰でもなくあなたのことを危険から守れない。それが問題だ」
「……別にそんな、わざわざ守ってもらう必要ないけどな?」
「本来避けられる危険であるならば、避けるべきだろう」
「それは、そうかも知れないけどさ。……まあ、協力はなるべくしてやるから、好きにしろよ」
「では、原因の検証のために作業を共に行いたい」
「……いつも通りだな」
「――G社…英雄…、我…の……グ…ゴール。G…の……よ、我々………グ……ール」
合成音声がノイズにかき消されながらも、確かに自分を呼んでいるのだと伝えてくる。わざわざこんな電波に乗せて、今更何がしたいんだ。
「本当に同じ言葉しか繰り返さないんですね」
「……声だけではなく、周期的な物音が聞こえる」
言われてノイズの奥に耳を澄ませると、確かに規則的なリズムが紡がれていた。短長短の音を各3回。
声にはされていない、助けを求める音だった。
「――G社…英雄…、我…の……グ…ゴール。G…の……よ、我々………グ……ール」
合成音声がノイズにかき消されながらも、確かに自分を呼んでいるのだと伝えてくる。わざわざこんな電波に乗せて、今更何がしたいんだ。
「本当に同じ言葉しか繰り返さないんですね」
「……声だけではなく、周期的な物音が聞こえる」
言われてノイズの奥に耳を澄ませると、確かに規則的なリズムが紡がれていた。短長短の音を各3回。
声にはされていない、助けを求める音だった。