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#神流の犬
のアイデアメモや生き物の呟き
※全てはフィクションで、この創作にはあらゆる世界線が含まれます。
「…徹」
夜宮は声を掛けられた方に振り向くと驚いた顔をした。鄙朝の活動範囲はこの辺ではないからだ。
「何故ここに?おやっさんからは何も…」
「別にいいだろ、俺がどこで稼ごうが」
「言い訳がないだろう。自分の持ち場を勝手に離れるなんてのは言語両断だ」
「はいはい、わぁーってるよ。ちゃんとオヤジには許可取ってる」
「…なら俺から言うことは何も無い」
「ふん」
鄙朝は不機嫌そうに鼻を鳴らす。その様子を見て夜宮は、困った奴だとため息を吐いた。
「いいか、問題は起こすなよ。ただでさえ今鬼戸組の問題でピリピリしてるんだ」
「お前は昔っから組のことになると心配性だよなぁ。分かってるって」
「…徹」
夜宮は声を掛けられた方に振り向くと驚いた顔をした。鄙朝の活動範囲はこの辺ではないからだ。
「何故ここに?おやっさんからは何も…」
「別にいいだろ、俺がどこで稼ごうが」
「言い訳がないだろう。自分の持ち場を勝手に離れるなんてのは言語両断だ」
「はいはい、わぁーってるよ。ちゃんとオヤジには許可取ってる」
「…なら俺から言うことは何も無い」
「ふん」
鄙朝は不機嫌そうに鼻を鳴らす。その様子を見て夜宮は、困った奴だとため息を吐いた。
「いいか、問題は起こすなよ。ただでさえ今鬼戸組の問題でピリピリしてるんだ」
「お前は昔っから組のことになると心配性だよなぁ。分かってるって」
「……ええ、まあ」
カラン、と透き通る音を立てながらグラスに氷が軽くぶつかる。今日はこの音を聞いていたい気分だ。
「たまには、俺にもありますよ」
「五升田さん…貴方のことですから歩けなくなるまで、とはならないでしょうが」
そう言いながら苦笑したバーのマスターは、また目を伏せてグラスを磨き始める。
大人しめのクラシックが静かに流れる店内は薄暗くて、心地がいい。目の前に灯されたロウソクの明かりがより一層センチメンタルを加速させる。
「…」
カラン、とまた音を鳴らす。グラスの中のウィスキーが底をついたようだ。もう一杯だけ、と口を開こうとして腕時計を見る。
「……ええ、まあ」
カラン、と透き通る音を立てながらグラスに氷が軽くぶつかる。今日はこの音を聞いていたい気分だ。
「たまには、俺にもありますよ」
「五升田さん…貴方のことですから歩けなくなるまで、とはならないでしょうが」
そう言いながら苦笑したバーのマスターは、また目を伏せてグラスを磨き始める。
大人しめのクラシックが静かに流れる店内は薄暗くて、心地がいい。目の前に灯されたロウソクの明かりがより一層センチメンタルを加速させる。
「…」
カラン、とまた音を鳴らす。グラスの中のウィスキーが底をついたようだ。もう一杯だけ、と口を開こうとして腕時計を見る。
「お兄ちゃん!おかえりなさい」
「今日は早く帰れた。腹減った」
「最近忙しそうだもんね。お兄ちゃんの好きなロールキャベツ、作っといたよ」
「ん……食う」
「そ、の、ま、え、に!お風呂入ってきて!」
「……わかったって。押すな」
「お兄ちゃん!おかえりなさい」
「今日は早く帰れた。腹減った」
「最近忙しそうだもんね。お兄ちゃんの好きなロールキャベツ、作っといたよ」
「ん……食う」
「そ、の、ま、え、に!お風呂入ってきて!」
「……わかったって。押すな」
強い雨の日は、あちこちの古傷が痛む。特に右目の痕だ。とうに視力を失った右の眼球は、使えもしないのにズキズキと疼く。
「あの日もこんな雨でしたね」
