(山姥切長義は写しのことを、名を奪ったと憎んでいる。そう聞いていたが)
おれがほんまるをあんないする、と言って聞かない長義は、とても国広を憎んでいるようには見えない。
(これも、バグのせいなのだろうか)
(山姥切長義は写しのことを、名を奪ったと憎んでいる。そう聞いていたが)
おれがほんまるをあんないする、と言って聞かない長義は、とても国広を憎んでいるようには見えない。
(これも、バグのせいなのだろうか)
「……」
ばちっと長義と視線があった。まん丸の青い瞳は数回瞬きをして「にせものくん」と国広を呼ぶ。清光に背中を押されて国広は長義に近付く。
「なんだ?」
「てをだして」
「え」
「いいからてをだして!」
言われた通り手を出すと塩まんじゅうを握らされた。
「もてあたしたくて仕方ないんだよ」
「もてあた…」
じっと見つめられ、国広は小さく息を吐いて塩まんじゅうを頬張った。
「…美味い」
「もてるものこそあたえなくては」
「……」
ばちっと長義と視線があった。まん丸の青い瞳は数回瞬きをして「にせものくん」と国広を呼ぶ。清光に背中を押されて国広は長義に近付く。
「なんだ?」
「てをだして」
「え」
「いいからてをだして!」
言われた通り手を出すと塩まんじゅうを握らされた。
「もてあたしたくて仕方ないんだよ」
「もてあた…」
じっと見つめられ、国広は小さく息を吐いて塩まんじゅうを頬張った。
「…美味い」
「もてるものこそあたえなくては」
国広に声をかけたのは初期刀である加州清光だった。すっかり機嫌を損ねた長義は審神者からお八つを貰い少し機嫌を取り戻している。
「精神年齢にひっぱられているみたいでね」
「…顕現時のバグなのか?」
「聚楽第の特命調査をなんとか優判定で終えて、政府から派遣された刀剣男士だったんだけれど…なぜか本丸に来たら小さくなってた」
「……」
「本歌が子供だと変な感じ?」
「いや…そもそも、本歌は俺のことをよく思っていないだろうから」
「長義はね、写しが来るのを毎日毎日楽しみにしていたんだよ」
「……にわかには信じられないな」
国広に声をかけたのは初期刀である加州清光だった。すっかり機嫌を損ねた長義は審神者からお八つを貰い少し機嫌を取り戻している。
「精神年齢にひっぱられているみたいでね」
「…顕現時のバグなのか?」
「聚楽第の特命調査をなんとか優判定で終えて、政府から派遣された刀剣男士だったんだけれど…なぜか本丸に来たら小さくなってた」
「……」
「本歌が子供だと変な感じ?」
「いや…そもそも、本歌は俺のことをよく思っていないだろうから」
「長義はね、写しが来るのを毎日毎日楽しみにしていたんだよ」
「……にわかには信じられないな」
手入れ後部屋に戻った長義は布団を敷いて寝る準備を整えた。体の奥が疼いてたまらない。
(なんだって俺がこんな……)
考えないようにしようとすればするほど、国広のことが頭から離れない。
(くそっ……)
自然と指先は昂りを慰めていた。情けない。ばかばかしい。頭では分かっているはずなのに。
「早く帰ってこいよ…国広……」
次の瞬間、廊下の床がギシッと鳴った。身体が強張る。
「……誰だ?」
「…」
襖一枚隔てた先に誰かがいる。長義は恐る恐る唇を動かした。
「…偽物、くん?」
手入れ後部屋に戻った長義は布団を敷いて寝る準備を整えた。体の奥が疼いてたまらない。
(なんだって俺がこんな……)
考えないようにしようとすればするほど、国広のことが頭から離れない。
(くそっ……)
自然と指先は昂りを慰めていた。情けない。ばかばかしい。頭では分かっているはずなのに。
「早く帰ってこいよ…国広……」
次の瞬間、廊下の床がギシッと鳴った。身体が強張る。
「……誰だ?」
「…」
襖一枚隔てた先に誰かがいる。長義は恐る恐る唇を動かした。
「…偽物、くん?」
おにぎりを差し出す国広を見て、長義はまた胸が痛んだ。
「好きな人がいるなら、その人のところに行けばいいのに」
