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夢幻ケア（4/4）
　というわけで、久々の長谷部くんと後輩くんのお話でした！百鬼夜行迎撃戦、緊張感のあるストーリーの裏側で、夢幻の本丸もしっかり稼働していおりました。
　原稿作業もしつつだったので、書き初めより少し時間がかかりましたが、待ってくださった皆様、ありがとうございました><*

そしてべった+版です。+なのでえっくすさんのアカウントが無くても読めます！
夢幻ケア（長谷部くんと後輩くん） privatter.me/page/68c8517...

次にまた、いつ大規模な作戦に参加しないとも限らない。しっかりと休み、英気を養っておかねばならないのは、この本丸に顕現した誰しもに当てはまるのだから。
　今日の任務の時間まで、あと数時間はある。朝支度を終えてから、長谷部は携帯用の情報端末を起動して、スケジュールを確認した。
　うむ。万屋に足を運ぶ時間くらいはありそうである。
「釜揚げにせねば腐るな。燭台切にいい茹で加減を習うとするか」
　長谷部は呟くと、部屋を飛び出した。

September 15, 2025 at 6:02 PM

椚田ツルバミ🌱11/16閃華*東6*ヤ13b

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夢幻ケア（3/4）
「俺は気休めを言えるような、優しい先輩にはなれん」
　珍しく激しい感情を吐露した後輩くんを諭す長谷部くん。何だかんだ、今までで一番先輩らしいムーブをしているかもしれません。
　前のページから続いて、とても書いていて楽しい場面でございました( ˘ω˘)

「う。ぐうの音も出ない」
　図星を突かれたのか、後輩は再びビーズクッションに倒れ込んだ。とはいえ、それは長谷部たちにもそのまま当てはまる。審神者も知らない事情が政府にはあるし、情報が全ての部隊で共有された所で、動けることには限りがある。
　だが、と言いながら長谷部はポケットから手帳とペンを取り出した。昼間でも──つまりは起きている時間でも、長谷部が使用している筆記用具だった。
「発想自体は悪くないだろう。相手が何を思っているのか知りたい時は、やはり話をするべきだな」
「先輩……。僕のこと、わかってくれるのかい？」
　クッションに埋もれたまま言う泡影に、長谷部は頷いた。
「情報が伏せられていて歯痒いのは、誰もが思うことだろう。主も動きあぐねているようだしな。ただ、何か起きた時の為にと見逃されている夢幻の本丸に、精神とはいえ遡行軍を連れてくるのは得策ではない」
「……それはそうかもしれない。本丸を危機に晒すのは、本末転倒だね」
　本丸転倒とはこのことだよ。
　泡影は長谷部の指摘に、しょぼくれて頭を垂れる。付け加えられた言葉遊びについてはスルーすることにした。
「だから昼間に顕現できるようになったら、直接斬りに行け」
　長谷部の言葉に、泡影は息を呑んだ。
「それは本気で言っているのかい、先輩。僕は文字通り、夢の世界の住人だよ」

「俺は気休めを言えるような、優しい先輩にはなれん」
　その前に長谷部があの打刀を切る羽目になることだって、あるのかも知れないが。戦う遡行軍は選べない。あの打刀には、長谷部も言いたいことが山程あった。
　主の為に歴史を守る長谷部たちと、何かの目的の為に歴史を変える遡行軍。征く道が異なると言うならば、交わる時には斬り合いになるだろう。あまりにも血腥い話かもしれないが、鍔迫り合いは、刀にとっての語らいだ。本能と言っても過言ではなかった。
　夢の世界にしか顕現できない泡影だが、一時的に機械の肉体で顕現することは可能だったのだ。何かしらのタイミングで、昼間の顕現も可能になるかも知れない。
　そしたら存分に、己の言葉をぶつけたらいいのだ。
　言葉でのやり取りで終わらせてくれなければ、互いの剣技をぶつけ合うしかないだろう。
　長谷部は言いながら、切り取り式になっていた手帳を切り離すと、泡影の額にぺたりと貼り付けた。右手にペンを持たせる。泡影は度々、主が枕元に置いたスケッチブックに絵を描いては昼の世界に残している。紙に絵が描けるなら、文字だって可能だろう。
「そこに食べたいものでも書いておけ。枕元に供えておく。食堂や万屋にあるものなら買ってやるし、……俺にも作れるなら作ってやる」
　後輩を労ってやるのも、先輩の仕事だろう。
「わーい、先輩の手料理だ……、いやそこは燭台切さんに作って貰おうよ」

