今出川晴嵐
seiranimade.bsky.social
今出川晴嵐
@seiranimade.bsky.social
趣味で140字小説・300字小説を書いています。
彼岸と此岸のあわいをサラサラと。
アイコンは、あままつ様のフリーアイコンから。
#300字小説
#300字歳時記 その9「お遍路」
 お遍路さんが、家の前をゾロゾロと歩き始めると春だなと思う。
 彼らは白い装束に身を包み、杖を突きながら進んで行く。
 近所に霊場はない。母によれば、一番近い霊場でも、ここからはとても遠く、わざわざ家の前を通る理由が分からないそうだ。
 こちらが見ていても素知らぬ風で、黙って歩いている。
 考えてみれば、あのお遍路さんたちは、誰もが一言も発さないのだ。
 言葉どころか、息遣いもまるで聞こえない。
 沈黙の中、歩き続けるお遍路さんたちには、ある種の凄みがある。
 生きてないからねと、前に母は呟いていた。どういう意味なのか、まだ私にはわからない。
March 30, 2024 at 10:20 PM
 お遍路さんが、家の前をゾロゾロと歩き始めると春だなと思う。
 彼らは白い装束に身を包み、杖を突きながら進んで行く。
 近所に霊場はない。母によれば、一番近い霊場でも、ここからはとても遠く、わざわざ家の前を通る理由が分からないそうだ。
 こちらが見ていても素知らぬ風で、黙って歩いている。
 考えてみれば、あのお遍路さんたちは、誰もが一言も発さないのだ。
 言葉どころか、息遣いもまるで聞こえない。
 沈黙の中、歩き続けるお遍路さんたちには、ある種の凄みがある。
 生きてないからねと、前に母は呟いていた。どういう意味なのか、まだ私にはわからない。
March 30, 2024 at 10:19 PM
祖父母の家にあるテレビは、誰も見ていないのについていることがある。そういう時、大抵、誰かの葬式が中継されている。画面は白黒で、とても薄暗い。祖父母は見てはいけないよと私に言うのだが、その割に番組に気付くと、二人とも真剣な顔つきで番組を見ている。
#140字小説 その85
March 30, 2024 at 10:12 PM
テレビから、見知らぬ人が出てくる。男の人で、白装束を着ている。テレビから這い出すと、ベランダへと通じる窓をすり抜けて外へと消える。男の人は決まって、朝の八時に現れる。盛り塩をしたりもしたのだが、効果はない。テレビは新品で買ったので、いわれは特にない。
#140字小説 その84
March 30, 2024 at 10:11 PM
真夜中に起きると、テレビに砂嵐が浮かんでいる。リモコンでテレビを消そうとするが、どうしても消えない。やがて、砂嵐から誰かの顔が浮かんだ。口が動き、女の声で許さないと聞こえ、テレビは消えた。顔にも声にも覚えがなかったのだが、なぜだか胸がざわついた。
#140字小説 その83
March 30, 2024 at 10:11 PM
中古のテレビを買った。晩になると、つけてもいないのに、中から音楽が聞こえる。遊びに来た友人に聞いてもらうと、胡弓じゃないかと言われる。動画サイトで確認すると、確かにそうだ。今もテレビからは胡弓が流れる。その音色は嫌いではないので、そのままにしている。
#140字小説 その82
March 30, 2024 at 10:11 PM
テレビを見ていると、不意に遺影が映る。どうも自分に似た顔だ。少し皺を増やして、白髪にしたらこんな感じになるだろう。遺影は断続的に映る。そのたびに、ギョッとしてしまう。見ないほうがいいのだろうが、どうしてだが画面を見続けて、止めることができないでいる。
#140字小説 その81
March 30, 2024 at 10:11 PM
薬草売りの少年が、道端に立っていた。足元に並ぶのは、見慣れぬ薬草だ。手に取ると、琴のような音がする。少年が口を開けて、何かを言った。だが、それは琴の音色にしか聞こえない。怖くなって立ち去った後、彼がいらっしゃいと言ったのかもと心づいた。
#本格ファンタジー その2
#140字小説
March 30, 2024 at 11:32 AM
リチャード・マシスン「白い絹のドレス」も凄かったですね。哀切さをベースにしつつ、うまく吸血鬼的な恐怖を醸し出しています。こういう物語を読むと、吸血鬼にとっての幸せとか、安息について逆に考えて実践したくなるものです。それくらいいい作品です。
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March 30, 2024 at 8:37 AM
子どもの頃から怖い小説や漫画を読んでいると、ふとした弾みに思いもよらない答え合わせに出くわすことがあります。リチャード・マシスン「血の末裔」は正にそれで、子どもの頃に読んでいた水木しげるの「血太郎奇談」の元ネタに偶然辿り着きました。読書の喜びです。
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March 30, 2024 at 8:37 AM
『新編怪奇幻想の文学2 吸血鬼』、後半になって急に面白くなって来ました。吸血鬼のどこに面白さを感じるのか、そのツボを確かめる試験薬のような配列になっているような気がします。残り2作ですが、できるだけ早く読んでしまいたいです。
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March 30, 2024 at 7:59 AM
フリッツ・ライバー「飢えた目の女」を読みました。コマーシャリズムを背景としたカメラマンとモデルにまつわる奇譚です。軽妙な語り口に乗せて、読み手が持つ吸血鬼のイメージをグラグラさせてくれる作品です。今まで読んできた中で一番お洒落な吸血鬼譚かもしれません。
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March 30, 2024 at 7:58 AM
