剣を振るう度、赤が舞い散って雨になる
生温かいそれが不愉快で、避ける術も磨かれた
時折、自分こそが化け物ではないのかと疑う事がある
人より強い力
並外れた生命力
飛び抜けた回復力
流石は退魔の剣士と他人は言う
けれどそれは、自分を人の輪から弾き出すものではないだろうか
お前は人の輪には入れぬと、違うものなのだと、線を引かれた気がした
自分たちとは違うものへの疑心、恐怖、嫌悪
ひそひそと隠し切れていない囁きを聞く度に、或いは面と向かってぶつけられる度に、何も感じぬようにと心を閉ざした
感情のままに振る舞うことは、彼等をより怯えさせるから
あゝ、この身が真実化け物でありますように
剣を振るう度、赤が舞い散って雨になる
生温かいそれが不愉快で、避ける術も磨かれた
時折、自分こそが化け物ではないのかと疑う事がある
人より強い力
並外れた生命力
飛び抜けた回復力
流石は退魔の剣士と他人は言う
けれどそれは、自分を人の輪から弾き出すものではないだろうか
お前は人の輪には入れぬと、違うものなのだと、線を引かれた気がした
自分たちとは違うものへの疑心、恐怖、嫌悪
ひそひそと隠し切れていない囁きを聞く度に、或いは面と向かってぶつけられる度に、何も感じぬようにと心を閉ざした
感情のままに振る舞うことは、彼等をより怯えさせるから
あゝ、この身が真実化け物でありますように
リンゼルだと思って書いたのでリンゼル
リンゼルだと思って書いたのでリンゼル
素晴らしい提案(4/7)
素晴らしい提案(4/7)
泪は子守唄に溶ける3/6
泪は子守唄に溶ける3/6
100年前if
【後悔先に立たず】
出来心で書いちゃった
姫様ってこう、勢いだけで突っ走っちゃう所があるよねって……
100年前if
【後悔先に立たず】
出来心で書いちゃった
姫様ってこう、勢いだけで突っ走っちゃう所があるよねって……
リンクが珍しく体調を崩した。頭が酷く重たく痛むらしい。朝食の用意をしようとするのを止めて休むよう言えば、ぐったりと横たわってそれきり動かなくなる。食事も摂りたがらないので中々の重症だ。眉間には少し皺が寄っている。可哀想だと、素直に思った。体調不良に慣れていない分、きっと余計に辛いだろう。櫛を通されておらずぼさぼさの髪を、そうっと手で梳いた。薄っすらと目を開けたリンクと視線が合う。青い瞳は直ぐに瞼の向こうへ隠れてしまったけれど、眉間の皺が解けていた。私の行為は歓迎されている。確信した私はリンクの頭を撫でながら、子守唄を口ずさむ。彼の苦し気な呼吸が、穏やかな寝息へと変わるまで、ずっと。
リンクが珍しく体調を崩した。頭が酷く重たく痛むらしい。朝食の用意をしようとするのを止めて休むよう言えば、ぐったりと横たわってそれきり動かなくなる。食事も摂りたがらないので中々の重症だ。眉間には少し皺が寄っている。可哀想だと、素直に思った。体調不良に慣れていない分、きっと余計に辛いだろう。櫛を通されておらずぼさぼさの髪を、そうっと手で梳いた。薄っすらと目を開けたリンクと視線が合う。青い瞳は直ぐに瞼の向こうへ隠れてしまったけれど、眉間の皺が解けていた。私の行為は歓迎されている。確信した私はリンクの頭を撫でながら、子守唄を口ずさむ。彼の苦し気な呼吸が、穏やかな寝息へと変わるまで、ずっと。
リンクが竜になって帰ってきた。何がどうしてそうなったのかは分からない。今の彼は人の言葉は疎か、人としての意識すら持ち合わせていないのだ。それでも彼は変わらず私を見守り、護ろうとしてくれる。意思疎通は出来ないけれど、私が泣いていれば慰めようとしてくれる。彼の本質は何も変わっていない。それでも、こんなに淋しくて苦しいのだ。私が龍になったと知ったリンクの苦しみが如何ばかりであったか、今の私には想像に難くない。