料理上手な燭台切の食事を、泡影も気に入っているのだった。茶化すその言葉に、調子が出てきたな、と長谷部は嘆息する。
「失礼な。俺だってまったく料理ができないわけじゃあないぞ。最近、主のそうるふーど？　なる信州そばの美味しい茹で方を研究しているところだ」
「じゃあしらす丼が食べたい」
「江戸っ子め」
「湘南かぶれだよ」
　泡影の前の主は、江の島に遠く憧れていた。確かに湘南かぶれである。話しているうちに、長谷部もしらす丼が食べたくなってきた。
　後輩もいつもの調子にもどったようである。軽々としたやり取りが後輩の荒んだ心を解したようである。
　夜明けが近いのだろう。段々と長谷部を取り巻く夢幻の本丸の空間が薄く、輪郭がぼやけてきた気がした。全体的に白んできたというか──。
　泡影も察したのか、ふうとため息を一つ吐いて、口を開いた。
「任せるからね、先輩。もしも僕よりも先に、先輩が『あっちの僕』に会うことがあったら──どんな絵を描くのか、訊いておいておくれよ」

　○

　ああ、覚えておこう。頷く前に、長谷部は覚醒した。朝のひんやりと冷えた空気が、日中に強まるであろう残暑を忘れさせる。寝る前は身体にこびり付いていた疲れも気だるさも、すっかり消えていた。

「やはり睡眠はすべての特効薬か……」
　しっとりと冷たい布団に頬を寄せたい気持ちをぐっと堪えて、長谷部は立ち上がった。
　ハンガーに掛かっていたカソックの内ポケットに入っていたメモ帳を開いて、ふっと笑みをこぼした。メモ帳のいちページにはポールペン画で小さくしらすの群れが描かれている。ひしめきつつも感情を感じさせない魚のまんまるな目に、むしろ愛嬌を感じる。紛れもない、後輩の筆致だった。
「しらすへの情熱を感じるなあ……」
　湘南かぶれを自称するのも頷ける絵だった。否、かぶれ、というからには、そこまで入り込めていないぞという自虐も入っているのだろう。それこそ元の主と、その持ち物である刀剣は別物なのだ。しらすを美味しいと思う心は、紛れもなく後輩の好みそのものなのだから、素直に湘南が好き、で良いのではないだろうか。それこそ、敵の打刀だって、別の食べ物が好物かも知れない。
　どんな時でも自らの信念を持ち続ければ、それは強みになる──後輩にとってはきっと、絵を描くことなのだ。
　それを忘れていないのならば上々だと、長谷部は思った。

　人は眠ることで休息を得て、夢を観ることで記憶の整理をするのだという。人の|像《かたち》をしている刀剣男士もまた、同じように睡眠で心と身体を整えている。物語の根源は夢を観ることなのだなのだ。
　だったら、そもそもが夢の世界の住人はどう休めば休息になるのか、長谷部は知らない。だが、自らの役目を果たそうと後輩が頑張っているのなら、労ってやるのはやぶさかではないのだった。

September 15, 2025 at 5:59 PM

椚田ツルバミ🌱11/16閃華*東6*ヤ13b

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夢幻ケア（2/4）
百鬼夜行の作戦について、怒りに燃える後輩くん。
自分の同位体が歴史改変に手を染めるのは刀剣として割と理解できる話だと思うのですが、目的から外れている(と感じた)敵の動きには流石に許容しがたいものがあるようです。意外と敵には誇り高くあってほしいタイプみたいですね。

「な、なんか僕が無理やり映画を布教してるみたいになってる……？　いいよ先輩、映画は例え話だからさ、無理に観に行かなくていいんだよ……。あと僕いまカウンセリングはしてないよ、カウンセリングってのはねアドバイスは基本しないもんであって……ああ、これも押し付けがましいかな」
　夢の中にいるというのに、言動が譫言のようにとっ散らかっている。これは愈々後輩も限界らしいと長谷部は悟った。映画に関しても、元より気になっていたものだ。遅かれ早かれという感じである。
「ええい面倒くさい！　変な所でくさくさするんじゃあない」
　豆痕を覆い隠すように頬に手を当てて卑屈になる泡影を、長谷部は軽くラリアットをして引き倒した。唐突な先輩の決め技に白黒と目を回す後輩はしかし、畳の上ではなく、柔らかなクッションの上に倒れ込む。先程までバランスボールがあった場所だが、やはり夢の世界というべきか、あのボールは綺麗サッパリと消えていた。
「ぐ、ぐはー！　な、なんだこのふわふわ……あっ！　これ刀を駄目にするクッション！　そっかあ先輩の部屋だからここ……ふぐぅ」
　現実でも長谷部も時たま骨抜きにされるビーズクッションである。その実力は確かなようで、最早言葉を発することもなく、後輩はクッションの中に沈み込んだ。
「落ち着いたか」
　しばらくして静かになった後輩を覗き込むと、呆けていた。
「はっはー。ありがとう、先輩。落ち着いたさ、しっかりと」
「ふう。何かの螺子でも吹っ飛んだのかと思ったぞ」

