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好きな文章、気になる文章をここに集めてます。(Threads:https://www.threads.com/@wanwan65537 で本にまつわる話を投稿中)
【文章収集】

著者が十代、二十代のころのこと。たくさんの外国語とつきあう方法のひとつ――

「映画も観た。映画館だけでなく、テレビで珍しい言語による映画が放送されれば、ヴィデオに録画してくり返し観た。もちろん、それだけでリスニングが上手くなることはない。だがそういう現世利益は求めずに、ただただ外国語の音を楽しんだ。」

(黒田龍之助『もっとにぎやかな外国語の世界』白水uブックス、2014、p.183)
February 8, 2026 at 9:09 PM
【文章収集】

「引越しをする毎に、「雀は何(ど)うしたらう。」もう八十幾つで、耳が遠かつた。――その耳を熟(じつ)と澄ますやうにして、目をうつとり空を視(なが)めて、火桶にちよこんと小さく居て、「雀は何うしたらうの。」引越しをする毎に、祖母(そぼ)の然(さ)う呟いたことを覺えて居る。「祖母(おばあ)さん、一所(いつしよ)に越して來ますよ。」當(あ)てづツぽに氣安めを言ふと、「おゝ、然(さ)うかの。」と目皺を深く、ほく/\と頷(うなづ)いた。
 其のなくなつた祖母(そぼ)は、いつも佛(ほとけ)の御飯の残りだの、洗ひながしのお飯粒(まんまつぶ)を、小窓に載せて、雀を可愛がつて居たのである。」
February 7, 2026 at 9:00 PM
【文章収集】

「二月七日。植込にさし込む朝日の光俄にあかるく、あたり全く春めき来りぬ。鵯の声に交りて雀の囀りもおのづから勇しくなれり。」

* 鵯 = ヒヨドリ

(永井荷風『断腸亭日乗(一)』中島国彦、多田蔵人 校注、岩波文庫、2024、p.26)
February 6, 2026 at 8:24 PM
【文章収集】

「映画をテーマでもなく、監督でもなく、俳優でもなく風景で見る。」

 (川本三郎『銀幕風景』新書館、2009、p.276)
February 5, 2026 at 9:22 PM
【文章収集】

「二月五日。立春を過ぎてより日の光俄にうるはしくなりぬ。晩風蕭条。寒気はむしろ厳冬に増るほどなれど、夕照暮靄共に春ならではと思はれたり。」

* 大正11年2月5日の日記。

(永井荷風『断腸亭日乗(一)』中島国彦、多田蔵人 校注、岩波文庫、2024、pp.173-174)
February 4, 2026 at 9:06 PM
【文章収集】

――著者はシベリア・バイカル湖畔の小屋で半年を過した。

「たまにはこんなふうに何もしたくない時がある。ぼくは一時間ほどテーブルに向かって座り、デーブルクロスの上で伸びてゆく太陽の光線の動きをみつめる。光に触れられるとあらゆるものが高貴になる。木も、本の天の部分も、ナイフの柄、顔の輪郭線、過ぎてゆく時間の曲線、そして空気中に漂う埃さえも。この世界では埃の粒子でさえ注意を払うべきものなのだ。」

(シルヴァン・テッソン『シベリアの森のなかで』高柳和美訳、みすず書房、2023、p.58)
February 3, 2026 at 9:15 PM
【文章収集】

――チャタルヒュユクは約九千年前、現在のトルコにつくられた都市。約一千年にわたって繁栄した後、放棄された。

「チャタルヒュユクの建築物は、これまでの地域で見られたものとは異なっていた。それぞれの家は、蜂の巣の細胞のように、隣の家とぴったりとくっついて建てられていて、それらを隔てる道路はほとんどなかった。街は地上一階分以上の高さがあり、屋根の上に歩道が張り巡らされ、天井には玄関が設けられていた。住民は屋根の上で料理をしたり、道具を作ったりして多くの時間を過ごし、しばしば外の粗末なシェルターの下で寝た。簡単な木製のはしごを使って、登っては街に出たり、家の中に降りたりしていた。」
February 2, 2026 at 8:59 PM
【文章収集】

「二月二日。立春の節近つきたる故にや日の光俄に明く暖気そぞろに探梅の興を思はしむ。午後九段の公園を歩み神田三才社に至り新着の小説二三冊を購ひ帰る。」

* 大正7年2月2日の日記。

(永井荷風『断腸亭日乗(一)』中島国彦、多田蔵人 校注、岩波文庫、2024、pp.25-26)
February 1, 2026 at 9:08 PM
【文章収集】