「リンク……」
涙ぐんだ私を包み込むように、リンクは首を伸ばし翼で覆う。抱き着けば変わらぬ陽だまりの温もり。貴方を取り戻してみせる。貴方が諦めずに居てくれたように、私も、必ず。
リンクが竜になって帰ってきた。何がどうしてそうなったのかは分からない。今の彼は人の言葉は疎か、人としての意識すら持ち合わせていないのだ。それでも彼は変わらず私を見守り、護ろうとしてくれる。意思疎通は出来ないけれど、私が泣いていれば慰めようとしてくれる。彼の本質は何も変わっていない。それでも、こんなに淋しくて苦しいのだ。私が龍になったと知ったリンクの苦しみが如何ばかりであったか、今の私には想像に難くない。
「リンク……」
涙ぐんだ私を包み込むように、リンクは首を伸ばし翼で覆う。抱き着けば変わらぬ陽だまりの温もり。貴方を取り戻してみせる。貴方が諦めずに居てくれたように、私も、必ず。
「花見をしませんか」
リンクがそう言ったのは、私が漸く立って歩けるようになった時だった。
「お花見、ですか?」
「はい。村を出てすぐの丘に、姫しずかの花畑が出来てるんです」
「えっ! 姫しずかがですかっ?!」
百年前は絶滅を危惧されていた程なのに、花畑だなんて。俄かには信じがたいが、リンクが言うなら間違いない。
「そうなんです、驚きでしょう」
リンクは我が事のように顔を綻ばせ、嬉しそうだ。私にとって思い入れのある花を、彼も大切に思ってくれている。それがとても嬉しい。
「是非、花見をしたいです」
「行きましょう。お弁当も用意しました」
「とても楽しみです」
彼の手を取って立ち上がる。
「花見をしませんか」
リンクがそう言ったのは、私が漸く立って歩けるようになった時だった。
「お花見、ですか?」
「はい。村を出てすぐの丘に、姫しずかの花畑が出来てるんです」
「えっ! 姫しずかがですかっ?!」
百年前は絶滅を危惧されていた程なのに、花畑だなんて。俄かには信じがたいが、リンクが言うなら間違いない。
「そうなんです、驚きでしょう」
リンクは我が事のように顔を綻ばせ、嬉しそうだ。私にとって思い入れのある花を、彼も大切に思ってくれている。それがとても嬉しい。
「是非、花見をしたいです」
「行きましょう。お弁当も用意しました」
「とても楽しみです」
彼の手を取って立ち上がる。
「今日はエイプリルフールですね」
「エイプリルフール?」
「願掛けです。起こって欲しくない事を、敢えて嘘の話として語るのです」
「へぇ。そんなの100年前にありましたっけ?」
「この100年の間に生まれたようですね。なので、私たちも体験してみませんか」
「勿論良いですよ。でも何にしようかな。ゼルダはもう決まってるんですか?」
「はい!こほん……リンク、私たち別れましょう」
「っ…………これは、嘘だと分かっていても、中々」
「大丈夫ですかっ?!」
「はい、ゼルダがこの嘘を本当にしたくないんだと思ったら何とか致命傷で済みました」
「致命傷だと、大丈夫ではないのでは……?」
「あはははは」
「今日はエイプリルフールですね」
「エイプリルフール?」
「願掛けです。起こって欲しくない事を、敢えて嘘の話として語るのです」
「へぇ。そんなの100年前にありましたっけ?」
「この100年の間に生まれたようですね。なので、私たちも体験してみませんか」
「勿論良いですよ。でも何にしようかな。ゼルダはもう決まってるんですか?」
