リターナルびんが隠れテーマになっている、原稿用紙5枚分くらいの掌編が2作収録。もうひとりの松井玲奈さんの小説がしっかりまとまってすっきりと読ませる分、大島さんのはやや分かりづらく文章もぎこちない感じが残ったが、もうすこし枚数のある作品を読んでみたい。せめて30枚くらい。
リターナルびんが隠れテーマになっている、原稿用紙5枚分くらいの掌編が2作収録。もうひとりの松井玲奈さんの小説がしっかりまとまってすっきりと読ませる分、大島さんのはやや分かりづらく文章もぎこちない感じが残ったが、もうすこし枚数のある作品を読んでみたい。せめて30枚くらい。
『穢れなき者へ』は、メイン州の島の沖で七つの遺体が発見される一方、父親のDVに逃れた少年が廃屋に隠れていた謎の娘と出会った……というふたつの出来事が交錯するミステリ。娘が手斧をもっていたことから、少年は彼女をハチェットと呼んだ。
『穢れなき者へ』は、メイン州の島の沖で七つの遺体が発見される一方、父親のDVに逃れた少年が廃屋に隠れていた謎の娘と出会った……というふたつの出来事が交錯するミステリ。娘が手斧をもっていたことから、少年は彼女をハチェットと呼んだ。
で、第六作『葬儀屋の未亡人』加賀山卓朗訳(早川書房のち文庫)の訳者あとがきは次の一文ではじまっている。
「昔、ディック・フランシスの最初の一冊をこれから読む人は幸いであると誰かが書いていて、なるほどと思ったことがある。(続く
で、第六作『葬儀屋の未亡人』加賀山卓朗訳(早川書房のち文庫)の訳者あとがきは次の一文ではじまっている。
「昔、ディック・フランシスの最初の一冊をこれから読む人は幸いであると誰かが書いていて、なるほどと思ったことがある。(続く
そんなフレーズがふと浮かぶ。家族や友人に対して隠しておきたい、もしくは表には出さずにいる気持ち、たとえば負い目、後悔、傷ついた自尊心、あとで真意に気づいたときの思いなどから生まれる感情が行間から読み取れるのだった。乱暴な指摘かもしれないし、もっと読んでみなくてはそれが妥当な指摘か分からないが。
そんなフレーズがふと浮かぶ。家族や友人に対して隠しておきたい、もしくは表には出さずにいる気持ち、たとえば負い目、後悔、傷ついた自尊心、あとで真意に気づいたときの思いなどから生まれる感情が行間から読み取れるのだった。乱暴な指摘かもしれないし、もっと読んでみなくてはそれが妥当な指摘か分からないが。
ニューヨーカー誌などで活躍した書き手で、没後55年。「ミステリマガジン」をはじめいろいろな雑誌で訳されてはいたけど、まとめた本の形でしっかりと紹介されなかった。
ニューヨーカー誌などで活躍した書き手で、没後55年。「ミステリマガジン」をはじめいろいろな雑誌で訳されてはいたけど、まとめた本の形でしっかりと紹介されなかった。
つまり、近年大流行のモキュメンタリーもの小説のさきがけなのだ。
このサンダーズのデビュー作はMWA最優秀新人賞を受賞し、映画化もされた。
で、福島正実の訳者あとがきによると、前年発表のマイクル・クライトン『アンドロメダ病原体』がドキュメンタリー・スタイルの小説として注目されたとある。wikiにもモキュメンタリーの嚆矢と書かれている。
つまり、近年大流行のモキュメンタリーもの小説のさきがけなのだ。
このサンダーズのデビュー作はMWA最優秀新人賞を受賞し、映画化もされた。
で、福島正実の訳者あとがきによると、前年発表のマイクル・クライトン『アンドロメダ病原体』がドキュメンタリー・スタイルの小説として注目されたとある。wikiにもモキュメンタリーの嚆矢と書かれている。
小説の内容とは直接関係ないのだけど、このなかの「作品」というケッチャムの分身とおぼしき語り手が登場する短篇を読んでいたら、
〈ラリー・マクマートリーの『ロンサム・ダブ』なんかは文句なしによくできてる。〉
(44ページ)とあるので驚いた。現代ウェスタンを代表する長編とされているこの大作、残念ながら邦訳されないまま。どこかで出してくれないかな。
小説の内容とは直接関係ないのだけど、このなかの「作品」というケッチャムの分身とおぼしき語り手が登場する短篇を読んでいたら、
〈ラリー・マクマートリーの『ロンサム・ダブ』なんかは文句なしによくできてる。〉
(44ページ)とあるので驚いた。現代ウェスタンを代表する長編とされているこの大作、残念ながら邦訳されないまま。どこかで出してくれないかな。
これ、人は自分の存在や価値や人生などを他人によって見られ評価されたり定められたりする、そのことが地獄だ(最悪だ)という意味なのか。ただしい理解か怪しいけど。
それでも、みなそれぞれの存在、評価軸、人生観などもともと「ばらばら」だとしたら、自分の最悪をひきうけ「地獄でなぜ悪い」と星野源は歌い放ったのかな。
と、こじつけ解釈してみた。
ちょうどマルク・ラーベ『17の鍵』酒寄進一訳(創元推理文庫)のエピグラフがこの言葉だった。
これ、人は自分の存在や価値や人生などを他人によって見られ評価されたり定められたりする、そのことが地獄だ(最悪だ)という意味なのか。ただしい理解か怪しいけど。
それでも、みなそれぞれの存在、評価軸、人生観などもともと「ばらばら」だとしたら、自分の最悪をひきうけ「地獄でなぜ悪い」と星野源は歌い放ったのかな。
と、こじつけ解釈してみた。
