ノンマルトの末裔@読書
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ノンマルトの末裔@読書
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読んだ本の印象に残った一節でも記してみようかと。
感想を書くのがとても下手なのです。
たったひとつの嘘もなかった。
そこには、神様がいた。
全さんが見つけた神様が、重く、烈しく、醜いまま、息づいていた。
光と影を呑み込んで生きる、ひとりの女のすべてがそこにあった。
どんなに私が努力してもこぼれ落ちていってしまうものが、あの時のまま残されていた。

「神様の暇つぶし」千早茜

#読了
November 22, 2025 at 12:01 PM
「涼介くんそっくりだ」
「それ、場合によってはけなしてますよ」
「いえ、褒めてます。ぼくのためにわざわざ……」
三上はじっと奈緒の目を見ていたが、やがて視線を外し顔を背けた
「すみません、人に……こんなふうに守ってもらうことに、慣れてなくて……」

「春の星を一緒に」藤岡陽子

#読了
November 21, 2025 at 12:31 PM
マチジョーはもう一度頷いた。
「今だって、しかたがないってみんな言うのー。復帰して沖縄と離れても、しかたがないって。しかたがないって、空襲ときによく聞いたよねー。またおんなじことをくりかえしてるの。わたしたちは」

「神の島のこどもたち」中脇初枝

#読了
November 20, 2025 at 12:37 PM
「いや。秘密を知っている者は少ないほうがいい」
栄田総監は席にもどり、星野アイは控え室に行った。
「秘密を知っている者は少ないほうがいいって……」
甘糟は郡原に言った。「俺たち、いいように利用されてませんか?」
郡原が苛立たしげに言った。
「しょうがねえだろう」

「マル暴ディーヴァ」今野敏

#読了
November 19, 2025 at 12:06 PM
きわどいところだった。おれはその紙をひろって、にぎりしめた。からだがふるえていた。ふたつにひとつ、どっちかにキッパリきめなくちゃいけない。おれはイキを半ぶんとめて、しばしかんがえた。それから 、ムネのうちで言った――
「よしわかった、ならおれは地ごくに行こう」。そして紙をビリビリにやぶいた。

「ハックルベリー・フィンの冒けん」マーク・トウェイン 柴田元幸=訳

#読了
November 18, 2025 at 12:10 PM
「でも、たまには人間を信じてもいいんじゃない?」
土門が視線を上げた。猪狩と目が合う。
「土門さんが言うように、科学は嘘をつかない。でも、科学だって人の営みの一つだよね? 科学を信じるってことは、人を信じるってことじゃないのかな。そういう意味では、土門さんはもう人間を信じているんだよ」
「私が?」
「答えは、身近なところに落ちているのかもしれない」

「追憶の鑑定人」岩井圭也

#読了
November 17, 2025 at 12:14 PM
「逃げるのかよ」
口にした途端、血の気が引いた。悪手を指したときの感覚だった。読み直すよりもはやく、からだがまちがえたことを認識する。
大島は僕の顔をじっと見て、そうだよ、と言った。
「おれは逃げる」

「おまえレベルの話はしてない」芦沢央

#読了
November 16, 2025 at 12:10 PM
消えたんじゃない。ずっと残っていたのだ。
不意にそうわかった。
眠っていただけだった。休眠していた文様たちは、私たちを、深い場所で繋いでいたのだ。まるで、地上の花が焼き尽くされてしまっても、地中に張り巡らされた根っこが残り、また時期が来ればいっせいに芽吹くツツジのように。

「アンダーザスキン」宇野碧

#読了
November 15, 2025 at 12:09 PM
土が人間の掌と水で捏ねられて、焼かれて茶碗や鉢になって、人間の欲と意地と、どうしようもなく好きやという気持ちを吸うて照り返って、人の手から手へと渡る。真物も贋物も来ては去り、帰り、また去る。
道具も、帰去来。
そのつかのまに、おれは立ち会うだけ。それだけで面白い。

「どら蔵」朝井まかて

#読了
November 14, 2025 at 12:40 PM
わたしは、十になった子供の頃から、やし酒飲みだった。わたしの生活は、やし酒を飲むこと以外には何もすることのない毎日でした。当時は、タカラ貝だけが貨幣として通用していたので、どんなものでも安く手に入り、おまけに父は町一番の大金持ちでした。

「やし酒飲み」エイモス・チュツオーラ 土屋哲=訳

#読了
November 13, 2025 at 12:15 PM
ピアニストとショショッテさんは、一瞬キョトンとしていた。
でも一瞬だった。二人は示し合わせたように声をそろえて、
「行けます?」と言った。
「どこへ?」
上司が訊くと、お化けの三人組とピアニストとショショッテさんは、同時に窓の外を指さした。
月が出ていた。

「エリック・サティの小劇場」藤谷治

#読了
November 12, 2025 at 12:19 PM
たった十四年しか生きていないではないか。一体ぜんたい、死にたいと思うほどのなにがあったというのか。死ぬという、生きているなかでも究極の選択ができるなら、それこそなんでもきるじゃないか。この世に、命を差し出すほどの、命と引きかえにするほどの、なにがあるというのか。

「9月1日の朝へ」椰月美智子

#読了
November 11, 2025 at 12:07 PM
世界で出版された本のタイトルは、歴史上一億三千万以上あると言われている。
そのすべての分の一の確率で、人は本と巡り合うのだ。ちなみにどういう計算かよくわからないけれど、人間が隕石とぶつかる確率は一六〇万分の一と言われていると何かで読んだ。それを奇跡と言わずしてなんと言う。