「はい!こほん……リンク、私たち別れましょう」
「っ…………これは、嘘だと分かっていても、中々」
「大丈夫ですかっ?!」
「はい、ゼルダがこの嘘を本当にしたくないんだと思ったら何とか致命傷で済みました」
「致命傷だと、大丈夫ではないのでは……?」
「あはははは」
「リンク……」
呼び掛ければ、振り向いた空色の瞳が私を映す。片手で私の隣を叩いて示すと、意を汲み直ぐに腰掛けてくれた。真鍮色の髪へ両手を伸ばし、引き寄せる。抱き込む私の動きに逆らう事なく胸元へ預けられた頭部を撫でながら、私は蕩けるような心地で息を吐いた。耳を弄りながらつむじへ口付ければ、微かに肩を竦めて擽ったがるのが可愛らしい。
彼は人で、年頃の異性でもあって、だからこんな犬のような扱いをしてはいけないと分かってはいるのだ。けれど彼が寄せてくれる信頼を、親愛を、信念を、時折どうしても触って確かめたくなる。どうか許してほしいと、誰にかも分からぬ許しを請いながら、私は彼を抱き締め続けた。
「リンク……」
呼び掛ければ、振り向いた空色の瞳が私を映す。片手で私の隣を叩いて示すと、意を汲み直ぐに腰掛けてくれた。真鍮色の髪へ両手を伸ばし、引き寄せる。抱き込む私の動きに逆らう事なく胸元へ預けられた頭部を撫でながら、私は蕩けるような心地で息を吐いた。耳を弄りながらつむじへ口付ければ、微かに肩を竦めて擽ったがるのが可愛らしい。
彼は人で、年頃の異性でもあって、だからこんな犬のような扱いをしてはいけないと分かってはいるのだ。けれど彼が寄せてくれる信頼を、親愛を、信念を、時折どうしても触って確かめたくなる。どうか許してほしいと、誰にかも分からぬ許しを請いながら、私は彼を抱き締め続けた。
「ホットミルクが美味しく作れないんです」
そう言われたので、実際に作る所を見てみた。分量も手順も教えた通りで、おかしな箇所は見当たらない。
「特におかしな所は無いですけど」
「私もそう思うんですけれど、実際に飲むと美味しくないんですよ」
ため息を吐いたゼルダが出来上がったホットミルクを一口飲んだ。途端に目が丸くなる。
「……美味しい。リンクの作るホットミルクには及びませんが、確実に以前よりも味が向上しています」
ゼルダは心底不思議そうにしているけど、俺は理由に見当がついた。要するに、俺が一番美味しいと感じるホットミルクがゼルダの淹れたものなのと同じ理屈なんだ。俺が作って俺と一緒に飲む
「ホットミルクが美味しく作れないんです」
そう言われたので、実際に作る所を見てみた。分量も手順も教えた通りで、おかしな箇所は見当たらない。
「特におかしな所は無いですけど」
「私もそう思うんですけれど、実際に飲むと美味しくないんですよ」
ため息を吐いたゼルダが出来上がったホットミルクを一口飲んだ。途端に目が丸くなる。
「……美味しい。リンクの作るホットミルクには及びませんが、確実に以前よりも味が向上しています」
ゼルダは心底不思議そうにしているけど、俺は理由に見当がついた。要するに、俺が一番美味しいと感じるホットミルクがゼルダの淹れたものなのと同じ理屈なんだ。俺が作って俺と一緒に飲む
明日は一緒に二度寝しませんか、とゼルダから誘われて、断る選択肢などある筈が無い。朝が遅くてもすぐ食べられるよう前夜にしっかり仕込みを済ませた俺は翌朝、ゼルダと共に二度寝を楽しんだ。
最高の経験だったと言える。寝起きで意識のふわふわとしたゼルダは、俺を認めてほわりと笑ったかと思えば全身をすり寄せてきて、悪戯に首を噛んだり吸い付いたりした。あまりの可愛さに手を出したくなるのを懸命に堪えながら、俺は俺に懐くゼルダを甘やかす事に全力を注いだ。
