ミスミ
LightNews LightNews
banner
ms-3-kk.bsky.social
ミスミ
@ms-3-kk.bsky.social
11 followers 10 following 6 posts
すおにれ｜さくにれ｜20↑｜先読み
Posts Replies Media Videos
ms-3-kk.bsky.social
すおにれ

【12〜14｜全14頁】
「は、はずかしくって……顔を合わせていられません……」 「あはは、にれ君ってばほんとうにかわいくってしょうがないな」 　ううう、と楡井のうめき声がこれたまふたたびシーツへと吸いこまれていく。 「じゃあはずかしいついでに、最初から最後までずっと目を開けたままキスしてみようか？」 「なっ……！？」 　蘇枋のとんでもない提案が耳へと届いて、楡井はがばりと顔を上げた。 「はっはずかしいついでって意味がわからないんですがっ！？」 「なんだかものすごく盛り上がりそうじゃない？」 「すすすすおうさんッ……！？」 「あはは、冗談だよ」 「もっ、もう……！　またそうやってからかって……！」 「だってにれ君がかわいいんだもの」 　いっぱいいっぱいになりながらあわあわと百面相する楡井とは対称的に、蘇枋はどこまでも余裕綽々といったふうでたのしけだ。 　ふふ、と蘇枋は笑みをこぼしながら、おもむろに楡井の頬へと手を添えた。そして、指先でするりと耳を撫ぜる。 　その指先の動きにたしかな意図を感じて、楡井はびくりと肩をふるわせた。 「……もっとはずかしいこと、たくさんしているのにね？」 「っ〜〜〜！」 　蘇枋が不敵に笑うものだから、楡井はもはやなにも言えなくなって、ひたすらに赤面するほかなかった。 　くすくすとやはりたのしそうに笑う蘇枋の顔を、楡井はまっすぐに見ることができない。 　そんな楡井をいとおしげに見つめながら、蘇枋はゆっくりと顔を近づける。 「……にれ君」 　いとおしさをこめた声で、蘇枋が楡井の名前をそっと呼ぶ。 　その声を合図に、楡井は目を閉じる。 　そして、ふたりのくちびるがふれあって、キスが始まる。 「んん……」 　蘇枋の舌にくちびるをなぞられて口をわずかに開けば、そこから熱い舌を差しこまれ、楡井は応えるように自らの舌を絡ませた。 　キスが終わるまで、ふたりのまぶたは閉じられたまま――で、あるのがふつうなのだと、楡井は思いこんでいた。 　なにも見えない世界の中で、くちびるや舌の感触を、ふれあう熱を感じながら、ただただたがいの愛をたしかめあう。たしかにそれだけでも充分すぎるくらいに想いをわかちあえる行為であることにちがいはない。 　楡井は舌を絡ませあいながら、すこしだけ目を開く。 　すると、そこにはこちらを見つめる瞳があった。 　いつも自分をいとおしげに見つめてくれる、恋人とおなじ名前の色をした、うつくしい瞳だ。 　――自分がいま、だれとキスをしているのか。 　それをこの目に捉えた瞬間、ぶわりと興奮が腹の底から湧き起こって、幸福感で頭の先からつまさきまで満たされる。 　密やかに重ねていたつもりの行為を知られていたことは、はずかしいことこのうえない。けれども、蘇枋もおなじきもちなのだと知ることができたいま、それ を思うと胸がいっぱいになるばかりだった。 　楡井は昂る思いを伝えるかのように、蘇枋の首へと腕を回してぐっと引き寄せる。 　そうして、ふたりのキスはいっそう深くなっていった。
December 2, 2024 at 2:22 PM
ms-3-kk.bsky.social
すおにれ

【8〜11｜全14頁】
