らん🦋SS置き場
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Twitterくんがダメかもしれないと聞いてSS置き場を設置してみました。
とりあえず今は異世界の沙汰は社畜次第に狂っています。
薄暗い部屋の中香る匂いに誠一郎は意識を浮上させた。
「⋯起きたか?」
身じろいだのに気づいたのかそう問われて誠一郎は小さくうなづくと上半身を起こしてベッドサイドに腰掛ける。どうにか立ち上がることはできそうだと確認して、スリッパを引っ掛けてキッチンへ向かえばやはりコーヒーが用意されていた。
顔を洗ってリビングに戻るとそれにフルーツやバターがとろりと溶けたパンまで揃っている。
「昨日はコーヒーはダメだって言ってたのに、いいんですか?」
白い無骨なマグカップからゆらりと湯気を揺蕩えさせながら差し出されたそれに問いかければ、「夜にコーヒーは睡眠に差し障る」と返された。
June 1, 2025 at 10:31 AM
ーーお前さ、本当のところどうなわけ?
ーー⋯。
ーー誤魔化しても白々しいだけだからな?
ーーまぁそうですね。
ーーで?アレシュのことどう思ってるんだ?
ーー誤魔化さずに言うのなら貴方に答えることではないですね。
ーーだよな。
ーー⋯⋯なんです、ニヤニヤして。
ーーいや、真摯に向き合ってるんだなって思っただけだ。
ーーそれこそ余計なお世話です。
ーーなんだ、オルジフその顔は。
ーーいんやぁ。
ーーヴァルトムさんはもう帰られたんですか?
ーーああ、書類を持ってきただけだ。
May 21, 2025 at 4:56 AM
カレーが食べたい。
ふと浮かんでしまえば、何かを口に入れるまでカレーの口になってしまうことがある。たくさん作った方が美味しい料理だから、日本にいた時は店で食べることが多かった。
とろみのある日本らしいカレーも嫌いではないけれど、スパイスの利いた汁気の多いものの方が個人的に好みだ。少し汗ばむようなものなら尚更いい。新陳代謝が良くなったように錯覚するのだといえば、運動しろと呆れられた。
口はすっかりカレーだけれど、ロマーニにはないのだと残念に思ったのは昔の話だ。帰宅すれば出迎えてくれたのは家令たちだけではない。
スパイスの利いた香りに誠一郎は感心する。
March 29, 2025 at 10:07 AM
やすりをかけられた爪を眺めて誠一郎はやはりわざとだと確信する。
「アレシュさん、俺の爪、もう少し短くしてください」
「どうしてだ?」
どうして、ではない。
爪切りなどないから伸びた爪はやすりで削るのがこの世界では普通だ。けれど誠一郎は爪切り以外を使ったことがなかったのと、切ると削るでは時間があまりに違い過ぎたため面倒で伸ばしがちになっていたせいでうっかり爪を折ってしまいそれがアレシュにバレた。
March 23, 2025 at 7:03 AM
アレシュと、コンドゥか。
ふと目をやった中庭で二人の姿を見かけてオルジフは視線を止めた。
昼食前にオルジフに仕事を言い渡した張本人が中庭で恋人といることに乾いた笑いが漏れる。特段急ぎを言い渡されたわけではないけれど余裕があるわけでもない微妙な書類仕事。昼休みを返上するまでではなかったから、そうする選択をしたのはオルジフだ。そうだとしても恋人のいない身だから少し恨めしく思ってしまう。
「何見てるッスか?」
書類の提出先である経理課のノルベルトがオルジフの視線を追って納得したように頷いた。
「あんな顔するんだなと思って」
「確かに、インドラーク騎士団長があんなふうに笑うなんて」
March 16, 2025 at 12:24 AM
「まーたインドラーク騎士団長と喧嘩したッスか?」
呆れを隠さずに問いかける声の主を睨みつけるけれど動じた様子もない。誠一郎とアレシュの喧嘩にたびたび巻き込まれるせいですっかり慣れてしまったらしい。犬もくわないという言葉があるんだと教えれば、むしろ持ち込まれて口に突っ込まれているだなんて返されれば流石に悪い気はする。
けれど今回は本当に喧嘩ではない。
「誕生日に、アレシュさんがプレゼントをいっぱい贈ってこようとするから諌めただけだ」
誠一郎のいた国では誕生日を友達や恋人といった近しい人と祝うのだと知ったせいか、毎年この時期になるとやたらめったら贈り物をしてこようとする。
March 12, 2025 at 11:47 AM
「アレシュさん、入れすぎじゃないですか?」
そっと手を止めれば、アレシュは自覚があったのか少し気まずそうな表情を浮かべた。
目の前にはシュガーポット。焦茶色をした塊を3回、手元のコーヒーカップに運んだところで流石に誠一郎は待ったをかけた。