当時、対峙した若い男を思い出して苦笑する。彼はその後、マル暴に移ったらしい。そのいじらしさには思わず笑ってしまったものだ。
「私にこんな傷跡を残して。なんとまあ、強かな男だ…」
泥臭く殴り斬り合ったあの日を、死ぬまで忘れることは無いだろう。
ロックグラスを傾けると、黄金色のウィスキーが氷にぶつかり光ざ乱反射した。ひとくち飲むごとに、疼きが引いていく気がする。
「もう会うことが無いよう、願っていますよ」
その時はきっと、……。
強い雨の日は、あちこちの古傷が痛む。特に右目の痕だ。とうに視力を失った右の眼球は、使えもしないのにズキズキと疼く。
「あの日もこんな雨でしたね」
当時、対峙した若い男を思い出して苦笑する。彼はその後、マル暴に移ったらしい。そのいじらしさには思わず笑ってしまったものだ。
「私にこんな傷跡を残して。なんとまあ、強かな男だ…」
泥臭く殴り斬り合ったあの日を、死ぬまで忘れることは無いだろう。
ロックグラスを傾けると、黄金色のウィスキーが氷にぶつかり光ざ乱反射した。ひとくち飲むごとに、疼きが引いていく気がする。
「もう会うことが無いよう、願っていますよ」
その時はきっと、……。
「南川でいい」
「えと…、南川さんは縣本部長のことをその…尊敬、してるんスよね?」
「あぁ。だったら何だ」
「部屋住みメンツから聞いたんスけど、本来なら縣本部長は南川さんのことオジキって呼ばなきゃいけねーって」
「……まあな」
「し、しかも、南川さんは神流組長のこともアニキって呼べるんスよね…!?」
「…………あぁ」
「すっげーー!かっけェ〜!!!マジ尊敬っス!」
「お、おい!うるせえぞ!(小声)」
「オレももっと成果あげれば、幹部とかなれるんスかね!?」
「まあ…何かしらはあるんじゃねえか」
「っしゃぁ!やる気出てきた〜!」
「(賑やかなやつ……)」
「南川でいい」
「えと…、南川さんは縣本部長のことをその…尊敬、してるんスよね?」
「あぁ。だったら何だ」
「部屋住みメンツから聞いたんスけど、本来なら縣本部長は南川さんのことオジキって呼ばなきゃいけねーって」
「……まあな」
「し、しかも、南川さんは神流組長のこともアニキって呼べるんスよね…!?」
「…………あぁ」
「すっげーー!かっけェ〜!!!マジ尊敬っス!」
「お、おい!うるせえぞ!(小声)」
「オレももっと成果あげれば、幹部とかなれるんスかね!?」
「まあ…何かしらはあるんじゃねえか」
「っしゃぁ!やる気出てきた〜!」
「(賑やかなやつ……)」
「…」
「俺なんかした?」
「別に…」
「じゃあ何でそんなに不機嫌なんだよ」
留夏ちゃんが立ち止まり、溜息をつきつつこちらに向き直る。その瞳には明らかな怒りが浮かんでいた。
全く身に覚えがない、訳ではないが、今日はまだ何もしてない…はず。
「貴方、昨日…」
「あ?昨日?」
昨日は留夏ちゃんを家に呼んで、飯作ってやって、酒飲んでイチャついて、そんでいい雰囲気になったからそのままセックスして…。普通のデートだよな。どこに怒るところが?
そんな風に悩んでいると、留夏ちゃんはその白い頬にほんのりと赤みが掛けて眉をひそめている。
「手加減しなさすぎなんですよ!」
「…」
「俺なんかした?」
「別に…」
「じゃあ何でそんなに不機嫌なんだよ」
留夏ちゃんが立ち止まり、溜息をつきつつこちらに向き直る。その瞳には明らかな怒りが浮かんでいた。
全く身に覚えがない、訳ではないが、今日はまだ何もしてない…はず。
「貴方、昨日…」
「あ?昨日?」
昨日は留夏ちゃんを家に呼んで、飯作ってやって、酒飲んでイチャついて、そんでいい雰囲気になったからそのままセックスして…。普通のデートだよな。どこに怒るところが?
