この後、アーサーを抱えて家に連れて帰って、美味しいもの食べさせてお風呂にも入れて、甲斐甲斐しく世話するギルさんがいる。
この後、アーサーを抱えて家に連れて帰って、美味しいもの食べさせてお風呂にも入れて、甲斐甲斐しく世話するギルさんがいる。
「腹、減ってねえか?」
「……そんなの聞いて、どうするんだよ」
「そりゃあ当然、腹が減ってるなら飯を食いに行くだけだ」
「……そうやって油断させて、オレを捕まえる気だろ」
確かに、そう思われても仕方がない。警戒を緩める気配を見せない少年に、ギルベルトは「そうだなあ」と笑った。
「捕まえねえと、美味い飯も食わせてやれねえからな」
あっけらかんとそう告げるギルベルトの声に、弾かれたように顔を上げた少年は呆然とした顔で「え」と小さく声を漏らした。
「腹、減ってねえか?」
「……そんなの聞いて、どうするんだよ」
「そりゃあ当然、腹が減ってるなら飯を食いに行くだけだ」
「……そうやって油断させて、オレを捕まえる気だろ」
確かに、そう思われても仕方がない。警戒を緩める気配を見せない少年に、ギルベルトは「そうだなあ」と笑った。
「捕まえねえと、美味い飯も食わせてやれねえからな」
あっけらかんとそう告げるギルベルトの声に、弾かれたように顔を上げた少年は呆然とした顔で「え」と小さく声を漏らした。
(笑っているのは大人ばかりで、子どもはみんな昏い目をして……逆だろう、本来なら)
この街では、無邪気な子どもの声が全くといっていいほど聞こえてこないのだ。以前ギルベルトがいた街は明るく挨拶してくれる子どもたちで溢れていたから、余計にそう感じてしまうのもあるかもしれないが。
(これがこの街の気質だと、割り切るしかねえ……そう思ってたが)
どうも、それだけではないような……そんな予感が、ギルベルトの胸をざわつかせる。
(けど、今はこいつをどうにかするのが先決だな)
(笑っているのは大人ばかりで、子どもはみんな昏い目をして……逆だろう、本来なら)
この街では、無邪気な子どもの声が全くといっていいほど聞こえてこないのだ。以前ギルベルトがいた街は明るく挨拶してくれる子どもたちで溢れていたから、余計にそう感じてしまうのもあるかもしれないが。
(これがこの街の気質だと、割り切るしかねえ……そう思ってたが)
どうも、それだけではないような……そんな予感が、ギルベルトの胸をざわつかせる。
(けど、今はこいつをどうにかするのが先決だな)
少しかさついた唇から放たれたのは、思いのほか静かな声だった。どこか大人びた……否、これは悟っていると言うべきか。その歳の子にしては似つかわしくない『諦観』の表情を浮かべる少年に、ギルベルトはその真紅の瞳を丸く見開いた。そんな彼の驚きなど気にしていない様子で、少年は再び膝を抱えて身体を丸めてしまう。何も信じない――言葉はなくても、少年は全身でそう告げていた。
(……そう、だよな。こいつらだって、好きでこういう生活をしてるわけじゃねえ)
貧富の差が激しいこの街で生き抜くために、犯罪に手を染めてしまう子やその身を差し出さんとする子が後を絶たないという。
少しかさついた唇から放たれたのは、思いのほか静かな声だった。どこか大人びた……否、これは悟っていると言うべきか。その歳の子にしては似つかわしくない『諦観』の表情を浮かべる少年に、ギルベルトはその真紅の瞳を丸く見開いた。そんな彼の驚きなど気にしていない様子で、少年は再び膝を抱えて身体を丸めてしまう。何も信じない――言葉はなくても、少年は全身でそう告げていた。
(……そう、だよな。こいつらだって、好きでこういう生活をしてるわけじゃねえ)
貧富の差が激しいこの街で生き抜くために、犯罪に手を染めてしまう子やその身を差し出さんとする子が後を絶たないという。
ギルさんの遠征中、無事を祈って愛情と不安を薔薇に託すアーサー
ギルさんの遠征中、無事を祈って愛情と不安を薔薇に託すアーサー
(お前が怪我してないかとか、無理してないかとか……オレだって、不安にくらいなるんだからな)
小さなライトイエローの花弁を指先でつつくと、冷たい朝露の粒が一粒テーブルに落ちて弾けた。
(お前が怪我してないかとか、無理してないかとか……オレだって、不安にくらいなるんだからな)
小さなライトイエローの花弁を指先でつつくと、冷たい朝露の粒が一粒テーブルに落ちて弾けた。
同じく『見える人』なギルさんの話が書きたい。
同じく『見える人』なギルさんの話が書きたい。