アレシュが甘いものを好むのは知っている。だからどれくらい好きなのかという好奇心もあったのだけれど、甘いルコットのケーキに砂糖3つ入れたコーヒーはない。
誠一郎が忙しくてあまり構えなかったから、それもあって少し暴食気味だったのだろうと思うと申し訳ない気もするけれど、だからこそアレシュの健康が気になる。
March 10, 2025 at 10:37 PM
ふとした瞬間、いけないものを見たような気持ちになることがある。それが色事と関係のないタイミングであればあるほど居た堪れなさは増す。
食事中、肉の油でツヤを帯びた唇を見た瞬間に背中が震えたのをどうにか誤魔化そうとしたというのに、誠一郎に常に意識を向けているアレシュは気づいてしまったらしい。確認するようにゆっくりと肉を口元に運ぶ。そして咀嚼しながら飲み下すと、唇を行儀悪く舐めた。
嗜めるように睨んだその目元が赤く染まっているだろうなという自覚はある。
そして嗜められるべきは、食事で、閨のことを連想してしまった誠一郎自身であるということも。
March 4, 2025 at 10:56 PM
日本へ新婚旅行も兼ねてやってきて、アレシュはコンビニをお気に召したらしい。しっかりとした身体つきの男がスイーツコーナー前で真剣に悩んでいる姿というのはただでさえ目立つ男なのにいっそう人目を引く。その真剣な横顔さえ可愛らしいと思うのは恋人の欲目だろうか。
今も、ふと目に止まったコンビニに立ち寄っても良いかと聞いてくるから、小腹でも空いたのだろうかと頷いた。そして出てきたアレシュが持っていたのはビニール袋に突っ込まれた紙パック飲料だ。
「懐かしいですね」
「さっき持ってる奴らがいただろう」
March 2, 2025 at 10:47 PM
「卒業か」
アレシュがぽつりと零した言葉に、誠一郎は花をまく手を止めた。今日は、卒業式だ。花道で在校生と教員が送り出す祝いの気持ちを込めて卒業式に花びらをまく風習がこの学校にはある。
数年前にアレシュも受けたことがある門出だ。
大人になろうと必死で背伸びをしていた青年が、誠一郎と並び立っていることに感慨深い気持ちになる。
「まだ、うちの生徒です」
3月末まではまだ高校生だ。18歳で成人扱いされるようになったけれどそれでも誠一郎にとってはまだ子どもだ。高校生活だって楽しい事ばかりではないかもしれないけれど、それでも守られるべき対象で、無条件に守ってもらえるのは子どもである間だけなのだ。
March 2, 2025 at 2:19 PM
「アレシュさん」
書類に視線を落とし続けるアレシュに口を開けてと囁けば、何か確認することもなく開く。貴族がこういうふうに他人に食べさせてもらうという行為も珍しいようだけれどアレシュが気にした様子もないのは相手が誠一郎だからだろう。
信頼を置いているし、何をされても良いと本気で思っている。口に含んだそれを咀嚼し、広がる味にようやく書類を捲る手を止めた。
「ルコットか」
「ええ」
「少し柔らかくて甘いな」
せっかく休みを誠一郎と合わせていたのに、遠征の報告書に至急目を通すようにとカミルから命を受けたらしい団員に届けられて、荒ぶっていた気配がようやく落ち着く。
February 14, 2025 at 9:57 AM
ほぅ、と熱い吐息が溢れる。それに気づいたアレシュが探る手を止めて誠一郎の顔を覗き込む。
「⋯きついか?」
心配そうな声に緩く首を振る。むしろきついのはアレシュのはずだ。
「あなたの、その眉間の皺が好きですよ」
本当は自分本意に動きたいはずなのに、誠一郎を気遣ってくれる。堪えるように、苦しげな顔をするアレシュのその苦悩が好きだ。
誠一郎を思ってのことだから。
我慢しなくても良いのにと、汗ばむ髪を掻き混ぜてつむじにキスをする。
そうやって煽るからと、年下の恋人は苦言を強いるけれど、愛しくて堪らないのだから仕方ない。
貴方の想うままにと囁けば、骨の髄まで貪られた。
February 4, 2025 at 11:26 AM
かぷり。
「っ!!」
柔らかな果肉に食い込んだ指が甘い芳香を滴らせる様に齧り付けばその指の主が驚いたように肩を跳ね上げた。
侯爵家のお坊ちゃまだ。果物など剥いて出されるのが当然だっただろうに、誠一郎のために素手で剥こうとなんてするから力加減を間違えてしまったのだ。
指を果汁塗れにする経験などもなかったに違いない。煩わしそうに拭い取ろうとするから、勿体無いと思ってしまった。
指先から伝わる雫の後を追うように、筋肉の隆起を舌でなぞる。
緊張しているのか少し硬い膨らみを甘く食めば、果肉を毟り取った指ごと口に含まされて舌を弄ばれる。
January 30, 2025 at 11:13 AM
ーアレシュさん、お願いがあるんです。
ーお前から言い出すとは珍しいな、なんだ?