いつもなら照れて恥ずかしがるゼルダが、はにかみながらも受け入れてくれるとか最高以外の何物でもない。二度寝万歳。ゼルダ可愛い。好き愛してる。
明日は一緒に二度寝しませんか、とゼルダから誘われて、断る選択肢などある筈が無い。朝が遅くてもすぐ食べられるよう前夜にしっかり仕込みを済ませた俺は翌朝、ゼルダと共に二度寝を楽しんだ。
最高の経験だったと言える。寝起きで意識のふわふわとしたゼルダは、俺を認めてほわりと笑ったかと思えば全身をすり寄せてきて、悪戯に首を噛んだり吸い付いたりした。あまりの可愛さに手を出したくなるのを懸命に堪えながら、俺は俺に懐くゼルダを甘やかす事に全力を注いだ。
いつもなら照れて恥ずかしがるゼルダが、はにかみながらも受け入れてくれるとか最高以外の何物でもない。二度寝万歳。ゼルダ可愛い。好き愛してる。
冬の朝は、目が覚めてもベットの中でグズグズといつまでも起き上がらずにおくのが良い。一階からはリンクの作る朝ご飯の美味しい匂いが漂ってくるけれど、グッと我慢するのだ。すると調理を終えた彼の階段を上る軽快な足音が聞こえて、ベッドの横まで来ると優しい声と共に肩を揺すられる。わざと目を瞑ったままでいれば、私が寝た振りをしているだけだと分かっているリンクの楽しげな笑い声が響く。
「起きてください、俺の可愛いお姫様」
笑みを含んだ台詞と頬への口付けで、私はやっと目を開ける。視界一杯に広がる彼の笑顔と空色の瞳。この最高の目覚めの為に、私は今日も布団の中でグズグスと寝た振りを続けるのだった。
冬の朝は、目が覚めてもベットの中でグズグズといつまでも起き上がらずにおくのが良い。一階からはリンクの作る朝ご飯の美味しい匂いが漂ってくるけれど、グッと我慢するのだ。すると調理を終えた彼の階段を上る軽快な足音が聞こえて、ベッドの横まで来ると優しい声と共に肩を揺すられる。わざと目を瞑ったままでいれば、私が寝た振りをしているだけだと分かっているリンクの楽しげな笑い声が響く。
「起きてください、俺の可愛いお姫様」
笑みを含んだ台詞と頬への口付けで、私はやっと目を開ける。視界一杯に広がる彼の笑顔と空色の瞳。この最高の目覚めの為に、私は今日も布団の中でグズグスと寝た振りを続けるのだった。
ゼルダは可愛い。動きの分かり易い眉も、夏の葉っぱ色の大きな瞳も、柔らかな線の頬も、桜色の小さな唇も、ゼルダを形作る何もかもが可愛い。
ゼルダを愛してる。自分に出来る事を探して精一杯頑張るところも、好きな事には前のめりになって早口になるところも、何度傷付いて挫けて俯いても何度だって顔を上げる心の強さも、ゼルダを構成する何もかもを愛してる。
でもゼルダは自分自身を大事にする事が下手くそで、そこだけは唯一ゼルダの困ったところで、だから俺はゼルダの分までゼルダを大事にしたいのに、ゼルダは俺に大丈夫ってばかり言う。だけどねゼルダ、俺はもう騎士じゃないから、貴女の言う事を聞く義務はないんです。
ゼルダは可愛い。動きの分かり易い眉も、夏の葉っぱ色の大きな瞳も、柔らかな線の頬も、桜色の小さな唇も、ゼルダを形作る何もかもが可愛い。
ゼルダを愛してる。自分に出来る事を探して精一杯頑張るところも、好きな事には前のめりになって早口になるところも、何度傷付いて挫けて俯いても何度だって顔を上げる心の強さも、ゼルダを構成する何もかもを愛してる。