「ッな、なっ、なんでっ……！？」 　どっどっどっ、と、どきどきを通り越して速く激しく脈打つ心臓。くちびるを解放された楡井は、わなわなとふるえながら蘇枋へとそう問いかける。キスをしていたことによってもとより上がっていた体温がさらにぐっと上がったのか、顔を真っ赤に染めながら、ぱくぱくとくちびるを動かして、言葉にならない声で訴えかけるようにして。 　なんで、のあとにつづく言葉まで楡井は言葉にすることができなかった。けれど、蘇枋には楡井が言わんとすることは寸分違わず伝わっていたようで、 「……にれ君がたまに目を開けていること、気づいていたよ？」 　と、にっこりと笑顔をつくって、答えてみせた。 　ふたり分の唾液に濡れた楡井のくちびるを、親指でなぞるようにして拭いながら。 「〜〜〜っ！？」 　楡井は声にならない声でさけんだ。 　蘇枋はあえて『キスをしているときに』という言葉は省略したのだが、それについて心当たりも自覚も十分すぎるほどにある楡井である。 　蘇枋はずっと気づいていたのだ。キスをしているときに、楡井がひっそりと目を開けて、こっそりと蘇枋を見つめていることに。 　驚愕、とまどい、羞恥心。ない混ぜとなったそれらが楡井へと襲いかかった。 　蘇枋はというと、ふふ、と、あくまでたのしげにほほえみながら、楡井の反応を見守っている。 「どっどうしてっ……」 「オレの右目はね、いつだってなんでもお見通しなんだ……って、にれ君？」 　キスをしていたときとおなじ体勢のまま、ベッドと ローテーブルのあいだに向かいあって座り、蘇枋の腕によって支えられていた楡井のからだが、ゆっくりとした動きでしずかにへたりこむようにしてベッドのほうへと向いた。 　そして、楡井はそのままシーツへと顔をうずめた。 「……は、はずかしすぎて……たおれそうです……」 「あはは、うん、もう倒れているけどね」 　うう……、と弱々しいうめき声がシーツへと吸いこまれていく。 「……なんで……」 「うん？」 「……なんで、ずっと気づいていないふりをしてたんですか……？」 　ちらり、と楡井は蘇枋のほうへと涙目になりながら視線を向けた。 「気づかないふり、というか、あえて言わなくてもいいのかなって思っていたんだよ」 「じゃあ……どうして今日は目を開けたんです？」 　楡井は至極純粋な疑問を蘇枋へと投げかける。 「にれ君の反応を見てみたくなったから、かな？」 「反応？」 「だってにれ君、からかい甲斐がありすぎるんだもの」 「か、からかいがい……？」 「うん。オレ、にれ君のくるくる変わるいろんな表情を見るのがだいすきなんだ」 　なんの惜しげもなく告げられた『だいすき』という四文字に、楡井はぐっと言葉に詰まってしまう。 「だから、ごめんね？」 「……もー……」 　楡井は頭をシーツに預けたまま、頬をふくらませた。 　けれど、そのくちびるから漏れたため息は、けっして不満や落胆から吐き出されたものではなかった。そ れは蘇枋にではなく、楡井自身に向けられたものともいえよう。 　蘇枋本人から告げられたように存分にからかわれたのだと知ってもなお、うらめしく思うことも怒りを感じることもなく、そのくちびるからこぼれた『だいすき』という言葉にむしろときめいてしまうほどで――とどのつまり、楡井は蘇枋のことがこころの奥底からどうしようもなくすきなのだ。 　だから、蘇枋になにをされようが言われようが、楡井はどうしたってゆるしてしまえる。いわゆる惚れた弱み、というやつである。 「ふふ」 　当の蘇枋はというと、楡井の様子を見守りながらこの状況をたのしんでいるようだった。蘇枋の手がベッドに預けられた楡井のまるい頭にそっとのばされ、金色の髪に指を絡ませながらやさしく撫でた。 「……じつはいうとね、にれ君がそうするようになるまえから、オレもときどき目を開けていたんだよ」 「えっええ……うそ……」 「うそじゃないよ」 「な、なんでです……？」 「今日のにれ君は『なんで』ばかりだなあ」 　蘇枋は目尻を下げながら、言葉をつづけた。 「にれ君とおんなじ理由かな」 「おんなじ理由……？」 「うん。ちゃんと見たかったんだ」 　蘇枋はふっと頬をゆるめると、楡井の真似をするようにベッドのほうへとからだをかたむけて、シーツへと頭を預けた。