「……とりあえず、俺様は丸腰だ。お前をどうこうできる状況じゃねえ」
両手を顔の横へ持ち上げ『無害だ』と主張するギルベルトに、その少年は睨みつけたまま動かない。
(え……きこえてる、よな?)
ギルベルトと少年の間に妙な空気が横たわる中、たっぷり逡巡した少年がゆっくりと口を開いた。
「……とりあえず、俺様は丸腰だ。お前をどうこうできる状況じゃねえ」
両手を顔の横へ持ち上げ『無害だ』と主張するギルベルトに、その少年は睨みつけたまま動かない。
(え……きこえてる、よな?)
ギルベルトと少年の間に妙な空気が横たわる中、たっぷり逡巡した少年がゆっくりと口を開いた。
(女々しいことをしてる自覚はあるんだがな)
この国の騎士であるギルベルトに対し、庭師であるオレができることは本当に少ない。今だって、そうだ。異国の地で、国を守るために働いているであろう恋人が無事に帰ってきますように――そんな願いを花々に託すことしかできないのだから。
(あいつも赤い薔薇の花言葉は知ってるだろうが……スプレー薔薇までは知らないだろうな)
(女々しいことをしてる自覚はあるんだがな)
この国の騎士であるギルベルトに対し、庭師であるオレができることは本当に少ない。今だって、そうだ。異国の地で、国を守るために働いているであろう恋人が無事に帰ってきますように――そんな願いを花々に託すことしかできないのだから。
(あいつも赤い薔薇の花言葉は知ってるだろうが……スプレー薔薇までは知らないだろうな)
「こんな所でうずくまってると、風邪ひくぞ」
「……お前、気持ち悪くないのか?」
――あいつ、また何もないところで話してるぞ
――気持ち悪い……何が見えてるの?
(こいつらは、オレの『友達』なのに)
「あー……もしかして、お前の後ろに飛んでるやつらのことか?」
「っ?! み、見えてるのか?!」
思わず立ち上がって男の胸ぐらを掴むと、至近距離で輝くような緋色と目が合った。その美しさに一瞬気を取られてしまったオレに対して、男はオレの腕を軽く叩くとニッと笑ってみせる。
「こんな所でうずくまってると、風邪ひくぞ」
「……お前、気持ち悪くないのか?」
――あいつ、また何もないところで話してるぞ
――気持ち悪い……何が見えてるの?
(こいつらは、オレの『友達』なのに)
「あー……もしかして、お前の後ろに飛んでるやつらのことか?」
「っ?! み、見えてるのか?!」
思わず立ち上がって男の胸ぐらを掴むと、至近距離で輝くような緋色と目が合った。その美しさに一瞬気を取られてしまったオレに対して、男はオレの腕を軽く叩くとニッと笑ってみせる。
思えば、あいつがアンフューラーをやっていた頃からそうだった。ゲームの勝敗はもちろんだが、使われたカードや出す手順まで事細かに記録して満足気に笑っていたのはよく覚えている。
(現役を退いても、情報収集は欠かしてねえ……ってか)
実際にこのカードを使っている弟の方は、あいつの実情を知っているのだろうか。そんなことを考えながら、手持ちのカードへと視線を落とした。
(……ったく、もう関わらずに済むって思ってたら……こういう形で出てきやがって)
現アンフューラーの後ろに見え隠れするあいつの影に、脈打つ心臓を抑え込んで小さく息を吐いた。
思えば、あいつがアンフューラーをやっていた頃からそうだった。ゲームの勝敗はもちろんだが、使われたカードや出す手順まで事細かに記録して満足気に笑っていたのはよく覚えている。
(現役を退いても、情報収集は欠かしてねえ……ってか)
実際にこのカードを使っている弟の方は、あいつの実情を知っているのだろうか。そんなことを考えながら、手持ちのカードへと視線を落とした。
(……ったく、もう関わらずに済むって思ってたら……こういう形で出てきやがって)
現アンフューラーの後ろに見え隠れするあいつの影に、脈打つ心臓を抑え込んで小さく息を吐いた。
(これは、見事だな。香りも濃い気がする)
目を奪われそのまま庭へと足を踏み入れ大きく息を吸い込むと、身体中に薔薇の香りが染み渡っていくようで――悪くないな、と自然と頬が緩んでいく。
「……誰か、いるのか?」
「っ?!」