そういえば実験として、この後輩は機械の身体で生活していたこともあった。全くロボ感のない見た目ではあったが、懐かしい話である。
　思えば長谷部がこの部屋で気がついた時点で、後輩は脱力していた。ただの気まぐれとも思ったが、様子が可笑しいという判定で良いようだ。
「おまえ、やはり憂鬱である理由をしっかり吐き出した方がいいんじゃあないか？」
「残念ながら、そうみたいだね」
　尋ねると、泡影は観念したように頷いて、起き上がった。あっさりと刀を駄目にするクッションから復活した後輩は、いやね、と言い辛そうに目を泳がせる。
「あっちの『僕』はどうしているかな、と思ってね。今回の作戦に参加していたのかは分からないけど、こうやって破壊的な作戦を見てしまうとね──」
　破壊的な作戦。歴史改変の整合性も目的も関係なく、ただこちらを標的とした殲滅戦──。
「紛れもなく『僕』なのに、何を考えているのか全く想像できなくて、少し気が滅入ってしまうんだよ」
「あの打刀か」
「そうさ、その打刀さ。許したくない。こんな消耗作戦、歴史改変に関係ないだろ。こっちに関心を向けるなよ、前の主を助けたいなら本気でやれって思う。こっちも本気で止めに行くから」
　その言葉を聴いて、長谷部はどこか腑に落ちた。泡影は怒っているのだ。
　泡影の語る『あっちの僕』というのは、そのまま遡行軍に顕現した泡影のことである。

（泡）という識別名を持つ敵の打刀は、必死に自分を作り出した刀工を救おうと歴史改変に身を賭している。長谷部も、会ったことがある。
　話してみれば、敵の打刀はただ前の主の死を悼んでいた。だからこそ救いたいのだともがいている。その姿は、歴史を守るために遡り、前の主たちに史実通りの運命を歩ませることに葛藤を覚える仲間たちと、なんら変わりはなかった。
　泡影とて、その部分には理解があったのだろう。だからこれまでは、無関心だったのだ。それが大侵攻、百鬼夜行と政府を狙う動きに「標的が違う」と怒っている──解釈違い、というやつだ。
　長谷部が、他の本丸に顕現したへし切長谷部とは別個の意識を持つように、泡影と打刀(泡)もまた別人だ。それでも同じ歴史と物語を背負う刀剣男士として、魔道に堕ちたというも言うべき同位体を気にしない方が難しいだろう。
「主も先輩も、他のみんなも、大変な思いをして」
　肩を怒らせて絞り出すように言う泡影に、長谷部もまた思いを馳せた。後輩の言っていることは、至極真っ当だった。
　敵としては、歴史改変を阻む敵を排除することに正当性はある筈だ。それを許すかどうかは別として、作戦の目的は理解ができる。戦いとは、そういうものだ。
　そもそも、百鬼夜行が本当に歴史修正主義者の作戦なのかも、少し疑わしい。
　そういう意味では、今回の作戦は妙だった。童子切安綱不完全な顕現はもちろん、突然顕れては去って行った謎の刀剣男士も。政府は一体何を考えているのか、とは、審神者や陸奥守とも膝を突き合わせて話し合った所ではあるのだが。

注目すべきは敵の動向だけではない。長谷部も泡影も、疲弊しているのはそんな得体のしれなさにも一因があるのかもしれなかった。
　考え込む長谷部とは裏腹に、ふっふっふ、と泡影は不穏な笑い方で肩を震わせた。
「せっかく同位体なんだ。無理矢理にでも精神をこっちに引きずりだして、尋問すれば何かわかるかなあ」
　わなわなと両手の指を曲げ伸ばしする泡影に、長谷部は再びおう、と現実に引き戻された。
「尋問の意味を分かって言ってるんだろうな？」
　実際に尋問の経験がある元主を持つ和泉守や堀川ならばともかく、泡影は一介の絵描きである。やったことはないだろうに、何故そんなにも乗り気なのか。目が血走っているのが尚怖い。そりゃあ捕虜として遡行軍を捕まえたのならば、情報を引出すために已む無しと取り調べを行う必要はあるのかもしれないが。
　戦事情が激しかった時代に生まれた長谷部としても、やや引き気味になってしまう言動だった。しおらしく口に手を当ててしまいそうだ。
「んもう、そんなに真剣にドン引きしないでよ、先輩。先輩だって、他の本丸の自分がおいたをしていたら、説教の一つも垂れたくなるだろう？」
「そう言われればな」
　歴史修正主義を掲げるへし切長谷部を名乗る何者かが出てきた折には、助走をつけて斬りつけに行く所存である。クラウチングスタートも辞さない。理由は後で訊く。
　とはいえ、である。
「だがな、泡影。悲しい話、あちらのお前は末端のいち隊員でしかないだろう。碌な情報は持っていないと思うぞ」

September 15, 2025 at 5:58 PM

椚田ツルバミ🌱11/16閃華*東6*ヤ13b

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◆夢幻ケア(長谷部くんと後輩くん)（1/4）
　百鬼夜行迎撃作戦ののち、眠りに落ちた長谷部くんが夢の中の本丸で後輩と今後について話し合うお話です。珍しく後輩くんのほうが疲れております。
※敵打刀(泡)の話もあるので、創作刀剣男士多めな構成です。

とうらぶ / 小説 / 長谷部くんと泡影(創)

