とりあえず今は異世界の沙汰は社畜次第に狂っています。
そう返せばバツが悪そうに視線を伏せる。どうやらがっつきすぎた自覚はあったらしい。体力や若さが違うのだと認識して欲しい。
そうでなければ、つい年下の恋人を誠一郎も甘やかしてしまうのだから。
こうやって責めなじるようなことを口にしていても、コーヒーが美味しい。それだけでもう良いかと思えてしまう程度には甘い。
「それで、今日はどうしますか?」
せっかく二人の休みが重なったのだ。
指先を絡めて手を握れば、アレシュの瞳に欲が滲む。
この後はまたきっとベッドへ逆戻りだ。そう理解したけれど、それでも構わないとも思えてしまった。
そう返せばバツが悪そうに視線を伏せる。どうやらがっつきすぎた自覚はあったらしい。体力や若さが違うのだと認識して欲しい。
そうでなければ、つい年下の恋人を誠一郎も甘やかしてしまうのだから。
こうやって責めなじるようなことを口にしていても、コーヒーが美味しい。それだけでもう良いかと思えてしまう程度には甘い。
「それで、今日はどうしますか?」
せっかく二人の休みが重なったのだ。
指先を絡めて手を握れば、アレシュの瞳に欲が滲む。
この後はまたきっとベッドへ逆戻りだ。そう理解したけれど、それでも構わないとも思えてしまった。
誠一郎の好みに寄せるためにアレシュが少しずつロマーニ風のカレーから手を加えて作ってくれたというのも。
「ありがとうございます」
愛情は最大の調味料だなんて体感するとは思ってもいなかった。
愛しさを込めて唇を啄めば、アレシュもそんな誠一郎を見て幸せそうに笑った。
誠一郎の好みに寄せるためにアレシュが少しずつロマーニ風のカレーから手を加えて作ってくれたというのも。
「ありがとうございます」
愛情は最大の調味料だなんて体感するとは思ってもいなかった。
愛しさを込めて唇を啄めば、アレシュもそんな誠一郎を見て幸せそうに笑った。
けれどこれは明らかにカレーの香りだ。
「帰ったか」
「ただいま戻りました。⋯アレシュさん」
「ああ、お前が食べたくなる周期じゃないかと思って作った」
どうしてカレーを用意できたのかと問いかけたかったのを名を呼んだだけで察したらしい。そしてカレーを食べたくなる周期まで把握されているという事実に誠一郎は呆れるほど感心してしまう。
この男はどこまで誠一郎のことを理解しているというのか。食べたくなるなんて先刻まで誠一郎ですら思っていなかったのに。
けれどこれは明らかにカレーの香りだ。
「帰ったか」
「ただいま戻りました。⋯アレシュさん」
「ああ、お前が食べたくなる周期じゃないかと思って作った」
どうしてカレーを用意できたのかと問いかけたかったのを名を呼んだだけで察したらしい。そしてカレーを食べたくなる周期まで把握されているという事実に誠一郎は呆れるほど感心してしまう。
この男はどこまで誠一郎のことを理解しているというのか。食べたくなるなんて先刻まで誠一郎ですら思っていなかったのに。
夢中になってしがみついてしまう時につい爪を立ててしまう。愛しい者との行為だ。どうしても溺れてしまわないことはできない。
気づけば肩や背中、腰に赤い痕を残してしまっていて痛々しいのだ。短ければ、アレシュの肌の傷をつけることもない。
わざとだろうなとは思っていても、アレシュが誠一郎を傷つけないように短く整えるようにしたいと訴えれば、アレシュは憮然としたような応えた。
「お前の願いでも、それは叶えられない」
恋人が夢中になっている証が愛しくない男などどこにいるか、と。
夢中になってしがみついてしまう時につい爪を立ててしまう。愛しい者との行為だ。どうしても溺れてしまわないことはできない。
気づけば肩や背中、腰に赤い痕を残してしまっていて痛々しいのだ。短ければ、アレシュの肌の傷をつけることもない。
わざとだろうなとは思っていても、アレシュが誠一郎を傷つけないように短く整えるようにしたいと訴えれば、アレシュは憮然としたような応えた。
「お前の願いでも、それは叶えられない」
恋人が夢中になっている証が愛しくない男などどこにいるか、と。
頻度は高いけれど、マメにする方が時間はかからないことのなるからかと思っていたけれど、明らかにアレシュと誠一郎の爪の長さが異なる。アレシュは白い箇所がわずかにしかないのに、誠一郎は指の輪郭から少しだけ出るほど長い。
もう少し短い方が良い。
