「食堂でトレイを渡されたら受け取るに決まっておろう! 何だそれは!!」
「因みに鳥の種類によっては、餌を受け取ってメスが満足したら即交尾って場合もある。オスはOKを貰えるまでせっせと餌を運ぶんだ。君の山盛りの食事は……そういうことだろうね」
「なっ!?」
「オスからもらった餌を他のオスに渡す。なるほど、確かに浮気といっても良いかもね。鳥の場合だけど」
「動物の作法なんて知るわけないだろう!!」
「食堂でトレイを渡されたら受け取るに決まっておろう! 何だそれは!!」
「因みに鳥の種類によっては、餌を受け取ってメスが満足したら即交尾って場合もある。オスはOKを貰えるまでせっせと餌を運ぶんだ。君の山盛りの食事は……そういうことだろうね」
「なっ!?」
「オスからもらった餌を他のオスに渡す。なるほど、確かに浮気といっても良いかもね。鳥の場合だけど」
「動物の作法なんて知るわけないだろう!!」
「説明しよう!」
「わっ、ダちゃん!?」
「やあやあ。検査の結果、やっぱりビが最後の一人だったよ。医務室で投薬済み。大暴れした所為で打った鎮静剤が効いてるから暫く起きないだろうけど」
「それで? アレは何だったのだ」
「せっかちだなあ。まず聞きたいんだけどさ。君、ここ暫く食堂で食事を受け取るとき、担当はビだけだったんじゃないかい?」
「む? 確かに、いわれてみればそうだな……」
「え、そうなの? 本人の希望で暫くは裏方中心って聞いてたけど? 実際、受付では見てないし」
「ドと食事する時しか見かけないな」
「何……?」
「説明しよう!」
「わっ、ダちゃん!?」
「やあやあ。検査の結果、やっぱりビが最後の一人だったよ。医務室で投薬済み。大暴れした所為で打った鎮静剤が効いてるから暫く起きないだろうけど」
「それで? アレは何だったのだ」
「せっかちだなあ。まず聞きたいんだけどさ。君、ここ暫く食堂で食事を受け取るとき、担当はビだけだったんじゃないかい?」
「む? 確かに、いわれてみればそうだな……」
「え、そうなの? 本人の希望で暫くは裏方中心って聞いてたけど? 実際、受付では見てないし」
「ドと食事する時しか見かけないな」
「何……?」
「ごめんね」
「ちゃんと説明しろっ」
「だよねー。えっと、ちょっと前にいつものがあってね?」
「ああ、解決したんだろう?」
「そうなんだけど、何人かの鯖に影響が残っちゃって」
「ほーう? どんな?」
「動物っぽい行動をしちゃうんだよね。犬みたいに遠吠えしたり、猫みたいに爪とぎしたり、ウサギみたいにスタンピング――足をダンって鳴らしたり……。ウミガメって毎日泣いちゃうんだね。初めて知ったよ」
「なるほど?」
「影響は自然治癒しなくてさ。しかも本人は自覚が無いから、とにかく走り回って見つけた端から治療してたんだ。でも、最後のひとりがビとはまったく気付かなかったよ」
「ごめんね」
「ちゃんと説明しろっ」
「だよねー。えっと、ちょっと前にいつものがあってね?」
「ああ、解決したんだろう?」
「そうなんだけど、何人かの鯖に影響が残っちゃって」
「ほーう? どんな?」
「動物っぽい行動をしちゃうんだよね。犬みたいに遠吠えしたり、猫みたいに爪とぎしたり、ウサギみたいにスタンピング――足をダンって鳴らしたり……。ウミガメって毎日泣いちゃうんだね。初めて知ったよ」
「なるほど?」
「影響は自然治癒しなくてさ。しかも本人は自覚が無いから、とにかく走り回って見つけた端から治療してたんだ。でも、最後のひとりがビとはまったく気付かなかったよ」
