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川嶋周一『独仏関係史』(中公新書、2024)読了(ちょっと前)。

二度に渡る未曾有の大戦を経て、憎しみ合った両者が、冷戦という構造を背景に、EUの中核として手を携える(時に対立しながらも)に至る今日までの歴史を描いた好著だ。

読んでいて感じるのは、政府のトップや政策策定に携わる「人」が、互いを理解しようとできるか否かの重要性だ。

もちろん、尊敬=すぐ連携というわけには行かない。冷戦の中、米国との距離間から独仏が連携し、エリゼ条約の下地を作ったのは、友情などの美談ではなく、両国のリアリズムだ。ザール問題は解決に10年を要するなど、順風満帆な関係とは到底言えない。
December 30, 2024 at 3:09 PM
清水洋『イノベーションの科学 創造する人・破壊される人』(中公新書、2024)読了。

本書の特徴はイノベーションの歴史や社会要因を先行研究に触れながら丹念に述べつつ、その破壊ないし淘汰される人たちをいかに少なくし、イノベーションを社会的に還元するかを論じる。

イノベーション=良いことというイメージは強く、成功譚をベースにしたイノベーション談義がWEBコンテンツを中心に活況だ。

しかし、破壊される側もバランス良く描かれることは少ない。

そういう意味で本書はとても優しさに溢れた作品だ。
December 28, 2024 at 8:50 AM
阿部幸大『まったく新しいアカデミック・ライディングの教科書』(光文社、2024)読了。

本書は「アーギュメント(主張)を鍛える」という重要性をこれでもかと説いている。

「論文とは、あなた個人の主張を提出し、それを論証する責任を追う、そういう場なのだ」(p. 26)

その上で、アンパンマン!を事例にどのようにアーギュメントを鍛えるのかという過程が描かれており、鍛える追体験できるのも有益だ。

また、先行研究のパラグラフを分解し、文章ごとに求められている役割を丹念に明らかにすることを勧めており、これは早速実践してみたい。
December 25, 2024 at 10:24 AM
柿沼陽平『古代中国の24時間』(中公新書、2021年)読了(ちょっと前だけど)。

本書の魅力は古代中国の庶民の暮らしに著者がタイムスリップして、同時代の1日を観察する設定だ。ただ、内容は極めて含蓄があり、引用文献も豊富に提示され、日常史の分野における有用な学術書としての価値があると思われる。

副題「秦漢時代の衣食住から性愛まで」とある通り、現代と比べると混沌とする庶民の生活を多様なレイヤーを丹念に描き出す。

著者曰く、柳田民俗学には性や裏社会に対する分析が欠如しているという赤松啓介の批判を正面に受け止めたという。資料の史料化を図り、徹底的に同時代の日常を描き出す姿勢に脱帽だ。
December 19, 2024 at 11:14 PM
五百旗頭真『日米開戦と戦後日本』(講談社学術文庫、2005)読了。何回か読んでいるが、五百旗頭先生の伸びやかでやさしくも、するどく歴史を論ずる姿勢が凝縮された作品だ。

勝者と敗者がいかに手を取り合い、新しい風景を描くか、そこにはやはりヒトというピースが噛み合わずにはなり得ない。そこには避け難い偶然性はあるが、お互いの深い理解と尊敬を基盤に、そしてしたたかな計算と問題解決をやり遂げようとする意志力の大切さを本書を通じて感じる。
December 17, 2024 at 11:50 PM
積読の消化に努めた秋が終わりを告げたが、全くここに書かなくなってしまっていた。再開しようっと。
November 27, 2024 at 1:08 PM
村上春樹『国境の南、太陽の西』(講談社文庫、1995年)読了。

満たされない自分、満たされない自分から新しい自分へと変わる欲求。それは幸不幸、想いの強弱に問わず、どんな人も持ち合わせている。

それがあるとき、ふと、首を持ち上げ、気付いたときには膨らんで、どうしようもなく揺れ動く。

幸せな僕が、初恋の人にあったとき、そんな揺れ動く想いをみずみずしく描いている。
August 2, 2024 at 3:35 AM
村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』(講談社文庫、2004年)読了。

34歳になった僕の物語。踊り、ステップ踏んだ物語は喪失、そして希望へと歩む物語。

オドルンダヨ。オンガクノツヅクカギリ。

心身的にも落ち込んでいるとき、村上作品は沁み渡る。自分は文化的雪かきをせざるを得ないけど、それでもステップを踏めば何かに行き着くれない。
July 29, 2024 at 11:26 PM
村上春樹『羊をめぐる冒険』(講談社文庫、2004年)読了。