ー⋯⋯⋯⋯。
ーそんなことをお前にねだられたら叶えないわけにはいかない。
ー約束ですよ?
ーああ、必ずだ。

『俺の大切な貴方を、貴方にも大切にして欲しいんです』
January 29, 2025 at 1:04 AM
休日のデート中ふと、誠一郎が歩みを止めた。アレシュのそれに気づいて足を止めれば、頬を手で包まれて摘むように口付けられる。
どこか満足気にそれだけを終えると再び歩き出した誠一郎の行動が理解できずに固まっていれば、アレシュさんと側に並び立たないことをどこか責めるように呼ばれてどうにか足を動かした。
最近、誠一郎からのこういったキスが多い。油断しているつもりはないけれどなんの前触れもなく求められるせいでアレシュの思考が追いつかない。
入ったカフェでカップを両手に抱える誠一郎にアレシュは訴える。年上の恋人のきょとんとした、無防備な顔は可愛いのだけれど今は狡いとしか思えない。
January 27, 2025 at 12:55 PM
最近アレシュが残業をしていることが多い。誠一郎にはあれほど禁じるくせに、進めなければいけないことがあるからと誠一郎を先に帰らせる。
魔導課にも出入りしているようで、イストに聞き出そうとすれば、クスターからの口止めが入った。どうやらクスターもグルらしい。
とりあえず誠一郎のために何かをしようとしてくれているのだろうということはわかったので気づかないふりをすることにしていたら、アレシュが見せたいものがあるからと誠一郎を迎えにきた。早く早くと急かす様になんだと思っていれば、机の上に置かれていたのはーー。
January 19, 2025 at 12:31 AM
「俺の国には赤い糸の伝説があるんです」
どうやら優愛に恋人だの運命だの吹き込まれたらしいアレシュに説明を求められて誠一郎は口を開く。
運命で恋人になると定められているものたちの小指は見えない赤い糸で繋がっているらしい。元々は他の国のもので、しかも縄で足だったような気がすると続ければ、赤以外どうしてそこまで原型を留めないくらい変わっているんだとか、見えないのにどうしてもわかるんだという質問が飛んできて誠一郎もそこまでは詳しくないから知らないと返した。
優愛もただ、それがロマンチックだからと話したに違いない。誠一郎だって知っているのはそれくらいだ。
January 13, 2025 at 10:43 PM
「成人の儀のものか」
その声でアレシュが帰ってきたことを知った誠一郎が振り向けば、アレシュが後ろから手元を覗き込んでいた。
「お帰りなさい、アレシュさん」
新年といえばあちらでは成人の儀があるのだというとヴァルトムが見せてくれたのだと不思議そうに首を傾げるアレシュに伝えれば納得したように頷く。
正装でこちらを見つめる絵姿は凛々しい。けれど今と違って若干の幼さも残っている気がする。そういえばこちらで成人するのは18歳だったはずだ。日本と2歳違う。2歳しか違わないのだけれど、高校三年生だと思うと感慨深いものがある気がする。学生の時の2歳は大きかった。
January 13, 2025 at 10:26 AM
「この時期になるとルコット一色ですね」
通りに面したカフェの一角で、外を眺めながら零せばアレシュもそれに同意した。聖女効果とはすごくて、優愛にならってこの時期になるとルコットを贈るというのが貴族たちの間でも流行となった。
誠一郎は元々バレンタインの文化がある世界からきたので馴染みがあるけれど、それでも新しい習慣が浸透していく影響力の凄さを感じずにはいられない。そして今年の流行りは去年優愛がやったルコットがけドーナツらしい。ドーナツの穴を教会の子どもたちに差し入れの口実にしやすいからと選んだようだけれど、今年はどうなるのだろう。
January 11, 2025 at 2:27 PM
「そういえば」
ロマーニの年越しはどんな雰囲気なんですか?