思ってもないことを口走ってしまう長義。その言葉を聞き、国広は布を深く被り「今、来ているんだが…」ともごもご小さな声で話す。それが偶然耳に入ってしまい、今度は顔が熱くなり鼓動が早まり息が詰まるような不具合を感じてしまい、次の日再び祖に相談する長義。
一方国広は「本歌に告白…してしまった…!」と布を目深に被って兄弟に報告して無自覚に外堀を埋めていた。
おにぎりを差し出す国広を見て、長義はまた胸が痛んだ。
「好きな人がいるなら、その人のところに行けばいいのに」
思ってもないことを口走ってしまう長義。その言葉を聞き、国広は布を深く被り「今、来ているんだが…」ともごもご小さな声で話す。それが偶然耳に入ってしまい、今度は顔が熱くなり鼓動が早まり息が詰まるような不具合を感じてしまい、次の日再び祖に相談する長義。
一方国広は「本歌に告白…してしまった…!」と布を目深に被って兄弟に報告して無自覚に外堀を埋めていた。
泣き疲れて崩れ落ちて、やっと手にした結末…
残酷なその瞳で、許さないで…振りほどいて…
泣き疲れて崩れ落ちて、やっと手にした結末…
残酷なその瞳で、許さないで…振りほどいて…
「……間抜けな寝顔だね、偽物くんは」
聞き覚えのある声、とても懐かしい、もう二度と聞けないと思っていた声が聞こえる。ぱっと目を開けるも夜目が効かずぼんやりと誰かの輪郭が浮かぶだけだった。はくはくと口を開けて何か言葉を出そうとするがうまくいかない。そんな情けない姿を見て「聚楽第から連れ帰ったもう一振り」である彼はくすくすと笑った。
「……間抜けな寝顔だね、偽物くんは」
聞き覚えのある声、とても懐かしい、もう二度と聞けないと思っていた声が聞こえる。ぱっと目を開けるも夜目が効かずぼんやりと誰かの輪郭が浮かぶだけだった。はくはくと口を開けて何か言葉を出そうとするがうまくいかない。そんな情けない姿を見て「聚楽第から連れ帰ったもう一振り」である彼はくすくすと笑った。
(あと一振りは誰なんだ…?)
自分は確かに折れた本歌を小田原にいた彼に返還したはずだ。聚楽第に残っていたのは自分だけだったはず。あれこれ考えながら答えも出せず、何日も経ち、ようやく起き上がれるほど回復した。本丸の皆が代わる代わる見舞いにきてくれたが、「聚楽第から連れ帰ったもう一振り」のことは聞けずじまいだった。
(あと一振りは誰なんだ…?)
自分は確かに折れた本歌を小田原にいた彼に返還したはずだ。聚楽第に残っていたのは自分だけだったはず。あれこれ考えながら答えも出せず、何日も経ち、ようやく起き上がれるほど回復した。本丸の皆が代わる代わる見舞いにきてくれたが、「聚楽第から連れ帰ったもう一振り」のことは聞けずじまいだった。
どうやら監査官がいなくなってしまい封鎖されなかった聚楽第に何度も通い折れた山姥切国広をさがしていたとのこと。しかし実際は折れる寸前だったようで、なんとか本丸に連れ戻しリソースの9割を注いで1週間経ち、なんとか目を覚ましたとのことだった。
「少なくともあと1週間は安静にしてください」
審神者の言葉に大人しく従うことにした。
(…本当に帰ってこれたんだな)
自嘲する国広に審神者は一言告げる。
「大変だったんですよ、聚楽第から二振りを連れて帰るのは」
どうやら監査官がいなくなってしまい封鎖されなかった聚楽第に何度も通い折れた山姥切国広をさがしていたとのこと。しかし実際は折れる寸前だったようで、なんとか本丸に連れ戻しリソースの9割を注いで1週間経ち、なんとか目を覚ましたとのことだった。
「少なくともあと1週間は安静にしてください」
審神者の言葉に大人しく従うことにした。
(…本当に帰ってこれたんだな)
自嘲する国広に審神者は一言告げる。
「大変だったんですよ、聚楽第から二振りを連れて帰るのは」
「いつまでもお前は……困った写しだ」
初めてまともに会話ができた。ああ、そんな簡単なことがあの時にできていれば。たったそれだけで良かったんだ。誰にも聞こえない独白を胸に、精一杯の笑顔を浮かべて国広はようやく、目的を達成して、そして消えた。