青春の終着地点はほろ苦い。
暗闇での鼠との会話は、なんども読み返してしまった。
July 20, 2024 at 7:20 AM
村上春樹『1973年のピンボール』(講談社文庫、2004年)読了。何回目の読了だろうか。

いつだって素敵な双子、そしてスペースシップの優しさに魅了される。

そして、3部作最後の作品で描かれる、鼠とのこれからを思うと、やるせなくなる。

まさに青春だ。ただ、少し不思議で不器用な青春だ。
July 17, 2024 at 9:42 AM
村上春樹『風の歌を聴け』(講談社文庫、2004年)読了。

読了というか、何回も読み返した作品。色々もやもやしているときに、いつも青春三部作に帰ってきている。

読んでいて、毎回鼠の孤独感や喪失感を見るにつけ、自分自身のもやもや感をチューニングしている気がする。

一生読み続ける、かけがえのないもの作品である。
July 14, 2024 at 12:02 AM
湯川勇人『外務省と日本外交の1930年代‐東アジア新秩序構想の模索と挫折
‐』(千倉書房、2022年)読了。

戦前日本の外交を失敗と片付けるのは簡単だ。だけど、外交の最前線に立つ外交官たちは失敗を望んだわけではない。外交官たちは各々が考える合理的な施策を体言すべく、もがき苦しみ、そして蹉跌をきたしたのだ。

本書は太平洋戦争という「外交の失敗」につながる1930年代、東アジアとりわけ中国での権益確保と英米との関係構築という二律背反な目標にどのように模索し、挫折したのかを実証的に分析した良書だ。(続)
June 16, 2024 at 11:15 PM
玉手慎太郎『ジョン・ロールズ 誰もが「生きづらくない社会」へ 』(講談社現代新書、2024)読了。

ロールズの正義論のエッセンスを抽出した、まさに入門にふさわしい良書。『正義論』は訳も含め、読むのに骨が折れるので、こうした水先案内的な書籍は有り難い。

そして、文章が滑らかで、構成もうまい。特に無知のヴェールがいかに今日的問題を考えるうえで重要かを学べた。

なんか生き抜くい社会だなと思う人は、ぜひ読んで欲しい一冊だ。
May 28, 2024 at 7:34 AM
岩尾俊兵『世界は経営でできている』(講談社現代新書、2024)読了。

今日色々込み入りすぎて、ちょっと出口が見えない問題を、どう経営(マネージ)していくかを軽妙なタッチとちょっとシニカルと自虐を混ぜて書かれたエッセイ。

特に、憤怒を経営するという箇所は、怒るときに思い出すと、少し幽体離脱して自分や他人を俯瞰して見ることができるので良かった。

ただ、科学でトップジャーナル至上主義に関する箇所は、あまり経営できている文章ではないと思う。確かにトップジャーナルに乗せること自体が目的なのは良くないが、世界の多くの人(主に研究者ではあるが)に研究を届け、研究が進展するという意味では価値がある。
May 15, 2024 at 11:29 PM
加藤雅俊『スタートアップとは何か』(岩波新書、2025年)読了。

何かと「スタートアップを生み出せ」という言説を耳にするが、じゃあスタートアップへの適切な支援とは何だろうか?を考える上で非常に参考になった。きちんと先行研究をベースに(所在も明確)論を進めており、好感を持てた。

本書は、政府が支援すべきスタートアップは、市場に任せていればうまくいかないが、介入すれば大きく成長する企業と論ずる。

創業初期に直面する課題、創業理由の多様性、成長の要員や環境を丹念に論じられて、大変勉強になった。

線形的な法則はないものの、何が重要なファクターかを見極める上で、本書は必読だと思われる。
May 8, 2024 at 11:16 AM
前野ウルド浩太郎『バッタを倒すぜ アフリカで』(光文社新書、2024)読了。

バッタの繁殖行動の謎に迫る学術書であり、ときに脇道的エピソードにそれた冒険譚であり(これが痛快で最高)、研究の面白さをこれでもかと詰込んだ、超豪華おせち的著作である。

個人的に最後の論文に掲載されるに至る箇所は必読である。研究者が血を吐きながら、いかに学術アウトプットに取り組んでいるかの一端を見ることができるだろう。

あと、お金の使い方、めっちゃ素敵。

今回は盛り沢山の内容で、通勤時間がまるで筆者と一緒に冒険をしているかのような至福の時間になった。
April 29, 2024 at 1:02 PM
谷口功一・スナック研究会編『日本の夜の公共圏 スナック研究序説』(白水社、2017年)読了。