誠一郎がそう問いかければ、アレシュは視線をぐるりと巡らせた。
「お前が召喚されたのは火の月だったか」
「はい」
つまりロマーニで新しい年を迎えたばかりで今度が初めて迎える新しい年というわけだ。年末進行はどうなるのかと気になってしまうのは仕方がないだろう。そう口にすれば、アレシュの眉間の皺がよった。
「なんだ、その年末進行というのは?」
「年の瀬で休みになる会社が多いのでその前に業務が立て込むことですよ」
お前は普段から残業していたのではないのかと言葉ではなく皺で語るのをやめて欲しい。
December 31, 2024 at 11:07 AM
「近藤さんにアレシュさんが可愛く見える本当ですか?」
優愛の息抜きになればと設けられたお茶の席で問いかけられて、誠一郎は深く息を吸った。
不意打ちでくる恋愛の話に弱い自覚はあるけれど、できる事ならなんらかの前振りが欲しかったと思いながら吸った息をゆっくりと吐き出して気を落ち着ける。情報源はわかっている。オルジフだろう。数日前にアレシュが可愛いと言ったら信じられないものを見る目を向けられた。
そして今も信じられないというような視線が少し離れたユーリウスから、そして好奇心を抑えられないというようなキラキラした眼差しを優愛から受けて居た堪れない。
December 16, 2024 at 9:47 PM
「セイさんって賭けも強そうッスね」
「はぁ?」
いきなり藪から棒になんだとノルベルトを睨みつける。
「だって確率とか出すのも得意じゃないッスか。それなら勝率高そうだなって」
なるほど、そんなつまらないことを考えて手が止まっていたわけか。誠一郎は呆れてため息と共に返す。
「あのな、確率はかけるものでも乗るものでもないんだ」
例え八割の勝率でも二割は負ける。それが九割でも同じだ。確実性なんてそこにはない。
「じゃあ何なんッスか?」
ノルベルトは不思議そうに首を傾げる。
「出すものだ」
経理課として必要があるのは数値化することだけだ。それ以上でも以下でもない。
December 8, 2024 at 10:50 PM
「セイさんってハンドクリーム塗るッスね」
「うるせぇ、油分が足りなくて書類を捲れなくなるよりマシだ」
髪が跳ねていようがなんだろうが気にしないくせにと物言いたげに見てくるノルベルトを睨みつけながら誠一郎は返す。
まだ若いノルベルトは油分が足りないだなんてそんなこと感じたこともないだろう。怒りが滲んだせいで手元のチューブを思わず強く握りしめてしまい、想定よりも多くクリームが手に溢れてしまう。
「「あっ」」
「⋯何やってるんだ」
少し呆れたような声に視線をあげればアレシュが立っていた。昼食時間にはだいぶ早い。手元を見れば書類があり、どうやら提出を口実にやってきたのだろうと理解する。
December 7, 2024 at 10:28 PM
だいぶ慣れてきたとはいえ、アレシュと出かけると集まる視線の多さに感心してしまう。何かするたびに小さく黄色い悲鳴が漏れるなんて現実世界で目にするとは思ってもいなかった。
小さく格好いいだなんて声が聞こえて、アレシュの反応を見ようと視線を向ければ、今まで散々見られても返されることのなかった視線が当然のように返ってきた。
「どうした?」
「いえ、アレシュさんって動じないなと思って」
慣れもあるだろうけれど、賛美の声に喜びどころか煩わしさすら滲ませない。誠一郎ならうんざりしてしまうこの環境が当たり前だったのだろう。
今更気にならないと涼しい顔で返すアレシュにふといたずら心が湧き上がる。
December 5, 2024 at 8:37 PM
美人は三日で飽きると言うけれど、どれほど見ても見飽きないしそれどころか見惚れてしまって時間を奪われることも多い。そうなっていると気づかれないように装うことはできるけれど、それでもずるいとは思ってしまう。
今もそうだ。書類を捲る誠一郎を膝の間に座らせながら、一緒に覗き込む。前髪がかかったからふと横を見た時に目に入ってしまい、時が止まった。
まつ毛が目元に僅かに影を落とすほど長い。すっと通った鼻梁と、精悍さが感じられる頬の輪郭。
そして、何より光を受けて煌めく濃い紫の瞳。それが、誠一郎に合うとふっと空気が緩んだ。柔らかく、愛しさを隠しもしないその色に息を呑む。
December 1, 2024 at 8:32 AM