「──あー……」
「どうした、泡影。脱力しているとは珍しい」
　部屋の隅でバランスボールに保たれながら呻く後輩の姿に、長谷部は声をかけた。長谷部の自室に遊びに来た、と嬉々として告げた後輩・打刀の泡影。左頬に痘痕のあり、長い髪を後頭部でくくっている。普段は浅葱色のコートを着ているが、今はブラウスにサスペンダーと言った気楽な装いだ。
　通常ならば張り切ってスケッチブックを広げる青年はしかし、某ぱんだのように垂れていた。
「僕だって憂鬱になる時があるのさ。カウンセラーにもメンタルケアが必要だ」
　カウンセラーだったり絵描きだったり、肩書の多い刀剣男士である。
「そうか。なら休んでいるといい。俺はこの始末書を……、あ」
　手にした書類は、デタラメな文字の羅列のみが印字されていた。長谷部は眉根を寄せて天を仰いだ。窓から見える空の色は、黄昏時の薄紫だ。
　打刀・泡影が視界に映っている。その事実が何を意味するのか、長谷部はよく知っている筈だったのに。
　バランスボールに海老反りになって張り付く後輩は、長谷部を哀れむように目を伏せた。口元にはなんともいえないと言わんばかりに、にんまりとニヒルな笑みが張り付いている。
「先輩、夢の中でもお仕事だなんて……、いいや。それも先輩らしさだ。僕は優しく見守るよ」

逆さになって尚恭しく胸に手を当てるこの後輩は、夢の世界に建つ本丸を管理し、訪れた客を持て成す役目を負っている。本人の自称通り、カウンセラー的な役割と言えた。
　故に泡影が長谷部の前にいる事実は、既に意識のみの世界に身を置いているということを意味していた。
　ここは、夢幻の本丸なのである。元々は長谷部が作り出した世界なので、自由にこの世界に出入りできるのだ。
「既にからかい度マックスで台詞を投げかけて来ているだろう。……はあ、この辺にしておく」
　書類を立てて机に揃えて置くと、長谷部は泡影を振り返る。痘痕の浮かぶ左頬は、こちらの言葉を待っているのかぷっくりと膨れている。ふう、と溜息をひとつ吐いて、長谷部は再び口を開いた。
「全く寝ている自覚がなかった。もしや俺は、戦場で昏倒してしまったのか」
「いいや。先輩は寝支度を終えて、健やかに眠りについたみたいだよ」
「ではなぜ」
「最近、忙しかったんじゃあないかい？　ただでさえ夏はイレギュラーが起こり易い。環境の変化に、お祭り騒ぎ。楽しいことでも疲労っていうのは溜まるからね、気絶するように眠っちゃったんだよ。だから記憶が曖昧なのさ」
　布団にはしっかりと入っている所はえらいよね。と、後輩は何故か自分のことのように誇らしげに胸を張った。気づけばバランスボールは消えている。たれるのに飽きたようだ。
「疲労……」
　思い当たることは山ほどある。盆の辺りから、百鬼夜行迎撃作戦に身を投じていたのだ。

長谷部たちとは別の本丸の部隊も巻き込んだ、大規模な合同作戦。正体不明のまま切られることで無力化した【鬼】──それでも斬り落とせたのは飽くまでも一部のみだというのだから、この敵の対処もまた、定期的かつ長期的に取り組まねばならぬものらしいと厭でも解った。
　新しい刀剣男士は、不完全な顕現であったとも聴く。更に最終戦で加勢し、姿を消した謎の剣士。大きな戦闘は終わったものの、不確定要素の多さに自然と緊張感が本丸全体に走っている──。
「先輩は最前線で戦う第一部隊だったんだろう？　その上で主の補佐に書類整理にと駆け回っていたなら、そりゃ過重労働にもなってしまうさ」
　長谷部がかいつまんで話した百鬼夜行の顛末に、泡影は胡座をかいたままそう言った。長谷部が現在請け負っている仕事の内容を、後輩はしっかりと予測している。肩をすくめて両手を掲げて、軽い調子の言葉遣いは、そのまま気遣いではあるのだろう。こほん、と長谷部は咳払いをひとつした。
「主の補佐は、俺ひとりではない。総務の陸奥守や経理の博多だっている。他の番長も総出だぞ」
「大規模な作戦だったもんねぇ。そこは主も考えているのはわかるよ」
　心無しか後輩の笑みが更に軽くなったような気がする。
「でも先輩、あなたは主の為なら何でもほいほい請け負うじゃあないか。言いつけられた主命だけでなく、細やかに気を回して、何かと雑事をこなしていたんじゃないかい？　その気配りがきちんと主や他の皆の負担を軽くしているんだから、流石だけどね」