唐突に響いてきた声に、反射的に腰に差した剣の柄に手を伸ばし片足を引く。直後、姿を現した青年は俺の姿を見と認めると、あからさまに眉を寄せた。
「――騎士様が、なんの御用ですか?」
明らかに警戒してる青年に、慌てて柄から手を離した。
(これは、見事だな。香りも濃い気がする)
目を奪われそのまま庭へと足を踏み入れ大きく息を吸い込むと、身体中に薔薇の香りが染み渡っていくようで――悪くないな、と自然と頬が緩んでいく。
「……誰か、いるのか?」
「っ?!」
唐突に響いてきた声に、反射的に腰に差した剣の柄に手を伸ばし片足を引く。直後、姿を現した青年は俺の姿を見と認めると、あからさまに眉を寄せた。
「――騎士様が、なんの御用ですか?」
明らかに警戒してる青年に、慌てて柄から手を離した。
オレがロードになる前のことを聞こうとすると、いつもこうしてはぐらかされる。こんなにも傷だらけになって、覚えていないなんてことがあるはずないのに。
(恋人になっても、秘密主義は変わらない……ってことか)
初めてこの恋心を伝えた時もハニートラップかと疑われたし、信じて貰えるまで思った以上に時間がかかったのだ。漸く想いが通じ合った今でさえ、一定の線引きはされているように思うし、これからそれを越えられるのかという不安はある。けれど――
(絶対に、越えてやる)
そして、手放せなくなるくらいオレという存在を刻み込んでやるから。待ってろよ!
オレがロードになる前のことを聞こうとすると、いつもこうしてはぐらかされる。こんなにも傷だらけになって、覚えていないなんてことがあるはずないのに。
(恋人になっても、秘密主義は変わらない……ってことか)
初めてこの恋心を伝えた時もハニートラップかと疑われたし、信じて貰えるまで思った以上に時間がかかったのだ。漸く想いが通じ合った今でさえ、一定の線引きはされているように思うし、これからそれを越えられるのかという不安はある。けれど――
(絶対に、越えてやる)
そして、手放せなくなるくらいオレという存在を刻み込んでやるから。待ってろよ!
「ったく、相変わらず素直じゃねえなあ。アルトは」
いや、なんでちょっと嬉しそうなんだよ……と思わず眉を寄せて睨め付けると、目の前にいる恋人はケセケセと肩を揺らしながらオレの頭にその角張った手を乗せた。
「そういう捻くれたとこも、可愛いよなあ」
「〜〜〜っ!お、まえなあっ」
ああもう!調子が狂う!!あまりの羞恥に耐えかねて思わず頭に乗った手を振り払ってしまったオレに、一瞬目を丸くした彼は、やっぱりなぜか嬉しそうに笑っていた。
「ったく、相変わらず素直じゃねえなあ。アルトは」
いや、なんでちょっと嬉しそうなんだよ……と思わず眉を寄せて睨め付けると、目の前にいる恋人はケセケセと肩を揺らしながらオレの頭にその角張った手を乗せた。
「そういう捻くれたとこも、可愛いよなあ」
「〜〜〜っ!お、まえなあっ」
ああもう!調子が狂う!!あまりの羞恥に耐えかねて思わず頭に乗った手を振り払ってしまったオレに、一瞬目を丸くした彼は、やっぱりなぜか嬉しそうに笑っていた。
「ゆっくり見ていいからな。せっかく記念で買うんだからよ」
「あ、ああ……」
アルトと付き合って、もうすぐ五年――国からすれば、五年はあっという間ではあるが――なにか記念に残るものを渡そうと思って選んだのが、テディベアだった。
「ゆっくり見ていいからな。せっかく記念で買うんだからよ」
「あ、ああ……」
アルトと付き合って、もうすぐ五年――国からすれば、五年はあっという間ではあるが――なにか記念に残るものを渡そうと思って選んだのが、テディベアだった。
目の前に翼の生えた人型の何かが浮いているという非現実的な光景を前に、ギルベルトは淡々とそう告げた。そんな彼の様子に、宙に浮いていた少年は、明らかに不満げに顔を顰めている。
「だから、オレが来たんだ!もう一度お前に、神様のことを信じさせるために」
「……別に。なんでわざわざそんなことするんだよ」
「神の力の源は、強い信仰心だ。お前が礼拝を欠かしていなかったことを、神はわかってる。だから、もう一度お前の力が必要なんだ」