そんな風に悩んでいると、留夏ちゃんはその白い頬にほんのりと赤みが掛けて眉をひそめている。
「手加減しなさすぎなんですよ!」
いつしか、珍しく酔っ払った縣さんが言った言葉だ。その後すぐに「忘れろ」と眉をひそめて自嘲気味に笑った。
「俺にはあります」
咄嗟に出た言葉に、縣さんは無言で俺の頭を乱暴に撫でて返した。こっそり見上げたら、少し嬉しそうにしていた。
アニキの名前は出さなかった。なんだか、そうしたほうが縣さんが自由になれる気がして。
「気ィ遣うな、食えよ」
「はい」
ポテトフライをつまみながら、普段はあまり飲まないウィスキーのロックを傾ける縣さん。頼られているようで嬉しかった。
俺だけにみせてくれるその弱さが、俺は嬉しいと思ってしまった。
いつしか、珍しく酔っ払った縣さんが言った言葉だ。その後すぐに「忘れろ」と眉をひそめて自嘲気味に笑った。
「俺にはあります」
咄嗟に出た言葉に、縣さんは無言で俺の頭を乱暴に撫でて返した。こっそり見上げたら、少し嬉しそうにしていた。
アニキの名前は出さなかった。なんだか、そうしたほうが縣さんが自由になれる気がして。
「気ィ遣うな、食えよ」
「はい」
ポテトフライをつまみながら、普段はあまり飲まないウィスキーのロックを傾ける縣さん。頼られているようで嬉しかった。
俺だけにみせてくれるその弱さが、俺は嬉しいと思ってしまった。
「おや、今年は早かったですね」
「積もる前に帰るぞ、夜宮」
「はい、南川さん」
「ふう…いつも運転させて悪い」
「これも仕事ですから。それに、普段は南川さんも縣さんを乗せて運転されてるじゃないですか」
「…それは…」
「ふふ。同じですよ。気にしないでください」
「……」
いや、違う。俺と夜宮さんのその行動の根っこは全く違うものだ。俺は辰のアニキを信頼はしているが俺の縣さんへの想いと同じ想いはアニキにはできない。だが、あんたはアニキだけを。それも、その奥にいる何かを…大事に思ってるんだろう。俺は神流組の過去の事なんて知らねえが、夜宮さん。あんたはたまに、危なっかしくて仕方ねえ。
「おや、今年は早かったですね」
「積もる前に帰るぞ、夜宮」
「はい、南川さん」
「ふう…いつも運転させて悪い」
「これも仕事ですから。それに、普段は南川さんも縣さんを乗せて運転されてるじゃないですか」
「…それは…」
「ふふ。同じですよ。気にしないでください」
「……」
いや、違う。俺と夜宮さんのその行動の根っこは全く違うものだ。俺は辰のアニキを信頼はしているが俺の縣さんへの想いと同じ想いはアニキにはできない。だが、あんたはアニキだけを。それも、その奥にいる何かを…大事に思ってるんだろう。俺は神流組の過去の事なんて知らねえが、夜宮さん。あんたはたまに、危なっかしくて仕方ねえ。
縣のペルソナ
・極度の死にたがりと人間不信
・自分が無いことを理解している
・生きていることは苦痛であり、全ての人間は利己的であり、最後には必ず裏切ると思っている
・だが他人を傷つけたいとは思っていない
縣のペルソナ
・極度の死にたがりと人間不信
・自分が無いことを理解している
・生きていることは苦痛であり、全ての人間は利己的であり、最後には必ず裏切ると思っている
・だが他人を傷つけたいとは思っていない
小さく身震いをして自分の冷えた身体を何となくさする。窓の隙間から漏れ出る冷気と一緒に、微かな煙草の匂いが鼻をついた。
「乙黒さん…まだ寝てなかったんですか」
留夏は毛布を肩にかけながら、ベランダをもう少しだけ開ける。声をかけられた冬嗣は、振り向くと少しだけ驚いたように小さく目を見開いたが、すぐに申し訳なさそうに瞼を伏せた。
「悪ぃ、起こしちまったか。あぁ、窓が少し開いてたんだな。寒かったろ」
「いえ…それより、風邪引きますよ」
「ははっ。俺は寒さに強いから大丈夫だよ」