褒められているのか叱られているのかよくわからない調子だったが、要はそこで上手に息抜きをしなきゃね、と言いたいのだろう。宗三左文字や燭台切光忠にも、よく小突かれるポイントであった。
「だが、睡眠時間は守るようにしているからな。大浴場にも毎日通っているし、食事も欠かしていないぞ」
「いいね！　だからこの程度で済んでいるってことだね。今度丸一日おやすみを取るのもいいんじゃない？　映画でも観に行きなよ、主といっしょでもいいからさ。鬼退治の映画が最近流行っているんだろう？　映画はいいね。人間の生み出した文化の極みだよ、僕らみたいに」
　自己肯定感が高い上に色々と混ざり過ぎな台詞であった。つらつらと立て板に水の如しに口からこぼれ出る言葉に、長谷部は「お、おう」と真面目に頷いてしまう。
　最初に言っていた通り、後輩も疲労が溜まっているのかもしれない。たとえ夢の中にいたのだとしても、いざという時の避難場所として使えるようにこの「夢幻の本丸」を整えていたのだろうから。
　長谷部以外にも、夢を通じてこの本丸に訪れた刀剣男士もいただろう。彼らの話を、泡影も聴いているのだ。曲がりなりにも後輩だ、ここで折れてやるのも先輩の役目であろう。
「わかった、言われた通り寛いでいく。休みも取ろう。その鬼退治？　とやらの映画も観に行く。だからお前も休め。俺のカウンセリングもしなくていい」

September 15, 2025 at 5:56 PM

椚田ツルバミ🌱11/16閃華*東6*ヤ13b

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投票してきたよ日記

後輩くんと長谷部くん / 長谷部くんと泡影(創)

ちょっとした正方形の3コマ漫画。
ユポ紙に無料で書き込める日(期間)〜！と泡影がメモ帳サイズのユポ紙に頬ずりをしている。
長谷部くんは顎に手を当てて、ほうと頷く。ユポ紙に興味深々なようだ。

「そんなに特殊な紙なのか？」
　長谷部くんが尋ねると、泡影大きく頷いた。
「うん。モキュモキュしていて不思議だよ。ラクガキしたくなる」

　その後、ユポ紙に何かを書き込む長谷部くん。モサコモサコと鉛筆が吸い寄せられるような書き心地は、紙というよりサラサラなプラスティックのようだ。
　なるほど、絵描きである泡影が興味を持つわけである。
　これは奇特な書き心地。

July 20, 2025 at 4:00 AM

椚田ツルバミ🌱11/16閃華*東6*ヤ13b

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◆夢現スケッチ
枕の下にスケッチブックを置くと、夢の中で後輩くんが絵を描いてくれるお話。
後輩くんの近況話でございます。長谷部くんも後輩くんの成長ににっこり。
（CPなしです）

とうらぶ / 長谷部くんと審神者(と泡影(創作刀剣男士))
#まいにち本丸コバナシリーフ #後輩くんと長谷部くん

執務室に訪れると、審神者の青年がなにやらスケッチブックを広げて、しげしげと眺めていた。へし切長谷部が挨拶をすると、彼は顔をあげた。
「おはよう長谷部さん。昨日はよく眠れたかな」
「はい。今日も主のために、上から下、西へ東へとあくせく働かせて頂く為にも……睡眠でしっかりと疲労回復に努めております」
　本日は近侍の任を任されている為、尚更張り切っている。というか、毎朝朝が弱い審神者を叩き起こしているのは長谷部である。審神者から任されている立派な主命なのだ。主が役目を果たせるようサポートするのも、臣下の役割だろう。今日もいい仕事をしたと、ちょっとばかし満足しかけているくらいである。
「あはは、だよね。ありがとう」
　苦笑しつつ遠くを眺める審神者であった。青年も、長谷部が朝から張り切っているのは身を以て知っているのだろう。
「そうだ、長谷部さんも見てよ。よく描けてるだろう？」
「む、なんです？」
　机ごしに渡されたそれを受け取る。万屋どころか、そこらのコンビニでも売っていそうなどこにでもあるスケッチブックである──その中身は、まったくありふれてはいない。大樹の影で涼む長谷部の姿が描かれていた。別のページには料理の味見をしている燭台切光忠や、アイドルの如ききらびやかなポーズを決めている乱藤四郎等、刀剣男士のスケッチで埋められている。生き生きとした刀剣男士たちの姿が、そこにはあった。

何処かで見たような、力強い筆致と画風。
「どうしてあいつの絵がここに……？」
　見慣れているどころの話ではなかった。これは後輩の描いた絵である。
　夢の中でのみ存在が許された刀剣男士。打刀・泡影。長谷部が指導を任された刀剣男士であり、本来は顕現し得なかった筈の刀剣だ。
　色々あって、現在は長谷部の夢の世界から分かたれた夢幻の本丸を管理しているのだが──彼の趣味は絵描きであった。とはいえ、夢の世界で描かれたものが、現実世界にあるのは何故だろう。一度機械の体で擬似顕現の実験をしたことがあったが、それは数年前の話だし、当時とは画材も違う。
　困惑した長谷部に、審神者はにこやかに応えた。
「最近ね、スケッチブックを枕に下に置いて寝ると、こうやって描いてくれるようになったんだ。寝ている間にぼくの身体を使って描いているのか、眠っている間なら夢と現の境が曖昧だからこそ転写できたのか……原理はよくわからないんだけどね」
　審神者の言うように身体を使ってこちらの世界のスケッチブックに転写しているとなると、主が変な疲れ方をしないか心配である。できれば後者であって欲しいが、真相はわからない。本人に尋ねて見るしかないようだ。
　怪奇な現象が起こっているにも関わらず、審神者の表情は穏やかだ。長谷部から戻されたスケッチブックを再び開いて、楽しそうに眺めている。
　半ば事故のような顕現とは言え、刀剣男士として親しみを抱いているのだろう。その様子に、長谷部は少しほっとした。