目の前に翼の生えた人型の何かが浮いているという非現実的な光景を前に、ギルベルトは淡々とそう告げた。そんな彼の様子に、宙に浮いていた少年は、明らかに不満げに顔を顰めている。
「だから、オレが来たんだ!もう一度お前に、神様のことを信じさせるために」
「……別に。なんでわざわざそんなことするんだよ」
「神の力の源は、強い信仰心だ。お前が礼拝を欠かしていなかったことを、神はわかってる。だから、もう一度お前の力が必要なんだ」
「……ハンドクリーム?」
「正確にはボディクリームだな!乾燥を改善して、静電気を起きにくくしてくれる!」
パッケージを見せながら「これでやっと解決できるぜ!」と拳を握る俺に、目の前にいる恋人ははぁっと大きな溜息を吐き出した。
「で? これをどうすんだよ」
「もちろん、風呂上がりに毎日塗る!お前の分もあるからな!!」
押し付けるようにボディクリームを手渡すと、一瞬の間を開けて受け取ってくれた。
「……ハンドクリーム?」
「正確にはボディクリームだな!乾燥を改善して、静電気を起きにくくしてくれる!」
パッケージを見せながら「これでやっと解決できるぜ!」と拳を握る俺に、目の前にいる恋人ははぁっと大きな溜息を吐き出した。
「で? これをどうすんだよ」
「もちろん、風呂上がりに毎日塗る!お前の分もあるからな!!」
押し付けるようにボディクリームを手渡すと、一瞬の間を開けて受け取ってくれた。
「あーもう!お前は何でいつもSubDrop起こすギリギリまで対抗しようとするんだよ?!」
「従うのが癪だから」
「だったら、殴ってでも逃げろ!」
大きな溜息を吐き出す音に続いて、真っ直ぐこちらを向いた緋色の瞳――射抜くような視線にコクリと喉を鳴らし、次に告げられる言葉を待った。
「アルト、『Come』」
ああ、これを待っていた!胸の奥から溢れる歓喜を抑え込み、ゆっくりと前に一歩踏み出した。
「あーもう!お前は何でいつもSubDrop起こすギリギリまで対抗しようとするんだよ?!」
「従うのが癪だから」
「だったら、殴ってでも逃げろ!」
大きな溜息を吐き出す音に続いて、真っ直ぐこちらを向いた緋色の瞳――射抜くような視線にコクリと喉を鳴らし、次に告げられる言葉を待った。
「アルト、『Come』」
ああ、これを待っていた!胸の奥から溢れる歓喜を抑え込み、ゆっくりと前に一歩踏み出した。
(なのに……今は――)
自分の頭を撫でる大きな手の動きは、少し乱暴だけれど心地よくて。大人しく受け止めているオレに対し、目の前の男はケセセッと笑い声を零した。
「お前も随分と素直になったなあ、ロード」
「……別に。お前が手をどけないから」
「んー、まあ、それも一理あるか」
納得したような口振りではあるが、オレの真意に――『子ども扱い』だと分かっていても、この心地良さを手放せないことに――きっと気づかれているだろう。
(なのに……今は――)
自分の頭を撫でる大きな手の動きは、少し乱暴だけれど心地よくて。大人しく受け止めているオレに対し、目の前の男はケセセッと笑い声を零した。
「お前も随分と素直になったなあ、ロード」
「……別に。お前が手をどけないから」
「んー、まあ、それも一理あるか」
納得したような口振りではあるが、オレの真意に――『子ども扱い』だと分かっていても、この心地良さを手放せないことに――きっと気づかれているだろう。
『下手に近づくな。薬の材料にされてしまうぞ』
そんな噂が流されていることは、アーサー自身も知っている。けれど、人が来ない方が静かに魔法の研究に没頭できることもあり、敢えてそれらの噂は言いたいやつには言わせておこうというスタイルを貫いている。
「アールトー!言われた薬草、取ってきたぜ〜!」
そんなアーサーの使い魔として生活を共にしているのが、森で衰弱しているところをアーサーに助けられたギルベルトである。
『下手に近づくな。薬の材料にされてしまうぞ』
そんな噂が流されていることは、アーサー自身も知っている。けれど、人が来ない方が静かに魔法の研究に没頭できることもあり、敢えてそれらの噂は言いたいやつには言わせておこうというスタイルを貫いている。
「アールトー!言われた薬草、取ってきたぜ〜!」