小さく身震いをして自分の冷えた身体を何となくさする。窓の隙間から漏れ出る冷気と一緒に、微かな煙草の匂いが鼻をついた。
「乙黒さん…まだ寝てなかったんですか」
留夏は毛布を肩にかけながら、ベランダをもう少しだけ開ける。声をかけられた冬嗣は、振り向くと少しだけ驚いたように小さく目を見開いたが、すぐに申し訳なさそうに瞼を伏せた。
「悪ぃ、起こしちまったか。あぁ、窓が少し開いてたんだな。寒かったろ」
「いえ…それより、風邪引きますよ」
「ははっ。俺は寒さに強いから大丈夫だよ」
「はい。また誘ってください」
「ふふふ」
「…夜宮サン」
「なんでしょう?」
「もう会計済んでますよォ。な
〜に追加注文しようと」
「縣さん、水臭いじゃぁ無いですか。また払えばいいんです」
「あだっ!力!強いって…!夜宮サン、力加減が出来てねェ!!!ちょっと!いつの間にそんな飲んでんスか!」
「ふふふ。まだ夜は長いですよ。さぁ、南川さんも飲みましょう。私が注いで差し上げます」
「待て待て待て!紅慈は飲めな」
「縣さん…後は…頼みました…」
「紅慈ーーーーーーーー!!!!」
「はい。また誘ってください」
「ふふふ」
「…夜宮サン」
「なんでしょう?」
「もう会計済んでますよォ。な
〜に追加注文しようと」
「縣さん、水臭いじゃぁ無いですか。また払えばいいんです」
「あだっ!力!強いって…!夜宮サン、力加減が出来てねェ!!!ちょっと!いつの間にそんな飲んでんスか!」
「ふふふ。まだ夜は長いですよ。さぁ、南川さんも飲みましょう。私が注いで差し上げます」
「待て待て待て!紅慈は飲めな」
「縣さん…後は…頼みました…」
「紅慈ーーーーーーーー!!!!」
「せやな…。んで?アンタから出かけの誘いなんて珍しいやないの」
「えぇ。少し付き合って欲しい事があるのです」
「ほーん、なんや。買い物か?」
「いえ、違いますよ」
「はぁ。ほな、なんやろ…。……ん?夜宮?」
「なんでしょう」
「ちょぉまてぃ。山登っとるやんけ」
「えぇ、そうですね」
「そうですねやないで。どこ行くねん」
「体を動かしに」
「はぁ?」
「最近は南川さんも縣さんもお忙しいようで、付き合ってくれないんですよ」
「え、ちょ。まさか」
「貴方も肉体派ですよね?組手、付き合って頂きますよ」
「アンタに勝てる訳ないやろが〜!!殺す気か〜!」
「せやな…。んで?アンタから出かけの誘いなんて珍しいやないの」
「えぇ。少し付き合って欲しい事があるのです」
「ほーん、なんや。買い物か?」
「いえ、違いますよ」
「はぁ。ほな、なんやろ…。……ん?夜宮?」
「なんでしょう」
「ちょぉまてぃ。山登っとるやんけ」
「えぇ、そうですね」
「そうですねやないで。どこ行くねん」
「体を動かしに」
「はぁ?」
「最近は南川さんも縣さんもお忙しいようで、付き合ってくれないんですよ」
「え、ちょ。まさか」
「貴方も肉体派ですよね?組手、付き合って頂きますよ」
「アンタに勝てる訳ないやろが〜!!殺す気か〜!」
「なんだ…朝っぱらから…」
「なんだじゃねーよ、お前が餌やってる野良猫ども、ついに5匹も産みやがったぞ」
「目出度いな」
「目出度いな、じゃねーよ!クソが臭くて適わねェ!テメェで餌付けしたならテメェでなんとかしろよ」
「いいじゃねえか。庭の空いてるところにこいつらの巣でも作ってやれ」
「あのなァ、簡単に言ってっけどクソの始末してんのも怪我直してんのも俺がやってんだぞ!」
「ふふ」
「あ゛?」
「別に俺が餌やってる猫だからって、懇意にすることねえだろ。よっぽど俺のことが好きなんだな」
「っっっせェなァ!!!勝手にしやがれ!!!!」
「なんだ…朝っぱらから…」
「なんだじゃねーよ、お前が餌やってる野良猫ども、ついに5匹も産みやがったぞ」
「目出度いな」
「目出度いな、じゃねーよ!クソが臭くて適わねェ!テメェで餌付けしたならテメェでなんとかしろよ」