顕現方法の特殊さから一歩引いていた後輩が、主とも上手くやれているようでなによりだ。
「最近葉書を仕込んだら、季節の絵葉書を送ってくれるようになったよ」
　棚からフォトブックを取り出すと、それも長谷部に見せてくれた。蛙が紫陽花に埋もれている。後輩らしい外連味溢れた季節の絵葉書の数々に、長谷部は自身の口角が自然と上がるのを感じた。
「楽しんでいますね、あいつ」
「うん。もし今度夢で会えたら、お礼を言おうね」
　行こうとしてもなかなか夢を見られないんだよね。そう続けた審神者に、長谷部はふむ、と顎に人差し指の背を当てた。ああ見えて後輩は絵を他人に見せる時にはかなりの引け腰になる。かといって、主の来訪を拒む程ではない筈だ。
　審神者とはいえ、主は人間である。刀剣男士が夢を見るのとは、少し勝手が違うのかもしれない。
「今度、俺から伝えておきましょう。夢路を繋げるように、と。スケッチブックを受け取っているのですから、きっと主の声も聴きたいはずです」
　絵描きというものは、感想を貰うとたっぷりの飯を腹に納めた時並に満腹になるという。主の反応を見たら、奴も小躍りして喜ぶのではないだろうか。主も礼を伝えられて満足し、主の満足は長谷部の満足へと繋がる。すると、与えられた主命も恙無くこなせるというものである。
　完璧じゃないか？
　長谷部はひとり、得意気に頷いた。
　そんな、ありふれた一日の始まりである。

「へっくし！」
　夢幻の本丸の庭。黄昏の空の下、スケッチブックを開こうとしていた刀剣男士が、大きくくしゃみをした。一本にくくった後ろ髪が、水をふくんだ筆のようにしなやかに跳ねた。
「先輩か主が僕の話でもしているのかな？　はっはー、照れちゃうかも」
　気障な言い回しで独り言を呟くと、刀剣男士は──泡影は、周囲を見渡した。自分以外に誰もいないのを確認すると、改めてスケッチブックを開く。
「さて、今日は何を描こうかな」
　主、喜んでくれたらいいな。
　そう心の中で呟いて、泡影は鉛筆を紙に走らせた。

　了

June 24, 2025 at 10:13 AM

椚田ツルバミ🌱11/16閃華*東6*ヤ13b

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「晴れの日を祝うことができて、とても嬉しいよ」
「ありがとうね、先輩たち」
「ん？　日付がズレてるって？　何、寝るまでは今日、っていうじゃないか」

#後輩くんと長谷部くん
とうらぶ / 泡影（創作刀剣男士）エイプリルフール2025

刀剣番号■■■番、打刀：泡影。
グレーのブラウスに濃紺のスーツに身を包み、普段は下ろしている長い前髪も、右側だけ後ろへ流している。三つ編みにまとめられた銀髪は、金色のリボンで留められている。
先輩である長谷部くんと、燭台切さんや篭手切くん。そしてアルジ。
彼らの厚意に感謝しつつ、夢と現実の端境から祝装に身を包み、顔を見せた泡影くんなのだった。

April 1, 2025 at 4:56 PM

椚田ツルバミ🌱11/16閃華*東6*ヤ13b

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夢幻の式典（２/２）
テレビは何もかもを映し、繋ぐものなのです──。

そんなわけで、泡影くんも一緒にお祝いしたい長谷部くんのお話でした。主も大事な二振りの刀剣のために、協力を惜しまない姿勢でした。
日頃、創作刀剣男士である泡影くんのお話を楽しんでくださる皆様にも、最大の感謝を申し上げます。

ベッター版はこちらのURLにて！↓
privatter.me/page/678ab75...

篭手切と燭台切の見立ては、まさに完全無欠である。長谷部が持ってきた礼服は、泡影にびったりと適っていた。
「ありがとう、長谷部先輩。僕はこの日のことを、一生忘れないよ」
　泡影は長谷部を見習って、胸に右手を当てて恭しく礼をした。
　結んだ髪をオールバックに整えて、痘痕の残る左頬も、堂々と晒して──泡影もまた、あのぼんやりとした青年の本丸の一員として、正装に身を包んだのであった。
「ああ。喜んでくれたなら、何よりだ」
　へし切長谷部は、後輩の晴れの装いに、誇らしげに口の端を上げ、眉を吊り上げた。