シーベリー・クイン「クレア・ド・ルナー月影」を読みました。吸血鬼もので、これだけ上品な読み口の作品は久しぶりです。井上雅彦に通じるような優雅な語り口、写真に関わる解釈や推理小説やサスペンス的な面白さが見事に融合した作品でした。楽しい時間を過ごせました。
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March 30, 2024 at 7:24 AM
薬草を採りに行く。月光を浴びて、蒼く輝く月雫草が目当てだ。月雫草に蓄えられた月光はとても甘い。だから、子ども達に薬草を飲ませる時は、一緒に入れて飲みやすくする。本物の月も、これほどに甘いのだろうか。月雫草を手折りながら、空にかかる満月を見上げた。
#本格ファンタジー その1
#140字小説
March 30, 2024 at 5:07 AM
#300字小説
300字歳時記 その8「ライラック」
 ライラックの花が胸から咲きはじめた。
 原因は、分からない。紫色の鮮やかな花が、私の胸も服も突き抜けて、咲き誇っている。
 ライラックの花言葉を調べてみた。友情、純潔、青春の思い出などがあるらしい。
 青春の思い出と聞いて、記憶の底から浮かび上がってきた風景がある。
 北海道旅行で、好きだった男子と旅に出た。結局、その旅行が原因で私たちは喧嘩別れをしたのだけれど、旅の途中で見たライラックの花が、とても綺麗だったのだ。
 君はあの時のライラックなのかいと尋ねても、答えはない。
 かわりに、風にライラックの花が揺られて、私の胸が少し痛んだ。
March 29, 2024 at 11:30 PM
 ライラックの花が胸から咲きはじめた。
 原因は、分からない。紫色の鮮やかな花が、私の胸も服も突き抜けて、咲き誇っている。
 ライラックの花言葉を調べてみた。友情、純潔、青春の思い出などがあるらしい。
 青春の思い出と聞いて、記憶の底から浮かび上がってきた風景がある。
 北海道旅行で、好きだった男子と旅に出た。結局、その旅行が原因で私たちは喧嘩別れをしたのだけれど、旅の途中で見たライラックの花が、とても綺麗だったのだ。
 君はあの時のライラックなのかいと尋ねても、答えはない。
 かわりに、風にライラックの花が揺られて、私の胸が少し痛んだ。
March 29, 2024 at 11:29 PM
鏡を見ると、背後に必ず墓地が見える。墓石の前では、白装束の男女が立っていて、ジィッと私のことを見ている。幼いころから同じ風景が見えているので、特に怖いとは思わない。ただ、同じ風景が他の人にも見えるようで、歴代彼氏は怖がって、皆、私と別れてしまった。
#140字小説 その80
March 29, 2024 at 11:11 PM
泊まったホテルの一室には、鏡台が置かれていた。そこに、男が一人座っている。血塗れかつ半透明なので生きている人間ではないと気付いた。慌ててフロントに行って、部屋の交換を願い出た。すると、従業員は首を横に振って、どこの部屋にも同じ人が出ますよと言った。
#140字小説 その79
March 29, 2024 at 11:11 PM
郵便受けに見知らぬ手鏡が入っていた。持ち手の部分が赤黒く汚れていて、微かに鉄の錆びたような臭いがする。気味が悪いので、そのまま捨ててしまった。以来、月に一度、同じ手鏡が郵便受けに届く。割って捨てても次の月には戻ってくる。どうしたらいいか、分からない。
#140字小説 その78
March 29, 2024 at 11:10 PM
合わせ鏡の七枚目に座っている女の人に恋をした。彼女はいつも本を読んでいる。時々顔を上げて、私と目が合うと手招きする。その清楚な雰囲気に好感が持てた。今は、なんとかして合わせ鏡の中に入る方法を考えている。突き指を続ければいつか入れたりするのだろうか。
#140字小説 その77
March 29, 2024 at 11:10 PM
鏡の前に立つと、後ろに誰かが現れる。髪が長いので女の人だと思うのだが、顔は私の身体に隠れて分からない。いつも身体を上下に揺らして立っている。けれど、後ろを向くと消える。家でも外でも現れるので諦めているが、家の中だけは、極力鏡を置かないようにしている。
#140字小説 その76
March 29, 2024 at 11:10 PM
魔術博物館に展示されている魔導書は、どれも飾り文字で記されていた。飾り文字たちは、紙面の上を自由自在に動き回り、展示ケースの中を海で満たしたり、花火を打ち上げたりしている。これだけ活発に動く飾り文字を相手にするのなら、魔法使いも随分大変だなと思った。
#140字小説 その75
March 29, 2024 at 10:19 PM
朝になると、左の手首にみみずばれができている。それは、綺麗な文字のような形をしている。大学の同僚に話をすると、飾り文字だと教えてくれた。今日も微かな痛みと共に、私は目覚める。左手首には飾り文字。同僚が教えてくれた。それは「死」と記されているのだと。
#140字小説 その74
March 29, 2024 at 10:19 PM
廃墟となった病院の壁一面に、飾り文字が描かれている。文字は赤黒く、血で描かれたのだろうことが想像できる。一緒に肝試しに来た友達が、飾り文字の写真を撮った。途端に、ガチャンと扉の閉まる音がした。壁が歪み、飾り文字たちが一斉に、私たちへ襲い掛かってきた。
#140字小説 その73
March 29, 2024 at 10:18 PM
実家に代々受け継がれている箒の柄には、飾り文字が刻まれている。江戸時代、大工だった先祖が戯れに彫った文字が、箒に空飛ぶ力を与えた。以来、私たちの家は代々、この箒を大切に守っている。満月の夜には箒で空を飛ぶ。使わなければ、朽ちてしまうだけだから。
#140字小説 その72
March 29, 2024 at 10:18 PM