「いいじゃねえか。庭の空いてるところにこいつらの巣でも作ってやれ」
「あのなァ、簡単に言ってっけどクソの始末してんのも怪我直してんのも俺がやってんだぞ!」
「ふふ」
「あ゛?」
「別に俺が餌やってる猫だからって、懇意にすることねえだろ。よっぽど俺のことが好きなんだな」
「っっっせェなァ!!!勝手にしやがれ!!!!」
「巳鶴かぁ、どーしたの?」
「もうあの場所で粉捌くのは厳しそうです」
「はぁ?捌き始めたばっかじゃん。君の管轄でしょ、何してん、のっ!」
「うっ……すみ、ません。ですが…」
「それをどうにかすんのが、テメェの、役割、だ、ろう、が!そのでかい図体についてる頭の脳みそ使ってあと半年は捌いてよね〜」
「ぐ、…ッ、はい。畏まりました」
「カシラ…」
「大丈夫だ。それより、今後について…半年はあそこで捌けるようにしなきゃならん。……足がついても構わんようなガキを使え…そうでもしないと、…」
「分かってますカシラ、何とかやりましょう…」
「……すまない、皆…すまない……」
「巳鶴かぁ、どーしたの?」
「もうあの場所で粉捌くのは厳しそうです」
「はぁ?捌き始めたばっかじゃん。君の管轄でしょ、何してん、のっ!」
「うっ……すみ、ません。ですが…」
「それをどうにかすんのが、テメェの、役割、だ、ろう、が!そのでかい図体についてる頭の脳みそ使ってあと半年は捌いてよね〜」
「ぐ、…ッ、はい。畏まりました」
「カシラ…」
「大丈夫だ。それより、今後について…半年はあそこで捌けるようにしなきゃならん。……足がついても構わんようなガキを使え…そうでもしないと、…」
「分かってますカシラ、何とかやりましょう…」
「……すまない、皆…すまない……」
「あー、俺のことは気にすんな。留夏ちゃんは早く帰んな」
「何かあるんですか」
「ま、仕事もまだ残ってるし……ってなんだその顔。いーからいーから。ほら、早くしねーとマジで帰れなくなんぜ」
「……分かりました。お先に失礼します」
「……さて、溜まってる仕事でもしますかね」
ここはいい。雪の音も、寒さも、暗さも白さも全て遮断してくれる。目の前の作業を黙々こなしていればそのうち気絶することも出来るだろう。
幸い明日は休みだ。昼になって、雪が溶け始めた頃にシャワーでも浴びて帰ろう。
「あー、俺のことは気にすんな。留夏ちゃんは早く帰んな」
「何かあるんですか」
「ま、仕事もまだ残ってるし……ってなんだその顔。いーからいーから。ほら、早くしねーとマジで帰れなくなんぜ」
「……分かりました。お先に失礼します」
「……さて、溜まってる仕事でもしますかね」
ここはいい。雪の音も、寒さも、暗さも白さも全て遮断してくれる。目の前の作業を黙々こなしていればそのうち気絶することも出来るだろう。
幸い明日は休みだ。昼になって、雪が溶け始めた頃にシャワーでも浴びて帰ろう。
「姉さま」
「あぁ、分かってるよ。最後に勝つのはあたし達だ。蛇の牙は常にふたつ」
「毒はジワジワと巡る」
「ゆっくりゆっくり、機を待てばいいのさ。父様と同じ轍は踏まないよ」
「ええ、姉さまとわたしなら大丈夫です」
「姉さま」
「あぁ、分かってるよ。最後に勝つのはあたし達だ。蛇の牙は常にふたつ」
「毒はジワジワと巡る」
「ゆっくりゆっくり、機を待てばいいのさ。父様と同じ轍は踏まないよ」
「ええ、姉さまとわたしなら大丈夫です」
「え?五升田巡査部長って喫煙者でしたっけ」
「ええ。うっかり忘れてしまって」
「俺は見てないですね〜、いつ頃ですか?」
「昼休み前です。あぁ、まあ見てないなら大丈夫です。そのうち出て来るでしょう」
「うーんでも、こんな綺麗な机から出てきますか?整理整頓されまくってますけど...」
「では窃盗ですか。ここには他に誰が?」
「え?せっ...えっと、俺もさっき戻ってきたばっかりで…」
「アリバイは証明出来ますか?」
「ア、アリバイ!?ご、五升田巡査部長!勘弁してくださいよ〜!」