そんなアーサーの使い魔として生活を共にしているのが、森で衰弱しているところをアーサーに助けられたギルベルトである。
11/28からBOOTHでギルアサ小説本の通販開始します。おまけの補完SSコピ本とペーパー(アイドルギルアサSS)もつきます。
11/28からBOOTHでギルアサ小説本の通販開始します。おまけの補完SSコピ本とペーパー(アイドルギルアサSS)もつきます。
今観ているこの世界は『物語』なのか『現実』なのか、その境界が曖昧になるほど圧倒される彼の演技に、俺は気づけばのめり込んでいた。
(何となく、入っただけだったのに)
変わり映えしない日常をどうにかできるなら、なんでもよかったのだ。そんな退屈な日々をぶっ壊す何かが欲しかった、ただそれだけ……の、はずだったのに。
(なん、だ?胸がザワつく)
舞台に立つ彼をもっと観たい。心がそう叫んでいて――初めて抱いた感情と持て余した熱をどうすればいいのか分からないまま、目の前の『彼』を見つめていた。
今観ているこの世界は『物語』なのか『現実』なのか、その境界が曖昧になるほど圧倒される彼の演技に、俺は気づけばのめり込んでいた。
(何となく、入っただけだったのに)
変わり映えしない日常をどうにかできるなら、なんでもよかったのだ。そんな退屈な日々をぶっ壊す何かが欲しかった、ただそれだけ……の、はずだったのに。
(なん、だ?胸がザワつく)
舞台に立つ彼をもっと観たい。心がそう叫んでいて――初めて抱いた感情と持て余した熱をどうすればいいのか分からないまま、目の前の『彼』を見つめていた。
「……明日、新月だからな」
確かに、魔法使いであるアーサーは月の満ち欠けに影響を受けやすい。しかし、ギルベルトにその話はしたことはなかったはずだ。なぜ知ってるんだ?と不思議そうに首を傾げるアーサーのまっすぐな視線に、ギルベルトは微かに頬を染めて目を逸らした。
「……お前のこと、もっと知りたいって思って……魔法使いについて調べたから」
ボソリと呟かれたギルベルトの言葉に目を丸くしたアーサーは、嬉しそうにニマリと口角を持ち上げた。
「……明日、新月だからな」
確かに、魔法使いであるアーサーは月の満ち欠けに影響を受けやすい。しかし、ギルベルトにその話はしたことはなかったはずだ。なぜ知ってるんだ?と不思議そうに首を傾げるアーサーのまっすぐな視線に、ギルベルトは微かに頬を染めて目を逸らした。
「……お前のこと、もっと知りたいって思って……魔法使いについて調べたから」
ボソリと呟かれたギルベルトの言葉に目を丸くしたアーサーは、嬉しそうにニマリと口角を持ち上げた。
GSギルアサ(年上×年下)でハロウィンSS!自覚なし先代アンフューラーと自覚ありロードです。急いで書いたのでワンライクオリティなのは許してください。
GSギルアサ(年上×年下)でハロウィンSS!自覚なし先代アンフューラーと自覚ありロードです。急いで書いたのでワンライクオリティなのは許してください。
こちらに向けられた新緑の瞳から溢れた雫が、地面に落ちて消えていく。その輝きに引き付けられるまま、彼の白い頬を両手で包み込んだ。
「信じてくれ。俺は一度手に入れたものを手放したりしない」
親指で目元を拭い、誓うように額に唇を押し当てる。顔中にキスの雨を降らせれば、彼はくすぐったそうに身じろぎをした。
「……やりすぎだ」
真っ赤な顔で睨みつける不機嫌そうな表情も愛らしくて、その細い肩を抱きしめる。
「最強のハッピーエンドを見せてやるぜ!」
声高らかにそう告げる俺に、彼は満更でもない様子で「ばぁか」と呟いた。
こちらに向けられた新緑の瞳から溢れた雫が、地面に落ちて消えていく。その輝きに引き付けられるまま、彼の白い頬を両手で包み込んだ。
「信じてくれ。俺は一度手に入れたものを手放したりしない」
親指で目元を拭い、誓うように額に唇を押し当てる。顔中にキスの雨を降らせれば、彼はくすぐったそうに身じろぎをした。
「……やりすぎだ」
真っ赤な顔で睨みつける不機嫌そうな表情も愛らしくて、その細い肩を抱きしめる。
「最強のハッピーエンドを見せてやるぜ!」
声高らかにそう告げる俺に、彼は満更でもない様子で「ばぁか」と呟いた。