「他人の機微がわからないこと」で、他者のパーソナルな領域に意図せず踏み込んでしまうシーンもあったが、それにより傷つけられた「浩輔」の心が気がかりで、私は全く笑えなかった。コメディに正論で返すのはナンセンスだろうか。でも誰かの傷つきの上に成り立つコメディは許容されるのかな。

上記の違和感、居心地の悪さとは別に作品としてのクオリティはとても高かった。マリンバの共鳴管を模した(ように見えた)舞台美術、階段が組み合わさったようなセットも素敵だった。燃える恋を起点に始まった結婚が、出産/育児/ケアとしての家事労働へとつながり、ママを家庭に縛る構図の描き方も巧みだった。

「みょか」のかわいさにやられました

そして升味さんの心身の負担を考える。クィアである我々は、マイノリティである我々は、いつもいつまでも社会をよりマシな場所にするべく、規定の形の社会との摩擦を強いられる。いつになったら終わるのかな。この作品を見た「きみ」は我々と志を同じくする「ともだち」になってくれるのかな。

繊細だから感情的になっているんじゃないし、理性的な先生に仕立て上げているのはマジョリティなのだ。感情的にさせているのはマジョリティなのだ。
人間は誰しも、自分から見える物事/世界の解像度が最も高い。だから、他人と関与するとき、その違いが楽しさも苦しさもしんどさも生み出す。そうした理性的な判断と別に、どうしようもなくすきでいてしまう人がいる。そしてすきでい続けられなかった人をも思い出した。

「あれ」の世話はもう焼けないと「変身」した者を排除するコミュニティは「エイブリズム」や「能力主義」に塗れ誰もが生きづらい。
我々は、物理的に便利なツールと、不条理をも受容し共生に資する概念を手にした。古典とされる物語に対峙するとき「今」を生きる我々は、どう解釈するかを問われるのだ。

演劇は、その場に行かないと観れない。地理的な時間的な経済的な制約により観劇できないことは誰にでもある。でも、いまは公開されている。こういう作品があるということを、こうしたカオスを切り崩し地平を開こうと努める作り手がいるということを少しでも多くの人に知ってもらえたら嬉しいと思う。
1作目と2作目は年末までYouTubeで公開中である。

🔻「theirs」はこちら！
youtu.be/BnVMSTvngrE

🔻「ours」はこちら！
youtu.be/LHF27qstB9E

⏰2024年12月31日（火）23:59まで

「ours」から象徴的に取り上げてきた、根源的な問題に見える家も、多様なステークホルダーからの見え方は異なる。誰かが安寧を掴むために誰かが不安を抱える必要が生じる。でも、私はよりしんどい人に寄り添いたい。今虐げられし人の側にありたい。何ができるかわからない。わからないけど語るしかない。

そのために語り、学び、自分の常識を壊し、叫び、泣き、眠ってはまた語りたい。そうだよね。一緒に語ってくれて、語り続けてくれて、この問題を1年にわたって一緒に考えてくれてありがとうと思いました。

それでも、それでも、それでも、それでも、と思う。それでも何もしないなんて、耐えられない。許せない。許したくない。こんなカオスに、理不尽に打ちのめされ続ける世界なんて御免だ。死んでたまるか。

こんなカオス、どうしてくれよう。ふざけんな。多種多様な関係者が入り乱れ、捩れ、繋がり、まだ千切れてはつながり、時に裏返り、時に世界の外へ歩み出し、出た先も内側も同じかもしれないという、誰が誰の味方なのかすらもわからない、どちらの味方ですらないのかもしれない。などと思う。冷静になる。

この作品の意義を、我々が対峙する理不尽の複雑さを、語ることを諦めたくない。このカオスに戸惑い、消滅したくなる。別の星にいるとみなされるのもムカつく、別の星に行ってしまいたくもなる気持ちもある、全部終わりにして別の星に移住したい。でも私は、ここで、この星で、語ることを諦めたくない。
私には語る言葉がある。言葉は万能ではない。でも語らないと変わらない。残らない。積み上がらない。だから言葉にする。まとまらない。対話しても通じるかもわからない、対話したところで相手は私のことをわかったふうに振舞うかもしれない。1つの結び目が解けたからといって全ての問題は解決しない。