でもゼルダは自分自身を大事にする事が下手くそで、そこだけは唯一ゼルダの困ったところで、だから俺はゼルダの分までゼルダを大事にしたいのに、ゼルダは俺に大丈夫ってばかり言う。だけどねゼルダ、俺はもう騎士じゃないから、貴女の言う事を聞く義務はないんです。
ハテノの家、小さな物音でもよく聞き取れる静まり返った夜、魘される声に目を覚ます。2階の寝台を覗き込めば眉を強く寄せた寝顔が。眦に涙が浮かんでは、直ぐに滑り落ちていく。厄災が倒れて尚、ゼルダは苦しみの中にあった。
「ゼルダ様、俺です、リンクです」
「リン、ク……」
ゼルダの右手が上がるのを、即座に両手で包み込んだ。
「ここに居ます。貴女が助けてくれから、生きて厄災を討てました。貴女がハイラルを救ったんです、ゼルダ様」
薄く、小さく、柔い手。武器を握った事も無いような手が、精一杯の力で俺の手を握る。
「ほん、とうに……」
「ええ、間違いなく。俺が信じられませんか?」
問い掛ければ、
ハテノの家、小さな物音でもよく聞き取れる静まり返った夜、魘される声に目を覚ます。2階の寝台を覗き込めば眉を強く寄せた寝顔が。眦に涙が浮かんでは、直ぐに滑り落ちていく。厄災が倒れて尚、ゼルダは苦しみの中にあった。
「ゼルダ様、俺です、リンクです」
「リン、ク……」
ゼルダの右手が上がるのを、即座に両手で包み込んだ。
「ここに居ます。貴女が助けてくれから、生きて厄災を討てました。貴女がハイラルを救ったんです、ゼルダ様」
薄く、小さく、柔い手。武器を握った事も無いような手が、精一杯の力で俺の手を握る。
「ほん、とうに……」
「ええ、間違いなく。俺が信じられませんか?」
問い掛ければ、
100年前に負った傷は幾らか痕が残ったものの、綺麗に塞がっている。問題なのは鈍った体と勘を取り戻すまでの間に負った新たな傷で、こちらは思い出した様に痛むことが多々あった。なるべくゼルダには知られないよう何気ないフリをしていたけれど、やっぱり一つ屋根の下で暮らしていると隠し事をするのは難しい。
それはシンと冷え込んだ夜のこと。傷痕の痛みが夢の中にさえ忍び込んできて、俺は何せ夢の中だから自制なんてものはすっかり忘れ去っていて、どうしようもない痛みを誤魔化したくて少しばかり大袈裟に喚いていた。そうしたら階段の軋む音が聞こえて、俺は一瞬で跳ね起きる。現実でも声を出してしまっていたのだと、
100年前に負った傷は幾らか痕が残ったものの、綺麗に塞がっている。問題なのは鈍った体と勘を取り戻すまでの間に負った新たな傷で、こちらは思い出した様に痛むことが多々あった。なるべくゼルダには知られないよう何気ないフリをしていたけれど、やっぱり一つ屋根の下で暮らしていると隠し事をするのは難しい。
それはシンと冷え込んだ夜のこと。傷痕の痛みが夢の中にさえ忍び込んできて、俺は何せ夢の中だから自制なんてものはすっかり忘れ去っていて、どうしようもない痛みを誤魔化したくて少しばかり大袈裟に喚いていた。そうしたら階段の軋む音が聞こえて、俺は一瞬で跳ね起きる。現実でも声を出してしまっていたのだと、
庭に植えた桜という木は面白いもので、冬の間は枯れ木の如く佇んでいる
しかし春の陽気を感じた途端、蕾は一気に花開き数日で満開になるのだ
その代わり映えは別の木かと見紛うほど
故郷でも、短い夏が来れば一斉に緑が芽吹いていたが、この木はそれに似ている
散るまでがあっという間なのもまた同様に
しかし桜は花の後に葉が開くので、そこが故郷の植物とは違っていて面白い
何にせよ、桜の見頃は極僅か
今日明日と快晴が続くようなので、明日は馴染みの者たちと花見に興じるのも良いだろう
しかし先ずは今日、彼を誘って庭に繰り出すとしようか