頻度は高いけれど、マメにする方が時間はかからないことのなるからかと思っていたけれど、明らかにアレシュと誠一郎の爪の長さが異なる。アレシュは白い箇所がわずかにしかないのに、誠一郎は指の輪郭から少しだけ出るほど長い。
もう少し短い方が良い。
「そうすると仕事が増えるッスよ〜!」
実際にやられているのか震え上がる様を眺めながら、オルジフはそれでも自覚させてやれば良いと声をあげて笑った。
「そうすると仕事が増えるッスよ〜!」
実際にやられているのか震え上がる様を眺めながら、オルジフはそれでも自覚させてやれば良いと声をあげて笑った。
コンドゥだよといえば、ノルベルトはきょとんとした表情を浮かべる。
「仕事しか頭にないやつじゃないっていうのはわかっちゃいたけどよ、あんな柔らかい表情もするんだな」
「あ〜⋯、セイさんは私生活と分けてるつもりらしいッスけどね」
声音は呆れが混ざっているくせにその顔は嬉しそうだ。人懐っこい、けれど弁えることをきちんと理解しているはずの王の庶子が、どこかその壁を取り払ってまで接しているのがコンドゥだ。
だからあんなふうに気を許せる相手ができたことが嬉しいのだろう。
やっぱりこいつはお人よしかもしれない。そしてそういう奴は何故かオトモダチ止まりなことが多いのだ。悔しいことに。
コンドゥだよといえば、ノルベルトはきょとんとした表情を浮かべる。
「仕事しか頭にないやつじゃないっていうのはわかっちゃいたけどよ、あんな柔らかい表情もするんだな」
「あ〜⋯、セイさんは私生活と分けてるつもりらしいッスけどね」
声音は呆れが混ざっているくせにその顔は嬉しそうだ。人懐っこい、けれど弁えることをきちんと理解しているはずの王の庶子が、どこかその壁を取り払ってまで接しているのがコンドゥだ。
だからあんなふうに気を許せる相手ができたことが嬉しいのだろう。
やっぱりこいつはお人よしかもしれない。そしてそういう奴は何故かオトモダチ止まりなことが多いのだ。悔しいことに。
「おい!」
一歩遅かったようだ。経理課から飛び出して行ったノルベルトの背を見送りながら、仕事を山積みにしてやろうと誠一郎は心に決めた。
「おい!」
一歩遅かったようだ。経理課から飛び出して行ったノルベルトの背を見送りながら、仕事を山積みにしてやろうと誠一郎は心に決めた。
「同僚だからだろ」
そういうところがセイさんッスよねと訳のわからない怒り方をするノルベルトを適当に聞き流す。そういえばロマーニでは親くらいしか祝わないのだったと思い出す。特に祝って欲しいわけでもなかったから口にしていなかったようだ。
ともかく喧嘩ではないと伝わったはずだし、今回は巻き込んでもないのに首を突っ込もうとしたわけだから構わないだろう。真面目に仕事しろと叱ろうとしたところで、ノルベルトは何か勝手に理解した様子で頷く。
「同僚だからだろ」
そういうところがセイさんッスよねと訳のわからない怒り方をするノルベルトを適当に聞き流す。そういえばロマーニでは親くらいしか祝わないのだったと思い出す。特に祝って欲しいわけでもなかったから口にしていなかったようだ。
ともかく喧嘩ではないと伝わったはずだし、今回は巻き込んでもないのに首を突っ込もうとしたわけだから構わないだろう。真面目に仕事しろと叱ろうとしたところで、ノルベルトは何か勝手に理解した様子で頷く。
寂しがらせてストレスがたまらないようにしなければと、擦り寄るアレシュの髪を掬い上げて耳にかける。
この甘さは身体に良いと呻く声がどこからか聞こえたような気がしたけれど、関係ないだろうと聞き流した。
寂しがらせてストレスがたまらないようにしなければと、擦り寄るアレシュの髪を掬い上げて耳にかける。
この甘さは身体に良いと呻く声がどこからか聞こえたような気がしたけれど、関係ないだろうと聞き流した。
零したアレシュを睨めば、慌てたように違うと言ってくる。
「茶化しているわけではない。反省したんだ」
普段はアレシュが誠一郎の身体ばかり気遣うけれど、自身のことを疎かにしている自覚もあるらしい。
「アレシュさんに自分の身体も大事にして欲しいと言ったでしょう?」
今はまだ若さで補えるかもしれないけれど、健康に悪そうなことは避けて欲しい。そこで自身の仕事っぷりを持ち出されれば何も言えなくなってしまうけれど、誠一郎の想いが通じているのかアレシュはすまなかったと、アレシュの手に重ねていた手を取ると擦り寄る。
反省しているなら良い。
零したアレシュを睨めば、慌てたように違うと言ってくる。
「茶化しているわけではない。反省したんだ」