「全然わからーん!! 話が通じんぞコイツ。助けろカ~!」
「テメェ、この期に及んで……!」
「ストップーーー! そこまで!」
「確保ぉ! 医務室に担ぎ込んで検査して!」
乱入してきた鱒がビを確保して指示を飛ばす。
「おい、はなせっ」
「はいはい、暴れない。おとなしくしようね~」
「くそっ。おい、ド! 話は終わってねえからな!!」
浮気したら分かってんだろうな、と言葉を残してビは技術顧問の引率のもと数人がかりで運ばれて行った。
「全然わからーん!! 話が通じんぞコイツ。助けろカ~!」
「テメェ、この期に及んで……!」
「ストップーーー! そこまで!」
「確保ぉ! 医務室に担ぎ込んで検査して!」
乱入してきた鱒がビを確保して指示を飛ばす。
「おい、はなせっ」
「はいはい、暴れない。おとなしくしようね~」
「くそっ。おい、ド! 話は終わってねえからな!!」
浮気したら分かってんだろうな、と言葉を残してビは技術顧問の引率のもと数人がかりで運ばれて行った。
「問題ない」
「流石カ~! 頼む!!」
二割ほど食べ進めた膳を既に食べ終えたカの方へ寄せようとした時だった。
――バンッ
一陣の風が吹き、テーブルを大きな手が叩く。
「どういうつもりだ? ド」
件の男が怒り心頭という様相で立っていた。
「堂々と浮気とは良い度胸だな……?」
「はあ!?」
「俺を受け入れないのは良い。甲斐性が足りてねえって事だろう。お前が満足するまでいくらでも尽くす。だが、俺の気持ちに応えておいて他の男にアプローチするのは違うだろう」
「いやいや、何の話だ!? 気持ち!? 応える!!?」
「問題ない」
「流石カ~! 頼む!!」
二割ほど食べ進めた膳を既に食べ終えたカの方へ寄せようとした時だった。
――バンッ
一陣の風が吹き、テーブルを大きな手が叩く。
「どういうつもりだ? ド」
件の男が怒り心頭という様相で立っていた。
「堂々と浮気とは良い度胸だな……?」
「はあ!?」
「俺を受け入れないのは良い。甲斐性が足りてねえって事だろう。お前が満足するまでいくらでも尽くす。だが、俺の気持ちに応えておいて他の男にアプローチするのは違うだろう」
「いやいや、何の話だ!? 気持ち!? 応える!!?」
始めは小鉢がひとつ多い程度だったのだ。先日の迷惑代かと流していたら徐々に品数が増え、量が増え、気付けば一人だけ特別メニューのような有様になっている。
それもこれも、最近の食事の配給を担当しているあの男の仕業としか思えない。
始めは小鉢がひとつ多い程度だったのだ。先日の迷惑代かと流していたら徐々に品数が増え、量が増え、気付けば一人だけ特別メニューのような有様になっている。
それもこれも、最近の食事の配給を担当しているあの男の仕業としか思えない。
あれから数日経ち、鱒はトラブルは解決したもののなにやら後始末でバタバタしているらしくドの休暇は延長戦に突入していた。本来であればのびのびと自由を謳歌しているところだがその顔には深い溝が刻まれている。ドもまたトラブル――のようなものに直面していたのだ。
「カ、おかしいと思わんか」
「ふむ」
「わし様たちは同じメニューを頼んだ。そうだな?」
「ああ。日替わりAだな」
「だよな!? だが、これは誰が見ても同じものとは思わんぞ!」
「言われてみれば、品数が多いか?」
「量も多いだろう!!」
食堂の一角で向かい合わせに座る二人のトレイの上。其処には確かに差があった。
あれから数日経ち、鱒はトラブルは解決したもののなにやら後始末でバタバタしているらしくドの休暇は延長戦に突入していた。本来であればのびのびと自由を謳歌しているところだがその顔には深い溝が刻まれている。ドもまたトラブル――のようなものに直面していたのだ。