「さらば! 店長がバカすぎて」早見和真

#読了
November 10, 2025 at 12:06 PM
今日も大したニュースはない。どこかで見たことのあるような記事ばかりだ。
「つくづく平和だよなぁ」
マスクの下で発した呟きは、電車の走行音や学生たちの話し声に紛れる。
電車が徐々に減速する。一日の疲労を引きずった私の身体が、朱い光の差し込む駅のホームへと吐き出されていく。

「今日未明」辻堂ゆめ

#読了
November 9, 2025 at 12:18 PM
「なにがひたむきか、わからなかった。三日経ってもな。しかし、ひとりになって、なんとなくわかってきた。ただ、ひたむきに思っている。この国についてだ 」
「国か」
「国と民、と言ってもいいかもしれない。時頼様にとっては、二つは同じものだ、神田灯」

「森羅記1 狼煙の塵」北方謙三

#読了
November 8, 2025 at 12:08 PM
すべてが熱く、痛々しく、その熱さと痛みの中で、すべてが鮮明だった。その時、お爺さんの皺だらけのまぶたが痙攣を起こしたようにまばたいた。そして、とても小さな一粒の涙が、ビーズ玉のように頬を転がり落ちた。壁に映し出された影の涙腺からは、それよりも大きな涙がとめどなく流れていた。

「涙の箱」ハン・ガン きむ ふな=訳

#読了
November 7, 2025 at 12:22 PM
なんかもう、私、大丈夫な気がします。
なんていうか、自分を一回全部使い切ったみたいな感覚なんです、今。
お金も感情も時間も全部、もうこれっぽっちも残ってないんです。
そうしたら急に、旗の一本も見当たらないこの景色が、あんまり怖くなくなってきました。
だから、いづみさんが全部使い切るまで、ここで待ってますね。
ここで見てますから。いづみさんがいづみさんを全部使い切るところ。
もう一度最初からやり直すしかなくなるところ。

「イン・ザ・メガチャーチ」朝井リョウ

#読了
November 6, 2025 at 12:13 PM
アメリカ人捕虜と警備兵がようやく地上に立ったとき、空はまっ黒い煙でおおわれていた。太陽は、針の先ほどの怒れる光点であった。そこに見るドレスデンは、鉱物以外に何もない月の表面を思わせた。岩石は熱かった。近隣の人びとはひとり残らず死んでいた。
そういうものだ。

「スローターハウス5」カート・ヴォネガット・ジュニア

#読了
November 5, 2025 at 12:03 PM
……僕は日本語を勉強して初めて、人間関係の本来のややこしさに気づいただけなのではないか。あるいは僕はただ、最初から人との距離を詰めるのに苦労していただけで、第二言語に入ってから母語の機微でごまかせなくなったのかもしれない。

「言葉のトランジット」グレゴリー・ケズナジャット

#読了
November 4, 2025 at 12:17 PM
途轍もなく広い海が宇内を巡っている。宇内を「世界」と名づけたのは誰だったろう。北前船の熟練の船頭である美濃屋の仙六さんは、すでに何年も前から宇内という言葉は使わなくなった。
彼の口からは自然に世界という言葉が出る。
俺も世界という言葉を使おう。

「潮音 第一巻」宮本輝

#読了
November 3, 2025 at 12:17 PM
「その人がほんとに大事な人なら、大事にしろよ」
「何それ」
「大事な人は、ほんとに大事だからな」
「だから何それ」
そして父はさらに意外なことを言う。
「おれみたいに、いい加減なことはするなよ。大事な人を適当に扱うようなことは、するなよ」

「あなたが僕の父」小野寺史宜

#読了
November 2, 2025 at 12:40 PM
郡原が甘槽に尋ねた。
「どんな具合だ?」
「あまり頼りになりそうにないですね」
「キャバクラがどうのって言ってたな?」
「はあ……」
「行くときゃ、俺も連れてけよ」
なんでだよ……。心の中でそう思ったが、そんなことはもちろん言えない。
「はい……」
力なくそうこたえた。

「マル暴総監」今野敏

#読了
November 1, 2025 at 12:15 PM
「お父さんの言語が、徹底的に選挙用になってることはわかった。でも、わたしが求めてるのはそういう言葉じゃないんだよ。社会に向けた言葉じゃなくて、自分とか家族とか、仲間のための言葉っていうか……。お父さんの「ほんとう」の言葉で話してほしいんだよ」
「ほんとう?」
「えーと、……わたしは、お父さんと、きちんと会話がしたい」

「ほくほくおいも党」上村裕香

#読了
October 31, 2025 at 12:17 PM
言葉は時として、心を突き刺す刃と化します。人の身体ではなく、精神を傷つける唯一の凶器。
内側から崩れ落ちた人間の絶望は、何人も入り込めない闇深い世界です。そしてその闇は、決して遠くにあるものではなく、手軽な通信機器とつながった薄氷の日常に潜んでいるのです。

「踊りつかれて」塩田武士

#読了
October 30, 2025 at 12:22 PM
この人たちは知っていたのだ、自分の死が天災による、嘆くしかない死ではなく、人災による(だから必ずしも死ななくてもいい)死であることを。自分はいま人間の仕掛けた罠にかかって死のうとしている! 犯人がいるのだ! そやつを許すことはできない!

「この世界の片隅で」山代巴 編

#読了
October 29, 2025 at 12:08 PM