「…ふ。冗談ですよ。そのうち、出てきます。そのうち、ね」
「え?五升田巡査部長って喫煙者でしたっけ」
「ええ。うっかり忘れてしまって」
「俺は見てないですね〜、いつ頃ですか?」
「昼休み前です。あぁ、まあ見てないなら大丈夫です。そのうち出て来るでしょう」
「うーんでも、こんな綺麗な机から出てきますか?整理整頓されまくってますけど...」
「では窃盗ですか。ここには他に誰が?」
「え?せっ...えっと、俺もさっき戻ってきたばっかりで…」
「アリバイは証明出来ますか?」
「ア、アリバイ!?ご、五升田巡査部長!勘弁してくださいよ〜!」
「…ふ。冗談ですよ。そのうち、出てきます。そのうち、ね」
「僕の背が高くて助かりましたね。どうにか着れてるようでよかっ…」
「ん?なんだよ」
「…やっぱり、それは差し上げます」
「え?いいの?マジで貰っちまうぞ?」
「いいです。もう着れないので」
「はぁ?おい待て、オヤジの着たもん着れねえとかそういう」
「まあそれもあるかもしれませんが違います」
「あるのかよ…」
「そんなにピチピチになった服、もうヨレヨレになって着れないですよ」
「留夏ちゃんが筋肉ねぇだけだろ」
「なっ!僕は付きにくいだけです!!!!!!!」
「僕の背が高くて助かりましたね。どうにか着れてるようでよかっ…」
「ん?なんだよ」
「…やっぱり、それは差し上げます」
「え?いいの?マジで貰っちまうぞ?」
「いいです。もう着れないので」
「はぁ?おい待て、オヤジの着たもん着れねえとかそういう」
「まあそれもあるかもしれませんが違います」
「あるのかよ…」
「そんなにピチピチになった服、もうヨレヨレになって着れないですよ」
「留夏ちゃんが筋肉ねぇだけだろ」
「なっ!僕は付きにくいだけです!!!!!!!」
「ファミレス…。そういえば行ったことありませんね」
「はぁ!?一回も?」
「ええ。何か問題が?」
「いやー、そうか。じゃあよ、オジさんと飯くいに行こうぜ。ファミレスに!」
「……嫌です」
「なぁんでだよ〜いいじゃねえかよ〜」
「貴方と行くのが嫌です」
「ひっでぇ!上司が飯奢ってやるって言ってんのに!」
「黙って食べるならいいですよ」
「ファミレス…。そういえば行ったことありませんね」
「はぁ!?一回も?」
「ええ。何か問題が?」
「いやー、そうか。じゃあよ、オジさんと飯くいに行こうぜ。ファミレスに!」
「……嫌です」
「なぁんでだよ〜いいじゃねえかよ〜」
「貴方と行くのが嫌です」
「ひっでぇ!上司が飯奢ってやるって言ってんのに!」
「黙って食べるならいいですよ」
思いのほか太くて、こりゃ中々俺の手じゃ上手く締めれねェなって思った。当の本人は優雅に寝てるしよ。
「…バカみてェだ」
何が変わる訳でもない。後悔するだろうな、とまあいいか、がせめぎ合い中途半端に手に力が入る。う、と微かなうめき声にハッとして我に返った。
「あ…」
思わず手を引っ込めようとすると、その腕を強く掴まれた。射抜くようなその目をじっと見つめる。黒く、深く、奥まで見透かされてるようなその目が俺は嫌いな時がある。そう、今みたいな時だ。
「躾が必要か?」
「は。何でもねェよ、寝ぼけてたみてェだ。悪ィな」
適当にはぐらかして、辰から降りる。そうさ。寝ぼけてただけだよ。
思いのほか太くて、こりゃ中々俺の手じゃ上手く締めれねェなって思った。当の本人は優雅に寝てるしよ。
「…バカみてェだ」
何が変わる訳でもない。後悔するだろうな、とまあいいか、がせめぎ合い中途半端に手に力が入る。う、と微かなうめき声にハッとして我に返った。
「あ…」
思わず手を引っ込めようとすると、その腕を強く掴まれた。射抜くようなその目をじっと見つめる。黒く、深く、奥まで見透かされてるようなその目が俺は嫌いな時がある。そう、今みたいな時だ。
「躾が必要か?」
「は。何でもねェよ、寝ぼけてたみてェだ。悪ィな」