ちょうどマルク・ラーベ『17の鍵』酒寄進一訳(創元推理文庫)のエピグラフがこの言葉だった。
カトリーヌ・アルレーに同名作『地獄でなぜ悪い』(創元推理文庫)がある(同名邦画の原作ではない)。1978年刊で邦訳は1979年。
L'enfer, pourquoi pas。 L'enfer は地獄、pourquoi pas は英語だとwhy notなのでそのままの邦題。
アルレーらしいサスペンスだ。
青年が許婚者を唯一の親戚である母方の祖母にひきあわせようと旅行していたところ、事故で足を骨折してしまった。そこで、ある男に助けられたが、じつは彼は刑務所を脱獄した殺人犯として手配中だった……。
カトリーヌ・アルレーに同名作『地獄でなぜ悪い』(創元推理文庫)がある(同名邦画の原作ではない)。1978年刊で邦訳は1979年。
L'enfer, pourquoi pas。 L'enfer は地獄、pourquoi pas は英語だとwhy notなのでそのままの邦題。
アルレーらしいサスペンスだ。
青年が許婚者を唯一の親戚である母方の祖母にひきあわせようと旅行していたところ、事故で足を骨折してしまった。そこで、ある男に助けられたが、じつは彼は刑務所を脱獄した殺人犯として手配中だった……。
何年にもわたってシジュウカラを調査し、鳥たちが言葉やジェスチャーを使っていることをつきとめた動物学者による研究エッセイで、どういう方法をとって証明したのか、そのすべてを紹介している。
言語をもつのは動物のうち人間だけ、というそれまでの定説を鈴木俊貴さんはくつがえしたのだ。
何年にもわたってシジュウカラを調査し、鳥たちが言葉やジェスチャーを使っていることをつきとめた動物学者による研究エッセイで、どういう方法をとって証明したのか、そのすべてを紹介している。
言語をもつのは動物のうち人間だけ、というそれまでの定説を鈴木俊貴さんはくつがえしたのだ。
ぱらっとめくった『冒険小説論』のアンブラーに触れた章「不安と疑惑の時代」のなか、
「大衆小説が常に時代の空気を敏感に反映するものだとするならばそれも当然であり、ヒーロー小説も例外ではない」
と記してあり、いままた世界を「不安と疑惑」が覆う2025年のヒーロー小説はどんな空気や影を反映するようになるのか、などと思う。
ぱらっとめくった『冒険小説論』のアンブラーに触れた章「不安と疑惑の時代」のなか、
「大衆小説が常に時代の空気を敏感に反映するものだとするならばそれも当然であり、ヒーロー小説も例外ではない」
と記してあり、いままた世界を「不安と疑惑」が覆う2025年のヒーロー小説はどんな空気や影を反映するようになるのか、などと思う。
そんななか下村思游さんによる〈国会図書館デジタルコレクションの全文検索を用いた「奇想」および「奇想小説」の語誌の概観〉はすごく興味深いものだった。そうか『ミステリマガジン』で奇想小説特集があったのか。
そんななか下村思游さんによる〈国会図書館デジタルコレクションの全文検索を用いた「奇想」および「奇想小説」の語誌の概観〉はすごく興味深いものだった。そうか『ミステリマガジン』で奇想小説特集があったのか。
『パパイラスの舟』に収録の「22 ぼろ船からは鼠が逃げる ウェストレイクの身辺調査」を読む。ドナルド・E・ウェストレイクに関して、短篇をはじめとする作品のなかに彼自身の姿を見つけだし、取りあげている回。明らかにウェストレイクの体験が作中人物に投影されていると分かるのだ。
この本からどれほど学んだか、わからないが、いまだに刺激的で、比較的安く手に入れられるときにウェストレイクの短編集を買っておかなかったことをあらためて悔む。
『パパイラスの舟』に収録の「22 ぼろ船からは鼠が逃げる ウェストレイクの身辺調査」を読む。ドナルド・E・ウェストレイクに関して、短篇をはじめとする作品のなかに彼自身の姿を見つけだし、取りあげている回。明らかにウェストレイクの体験が作中人物に投影されていると分かるのだ。
この本からどれほど学んだか、わからないが、いまだに刺激的で、比較的安く手に入れられるときにウェストレイクの短編集を買っておかなかったことをあらためて悔む。
大橋由香子『翻訳する女たち 中村妙子・深町眞理子・小尾芙佐・松岡享子』(エトセトラブックス)
加賀山卓朗 & ♪akira + 松島由林 (イラスト)『警察・スパイ組織 解剖図鑑』(エクスナレッジ)
大橋由香子『翻訳する女たち 中村妙子・深町眞理子・小尾芙佐・松岡享子』(エトセトラブックス)
加賀山卓朗 & ♪akira + 松島由林 (イラスト)『警察・スパイ組織 解剖図鑑』(エクスナレッジ)
これは銀行に押し入る場面から幕をあけるケイパー(強奪犯罪)もので単発作だった。だが、のちに〈オペレーション〉シリーズの1作に組み込まれ、1972年に同じ叢書からふたたび刊行されたという経緯がある。
邦訳は1979年ハヤカワミステリ#1332〈千の顔をもつ男ドレーク〉シリーズの1冊として刊行された。
これは銀行に押し入る場面から幕をあけるケイパー(強奪犯罪)もので単発作だった。だが、のちに〈オペレーション〉シリーズの1作に組み込まれ、1972年に同じ叢書からふたたび刊行されたという経緯がある。
邦訳は1979年ハヤカワミステリ#1332〈千の顔をもつ男ドレーク〉シリーズの1冊として刊行された。