「カ、おかしいと思わんか」
「ふむ」
「わし様たちは同じメニューを頼んだ。そうだな?」
「ああ。日替わりAだな」
「だよな!? だが、これは誰が見ても同じものとは思わんぞ!」
「言われてみれば、品数が多いか?」
「量も多いだろう!!」
食堂の一角で向かい合わせに座る二人のトレイの上。其処には確かに差があった。
「雑にも程がある! 客を何だと思っとるんだ。責任者を出せ、責任者!」
「うるせえな。零れてねえだろうが」
「そういう問題ではなぁーい! スタッフにどういう教育しとるんだ!?」
「わかった、わかった。詫びにこれをやるから騒ぐな」
「何だその態度は! わし様がクレーマーみたいだろうが!!」
「……いらねえのか?」
「そうはいっとらんだろっ」
「二人とも落ち着いてくれ」
「ふん! エに免じて収めてやるが、その乱暴者には接客態度をきちんと改めさせろよ!!」
言い捨てたドはカウンターからできるだけ遠くの席へと向かう。手にしたトレイには日替わりBと、ビが置いた青い小鉢がのっていた。
「雑にも程がある! 客を何だと思っとるんだ。責任者を出せ、責任者!」
「うるせえな。零れてねえだろうが」
「そういう問題ではなぁーい! スタッフにどういう教育しとるんだ!?」
「わかった、わかった。詫びにこれをやるから騒ぐな」
「何だその態度は! わし様がクレーマーみたいだろうが!!」
「……いらねえのか?」
「そうはいっとらんだろっ」
「二人とも落ち着いてくれ」
「ふん! エに免じて収めてやるが、その乱暴者には接客態度をきちんと改めさせろよ!!」
言い捨てたドはカウンターからできるだけ遠くの席へと向かう。手にしたトレイには日替わりBと、ビが置いた青い小鉢がのっていた。
やあやあ。すっかり味を占めておやつの時間を心待ちするようになってしまったよ。
おや、珍しい。期待の新人くんはいないのかい?
ああ、なるほど。なるほどね、甘いのを希望したのは確かに私だけど、これは予定外。
厨房のご主人、悪いけど濃い目のストレートティーをいただけるかな。うふふ、冗談だとも。君も一騎当千の英雄だとわかっているさ。
ありがとう。美味しそうだけど、今日のお茶菓子は遠慮しておくよ。……もう胸焼けしそうなくらいもらったからね。
やあやあ。すっかり味を占めておやつの時間を心待ちするようになってしまったよ。
おや、珍しい。期待の新人くんはいないのかい?
ああ、なるほど。なるほどね、甘いのを希望したのは確かに私だけど、これは予定外。
厨房のご主人、悪いけど濃い目のストレートティーをいただけるかな。うふふ、冗談だとも。君も一騎当千の英雄だとわかっているさ。
ありがとう。美味しそうだけど、今日のお茶菓子は遠慮しておくよ。……もう胸焼けしそうなくらいもらったからね。
そうかい? そこまで言うなら、次は甘くしてくれると嬉しいなあ。ほろ苦いカラメルも悪くないけど、やっぱりこういうのは砂糖菓子のように甘いのが一番だろう?
うふふ、そういう意味ではなかったけれど、せっかくのご厚意だ。明日のおやつにお呼ばれしよう。
うんうん。腕によりをかけたもてなしとは楽しみだ。そうと決まれば、そろそろ部屋に戻ると良い。寝不足で味がぼやけていたら残念だからね。
おやすみ、良い夢を。――なんてね。
そうかい? そこまで言うなら、次は甘くしてくれると嬉しいなあ。ほろ苦いカラメルも悪くないけど、やっぱりこういうのは砂糖菓子のように甘いのが一番だろう?
