本城あきら
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本城あきら
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三度の飯とおやつが好き
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グラデかー！いいね やってみよかな
November 18, 2025 at 12:41 PM
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(3/3)
「さっき髭切さんが言ってたことなんですけど……『嫌な予感』って、何ですか」 「……ああ」 電気が消えるみたいに、髭切さんが表情を消した。にこやかな雰囲気を取り払うと、『膝丸』と顔立ちが似ているのがよくわかる。 髭切さんが、舌先で下唇を舐めた。 「ううん、そうだなあ。説明が難しいんだけど。君にわかる言葉で言うなら……なんだろう。お告げ？」 「兄者、それはむしろわかりにくいのではないか？たとえば直感、無意識の暗黙知、宇宙より届く大いなる声、明け方の荷蕖、星図、あるいは世界にただ一つきりのひらかれた窓」 「そうかもね。えーっと……」 「膝円の膝丸だ、兄者」 また増えた。なんとなく慣れてきたぞこの流れ。 薄丸さんが「あれは207番の俺だ。引継係所属の俺の中では最も古株だな」と教えてくれた。 わたしは薄丸さんに耳打ちする。 「……あと何口いるか訊いてもいいですか？」 「引継係に|膝丸《おれ》はあと四口いる。うち三口は別の調査中だから今回の話には出てこない」 「なるほど」 つまり最大であと一口出てくるんだな。 今のところ見分けがつかないし覚えられる気もしない。だいたい、同じ部署に七口も同じ男士がいて混乱しないのだろうか。人員調整でもっとばらけさせたりしそうなものだけれど。 まあでも、刀剣男士特有の超常現象を扱う部署には御神刀霊刀ばっかり詰めていると聞くし、きっと『膝丸』が特別引継に強いとか、そういう理由があるに違いない。 薄丸さんが咳払いをした。 「話を戻すぞ。端的に言えば、予感の詳細は兄者にもわからんのだ。犬に吠えられる程度から——それこそ命の危機まで範疇に入る。だがここでもっとも大事なのは、兄者は『雪室は行くべきではない』と断じた、ということだ。兄者の『嫌な予感』は|中《あた》る」 「僕は止めたんだけどねえ、かにだんす不足だって断られちゃった」 「事実人手は足りていないから仕方がないな。そこにある任務は誰かがこなさねばならない。余所から人員を引っ張るなら尚の事、皆が納得する|確証《エビデンス》が必要だ、兄者」　 「むしろ危機があるとわかっていればこそ、身の振り方にも気を配れるというものだ。さすがは兄者だ。そして君が利口で助かる」 「そうだぞ。兄者がついているのだ、何も不安に思うことはない。大船に乗ったがごとく、よらば大樹の影、夏場の三尺寝、老猫の薄毛、そして二度と聞こえない晩鐘」 『膝丸』が口々に喋る。聞き取るので精一杯で内容がよく入ってこなかったけど、要約すると髭切さんがフォローするけど危ないことがあるから気をつけてね、ってことで、いいんだよね、多分。 おんぶに抱っこは申し訳ないけれど、新人だし、どう頑張っても面倒はかける。なら堂々と頼る腹を決めておいた方がよさそうだ。わたしは密かに拳を握る。 「他はないかな？それじゃあ——調査開始だ」 髭切さんは軽やかに職員ジャンパーを翻し、ロッカー室を出て行く。 「兄者！そちらには厠しかないぞ！転移ゲートは逆方向だ！！そして俺は蛇次郎の膝丸だ！！！」 「出た、4口目！」
November 17, 2025 at 3:04 AM
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(2/3)
長義さんがそうまとめる。わたしはまだわからないことがわからないので、とりあえず頷いて見せた。 隣の鶴丸さんは資料をぱらぱらめくっている。 「既に二度引継済み。初代からいるやつらは……お、ぼちぼち残ってそうだな。なら相手方も慣れてるか。確かに研修にはちょうどいい」 「ちなみに前回の引継担当は俺だ。何かあれば遠慮なく頼ってくれて構わない」 「さっすが、係長代理は抜け目ないな。だがちょっと甘やかしすぎじゃないかい。聞き取りまでなら基本は意思確認だけだぜ？」 「人間職員にはそのくらいしていいだろう。手塩にかけて育てたところを、独り立ち間際で異動願を出されるのに比べれば……いや、異動ならまだいいが退職届だった日には……おっと、君に聞かせる話ではなかったね」 長義さんがこちらを見て口をつぐんだ。 