Lightnews — Scholar-powered news

調

@seitea21.bsky.social

久しぶりになった気がします。いつかの未来、あるいは中学二年の過去、ある梅雨の雨上がりの後の塚不二です。雨上がり、いいお天気になりますように。

「そういうところ以外は」「キミ、話を聞いていた？」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「再会まであと一時間/塚不二」と記載されています。
画像情報：generated by 文庫ページメーカー / photo by PhotoMaterial / フォント：源暎こぶり明朝

以下は本文の内容です。

　梅雨の終わりの大雨がすっきり上がった朝だった。木漏れ日の落ちる通学路で、不二がこちらを振り仰いだ。
　手塚は鮮明に記憶している。わずかに開いた花唇がはっと閉じたのも、ふたたびほころび微笑んで、今日の授業で習う古典が楽しみと手塚に言ったのも。
　水たまりが残るアスファルトにも、水の気配がする風にも、大雨の名残が透けていた。涼しい風に吹かれる不二は楽しそうに予習してきたことを話して、手塚はそうかとうなずいて、そのまま学校に着いたのだ。

　何年も経った今ごろ思い出したのは、同じ梅雨の終わりの雨が今朝方上がったためだろう。スポンサーとの会談で久しぶりに帰った日本、久しぶりの梅雨だった。
　ジョギングから用意されたホテルに戻り、水を一杯飲むあいだにも、手塚は想いを過去へと飛ばす。光が差しこみはじめた道で、不二はなにを言おうとしたのか。あのときふたりはなんの話をしていただろうか。二年生の初夏だった。
　――そうだ、来年三年生になったなら、自分たちが部の中心になる。そのときは後輩もどんどん試合に出して経験を積ませていきたいと、自分たちが頂点に達したそのあとも青学は続いていくのだと――実力では自分や不二に劣る三年が重宝されるオーダーを

聞いた翌日で、通学中にそんな話をしたのだった。
　そうだね、手塚――。
　不二は柔らに首肯してくれ、すっかり歩みを止めて手塚を振り返った。倣い止まった手塚になにかを言おうとし、――そうして話を変えたのだ。
「……」
　ひとりでは広いベッドに腰を下ろして、手塚は携帯電話を取り出す。コールは三回、「手塚？」と不二が耳元で笑み、「ああ」と手塚は彼に応えた。
「昨日のテレビのインタビュー、見たよ。ふふふ、がんばっていたね。お疲れさま」
「うん。ありがとう、不二。――今から来れないか」
　あの日なにを言おうとしたのか――聞く前に、思わぬ言葉がまろびでた。自分自身でもまばたいて、手塚は片手を後ろにやった。
　手をついたベッドの隅がぎしりと鳴った。空間の端っこに音は引っかかり、部屋やベッドの贅沢ぶりは、同時に空虚さでもあった。けれど今、そんなことは気にならない。手塚は耳を澄ませて不二の返事を待つ。うん、と小さな応えが聞こえ、手塚の座る空間ははたして満たされる。
「行けるけれど、お邪魔じゃない？」

「その逆だ」
「なにかあった？」
　なにかあったか――思い返すが、手塚はいつも通りだった。不二のことを思い出し、彼に逢いたいと考えた。違いがあるのだとすれば、すぐ逢える距離であることか。かつての日々と変わらずに――。
「――不二、お前は」
　あのときなにを言おうとしたのか――問うと不二はしばらく首をかしげたようだ。すっきりとした首筋にも、二日ぶりの日差しがあたっているのだろうか。近くで見たい――もうすぐだ。そうだ、スタッフに彼が来ると伝えておかなければならない――。
　そんなことを思ううち、ふ、と不二が笑みをこぼした。
「覚えていないけれどさ、手塚。その流れなら――キミのそういうところが好きって話だったと思うよ」
「……そうか。――言えなかったのか」
「言わなかったんだよ」
「そうか。聞けてよかった」
　キミってさあとなぜかつかれたため息も、ほうっと小さく可愛らしい。満ちかけて、

手塚は重大なことに気づいた。携帯電話を持ち直す。
「そういうところ以外は」
「キミ、話を聞いていた？　……ふふ、もう、かなわないなあ」
　逢ったら話すと不二は笑った。待っていてくれるかい、と不思議なことを言うものだから、もちろんだ、と手塚は応えた。相手が不二なら、当然手塚は待つのも得意だ。
「では、一時間後に。最寄り駅まで迎えに、――……分かった、すまん。ホテルの入り口ならいいか。ロビー？　分かった。うん、ありがとう。話はしておく。一番大きな像の近くで待っている」
　通話を終えて、手塚はふと、部屋の大きな鏡に映る自分に気がつく。なんだか頬が緩んでいる、これは油断ではない気はするが――この男は、不二にちゃんと好かれるだろうか。