うふふ、そういう意味ではなかったけれど、せっかくのご厚意だ。明日のおやつにお呼ばれしよう。
うんうん。腕によりをかけたもてなしとは楽しみだ。そうと決まれば、そろそろ部屋に戻ると良い。寝不足で味がぼやけていたら残念だからね。
おやすみ、良い夢を。――なんてね。
おや、不満げな顔だね。でもこれが答えだよ。普通の人は嫌いな人を助けないから本当は好意があるんだ、という錯覚を起こすらしいけどね。君は違う。なぜ彼の人を庇ったのか、と考えたから分からなくなっただけ。君は女子供だろうと憎んだ敵だろうと同じ状況なら庇う、それだけさ。なぜなら――
ふふっ、そのとおりだとも。さて、納得いただけたかな?
そう。なら良かった。望み通り、症状すべてに合理的な説明がついたわけだ。君の眉間にはまだ皺が寄ってるけどね。
おや、不満げな顔だね。でもこれが答えだよ。普通の人は嫌いな人を助けないから本当は好意があるんだ、という錯覚を起こすらしいけどね。君は違う。なぜ彼の人を庇ったのか、と考えたから分からなくなっただけ。君は女子供だろうと憎んだ敵だろうと同じ状況なら庇う、それだけさ。なぜなら――
ふふっ、そのとおりだとも。さて、納得いただけたかな?
そう。なら良かった。望み通り、症状すべてに合理的な説明がついたわけだ。君の眉間にはまだ皺が寄ってるけどね。
信じられないのかい? ひどいなあ。まずは「なるほど」と頷いてみるのはどうかな。こういう積み重ねが齟齬をなくすのさ! 何だって? 自己暗示? 違う違う。相談相手を信じなさい。ほらほら、さあさあ。
そうそう、いい感じだ。おや、カップが空だね。遠慮しないで飲んでほしい。今日は特別だ。
さて、目で追いかけてしまうのも同じだね。怪しい動きはないかと監視しているのさ。
うんうん。表情はイマイチだけど良いね。その調子、その調子。
信じられないのかい? ひどいなあ。まずは「なるほど」と頷いてみるのはどうかな。こういう積み重ねが齟齬をなくすのさ! 何だって? 自己暗示? 違う違う。相談相手を信じなさい。ほらほら、さあさあ。
そうそう、いい感じだ。おや、カップが空だね。遠慮しないで飲んでほしい。今日は特別だ。
さて、目で追いかけてしまうのも同じだね。怪しい動きはないかと監視しているのさ。
うんうん。表情はイマイチだけど良いね。その調子、その調子。
では一つずつ片付けようか。まずは気づけば相手のことを考えてしまう症状からだ。これは簡単さ。君は彼の人を信用してないんだ。何か企んでいるのでは、何か事を起こすのではと疑ってはついつい考えてしまうのさ。
そんなことしなくても叩き潰せるって? あはは、すごい自信だ! まあ、そうだね。君の歩んだ旅路がそれを証明している。うん、いいね。そういうのは好きだよ。ああ、なに。これはボクの趣味嗜好(好み)の話だ。気にしないでほしい。
話を戻すよ。
では一つずつ片付けようか。まずは気づけば相手のことを考えてしまう症状からだ。これは簡単さ。君は彼の人を信用してないんだ。何か企んでいるのでは、何か事を起こすのではと疑ってはついつい考えてしまうのさ。
そんなことしなくても叩き潰せるって? あはは、すごい自信だ! まあ、そうだね。君の歩んだ旅路がそれを証明している。うん、いいね。そういうのは好きだよ。ああ、なに。これはボクの趣味嗜好(好み)の話だ。気にしないでほしい。
話を戻すよ。
……話を整理してもいいかな? 良かった、齟齬があったらまずいからね。つまり、君は先ほど挙げた症状に合理的な理由が欲しい、ということで良いのかな?
うん。認識が合っているようだなによりだ。しかし、理由かあ。ねえ、やっぱりそれって恋――じゃあないんだよね、うん。分かった。分かったよ。お茶のおかわりはいかがかな?
うーん。これは想定外。どうしたものか…………まあ、いっか。道行きが変わろうとも、きっと向かう先は同じだろうし。ああ、いやなに、コッチの話さ。
……話を整理してもいいかな? 良かった、齟齬があったらまずいからね。つまり、君は先ほど挙げた症状に合理的な理由が欲しい、ということで良いのかな?