　数日前のことである。
「あいつも、晴れ姿を主に見せてやりたいのではないでしょうか、と。思いましてね」
　式典前にと正装の仕立ての見積もりとにらめっこをしている審神者に、長谷部は申し出た。日頃から、文字通り影から本丸を支える後輩にも、祝いの席に立てないだろうかと考えていたのだ。
　その思いは、審神者も同じだったらしい。うねる癖毛の青年は、眠たそうな目をぱっと見開いた。うん、と勢いよく頷く。
「丁度ぼくも、何か方法はないかと考えていてね。彼の礼服も、仕立ててあげたいんだ。彼の先輩として、手伝ってくれるかい、長谷部さん」
「は！　勿論です。この長谷部にお任せください」
　主命を賜った──というより、もぎ取った長谷部は、格好のことならばとまずは燭台切に。そして篭手切江へとたどり着く。夢のことならばと姫鶴一文字や、鬼丸国綱を訪ねて──本丸の食堂にある、テレビの前に行き着いたのだった。

泡影だって、大事な本丸の仲間で──この本丸の審神者の刀剣男士だ。ならば、主を寿ぎ、志を新たにする祝祭の宴に、出してやりたい。
　それが、先輩の務めなら。果たそうじゃないか。
　
　へし切長谷部は、テレビの電源を点けて、本丸を後にした。
　そこには、広大な式典会場に集う刀剣男士と、審神者たちの姿。
　そして。
　画面の中にだけ映っている、刀帳番号のない刀剣男士が──ひっそりと、長谷部たちの隣に、映っているのだった。

十周年目も、よろしくね──先輩。

一月十八日に寄せて。了

January 17, 2025 at 8:06 PM

椚田ツルバミ🌱11/16閃華*東6*ヤ13b

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◆夢幻の式典（長谷部くんと後輩くん）
（１/２）全6P

式典前夜祭。
夢の中にのみ存在する創作刀剣男士が登場します。
長谷部くんが自らの後輩である打刀・泡影くんに式典服を誂えるお話。
※長谷部くんの正装の詳しい描写は省いております

とうらぶ / 小話 / 長谷部くんと泡影くん(創)
#後輩くんと長谷部くん

※創作刀剣男士注意

　まるで夕暮れ時に螺鈿をのばした色紙というか、セロハンを被せたような空模様である。へし切長谷部は、本丸の庭に降り立った。夢の庭、夢幻の本丸、白夜の本丸。様々に表現する刀剣男士は数多いが、元々は、へし切長谷部の夢の世界だ。
　今はとある刀剣男士に管理権限を委譲しているが、へし切長谷部の心象風景は、この本丸に影響を与えやすいらしい。畑の向こうに広がる花見櫓は、睦月も半ばだというのに、見事な藤棚が広がり、満開の花を咲かせていた。
「おや、こんな時間におでましとは。先輩、今頃主のお祝いで忙しいんじゃないのかな？」
　藤棚の下に流れる小川に足を浸し、一人の刀剣男士がスケッチブックに絵を描いている。刀剣男士の言うことは、的を射ていた。何しろ一月十八日は、この本丸の主が就任して、十周年にあたる日なのだから。今年は同時に、刀剣男士という存在の開発を祝う──歴史を守る戦いの開戦の節目を記念する式典が行われるのだ。
　どえらい日に式典の日が被ったものだ、と困ったように笑っていた審神者の姿を、この刀剣男士は、夢を通して知っていた。
「日付が変わったばかりだ。明日の式典に備えて、主はお眠りになったからな」
　長谷部は刀剣男士に向かって、先にこっちに顔を出した、と何でもない調子で答えた。
　長く伸ばした髪が無造作に束ねられ、浅葱色のコートに落ちている。左頬に痘痕を残した青年は、絵筆を布で拭うと、すっと振り向いた。腰に青い鞘の刀を佩いている。
　絵画に映されし、夢の中の刀剣男士。泡と波の刃文を持つ打刀・ホウエイ──

へし切長谷部の後輩である。
　絵描きの後輩──泡影は、照れたようににへら、と頬を緩めた。
「こんな大事な日に、先輩にお目に掛けてもらえるなんて光栄だよ。でも、ちょっとばっかし、心配かな。なにしろ、十年。十周年の節目なんだろう。やり残したことや、逆にずるずる続けてしまったことなんかを引きずって、精神が不安定になっちゃっていたりしないかな？　この際、お話ならたっぷり聴かせてよ。僕はその為にいるんだから」
　今なら格安料金で人生相談を受け付けるよ──からかうような調子で、泡影は左側の前髪を掻き分けて見せた。
「はっ。愚問だね。こんなめでたき日に、そんな理由で悩んだりなどしない。今日という喜ばしき日に、主にどんな言葉を尽くそうか。賜った主命を、どう果たそうか。そんなことばかり考えて悩ましくはなっているがな」
　からかうような調子の後輩が、本心からちょろけている訳では無いことぐらい、長谷部先輩はお見通しなのであった。手首を捻ったような言葉回しで、泡影に返す。泡影はへらりとした表情のまま方を竦めると、スケッチブックを閉じて立ち上がった。どうやら納得したらしい。
「掃除屋という名のカウンセラーが形無し──じゃあ尚更、疑問かな。先輩だってしっかり寝たいだろうに？」
「──ふむ」
　不思議そうにこちらを眺める後輩に、長谷部はコホンと咳払いをした。頭の中で、友人である燭台切の姿を思い浮かべる。奴に教わった文言。これを教える時、彼は気障にもシルクハットを被り、脚をクロスさせ、片目なんかを閉じていたが──アレをそまま長谷部が真似して、様になるとは思えなかった。
　とりあえずは右手の中指を親指に押し付けるように、強く押し込む。