July 13, 2024 at 12:33 PM

ゆかり@御影沼

@yukari-murayama.bsky.social

xfolio.jp/portfolio/yu...
新テニのコミックス、やっと最新に追いついたー！
塚不二のエンディングを読みたいから、もう何年もうずうずしてる。
でも、終わらないで欲しい気もする。
うずうず…。

あったらいいな、高校生編。

不二周助 - ＊＊＊

xfolio.jp

January 16, 2025 at 3:06 AM

ゆぴ

@akaneyupi.bsky.social

好きなもの、推してるものが沢山ある

Jリーグ（浦和レッズ）
Bリーグ（千葉ジェッツ）
デビュー当時から推している（もう10年以上）俳優、松田凌くん
ONE OK ROCK
ツルネ（愁湊）スラダン（流三）テニプリ（塚不二）忘バ（とどち）ウインブレ（すおさく）
銀英伝は同盟軍の箱推し

好きな作家は北杜夫、加賀乙彦
時々、立原道造の詩を読んでポエマーになる

生まれ変わったら物理学者になり
たい

July 24, 2024 at 3:25 AM

調

@seitea21.bsky.social

土用の丑の日の翌日、これは今日の塚不二です。中学時代のふたりでおおくりいたします。お付き合いの有無はお好みでご賞味ください。よろしくお願いいたします。

「食べたくないわけではないんだな」

L版SSメーカー sscard.monokakitools.net / Photo by Erich Röthlisberger on pixabay
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今、自分は知らないうちに、なにかよほどの失言をしてしまっただろうか――。内心じわりと動じつつ、不二はひとまず微笑んだ。眼前の手塚が瞳を緩めてくれてほっと安堵をしかけたが、彼はふたたび眉根を寄せて、腕まで組んで不二を見つめた。
「食べなかったのか、昨日」
「……うん、ウナギは」
「土用の丑の日だったが」
「うん、でも、お肉をいただいたからさ、親戚から。美味しいうちにって……」
　だから手塚の言う通り土用の丑の日だったけれども、不二の昨日の夕食はウナギではなかったのだ。
　そういえば食べなかったなあと手塚に話したのはただの雑談で、瞠目までした彼の好物を思い出し――これは手塚の好きの否定をしてしまった形だろうか。
「あの、手塚」
　ごめんね、と伝える前に、ふう、と手塚が息を吐き出す。
「そうか、いただきものか」
「え、……うん」
「食べたくないわけではないんだな」
「ウナギ？　うん、それはもちろん」
「ならばいい」
　いいんだ。それならよかったけれど――。不二は首をかしげて手塚の顔を見上げる。すっかり落ち着き払った彼はいつもとなんら変わらずに、むしろ機嫌がよさげに見える。その唇が開かれて、穏やかに不二の名を呼んだ。
「うん？」
「よかった。無理にとは言わないが、やはり家族とは体験を共有していきたい」
「え、うん。そうだね、それは……え？」
「土用の丑の日にはウナギだ。承知しておいてくれ」
「……」
　不二はしばらく考えた。「山椒はどのくらいかけていい？」と聞いてみる。手塚が再度腕を組むから、今度こそ、知らず知らずに微笑した。 | 未来の食卓/塚不二 | 調 @seitea21

July 25, 2024 at 12:16 PM

Hoshiimo

@hoshiiiiiiii.bsky.social

あー、pixivで手塚と不二のつもりで塚不二検索したけど、確かに赤塚不二夫にも塚不二入ってるね。

August 19, 2024 at 11:07 AM

調

@seitea21.bsky.social

菊丸くんと周年のらびさんにお祝い、それから感謝を込めて。菊丸くんの中学二年のお誕生日の塚不二です。彼の視点で、手塚くんの好きなタイプの話など…『初恋』とはまた別の三人でお届けします。おめでとう、ありがとう。たくさんハッピーがありますように！

「あれか」「そう、あれ」

新書版の本のページの体裁で画像化をした小説です。

「誕生日プレゼント、なにがいい？」
　不二が小さく首をかしげた。秋の日のような明るみだ。綺麗に澄んだ笑みを前に、菊丸は暫し考える。
　欲しいものならいっぱいある。しかしなにせ誕生日、親友からのプレゼントだ。気持ちだけでも嬉しいけれど、なにかこう、とびきりの――。
「……」
　ふっと昨日の帰り道を思い出す。夕日の中で大石が、困ったように笑っていた。
「……じゃあさ、不二」
　菊丸は、ぎゅっとこぶしを握りしめる。誕生日なんだけれど――誕生日なんだから――ちょっとだけ、頑張ってみるのもありだろう。

「どうした、菊丸」
　教室に入ってきてすぐに、手塚はわずかに眉を寄せた。入ってくる前から寄せていたかもしれない、なにせ手塚だし。
　誕生日の放課後、夕日に満ちた教室で、正直あまり得意じゃない男と向かい合っている。なんだろうこれと一瞬逃避し、けれどぶんぶん頭を振る。なにせ菊丸は決めたのだ。中学二年の誕生日、完璧パーペキ最高のプレゼントをもらうって。
「手塚さあ、その、この前さ、学年アンケの好きなタイプで」
　一生懸命な子が好きだと手塚は回答していた。学年の半数近くが大騒ぎして、それから――大石が困っていた。
　手塚が最近、不二の様子がおかしいって気にしてばかりで――英二、なにか聞いていないか――？
「あれか」
「そう、あれ」