うん。認識が合っているようだなによりだ。しかし、理由かあ。ねえ、やっぱりそれって恋――じゃあないんだよね、うん。分かった。分かったよ。お茶のおかわりはいかがかな?
うーん。これは想定外。どうしたものか…………まあ、いっか。道行きが変わろうとも、きっと向かう先は同じだろうし。ああ、いやなに、コッチの話さ。
ふむふむ。そうかい。なるほどね。……こいつは予想外。恋バナとは驚きだ。
えっ、違うのかい? だって要約すれば「気づけば相手のことを考えている」「何となく目で追っている」「傷ついてほしくない」ってことだろ? そんなこと言ってないって? またまた恥ずかしがらなくても、えっ本気で言ってる? ほんとに??
ああ、そうだね。此処までは土壌の説明で肝心の種の話がまだだったね。どうぞ、続けて。
んんん?
ふむふむ。そうかい。なるほどね。……こいつは予想外。恋バナとは驚きだ。
えっ、違うのかい? だって要約すれば「気づけば相手のことを考えている」「何となく目で追っている」「傷ついてほしくない」ってことだろ? そんなこと言ってないって? またまた恥ずかしがらなくても、えっ本気で言ってる? ほんとに??
ああ、そうだね。此処までは土壌の説明で肝心の種の話がまだだったね。どうぞ、続けて。
んんん?
「ビさあ」
「なんだ?」
「ドを問い詰めようとは思わないの? 事故だけど毎回巻き込まれてるし、流石に怪しいとは思ってるでしょ」
「まあ、確実にトンチキの手回しだろうな」
「ならなんで?」
「初めに関わるなと言われちまったからな。やってる理由は知らねえが下手に問い詰めても拗れるだけだ。実被害は俺だけだし問題ねえ」
「でもさあ」
「それに」
「ん?」
「“コレ”があるうちはアイツの関心が俺に向いてるってわかるだろ?」
「えっ」
「今はそれで十分だ」
男の顔には、普段の快活な笑顔は見る影もなく、ただ仄暗い微笑みが浮かんでいた。
――もう普通に殴り合ってくれた方が健全だよ!
鱒の受難は続く。
「ビさあ」
「なんだ?」
「ドを問い詰めようとは思わないの? 事故だけど毎回巻き込まれてるし、流石に怪しいとは思ってるでしょ」
「まあ、確実にトンチキの手回しだろうな」
「ならなんで?」
「初めに関わるなと言われちまったからな。やってる理由は知らねえが下手に問い詰めても拗れるだけだ。実被害は俺だけだし問題ねえ」
「でもさあ」
「それに」
「ん?」
「“コレ”があるうちはアイツの関心が俺に向いてるってわかるだろ?」
「えっ」
「今はそれで十分だ」
男の顔には、普段の快活な笑顔は見る影もなく、ただ仄暗い微笑みが浮かんでいた。
――もう普通に殴り合ってくれた方が健全だよ!