適当にはぐらかして、辰から降りる。そうさ。寝ぼけてただけだよ。
「知りません」
「拗ねんなって、謝ってるだろ」
「拗ねてません」
「拗ねてんじゃぁん!なぁ、ごめんってば!留夏ちゃんのとっといたプリン食べたことだろ?謝るから…」
「はぁ!?僕のプリン食べたの貴方なんですか!?」
「え?あ、いや」
「僕が休憩の時に運良く買えたプリンなんですよ!!?」
「えと」
「貴方って人は!!もう知りません!!」
「留夏ちゃぁ〜〜ん!!💦」
「知りません」
「拗ねんなって、謝ってるだろ」
「拗ねてません」
「拗ねてんじゃぁん!なぁ、ごめんってば!留夏ちゃんのとっといたプリン食べたことだろ?謝るから…」
「はぁ!?僕のプリン食べたの貴方なんですか!?」
「え?あ、いや」
「僕が休憩の時に運良く買えたプリンなんですよ!!?」
「えと」
「貴方って人は!!もう知りません!!」
「留夏ちゃぁ〜〜ん!!💦」
「いえ、私は他にやる事あるので先に退勤して結構です。また誘ってください」
「はぁ〜い!ではお先に失礼します!」
「……」
あの事件からもう何年も経ってる。俺だって、こんな調査最早意味が無いことは分かってるさ。でも、お前の仇を俺が取らずして誰が取るんだ。
「夜宮…信仁…」
必ずこの手で捕まえてみせる。何年経ったってな。次は絶対に逃がさない。
「しょっぴかれる日を楽しみにして待っていろ」
「いえ、私は他にやる事あるので先に退勤して結構です。また誘ってください」
「はぁ〜い!ではお先に失礼します!」
「……」
あの事件からもう何年も経ってる。俺だって、こんな調査最早意味が無いことは分かってるさ。でも、お前の仇を俺が取らずして誰が取るんだ。
「夜宮…信仁…」
必ずこの手で捕まえてみせる。何年経ったってな。次は絶対に逃がさない。
「しょっぴかれる日を楽しみにして待っていろ」
それでも、俺は少しでも世界を正せるならと。この手は既に血に塗れているし、その足跡は消すことは出来ない。本物の悪人は更生なんてしない、むしろ悪い事だとも思っていないヤツらを法が許すなら、俺が許さないまでだ。
助けてくれと懇願される。そんなゴミ共でも生きていたいと願う何かがある。何故、そうなる前に気づかなかったんだ?後悔するならそれは不正解だ。俺は後悔はしない。正解を選べなかった者に待つのは、終わりのみ。お前も、この俺もな……
それでも、俺は少しでも世界を正せるならと。この手は既に血に塗れているし、その足跡は消すことは出来ない。本物の悪人は更生なんてしない、むしろ悪い事だとも思っていないヤツらを法が許すなら、俺が許さないまでだ。
助けてくれと懇願される。そんなゴミ共でも生きていたいと願う何かがある。何故、そうなる前に気づかなかったんだ?後悔するならそれは不正解だ。俺は後悔はしない。正解を選べなかった者に待つのは、終わりのみ。お前も、この俺もな……
「南川さん?」
「う……すみませ」
「こら、また出てますよ」
「………」
「だからって黙らないでください」
「…はぁ。悪い」
「はい、それでいいんですよ」
「夜宮さ…夜宮はそれでいいのかよ」
「ええ、勿論です。南川さんが思ってるより楽しんでいますよ」
「俺は気が気じゃねえけどな…あ、そうだ。神流組長がまたコーヒーをって言ってたぞ」
「それはそれは。南川さんもご一緒しますか?」
「………俺はまた今度でいい…」
「南川さん?」
「う……すみませ」
「こら、また出てますよ」
「………」
「だからって黙らないでください」
「…はぁ。悪い」
「はい、それでいいんですよ」
「夜宮さ…夜宮はそれでいいのかよ」
「ええ、勿論です。南川さんが思ってるより楽しんでいますよ」
「俺は気が気じゃねえけどな…あ、そうだ。神流組長がまたコーヒーをって言ってたぞ」
「それはそれは。南川さんもご一緒しますか?」
「………俺はまた今度でいい…」