心中お察しします……わたしが辞めないのが一番なんだろうけれど、そう簡単には辞められないから安心してほしい。 歴防本部の仕事は機密情報を多分に含む。辞職の自由は一応あるけど、辞める時は情報漏洩防止のために記憶処理を施されることになる。それはちょっと怖いし、何より頼れる親族や貯金がなくても住める家具家電付き職員宿舎と、安くておいしい社食を手放せるほどお財布にゆとりはないので。 マネーイズパワー。力がなければハッピー無職を押し通せぬ世の中さ。 世知辛いね。本当にね……。 話がまとまりそうな雰囲気の中、髭切さんはひとり、眉根を寄せている。 「……ねえ、この件本当にこの子に任せるの？なんだか嫌な予感がするよ」 「どこか懸念点が？」 「どこっていうのはわからないけど。ざわざわするなあ」 「具体性の欠ける不安では対策が立てられないな。貴方の勘を蔑ろにしたくはないが……他の職員に回そうにも人手が足りないから、できる範囲で対策を絞りたい」 「そうだよねえ」 長義さんは腕を組んでそう言った。髭切さんも、首を捻って唸っている。ただ仕事したくないとか、わたしに任せたくないって話じゃなさそうだ。 髭切さんの姿勢がだんだん斜めに傾いていく。 「うーん……じゃあせめて、そこの丸鶏じゃなくて僕を連れて行ってほしいな」 急に名指された……これって名指されているのかな？とにかく鶴丸さんはムッとした。 「鶴丸な。それ、きみがこの子と行きたいだけじゃないのか」 「違うよ」 「どうだか」 鶴丸さんは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。 もしかして鶴丸さんと髭切さん、あんまり仲良くないのかな。仕事の中身以上にこのふたりに挟まれるのが大変かも。 長義さんはもう慣れっこらしく、呆れ顔でやり取りを眺めるだけで仲裁に入る感じじゃない。 もしかしてこれが人員不足の原因の一つになっているのでは？わたしは訝しんだ。 というか、わたしもちょっと嫌な予感がしてきたぞ。 長義さんが目を伏せて、ため息をひとつ、ついた。 「……怪異斬りの直感を切り捨てる材料もない、が……」 鶴丸さんと髭切さんを交互に見た長義さんの視線が、わたしで止まる。 「君はどちらと組みたい？」 ほら！丸投げだ！責任者のすることじゃないぞ係長代理！ 首を振って拒否を示すけど、長義さんは完璧に美しい微笑みを浮かべたまま動かない。 もー、人員不足の原因絶対これだと思う……。 三口分の視線を受け止めながら考える。 鶴丸さんと髭切さんだったら、正直言って鶴丸さんがいい。鶴丸さんはイタズラ仕掛けてくるし別にプラス要素があるわけじゃないけど、マイペースすぎる髭切さんに比べたらまだまともそう。 でも髭切さんは怪異斬りで、助言には従った方がいいのかも。 どうしよう？ ◆◆ 髭切さんを選ぶ 「ええと、髭切さん……ですかね……」 わたしは勇気を振り絞ってそう言った。少なくともこの瞬間、わたしより偉業を成し遂げた政府職員はいるまい。 だって無理だよ、初仕事の障壁はなるべく潰しておきたいし、ここで怪異斬りの意見を無視できるほど覚悟はキマッていない。長義さんも気にしてたしね。 ごめんなさい鶴丸さん、あなたは悪くないけど心中はちょっと……！ ちらりと様子をうかがうと、髭切さんはわかりやすく喜んでいる。 「うんうん、僕に任せておいてよ！」 「きみがそう言うなら俺は構わないが……こいつがあんまり迷惑かけるなら引きずり戻しに行くからな、いつでも言ってくれよ」 「嫉妬はみっともないんじゃない」 「何だって？」 「はいはいそこまで。……本当にすまないね」 長義さんが声を落として、眉をハの字にした。今までお澄ましキメ顔だったのが崩れると、途端に生っぽく見えて、まあ、そのきれいな顔に免じて許してもいいかな……って気持ちなりますね。 「そうと決まれば、善は急げ。準備を終えたら早速調査に向かってもらいたい」 長義さんはわたしと髭切さんを見て、力強くそう言った。 髭切さんに連れられて、ロッカー室に入った。 ロッカー室には、そっけないスチールのロッカーがいくつも並んでいる。 ロッカー室には先客がいた。薄緑色の斬新なヘアスタイルをキメた刀剣男士——『膝丸』だ。 入ってきた髭切さんに気がつくと、弾かれたように立ち上がる。 「兄者！今から調査に向かわれると聞いたぞ」 「うん。今からこの子とふたりでね」 「そうか。俺が供できないのが残念だが……しかし兄者なら俺の助けがなくとも立派に務めを果たせることだろう。