庭に植えた桜という木は面白いもので、冬の間は枯れ木の如く佇んでいる
しかし春の陽気を感じた途端、蕾は一気に花開き数日で満開になるのだ
その代わり映えは別の木かと見紛うほど
故郷でも、短い夏が来れば一斉に緑が芽吹いていたが、この木はそれに似ている
散るまでがあっという間なのもまた同様に
しかし桜は花の後に葉が開くので、そこが故郷の植物とは違っていて面白い
何にせよ、桜の見頃は極僅か
今日明日と快晴が続くようなので、明日は馴染みの者たちと花見に興じるのも良いだろう
しかし先ずは今日、彼を誘って庭に繰り出すとしようか
昼を跨ぐのでお弁当を用意しようとしたら、彼が作ってくれると言う
なんでも練習していた料理を披露してくれるらしい
ありがたく一任したのだが、渡されたお弁当を見て、少々早まった気がした
私の顔より二回りほど包みが大きいのだが、どれだけ作ったのだろう
若干の不安を抱きつつも迎えた昼時
包みの中身は大量の握り飯と、山盛りのからあげであった
練習したと言うだけあって見目はよく、味も文句なしに美味しい
しかし量が多過ぎる
結局、一人では食べ切れず周りにも配った
私の歳では脂が辛いと伝えておかなければ
昼を跨ぐのでお弁当を用意しようとしたら、彼が作ってくれると言う
なんでも練習していた料理を披露してくれるらしい
ありがたく一任したのだが、渡されたお弁当を見て、少々早まった気がした
私の顔より二回りほど包みが大きいのだが、どれだけ作ったのだろう
若干の不安を抱きつつも迎えた昼時
包みの中身は大量の握り飯と、山盛りのからあげであった
練習したと言うだけあって見目はよく、味も文句なしに美味しい
しかし量が多過ぎる
結局、一人では食べ切れず周りにも配った
私の歳では脂が辛いと伝えておかなければ
吹く風も冷涼で、すっかり秋の顔をしている
木々はいつの間にやら衣替えを済ませており、装いも新たに佇んでいた
そう言えば最近の就寝時、彼がいつも以上に密着してきていた事を思い出す
知の都で育ってきただけあって寒さには強いものと見ていたが、案外と気温の変化に敏感なのかもしれない
それか、故郷を長く離れた己がその寒さを忘れてしまったように、彼も寒さへの耐性を忘れたかだ
寒さに弱くなってしまった事自体は不憫に思うも、それだけ彼と共にあるのかと思えば喜びも湧くのが人の心の不思議で面白いところだろう
それはさておき、今夜に向けて掛け布を増やしておかなければ
吹く風も冷涼で、すっかり秋の顔をしている
木々はいつの間にやら衣替えを済ませており、装いも新たに佇んでいた
そう言えば最近の就寝時、彼がいつも以上に密着してきていた事を思い出す
知の都で育ってきただけあって寒さには強いものと見ていたが、案外と気温の変化に敏感なのかもしれない
それか、故郷を長く離れた己がその寒さを忘れてしまったように、彼も寒さへの耐性を忘れたかだ
寒さに弱くなってしまった事自体は不憫に思うも、それだけ彼と共にあるのかと思えば喜びも湧くのが人の心の不思議で面白いところだろう
それはさておき、今夜に向けて掛け布を増やしておかなければ
にも関わらず彼は相変わらず本の虫なので散歩に誘う
喜び勇んで付いてくる姿は何処となく犬を思い起こさせる
尻尾の形状やふとした仕草から考えれば猫の方が近い気がするのだが
そう言えば、ギラバニアにいる彼と同種たる弟子も犬っぽかった
そもそも私自身が兎とは生態を異にする
結局は個人の資質なのだろう
散歩の傍ら、食料や素材を共に採取した
何にでも興味を示す彼に、何人目かの弟子が重なる
確かあの子は、独り立ちして間もなく自然に還ってしまったのだったか
