主人公は天皇でも村井でもなく、「新宮殿」という建物で、だからこそ、ごく魅力的な人物たちにも思い入れが見えすぎず、彼らは調度品のように小説のそこここに絶妙に配置されています。
大人の小説。丸谷才一のような、とも思いましたが、私は丸谷才一より松家さんの方が好きなので、比べるまでもなかったかもしれません。
次は文庫版も買ってあった『火山のふもとで』の何度目かの再読です。
主人公は天皇でも村井でもなく、「新宮殿」という建物で、だからこそ、ごく魅力的な人物たちにも思い入れが見えすぎず、彼らは調度品のように小説のそこここに絶妙に配置されています。
大人の小説。丸谷才一のような、とも思いましたが、私は丸谷才一より松家さんの方が好きなので、比べるまでもなかったかもしれません。
次は文庫版も買ってあった『火山のふもとで』の何度目かの再読です。
水村美苗がどんな作品を出してくれても、『本格小説』のあとに『大使とその妻』を待っていたように、
松家仁之の作品を読み続けても、『火山のふもとで』に連なるこういう小説を待っていました。しかも連なる、と言っても、まったく違う色合いとスケールの作品です。
わたしは文章を視覚化するのがうまくなくて、例えば『薔薇の名前』の迷宮をなかなか頭の中でイメージできずにもどかしく思っていました。
松家さんの端正でけれんみのない文章は、そういう私にも、新宮殿をはじめとする数々の建物や、そこで使われる木のにおい、湿度、あかりや閉塞感を鮮やかに想像させてくれるものでした。
水村美苗がどんな作品を出してくれても、『本格小説』のあとに『大使とその妻』を待っていたように、
松家仁之の作品を読み続けても、『火山のふもとで』に連なるこういう小説を待っていました。しかも連なる、と言っても、まったく違う色合いとスケールの作品です。
わたしは文章を視覚化するのがうまくなくて、例えば『薔薇の名前』の迷宮をなかなか頭の中でイメージできずにもどかしく思っていました。
松家さんの端正でけれんみのない文章は、そういう私にも、新宮殿をはじめとする数々の建物や、そこで使われる木のにおい、湿度、あかりや閉塞感を鮮やかに想像させてくれるものでした。