君、運がいいな」 「アッハイ」 「そのことなんだけど、えーと……」 「ススキ丸の膝丸だ、兄者」 「そうそう。おまえにお願いがあるんだけど、この子の戦支度を手伝ってもらえるかい？初陣でねえ」 「無論、光栄だ。他ならぬ兄者の頼みとあらばこの膝丸、骨身を惜しまぬ所存」 そう言って自分の胸を叩くススキ丸さん——でいいのかな？はとっても頼もしい。言葉遣いはとっても仰々しいけれど。 ススキ丸さんはわたしの方を向いて目礼した。わたしもお辞儀を返す。 「君……君とだけ呼ぶのも変だな。名は？」 「えっと。雪室です」 「そうか、俺は544番の膝丸だ。兄者に『|薄《ススキ》丸』の名を賜っている。兄者の主候補に恥はかかせられないからな。万全の支度を整えよう」 「エッ主候補って何ですか聞いてないですよ」 わたしが目を丸くすると、薄丸さんも「何だと？」と訊き返す。 きりりとした顔つきの薄丸さんにそう返されると結構な圧力を感じる。 「兄者は己の主となるにふさわしい人間を探しているのだ。てっきり既に話を聞いているものと思ったが……否、君ならばいずれ兄者直々に声がけがあるだろう。失礼したな、忘れてくれ。……では雪室。君のロッカーを案内する。こちらだ」 なんだか聞き捨てならないことを言われた気がするけど、忘れてくれと言われたので一旦流すことにした。 薄丸さんに促されて、案内されたロッカーに手をかざすと小さくカチッと音がしてロックが外れた。開けてみても何も入っていない。 特に入れるものも思いつかなかったので、わたしは空っぽのロッカーを閉めて薄丸さんの方へ向き直った。 「この面布は支給されたか？」 見せられたのは面布。審神者さんたちもよくつけている、あの短いふんどしみたいな——いや、その連想はやめておこう。 面布にはうずまきみたいな模様の上に、読めそうで読めないぐにゃぐにゃした字が書いてある。 「まだです」 「ではこれは君が持っていくといい。刃材管理課の備品だ」 渡された面布をつけてみると、すうっと透き通って前が見えるようになった。なのに鏡で見るとちゃんと面布で顔が隠されていて、さらにうずまき模様の上にわたしの職員番号が出ている。謎技術……。 「その面布は、間違いなく政府職員であるという証だ。本丸訪問時は着用義務がある。紛失時は罰則があるからくれぐれも取り扱いには注意してほしい。ああ、それから、面布には呪い避けの機能が付与されていて、つけておけばある程度呪詛の類を受け流せる。だが顔を知られた相手には効果がなくなるから、めくられたり剥がされたりしないように気をつけてくれ」 「呪詛避けが必要なんですか……？」 「何、君には兄者がついているのだ。規則で着用せねばならないが、その機能が必要になることはなかろう」 薄丸さんは胸を張る。よほど髭切さんのことを信頼しているようだ。 髭切さんって鶴丸さんたちの前だとああだけど、もしかして案外まともなのだろうか。だとしたらちょっと失礼なことを考えてたなあ。 第一印象の話は絶対薄丸さんには言わないようにしようと決めて、髭切さんの方を振り向いた。 「もういいぞ兄者。今日もよくお似合いだ」 「ふふ。ありがとう、えーと……」 「鳩尾切の膝丸だ」 いつのまにか『膝丸』が一口増えていた。ぱっと見は同じだから薄丸さんが分裂したのかと思ったけど、何度目を擦ってもいなくならない。別個体なのだろう。 まだわたしの隣にいた薄丸さんが「あれは339番の俺だ」と親切に教えてくれる。 髭切さんは肩掛けにしていた上着の代わりに、濃いグレーのジャンパーを鳩尾切さんに着せてもらっていた。 「ああこれね、うちの刀剣職員の制服。調査に行く時の身分証の代わりだよ」 例によって、薄丸さんが「正規職員が着れば背に職員番号、胸に刀帳番号が出る。不正対策だな」と補足する。滲むように胸に浮き出た110の文字を指した。半身を捻って見せてくれた背中には、81と出ている。 髭切さん、職員番号二桁なんだ……政府に『髭切』が何口いるか知らないけど、薄丸さんが500番台なことを考えると結構古参ってことだよね？ 「その子の支度はできたかな？」 「既に万全だ、兄者」 「うんうん。君もいいかい？」 「あー、えっと。一つ訊いておきたいことがあって」 この和やかな空気に水を差すのは忍びない。でも訊いておかなきゃいけないことがある。 わたしは意を決して口を開いた。
November 17, 2025 at 3:04 AM
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松井 桑名はまだ修行中なので帰ってきてから
幾人も焼いた証であろうこの涙を拭う手が熱いこと
November 11, 2025 at 4:28 AM