鱒の受難は続く。
そう言ってドも席から立ち上がると、金と小はまだ残るらしく「おう、楽しかったぜ」「はい。またの機会に」と挨拶を返し、穏やかに見送った。
「ドの旦那よお」
数歩ほど進んだところで金からゆるりと声が掛かる。振り返るとそこには、足柄山の戦士がいた。
「鱒に迷惑かける“おいた”はほどほどにな」
諌めるような言葉と鋭い二対の視線に肩を竦めると、手を後ろ手で振り、別れを告げた。
――嗚呼、この手のタイプはやはり馬が合わない。
次の人選はもう少し考えなければ、と食堂からの道すがらドは思考を巡らせた。
そう言ってドも席から立ち上がると、金と小はまだ残るらしく「おう、楽しかったぜ」「はい。またの機会に」と挨拶を返し、穏やかに見送った。
「ドの旦那よお」
数歩ほど進んだところで金からゆるりと声が掛かる。振り返るとそこには、足柄山の戦士がいた。
「鱒に迷惑かける“おいた”はほどほどにな」
諌めるような言葉と鋭い二対の視線に肩を竦めると、手を後ろ手で振り、別れを告げた。
――嗚呼、この手のタイプはやはり馬が合わない。
次の人選はもう少し考えなければ、と食堂からの道すがらドは思考を巡らせた。
「そこで証拠とか言っちゃうのもさあ――」
突如、会話を断ち切るように電子音が鳴り響いた。
鱒はポケットから端末を取り出すと「うわっ、時間切れだ」と立ち上がる。
「くっ……! 今日は引き上げるけど、次こそは白状させるから!!」
首洗って待っとけよバカぁ! と捨て台詞を残し、来た時のような慌ただしさで駆けて行く。恐らく技術顧問に合流して事後処理を行うのであろう。
「そこで証拠とか言っちゃうのもさあ――」
突如、会話を断ち切るように電子音が鳴り響いた。
鱒はポケットから端末を取り出すと「うわっ、時間切れだ」と立ち上がる。
「くっ……! 今日は引き上げるけど、次こそは白状させるから!!」
首洗って待っとけよバカぁ! と捨て台詞を残し、来た時のような慌ただしさで駆けて行く。恐らく技術顧問に合流して事後処理を行うのであろう。
「さっきの警報、もしかしてビの旦那がらみかい?」
「……! まさか例のアレですか?」
「そう」
金の問いに力なく頷いた鱒は言葉を続ける。
「ビだけの時は何もなかったのに“なぜか”ドが来てから最低でも月一回は起きる偶然の事故・ただし被害者の中には必ずビ事件がまた起きたの。もう通算何回目か数えるのも止めちゃった……。最初は心配してたんだけど、最近は毎回傷一つない上にケロッとしているビにも引いてる。早く終息してほしい」
「……なんでわし様を見る?」
鱒のじとりとした視線が刺さったドは眉間に皺を寄せる。
「さっきの警報、もしかしてビの旦那がらみかい?」
「……! まさか例のアレですか?」
「そう」
金の問いに力なく頷いた鱒は言葉を続ける。
「ビだけの時は何もなかったのに“なぜか”ドが来てから最低でも月一回は起きる偶然の事故・ただし被害者の中には必ずビ事件がまた起きたの。もう通算何回目か数えるのも止めちゃった……。最初は心配してたんだけど、最近は毎回傷一つない上にケロッとしているビにも引いてる。早く終息してほしい」
「……なんでわし様を見る?」
鱒のじとりとした視線が刺さったドは眉間に皺を寄せる。
「おいおい鱒、わし様は食事中の語らいも許されんのか?」
「そうじゃない! そうじゃないけど!! 人選に作為を感じるんだよっ」
「穿ち過ぎだろう。友は“偶々”用事でいなかったのだし、二人は“偶然”食事の時間が被って同席したにすぎん。おかげで有意義な時間を過ごせたがな!」
「何も信じられない。すべてが怪しく聞こえる……。でも、声を掛けたのはドじゃなくて金なんだもんね。やっぱり偶然、かな……?」
勢いをすっかり無くした鱒はそれでも「いや」「だけど」「でも」と言っては、ああでもないこうでもないと呟いている。
「おいおい鱒、わし様は食事中の語らいも許されんのか?」
「そうじゃない! そうじゃないけど!! 人選に作為を感じるんだよっ」
「穿ち過ぎだろう。友は“偶々”用事でいなかったのだし、二人は“偶然”食事の時間が被って同席したにすぎん。おかげで有意義な時間を過ごせたがな!」
「何も信じられない。すべてが怪しく聞こえる……。でも、声を掛けたのはドじゃなくて金なんだもんね。やっぱり偶然、かな……?」
勢いをすっかり無くした鱒はそれでも「いや」「だけど」「でも」と言っては、ああでもないこうでもないと呟いている。