「母がレースの小ぎれを繰りひろげたときのことも思い出す。(中略)レースは木の巻き棒に巻かれていたが、あまりに多くて、棒がすっかりかくされてしまっていた。二人はレースをゆっくりとひろげ始め、模様が展開して行くのをながめ、一つの模様が終わるたびに、いくぶんはっとした。どの模様も不意に終わるのであった。」

スレッドで続きます。
January 31, 2026 at 10:56 PM
【文章収集】

「詩は感情ではなくて――経験である。一行の詩をつくるには、さまざまな町を、人を、物を見ていなくてはならない。動物の心を知り、鳥の飛ぶさまを感じ、小さな花が朝(あした)に開く姿をきわめなくてはならない。知らない土地の野路、思いがけない邂逅(かいこう)、虫が知らせた別離(中略)妙な気分で始まって、何回も深い大きな変化をとげさせる幼い日の病気、そして、静かな寂(せき)とした部屋の日々、海辺の朝、そして、海、あの海この海、また、天高く馳せすぎ星とともに流れ去った旅の夜々を思い出さなくてはならない。」

(リルケ『マルテの手記』望月市恵訳、岩波文庫、1946、1973改版、p.23)
January 30, 2026 at 10:39 PM
【文章収集】

「ここが開発され始めたころ、リスは地面にまったく足をつかずにペンシルヴェイニア州を横断できたといわれる。」

(アニー・ディラード『アメリカン・チャイルドフッド』柳沢由実子訳、パピルス、1992、p.16)

* ペンシルヴェイニア州の横断: 約450キロ。だいたい東京から京都まで。
January 29, 2026 at 10:50 PM
【文章収集】
 
「その通りは、いつもたくさんの人でにぎわう大通りを走っている路面電車の路線のひとつを誘い込んで脇道に曲がるところからはじまるのだ。」
  
(ナボコフ「オーレリアン」貝澤哉訳、『ナボコフ全短篇』作品社、2011、所収、p.350)
January 28, 2026 at 9:53 PM
【文章収集】

「非常識な人物というのは物事を自分の観点でしか見ることができず、また無知でもあるので終始一貫して非常識である。」

(志村五郎『記憶の切繪図――七十五年の回想』筑摩書房、2008、p.188)

* 志村五郎は数学者。フェルマーの最終定理の証明に使われた谷山-志村予想で有名。
January 27, 2026 at 11:05 PM
【文章収集】

数学の専門書からの引用です。「素数さんの心境を思って心情的に理解してみたい」と書かれてあって――

「2さんありがとう. あなたが私の部屋F5の中で −1の平方根であってくれるおかげで, 私5はこの小さな部屋を実数の世界にもない −1の平方根がある部屋として誇りに思えるのです」

(加藤和也『フェルマーの最終定理・佐藤−テイト予想解決への道』岩波書店、2009、p.25)

* F5とは5で割った余りの世界{0, 1, 2, 3, 4}。実際の本では、F5のFは白抜きの太いフォント、5は下付きで組まれています。
January 26, 2026 at 10:18 PM
【文章収集】

「エプロンのポケットに鉛筆とメモ用紙を入れておくようにした。そうすれば、思いついた時いつでも計算ができた。例えば税理士宅の台所で、冷蔵庫の掃除をしている時、扉の内側に刻印された製造番号2311が目に入った。(中略)私は2311を素数と認定し、メモ用紙をポケットに仕舞い、掃除を再開した。素数を製造番号に持っているというだけで、その冷蔵庫がいとおしく思えた。潔(いさぎよ)く、妥協せず、孤高を守り通している冷蔵庫。そんな感じだった。」

(小川洋子『博士の愛した数式』新潮文庫、2005、pp.176-177)
January 25, 2026 at 11:57 PM
【文章収集】

「「君の靴のサイズはいくつかね」
 新しい家政婦だと告げた私に博士が一番に尋ねたのは、名前ではなく靴のサイズだった。一言の挨拶も、お辞儀もなかった。どんな場合であれ、雇い主に対し質問に質問で答えてはならないという家政婦の鉄則を守り、私は問われたとおりのことを答えた。
 「24です」
 「ほお、実に潔(いさぎよ)い数字だ。4の階乗だ」」