──いっつ、しょーたいむ！
　心の中で呟いた文言は、篭手切江の音声で再生された──れっすんとやらの際によく言っていた気がする。何しろこの夢幻の本丸に向かう際に、散々イメトレに付き合って貰ったのだから。
　長谷部が指を鳴らすと、自分の服装がたちまち変化した。カソック姿から一転、スッキリとした黒い上下の礼服。蝶々結びのネクタイが、品よく胸元に収まっている。ピアノブラック──まるで指揮者のように、整然としている。
「わあ、先輩。明日の式典に着ていくのかい？　これを僕に見せにきてくれたってこと？」
　唐突な先輩のフォームチェンジに、後輩は素直に手を合せた。流石先輩、よく似合ってるじゃないかだの、これは一枚描かせて貰わなきゃだのと瞳を輝かせてまくしたてる泡影を、長谷部は右手を上げて制した。それこそ音楽家のようだ。
「わざわざ晴れ姿を見せに来たわけじゃあない。お前にも、式典に出て貰う」
「え、ええ！　っと……でも僕、昼間の本丸には……」
　長谷部の言葉に舞い上がりそうになった泡影だが、彼は夢の中だからこそ存在できる。いつぞやどこかの研究者な本丸の審神者の作った絡繰りに一時的に魂を移すことで疑似顕現をしたが、また子どもの姿になるのは懲り懲りだった。
「いや、主がどうしてもと言うなら、吝かではないけれど……、あの人形から離れる瞬間、苦手なんだけれど……」
「それも考えたが、コストが大き過ぎると断られた」
「打診したんかい。いや、ありがたい話だよ。こんな泡沫の存在を、そこまで大事に思ってくれるなんてね」
「自虐か。俺のほうが人生相談にのってやろうか」
「本心さ。気持ちだけで十分嬉しい」

眉を下げて首を振る後輩に、長谷部はもう一度、指を鳴らした。ちょっとばかしネガティブな思考の癖のある後輩には、手っ取り早く目的のものを見せたほうが良いと思ったのだ。
　流石は夢の世界である。
　虚空から、衣服が現れた──長谷部のものとは寸法が異なる、もう一着の礼服。
「これ、は──」
　ふわりと漂う一式を、泡影は受け取った。
　控え目に水玉のあしらわれたグレーのレース襟に、レトロなベスト。上着もタイもブラックに近い濃紺で、ぱっきりとしたスーツである。
「もしかして、僕の？」
　衣服を皺にならないようにとおっかなびっくり抱きしめる後輩に、先輩はこっくりと頷いた。途端に、後輩の表情が驚きと照れの入り混じった、なんとも言えない表情に目まぐるしく変化する。
　何度も長谷部と礼服を見比べて、忙しない。
「篭手切江という、着付けに詳しい脇差がいてな。燭台切や主を交えて、ああでもないこうでもないと、頭を悩ませてくれた」
　私に任せてくれ。こういうことなら、得意分野だ！　長谷部と燭台切では埒があかないと聴いて回った際に、頼もしい一言をくれたのが、篭手切である。黒田と細川にはちょっとした因縁があるのだが、そんなものはかなぐり捨てて全力で取り組んでくれたのである。
　流石はあいどる──を、目指しているだけあってか、燭台切のとも考えが合っていたのか、上品かつ洒落た正装に仕上がった。
「篭手切くん──今度会ったら、お礼を言わないとね。燭台切さんとタッグを組んで選んでくれたなんて」
　上手く着こなせるかな。照れつつも、戦闘服のコートを翻したその刹那、泡影の纏う服装は礼服に変わっていた。やはり夢の世界というものは、想像力次第でどこまでも便利になるらしい。

January 17, 2025 at 7:59 PM

かやこ

@cool-mugltea.bsky.social

俺はこの本丸では二十七振り目のようだ。本丸としてはある程度刀剣男士も増えて軌道に乗り、かつて同じ主人の下にあった薬研や宗三は既に兄弟たちと仮初の肉体で縁を深めているようだ。黒田の馴染みたちはまだ主人の力では顕現させるのは難しいそうで、つまり俺はこの本丸で孤立しやすい存在だった。しかしそんな俺に声をかけてくれたのは二十九振り目に顕現した刀剣男士だった。

「君がへし切り長谷部くんかい？君とは気が合いそうだと思ったんだ。よろしくね」

燭台切光忠、俺が顕現した一週間後に顕現した俺にとって初めての後輩だった。

みたいな内容で始まる燭へし。でもうちの本丸のチュートリアル鍛刀後にした鍛刀できたのが▶︎

December 7, 2024 at 10:25 AM