楡井はかすかにベッドが軋むのをシーツにふれている頬から感じとった。 　向かいあうようにしてふたりはおな じ体勢となる。まるで鏡を見ているかのように、たがいの目線もおなじ高さになった。 　そして、蘇枋はやわらかな声で目の前の楡井に告げた。 「ああ、オレ、この子と……にれ君とキスしてるんだ、って」 　ふたりきりのしずかな部屋の中、蘇枋の声が楡井の鼓膜をふるわせる。蘇枋の言葉に楡井はどきりとした。そして、その瞳にも。 　目の前にある蘇枋の瞳には、いつか見たのとおなじように楡井への想いがありありと表れていた。否、楡井を見つめるその瞳にはいつだって、いとおしさがこめられている。 「……にれ君もそうでしょう？」 　やっぱりこのひとには他者のこころの声が聞こえているにちがいない。楡井はふいにそう思った。それでもって、眼帯に隠されたその右目でなにもかも見透かしているというのもやはり事実なのだ。 「……ちがった？」 「……うう……そう、です……」 「ふふ、おなじきもちでいられることがうれしいよ」 　赤面しながらおずおずと頷いた楡井に、蘇枋はまるでこどものような屈託のない笑顔を見せた。 　その表情にもまた、楡井は胸をぎゅっと掴まれてしまう。蘇枋はふだん、どこかミステリアスで本心が見えないところがある。そんな側面を持ちあわせる彼が、こうしておのれの素直のきもちを惜しみなくまっすぐに伝えてくれるのだから、ずるいことこのうえない。 　もうすっかり慣れたと思っていたのに、いまは蘇枋の顔をまっすぐに見つめられそうになかった。 　楡井はふたたびシーツへと顔をうずめる。ばふん、と衣擦れの音がちいさく立った。 「にれ君？」
December 2, 2024 at 2:20 PM
ms-3-kk.bsky.social
すおにれ

【4〜7｜全14頁】
と。 「いつもかっこいいって思ってくれているんだ？」 「そ、それはもちろん……だれが見たって、蘇枋さんはかっこいいひとですもん」 「ほかのひとからどう見えているかはともかく、にれ君がそう思ってくれているならうれしいな」 　その言葉どおりにうれしげにふっと笑みをこぼした蘇枋のくちびるが、そっと近づいて楡井のそれへと重ねられる。楡井はきゅっと目を閉じた。 「……オレはいつもにれ君のこと、かわいいと思っているよ」 　楡井が次にまぶたを持ち上げたとき、楡井の目に映ったのは蘇枋の瞳だった。そこには彼が楡井に抱く感情が――楡井をいとおしいと思うきもちが包み隠されることなくあふれんばかりに表れていたものだから、楡井はいっそう顔を赤くして胸を高鳴らせてしまうのであった。 　 　 　 　ともあれそういうわけで最初はキスはおろかただ蘇枋を見つめるということにだってうろたえてしまっていた楡井であったけれど、ひととは順応していく生きものである。楡井は恋人として蘇枋と接していくことに日を追うごとに慣れていった。 　慣れる、という言葉を使ってしまうとなんだかロマンがないけれども、蘇枋と過ごす時間がけっして代わりばえのないものになっていったという意味ではない。 　ときめかなくなったわけでも、どきどきしなくなったわけでもない。蘇枋に対するときめきや蘇枋にどきどきすることを純粋にたのしむ余裕を持てるようになった、と表現するのが正しいだろうか。 　楡井にとって、蘇枋のとなりにいることが、蘇枋と ふれあうことが、しだいにごくごくしぜんなものへと変化していったのだ。日々の中にありふれて、特別でかけがえのないものに。 　 　 　 　そして、ある日。 　交わすのがもう何度目かわからないキスをしているときのこと。 　どうしてそうしたのかについてはもう覚えていないが、キスをしているときに楡井はふと目を開けたことがあった。蘇枋と初めてキスをしてきたときからずっと、かたくなに閉じていた目を。 　楡井の明るくなった視界に飛びこんできたのは、当然のごとく目の前にある蘇枋の顔、もとい、閉じられている左目のまぶたと、右目を覆っている黒い眼帯だった。 　