普段はアレシュが誠一郎の身体ばかり気遣うけれど、自身のことを疎かにしている自覚もあるらしい。
「アレシュさんに自分の身体も大事にして欲しいと言ったでしょう?」
今はまだ若さで補えるかもしれないけれど、健康に悪そうなことは避けて欲しい。そこで自身の仕事っぷりを持ち出されれば何も言えなくなってしまうけれど、誠一郎の想いが通じているのかアレシュはすまなかったと、アレシュの手に重ねていた手を取ると擦り寄る。
反省しているなら良い。
男なのだからそれなりに、という感覚だったのに今では欲しくてたまらないこともある。
食事も同じだ。
それなりにしか興味はなかったのに、アレシュが好き嫌いを暴き立てて、そして満たそうとするから、以前よりも多く、関心を寄せるようになった。
満たされる感覚を知ってしまったせいだ。
「たくさん食べろ」
今日は体力を使うからなと、夜を唆す言葉に、誠一郎は欲を沈めるために深く息を吐いたけれど、そう大した効果はなかった。
男なのだからそれなりに、という感覚だったのに今では欲しくてたまらないこともある。
食事も同じだ。
それなりにしか興味はなかったのに、アレシュが好き嫌いを暴き立てて、そして満たそうとするから、以前よりも多く、関心を寄せるようになった。
満たされる感覚を知ってしまったせいだ。
「たくさん食べろ」
今日は体力を使うからなと、夜を唆す言葉に、誠一郎は欲を沈めるために深く息を吐いたけれど、そう大した効果はなかった。
「お前が、好んでいたものならば俺が飲むから良い」
だから飲んでいる間、学生の頃の話をしろと促される。どれだけ伝えても、言葉だけでは理解できない部分も多いだろうけれど、それでも知ろうとしてくれる。誠一郎のことだから。
それが、口に含んだ紅茶よりも甘い。
目的地に着くまでだとぽつりぽつり零す言葉が、想いごとアレシュに伝われば良いのにと思った。
「お前が、好んでいたものならば俺が飲むから良い」
だから飲んでいる間、学生の頃の話をしろと促される。どれだけ伝えても、言葉だけでは理解できない部分も多いだろうけれど、それでも知ろうとしてくれる。誠一郎のことだから。
それが、口に含んだ紅茶よりも甘い。
目的地に着くまでだとぽつりぽつり零す言葉が、想いごとアレシュに伝われば良いのにと思った。
「⋯⋯色のついた砂糖水か?」
「邸で飲めるような紅茶を想像しちゃダメですよ」
学生が手軽に買えるということは質の良いものではない。それでも、友人たちとはしゃぎながら飲むのは美味しく感じるのだ。
不満そうにしながらも残すという考えはないようで、眉間に皺を寄せながらも飲むアレシュが微笑ましい。ちょっとだけ手伝おうとストローに手を伸ばせばすぐに譲られる。
「⋯⋯甘い」
けれど懐かしい。
「⋯⋯色のついた砂糖水か?」
「邸で飲めるような紅茶を想像しちゃダメですよ」
学生が手軽に買えるということは質の良いものではない。それでも、友人たちとはしゃぎながら飲むのは美味しく感じるのだ。
不満そうにしながらも残すという考えはないようで、眉間に皺を寄せながらも飲むアレシュが微笑ましい。ちょっとだけ手伝おうとストローに手を伸ばせばすぐに譲られる。
「⋯⋯甘い」
けれど懐かしい。
手のひらから、風が花びらをさらっていく。
大人になりたいと、あの時背伸びをさせてしまったアレシュはこの光景をどう眺めているのだろう。
あの時、誠一郎はアレシュの卒業をどんな気持ちで迎えたか、言葉だけでは伝えきれない。
こうやって、この時期を迎えるたびにきっとあの感情を思い出す。
舞い上がる花びらが視界を遮って舞い上がった。
無理に早く大人になろうとなんてしなくてもいい。
どうかいつか立ち止まってしまった時に、護られるべき存在であった時の記憶が灯火になってくれたらいいのにと願いながら、持っていた花弁を全て風へとのせた。
手のひらから、風が花びらをさらっていく。
大人になりたいと、あの時背伸びをさせてしまったアレシュはこの光景をどう眺めているのだろう。
あの時、誠一郎はアレシュの卒業をどんな気持ちで迎えたか、言葉だけでは伝えきれない。
こうやって、この時期を迎えるたびにきっとあの感情を思い出す。
舞い上がる花びらが視界を遮って舞い上がった。
無理に早く大人になろうとなんてしなくてもいい。
どうかいつか立ち止まってしまった時に、護られるべき存在であった時の記憶が灯火になってくれたらいいのにと願いながら、持っていた花弁を全て風へとのせた。