彼が私の同胞でなくて本当に良かった
ここに集落の掟はない
出来うる限り長く傍にいたいものだ
にも関わらず彼は相変わらず本の虫なので散歩に誘う
喜び勇んで付いてくる姿は何処となく犬を思い起こさせる
尻尾の形状やふとした仕草から考えれば猫の方が近い気がするのだが
そう言えば、ギラバニアにいる彼と同種たる弟子も犬っぽかった
そもそも私自身が兎とは生態を異にする
結局は個人の資質なのだろう
散歩の傍ら、食料や素材を共に採取した
何にでも興味を示す彼に、何人目かの弟子が重なる
確かあの子は、独り立ちして間もなく自然に還ってしまったのだったか
彼が私の同胞でなくて本当に良かった
ここに集落の掟はない
出来うる限り長く傍にいたいものだ
雨が降る雲ではないが、全体的に空が覆われている
日差しが和らぐので私としては好ましい
難を言えば、洗濯物が乾きにくいことか
室内に洗濯物を乾かす部屋でも作ろうか思案しつつ、彼と共に読書
昼食は魚が食べたくなったので、適当に釣り上げてムニエルとした
よく食べる彼のためにステーキも用意すれば大層喜んでもらえた
言葉と態度で美味しいと伝えてくれる度、調理師を極めておいて良かったと心から思う
彼から受け取った分を少しでも返したくて始めたことだが、結局また私が受け取ってしまって終わりが見えない
けれども彼は幸せそうなので、これで良いのだろう
願わくは、彼の幸福が代償に吊り合うものであるように
雨が降る雲ではないが、全体的に空が覆われている
日差しが和らぐので私としては好ましい
難を言えば、洗濯物が乾きにくいことか
室内に洗濯物を乾かす部屋でも作ろうか思案しつつ、彼と共に読書
昼食は魚が食べたくなったので、適当に釣り上げてムニエルとした
よく食べる彼のためにステーキも用意すれば大層喜んでもらえた
言葉と態度で美味しいと伝えてくれる度、調理師を極めておいて良かったと心から思う
彼から受け取った分を少しでも返したくて始めたことだが、結局また私が受け取ってしまって終わりが見えない
けれども彼は幸せそうなので、これで良いのだろう
願わくは、彼の幸福が代償に吊り合うものであるように
温かな重みが腕の中に
起こさないようそっと腕を引き抜き、寝台を降りる
今日の朝食は何にしようか
この間に収穫した果実がそろそろ熟した頃合いのはず
顔を洗って台所を見て回る
先日の卵が残っており、野菜もまだ傷んだ様子はない
寝かせていたパン生地も良い具合である
そう言えばベーコンも残っていたのだな
ベーコンエッグにサラダに焼きたてのパン
これに果実を絞った飲み物が付けば朝食としては十分だろう
それでは、彼が起きてしまう前に準備を済ませるとしようか
その瞬間ふと、手伝いたかったのに、と耳を萎れさせた彼の姿が脳裏を過る
少し考え、踵を返した
おはよう愛しい人
共に朝食を作らないかい?
温かな重みが腕の中に
起こさないようそっと腕を引き抜き、寝台を降りる
今日の朝食は何にしようか
この間に収穫した果実がそろそろ熟した頃合いのはず
顔を洗って台所を見て回る
先日の卵が残っており、野菜もまだ傷んだ様子はない
寝かせていたパン生地も良い具合である
そう言えばベーコンも残っていたのだな
ベーコンエッグにサラダに焼きたてのパン
これに果実を絞った飲み物が付けば朝食としては十分だろう
それでは、彼が起きてしまう前に準備を済ませるとしようか
その瞬間ふと、手伝いたかったのに、と耳を萎れさせた彼の姿が脳裏を過る
少し考え、踵を返した
おはよう愛しい人
共に朝食を作らないかい?