(小川洋子『博士の愛した数式』新潮文庫、2005、p.13)
January 24, 2026 at 9:53 PM
【文章収集】

「数学に親しむコツを1つ伝授したい. それは, 数を友達と思うということである. このことの強力な有効性は, 長年実行してきた我々の実感である. 」

(黒川信重、小山信也『リーマン予想のこれまでとこれから』日本評論社、2009、p.168)
January 23, 2026 at 9:59 PM
【文章収集】

「まずは冬の部屋。そこは枕の隅、毛布の襟、肩掛けの端、ベッドのへり、「デパ・ローズ」紙一部[「ジュルナル・デ・デパ」紙の夕刊]といったおよそばらばらの要素を、あくまでも鳥の巣作りの技術を頼りに、ひとつにまとめて、そこに頭を押し込んで寝る部屋であり、凍てつく天候の際には外の世界と隔絶していると思うことが喜びになる部屋でもある」

(プルースト『失われた時を求めて1 第一篇「スワン家のほうへ1」』高遠弘美訳、光文社古典新訳文庫、2010、pp.32-33)
January 22, 2026 at 11:04 PM
【文章収集】
 
「カフェで、知らない人どうしの会話の切れ端を聴き取ることもよくあった。僕はできるだけ目立たないようにそれを書きつけていた。少なくとも、そうしておいた言葉はずっと失われずにある。日付や中断符(リーダー)と一緒になって、ノート五冊を埋め尽くしている。」
 
(パトリック・モディアノ『眠れる記憶』山﨑美穂訳、作品社、2023、p.29)
January 21, 2026 at 9:33 PM
【文章収集】

「そのころの家屋には、座敷の欄間に必ず掛障子が掛けてあつた。その障子が冬になると、深夜雨戸の隙から吹込む風に動いて、かたり/\とゆるやかな軽い音を立てる。わたくしは今でも折々、冬の夜ふけ、机に凭(よ)つて孤坐してゐる時、むかし耳にきゝ馴れた掛障子の動く音、井戸車の軋(きし)る響き、または机の上のランプが地虫の鳴くやうに火の燃る音を立てた事などを憶ひ起こす。これ等の物音は再び聞くことのできない、穏な過去の時代の、さびしい生活の物音であつた。」

(永井荷風「井戸の水」、『荷風全集 第十七巻』岩波書店、1994、所収、pp.319-320)
January 20, 2026 at 11:29 PM
【文章収集】

「本を入手するというのは半分まで未来への投資である。」

(池澤夏樹『異国の客』集英社、2005、p.21)
January 19, 2026 at 10:49 PM
【文章収集】
 
「彼はどんなものにでも注目する。お腹のふくらんだワインの壜、湿った薪が暖炉でしゅうしゅういう音、彼はあらゆるものから楽しめるものだけを選びだす。彼はエミリアのこころもち斜視の眼さえ楽しむ。彼女はゴヤの絵の人物を連想させるのだ。彼は壁に塗った色、オレンジやブルーの色を楽しむ。」 

* 彼=ヘンリー・ミラー
 
(アナイス・ニン『アナイス・ニンの日記』原麗衣訳、ちくま文庫、1991、p.24)
January 18, 2026 at 10:38 PM
【文章収集】

「僕はそれ〔炊事〕をひどくスローモーションにやるわけなのだから。たとえば母親から慰められずに置き去りにされた子供が独りで玩具を弄んでいるうちにいつか涙が乾いてくるように、米を磨いだり菜を刻んだりしていると、僕の気持もようやく紛れてくる。」 〔 〕内は引用者注。

(小山清「落穂拾い」、『日日の麺麭/風貌 小山清作品集』講談社文芸文庫、2014、所収、pp.13-14)
January 17, 2026 at 9:43 PM
【文章収集】

「正月十七日。厨房の水道鉄管氷結のため破裂す。電話にて水道工事課へ修繕をたのみしに、市中水道の破裂多く人夫間に合はず両三日は如何ともなし難しとの事なり。」

* 大正12年1月17日の日記。

(永井荷風『断腸亭日乗(一)』中島国彦、多田蔵人 校注、岩波文庫、2024、p.215)
January 16, 2026 at 9:37 PM
【文章収集】

「一日をまるまる空ける。そして人と話をして過ごす。それができたら、しあわせだと思う。」

(荒川洋治『夜のある町で』みすず書房、1998、p.11)
January 15, 2026 at 11:54 PM