公共性はどうしたら育まれるのかを探している中、出会った一冊。

スナックを法哲学、行政学、文化史、政治経済学的に分析し、その意義を描き出す稀有な一冊。

地域に根付くスナックだからこそ、そこには多様な人が集まり、店特有の作法に従いながら、公共性を持つ場を形成していく。

もう少し欲を言えば、スナックのママのオーラルヒストリーしかり、よりミクロレベルな叙述が欲しかったが、それは私がスナックに興味持ったことの裏返しだろう。
March 27, 2024 at 3:28 AM
宇野重規『民主主義とは何か』(講談社現代新書、2020)読了。

民主主義の誕生、成長、定着、そして幾度となく直面してきた危機の歴史を軽快に描いている。

全体を貫くキーワードは「参加と責任のシステム」。人々が自分たちの社会の問題解決に参加すること、それを通じて、政治権力の責任を厳しく問い直すことが、民主主義にとって不可欠と本書は主張。

古代ギリシャから始まる民主主義は、実は優れた政治システムと見なされてきていなかった中、歴史を経て定着してきたこと、そしてその基盤は決して盤石ではないことを学べる。
March 12, 2024 at 11:35 PM
齋藤純一、田中将人『ジョン・ロールズ』(中公新書、2021)読了。

『正義論』に挑戦するにはあまりにも知識不足のため、政治哲学や政治思想の概説書で力をつける中で、本書は複雑なロールズの思想的変遷を描いている。

『正義論』から『政治的リベラリズム』の政治的展開がどのようなものであったかを、本書は連続性に軸足を置いていて、勉強になった。

ロールズの正義を追い求める姿勢は迂遠に思えるけれど、今一度これに挑戦する必要を痛感した。

あと、本書はロールズの課題は何かをもう少し深ぼって欲しかったとも思えた。
March 9, 2024 at 8:13 AM
森見登美彦『シャーロック・ホームズの凱旋』(中央公論新社、2024)読了。

森見ワールド全開である。

ヴィクトリア朝京都!にホームズとワトソンがいるという、奇妙奇天烈なストーリー。

後半の入り組んだ世界線の展開には、森見先生の真骨頂を見た。

そして、読了後、心が温かく見た。

森見先生×京都の組み合わせは無敵だ。
March 3, 2024 at 4:25 AM
March 1, 2024 at 2:27 PM
東浩紀『訂正する力』(朝日新書、2023)読了。

訂正する力を、過去との一貫性を主張しながら、実際には過去の解釈を変え、現実に合わせて変化する力と定義する。

その際、「実は・・だった」という発見の感覚が、過去の定義に遡り、概念の歴史を頭の中で書き換えることが重要とのこと。

そうした意味で、凝り固まった自分のイメージを、実は・・の論理で訂正してくれる人が集まった小さな組織を作ることが重要。

なお、本書は歴史修正主義を厳しく批判する。訂正する力は過去を記憶し、訂正するために謝罪する力でもあり、一方歴史修正主義は、過去を忘却、訂正もなく謝罪もない(続く)
February 29, 2024 at 10:38 PM
山本圭『嫉妬論』(光文社新書、2024)を読了。

七つの大罪の1つ「嫉妬」を古今東西の知見を動員して、真正面から向き合う良書。

本書が扱う嫉妬は憧れなどの良性嫉妬ではなく、精神的な痛みを伴い、隣人への敵意を持った感情である悪性嫉妬を対象にする。

アリストテレスから始まり、嫉妬は比較可能な者同士で生じることが論じられている。そして、民主主義という「平等」が重んじられ、差異が縮小してきた今日、その縮小が不完全である社会ゆえに、その差異をめぐる嫉妬の爆発が起きていると分析。そして、社会ゆえにSNSが成り立ち、その感情を増幅させている。

一方で完全な平等の実現は、ディストピアであり(続く)
February 25, 2024 at 11:24 PM
中原淳『「対話と決断」で成果を生む 話し合いの作法』(PHPビジネス新書、2022)読了。

対話と議論(決断)は何が違うのかという点が参考になった。

対話について(以下引用)
対話で最も大切なのは、「私」です。「私がどう思うか」「私がどう感じるか」がないコミュニケーションを対話とはいいません。

議論(以下引用)
AとBの2つの意見がある場合、それぞれの意見のメリットやデメリットを明らかにし、「私たち(We)」にとって最善の選択は何かを皆で探り合うことです。

エビデンスが重要なのは自明で、まずは対話で信頼と土壌を固め、そしてエビデンスをもとに議論(決断)することの重要性を学べました。
February 25, 2024 at 3:48 AM