(私は悔いてばかりだ)
一番の悔いは、彼の傍を離れたこと。あの時何が何でも彼を雲深不知処に連れ帰っていたならば、彼を失うことは避けられたかもしれないのだ。
(彼を見つけたら、次はもう絶対に傍を離れない)
同じ轍は二度と踏むものか。
必ず見つけてみせる。
「魏嬰。私の蕾。私だけの花」
(……続く)
(私は悔いてばかりだ)
一番の悔いは、彼の傍を離れたこと。あの時何が何でも彼を雲深不知処に連れ帰っていたならば、彼を失うことは避けられたかもしれないのだ。
(彼を見つけたら、次はもう絶対に傍を離れない)
同じ轍は二度と踏むものか。
必ず見つけてみせる。
「魏嬰。私の蕾。私だけの花」
(……続く)
残酷な定めを呪いながら機械的に息をして生をつないでいただけの藍忘機の脳裏に、ある日閃きの火花が散った。
番の一方だけが残された意味──。
「探すため……再び二人が巡り会うために……」
役目を自覚した途端、何も映そうとしない無気力だった瞳に一筋の光が宿り、手足に力が漲りはじめる。藍忘機は何かに追い立てられるように慌ただしく身なりを整えはじめた。
残酷な定めを呪いながら機械的に息をして生をつないでいただけの藍忘機の脳裏に、ある日閃きの火花が散った。
番の一方だけが残された意味──。
「探すため……再び二人が巡り会うために……」
役目を自覚した途端、何も映そうとしない無気力だった瞳に一筋の光が宿り、手足に力が漲りはじめる。藍忘機は何かに追い立てられるように慌ただしく身なりを整えはじめた。
己のものであるという刻印にも近い噛み跡を。
あの時の記憶は曖昧だが、腕の中でもがく体を押さえ込み、柔らかな肉に歯を立て噛みついた生々しい感触だけは今も鮮明に口の中に残っている。
(それなのに失くしてしまった……。私の蕾、私だけの花。どこへ行ってしまったの……)
ひっそりと胸にしまった彼の匂いももう残っていない。
いくら嘆いても涙は疾うに枯れ果て、虚ろな月のような瞳からは何もこぼれない。このまま自らも枯れて朽ちてしまえたらいったいどれほど楽だろうか。
己のものであるという刻印にも近い噛み跡を。
あの時の記憶は曖昧だが、腕の中でもがく体を押さえ込み、柔らかな肉に歯を立て噛みついた生々しい感触だけは今も鮮明に口の中に残っている。
(それなのに失くしてしまった……。私の蕾、私だけの花。どこへ行ってしまったの……)
ひっそりと胸にしまった彼の匂いももう残っていない。
いくら嘆いても涙は疾うに枯れ果て、虚ろな月のような瞳からは何もこぼれない。このまま自らも枯れて朽ちてしまえたらいったいどれほど楽だろうか。
(痛い……)
背中の傷は塞がりはじめている。もとよりこれに痛みなどない。あと百回でも千回でも打たれようと藍忘機は平気だ。
痛いのは背中ではなく──心。
片翼を引き千切られた鳥のように、無造作に摘み取られた花のように、己の半身を失った痛みがずっと癒えずにいる。
痛い、苦しい、悲しい、寂しい。
(痛い……)
背中の傷は塞がりはじめている。もとよりこれに痛みなどない。あと百回でも千回でも打たれようと藍忘機は平気だ。
痛いのは背中ではなく──心。
片翼を引き千切られた鳥のように、無造作に摘み取られた花のように、己の半身を失った痛みがずっと癒えずにいる。
痛い、苦しい、悲しい、寂しい。
藍曦臣の声には聞き分けてくれという願いが込められていたが、藍忘機は首を横に振って応じない。
「魏嬰は、私の番です」
「わかっている」
なにがわかっているものか。藍忘機は胸の内で反発した。番を持たない兄に己の何がわかるというのか。彼はただの番ではない、己の運命の番、この世で唯一の存在なのに。
結局、藍忘機は兄の反対を押し切り負傷の身で乱葬崗まで駆けつけた。けれどもそこをいくら探しても魏無羨の骸はおろか、骨の一欠片すら見つけることはかなわなかった。
(……続く)
藍曦臣の声には聞き分けてくれという願いが込められていたが、藍忘機は首を横に振って応じない。
「魏嬰は、私の番です」
「わかっている」
なにがわかっているものか。藍忘機は胸の内で反発した。番を持たない兄に己の何がわかるというのか。彼はただの番ではない、己の運命の番、この世で唯一の存在なのに。
結局、藍忘機は兄の反対を押し切り負傷の身で乱葬崗まで駆けつけた。けれどもそこをいくら探しても魏無羨の骸はおろか、骨の一欠片すら見つけることはかなわなかった。
(……続く)
「魏公子が亡くなったそうだ」
はじめは何を言われたのか理解できず、藍忘機は床の中から沈痛な面持ちの兄をただ見上げていることしかできなかった。だが、少しずつ言葉の意味が脳内に染み込んでくると、藍忘機の体は自然と寝床から起きあがっていた。
気がついた時には必死に止めようとする兄に肩を掴まれていた。
「忘機、戻るんだ! そんな体で動いては傷に障る!」
押し戻される力に逆らって藍忘機は前へ進もうとする。
「魏公子が亡くなったそうだ」
はじめは何を言われたのか理解できず、藍忘機は床の中から沈痛な面持ちの兄をただ見上げていることしかできなかった。だが、少しずつ言葉の意味が脳内に染み込んでくると、藍忘機の体は自然と寝床から起きあがっていた。
気がついた時には必死に止めようとする兄に肩を掴まれていた。
「忘機、戻るんだ! そんな体で動いては傷に障る!」
押し戻される力に逆らって藍忘機は前へ進もうとする。
こういうギャップのある忘羨めちゃくちゃ好き。
こういうギャップのある忘羨めちゃくちゃ好き。