うわ、と楡井は思わず声を出してしまいそうになるのを堪えた。 　といっても楡井のくちびるは蘇枋のそれにふさがれているわけだから、声が漏れることはなかったのだけれども。 　楡井は薄目を開きながら目の前に広がる光景をそのまま見つめた。焦点が合わないほどに間近から、数センチも離れていないところにある蘇枋の顔を。 　閉じられているまぶたを縁取る長いまつげ、無防備な表情。何度も何度もキスをしてきたというのに、キスをしているときの蘇枋の顔を見るのは初めてだった。 　――オレ、蘇枋さんとキスをしてるんだ。 　なにやら改めて認識させられたようか気がして、否、その事実を目の当たりにして、楡井はどうしようもなくどきどきとして――興奮した。 　ふたりがつきあい始めてからいくつかの季節が過ぎ たころのできごとであった。 　 　 　 　それはふいに訪れたできごとで無意識の中に起こったものだったけれど、それからというもの、楡井はキスを交わすさいにひっそりと目を開けて蘇枋の顔を見つめるという行為にまま及んでいる。 　キスをしているときの顔は、たがいの前でしか見せないもので、けっしてほかのだれも見ることが叶わないものである。 　それを見られるということを――自分がだれとキスをしているのかということを感じたくて、気づかれぬようこっそりと目を開ける。 　背徳感と呼ぶべきか、スリルと呼ぶべきか、そんなようなみょうな緊張感のともなうその行為を楡井はいつのまにか重ねるようになっていた。やみつき、というのはまさにこのことだろう。 　しかしながら、なによりも。 　――すきなひとと、キスをしている。 　そう改めて感じられることが、うれしくて、しあわせだった。 　つきあい始めたばかりのころは、ただ顔を見つめるだけでもはずかしくてたまらなかったというのに。キスをしているときにこっそりとその顔を見つめてはどきどきしているだなんて、あのころの自分が知ったらきっとおどろいてしまうにちがいない。 　そんなふうに思いながらも、楡井は今日も今日とてこっそりとひっそりと薄く開いた目で蘇枋の顔を見つめていた。 　放課後、楡井の部屋にふたりきり。おたがいのくちびるを重ねあわせ、舌を絡ませあう。息継ぐ間もないままに溺れるようにキスを深めていく中、楡井はうっ すらと目を開けて蘇枋の顔を盗み見た。 　自分は蘇枋とキスをしている、という事実。この目で見なくとも、ふれあうくちびると舌の感触が、頬に添えられた手のひらから伝わる体温が、抱きしめてくれる腕の力強さがそれを証明してくれるのは言うまでもない。けれど、それをこうしてこの目に捉えることでよりいっそう実感して、こころは踊り、からだが熱くなってしまうのだ。 　楡井はたまらないきもちになって、背中に回した手でぎゅっと蘇枋の制服を掴んだ。もっと、と、まるでねだるかのように。それを正しく受けとった蘇枋が、絡ませあった舌を応えるように強く吸う。んん、と楡井は濡れた声を漏らした。 　くちびるも舌も口内も、ふれあうすべてが熱くてやわらかくて、きもちがいい。心地いい高揚感にくらくらとしてしまう。酸素が足りなくてぼうっとして苦しいくらいだけれど、頭の中も胸の中も蘇枋でいっぱいになるこの感覚が楡井はこのうえなくすきだった。 　楡井はどきどきと胸を高鳴らせながら、薄目にいとしいひとを見つめ続ける。 　しかし、次の瞬間。 　ぱちり、と蘇枋のまぶたが開いた。 　前触れなどなにもなかった。うすく広がる楡井の視界に突然、彼とおなじ名前をした色の瞳が現れたのだ。 「ッ……！？」 　楡井はあまりのおどろきに、さけびそうになった。 　もちろんくちびるはふさがったままなので、楡井のさけび声は部屋の中に響き渡ることなく蘇枋の口内へと消えていったわけだが。 「――あはは、びっくりした？」 　キスを中断し、くちびるを離した蘇枋は、けろりとした様子で楡井に笑いかける。
December 2, 2024 at 2:17 PM