「仕方のない写しだ……ゆっくりお休み、国広」
膝の上に乗せた刀を優しく撫でて、本歌山姥切――長義は優しく微笑んだ。
「いつまでもお前は……困った写しだ」
初めてまともに会話ができた。ああ、そんな簡単なことがあの時にできていれば。たったそれだけで良かったんだ。誰にも聞こえない独白を胸に、精一杯の笑顔を浮かべて国広はようやく、目的を達成して、そして消えた。
「仕方のない写しだ……ゆっくりお休み、国広」
膝の上に乗せた刀を優しく撫でて、本歌山姥切――長義は優しく微笑んだ。
それは紛れもなく本歌山姥切であるはずなのに、存在がぼんやりとしていて安定していない。
(もしかして、俺がこれを持っているからなのか)
ずっと手にしていた刀の重みを感じて「俺がここに来た理由は、あんたにこれを還すためだったのか」と理解した国広は、膝をつき本歌に自分の持っている刀――本歌山姥切を還す。
「謝って許されることではないことは分かっている。今のあんたにこんなことを言っても困らせることはわかっている。だが、俺は――あんたに、」
そこで気付いた。刀を渡した瞬間から、自分の存在が消えていくことに。あの時、監査官と共に自分も折れていたのだ。
それは紛れもなく本歌山姥切であるはずなのに、存在がぼんやりとしていて安定していない。
(もしかして、俺がこれを持っているからなのか)
ずっと手にしていた刀の重みを感じて「俺がここに来た理由は、あんたにこれを還すためだったのか」と理解した国広は、膝をつき本歌に自分の持っている刀――本歌山姥切を還す。
「謝って許されることではないことは分かっている。今のあんたにこんなことを言っても困らせることはわかっている。だが、俺は――あんたに、」
そこで気付いた。刀を渡した瞬間から、自分の存在が消えていくことに。あの時、監査官と共に自分も折れていたのだ。
そのままただ呆然と歩いて歩いて、歩き続けて、気が付けばどれだけの時間が経ったのだろうか。目の前に広がっている光景は聚楽第とは全く別のもので、遠い記憶にある場所だった。
(ここは……俺が……打たれたときに……いた……)
ある屋敷に立ち寄ると、見覚えのある人影があった。人間ではないことはすぐにわかった。ああ、あれは本歌だ。かつての、自分が生まれた時に出会った本歌そのものだ。しかし、そこにいた長義は鋭い眼差しを国広に向けた。
そのままただ呆然と歩いて歩いて、歩き続けて、気が付けばどれだけの時間が経ったのだろうか。目の前に広がっている光景は聚楽第とは全く別のもので、遠い記憶にある場所だった。
(ここは……俺が……打たれたときに……いた……)
ある屋敷に立ち寄ると、見覚えのある人影があった。人間ではないことはすぐにわかった。ああ、あれは本歌だ。かつての、自分が生まれた時に出会った本歌そのものだ。しかし、そこにいた長義は鋭い眼差しを国広に向けた。
「さて、どいつから殺そうか」
まさかの殺意6秒増しになってしまった。
「ダメだったか……」
帰還後。
「山姥切長義……それ、あれですよね?ケチャップですよね?犯人たちの返り血じゃないですよね?」
血塗れで帰還した長義を見て審神者は戦慄していた。斬りはしなかったが思いっきり殴ったり蹴ったりしたので普通に返り血浴びてる長義は何も言わないし「大丈夫だ、山姥切は無傷だから」と国広はよくわからないフォローをするのだった。
「さて、どいつから殺そうか」
まさかの殺意6秒増しになってしまった。
「ダメだったか……」
帰還後。
「山姥切長義……それ、あれですよね?ケチャップですよね?犯人たちの返り血じゃないですよね?」
血塗れで帰還した長義を見て審神者は戦慄していた。斬りはしなかったが思いっきり殴ったり蹴ったりしたので普通に返り血浴びてる長義は何も言わないし「大丈夫だ、山姥切は無傷だから」と国広はよくわからないフォローをするのだった。