男の肩に担がれたのだと気づいたが、がっちりと拘束されてしまって身動きが取れない。どういうことだと『友人たち』に目を向けると、彼らはまるで行ってらっしゃいとでも言うようにヒラヒラと手を振った。
「さぁて、ずぶ濡れな子猫ちゃんを我が家にご招待だぜー!」
「え、」
オレがどういうことだ?!と叫ぶのと、男が走り出したのはほぼ同時で――何が何だか分からないまま、オレは身を委ねるしかなかった。
男の肩に担がれたのだと気づいたが、がっちりと拘束されてしまって身動きが取れない。どういうことだと『友人たち』に目を向けると、彼らはまるで行ってらっしゃいとでも言うようにヒラヒラと手を振った。
「さぁて、ずぶ濡れな子猫ちゃんを我が家にご招待だぜー!」
「え、」
オレがどういうことだ?!と叫ぶのと、男が走り出したのはほぼ同時で――何が何だか分からないまま、オレは身を委ねるしかなかった。
「じゃあ、オレに声をかけたのも……」
「そいつらが心配そうにお前を見てたからだな」
あんまり心配かけんなよ、とゴツゴツとした大きな手がオレの頭を撫でる。こっちは初めて出会った『見える人間』に頭が混乱しているというのに――男は特に気にする様子もなく『友人たち』の方へと目を向けた。
「なあ。とりあえず、こいつウチに連れて行っていいか?このまま放っておけねえ」
「は?」
「そうかそうか。お前らも心配してたんだもんなあ……よし、俺様に任せとけ!」
オレ抜きで進んでいく男と『友人たち』とのやり取り――その会話が途切れたかと思うと、ふわりと身体が宙に浮いた。
「じゃあ、オレに声をかけたのも……」
「そいつらが心配そうにお前を見てたからだな」
あんまり心配かけんなよ、とゴツゴツとした大きな手がオレの頭を撫でる。こっちは初めて出会った『見える人間』に頭が混乱しているというのに――男は特に気にする様子もなく『友人たち』の方へと目を向けた。
「なあ。とりあえず、こいつウチに連れて行っていいか?このまま放っておけねえ」
「は?」
「そうかそうか。お前らも心配してたんだもんなあ……よし、俺様に任せとけ!」
オレ抜きで進んでいく男と『友人たち』とのやり取り――その会話が途切れたかと思うと、ふわりと身体が宙に浮いた。
「ギルベルト……騎士団団長の?」
「ああ!その通りだ!」
これで多少は警戒を解いてくれるだろうか。そんなことを考えながら、自分は人畜無害なのだと主張するように、両手をしっかり上げた。
「ギルベルト……騎士団団長の?」
「ああ!その通りだ!」
これで多少は警戒を解いてくれるだろうか。そんなことを考えながら、自分は人畜無害なのだと主張するように、両手をしっかり上げた。
「もう少し時間がかかるぞ」
「ケセセ、構わねえよ。なんなら気になったくまのプレゼンでもしてくれ」
アルトが何を感じているのかもっと知りたいから。そう言って笑って見せた俺に、アルトは小さく咳払いをして「そうだな」とどこか本気の目を向けてきて。流石にまずいと「程々で頼む!!」と両手を挙げた。
「もう少し時間がかかるぞ」
「ケセセ、構わねえよ。なんなら気になったくまのプレゼンでもしてくれ」
アルトが何を感じているのかもっと知りたいから。そう言って笑って見せた俺に、アルトは小さく咳払いをして「そうだな」とどこか本気の目を向けてきて。流石にまずいと「程々で頼む!!」と両手を挙げた。
「……そう聞かれると、難しいな。それぞれに魅力があるから」
本気で悩んでいる様子で眉を寄せるアルトに、確かに彼の家には多種多様なくまたちがいることを思い出した。好みというよりも、出会った時の直感で迎え入れている……ということなのだろう。
「お前こそ。こいつがいい、とかねえの?」
「んー? お前が一番いいって思うやつを選んでくれたらそれでいい。プレゼントだからな!」
サプライズにできなかったことは残念だが、その代わりにこれだけ心を躍らせ幸せそうに笑うアルトをみれたのだから俺はもう十分なのだ。だから、あとはアルトが満足いくまでじっくり選んで欲しい。
「……そう聞かれると、難しいな。それぞれに魅力があるから」
本気で悩んでいる様子で眉を寄せるアルトに、確かに彼の家には多種多様なくまたちがいることを思い出した。好みというよりも、出会った時の直感で迎え入れている……ということなのだろう。
「お前こそ。こいつがいい、とかねえの?」
「んー? お前が一番いいって思うやつを選んでくれたらそれでいい。プレゼントだからな!」
サプライズにできなかったことは残念だが、その代わりにこれだけ心を躍らせ幸せそうに笑うアルトをみれたのだから俺はもう十分なのだ。だから、あとはアルトが満足いくまでじっくり選んで欲しい。