きゃべころ
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レイチュリ(2/2)
「喧嘩？」 「多分姉もどうして甘くなるのかは分からなかったんだ。だから、よく分かんないけどこれはサボテンだって言う姉に納得いかなくて、甘くて美味しいその実を探しに遠くまで行って、ふふ、それで、危ないでしょって怒られて喧嘩した」 「ふ、君らしい」 　さぞ好奇心旺盛で、冒険したがりの子どもだったろう。狡猾で飄々とした仮面を被ってはいるが、この男は存外そういう所がある。 　危険なことをするのは昔から変わらない。姉の苦労が目に浮かぶ。きっとその子どもが甘い実を探しに飛び出したのは、姉のためでもあっただろうから。 　――名前を呼びたい。 　喉の奥から、衝動のように迫り上がる。 　彼がぽつりぽつりと記憶を語る度、レイシオは胸が締め付けられる。愛おしくて、切なくて、大切な宝物を見せてくれている事実が、どうしようもなく嬉しい。 　以前、彼は本名の由来を語ったことがある。地母神の祝福を受けた子ども。言語や伝統を紐解いていけば、そうしなくとも彼の隠された個人情報にアクセスすれば知ることは容易だろう。でも、レイシオはそうしたくなかった。彼の口から、いつか教えて貰える日を心待ちにしていた。 　何年でも待つつもりでいた。むやみに踏み込んではならない領域であることは、理解している。 「…………」 　はく、と衝動のまま口を開いて、理性で噛み殺す。アベンチュリンがこちらを見ていないことに安堵した。 　 　――何年も待つつもりでいた。 　だが、どうやらレイシオの忍耐力は、本人が思うより脆いらしい。 　君の名前を教えて欲しい。 　そのひとことを、レイシオはずっと、ずっと、言いたくてたまらなかった。
November 22, 2025 at 4:23 AM