聞いていない。なにも聞いていないけれど、菊丸さまにはよく分かる。不二は自分が一生懸命なタイプじゃないって思ってる。だから手塚は自分のことが特に好きじゃないんだって、それでも別にいいけれど、それなら手塚の好きなタイプの誰かに誤解されないように、距離を置いた方がいいって勝手に思ってる。
「あれ、不二のことじゃないの」
「不二のことだが」
「……」
　秒で答えた。えっ、あ、そう。――いやまあ、そうとは思ったけれどさ、手塚の好きなタイプだから。だけど不二が一生懸命になるところ、自分だってあんまり見たことないんだけれど。
「不二は負けず嫌いだからな」
　あたたかな目で手塚は軽くうなずいた。穏やかに、当たり前の仕草だった。
「難しいと言われたことに挑戦して、一生懸命マスターするが、――人にはそこを見せようとしない」
「……」
　あっ、そう――。なにもかも分かった声色がなんだか気に食わないけれど、――菊丸はなにもかも飲み込んだ。なにせ今日は誕生日、プレゼントをもらわなければ。つかつかと窓際に歩み寄り、カーテンをバサリとめくってやる。
「……だってさ。――え、ちょ、不二ぃ」
　カーテンはたちまちくるりと小さな形に巻き取られて、その中にいる不二はどうやら全身で出て行かないよと言っている。いやまあ確かに、菊丸が不二にプレゼントとして頼んだのは、誕生日当日の放課後に教室のカーテンの影に隠れてよ、というだけで、その後については――いやでも、うん。不二も少しは力が強くなってはいるけれど、これくらいなら――。

よいしょっとカーテンを剥がして、菊丸は不二を手塚の方へと向けた。
「不二」と手塚が不二の名を呼び、菊丸の腕の中で「英二」と不二がこちらを睨めつける。――夕日よりも真っ赤な可愛い頬をして。
「……菊丸」
　あ、手塚の声が低い。はいはい、分かっていますよ、と――。
　今度は手塚の腕の中で、不二が菊丸をもう一度呼んだ。
「プレゼント、ありがと！　不二」
　わざとかろんと笑ってやると、「……誕生日おめでとう」と、それでも律儀に再度祝いをしてくれる。朝にも祝いの言葉と一緒にチョコレーツのグッズも幾つかくれたけど、それも嬉しかったけれど、――うん、こっちのもなかなかよくない？　校門で待っている大石にも、いい報告が出来るしさ。
「おめでとう、菊丸。――ありがとう」
「あんがと。――手塚、大事にするまでがセットだかんね。毎年確認するからな！」
「毎日でもいい」
「やだよ馬に蹴られるし」
　菊丸は笑って手を振った。夕日に満ちた教室の、光の中にふたりを置いて、さっさと校門へと向かう。――うん、俺、なかなか頑張った。中学二年の誕生日、かなり大人になったじゃん――？

　菊丸英二のプレゼント/塚不二
　調@seitea21 筆

November 28, 2024 at 11:21 AM

調

@seitea21.bsky.social

中学時代のとある五月、雨の翌日の塚不二です。まだ約束がほんの少しかみ合わず、だけれどはっきり約束をした、そんなふたりの一景です。

「――うん、そうだね」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「完璧な五月/塚不二」と記載されています。
画像情報：generated by 文庫ページメーカー / Photo by Bryce Evans on Unsplash / フォント：源暎こぶり明朝

以下は本文の内容です。

　皐月には稀な大雨の翌日は、雲ひとつない晴天だった。山並みが学校の屋上からもよく見える。
「手塚？」
　つい、食事の手を止めていた。不二がことりと首をかしげる。手塚は「いや」と応えかけ、それも変だと思い直した。彼を相手に取りつくろうことは何もない。
「山が」
「山？　ああ、綺麗だね。雨に新緑が洗われて――ふふ。手塚、行きたくなった？」
　果たして不二は手塚に同意し、思ったことを汲んでくれる。なるほど、そう表せばいいのか。くつろいで、手塚は「うん」と首肯した。
　あの麓では山道も緑に染まっているはずだ。清涼な初夏の山のきらめきは、不二に似合うに違いない。手塚は山のふところで隣にたたずむ不二を脳裏に浮かべてみる。いずれ本格的な山にも一緒に登るのだから、レインウェア姿であるだろう。
「不二、レインウェアは何色だ」
「レインウェア？　ああ、山で――いや、ボクは持って、いないよ、……」
　不二はゆっくり黙り込み、数回まばたき手塚を見つめた。手塚の視線に、小さく笑った。

「そうだね、――山の景色を邪魔しないような色がいいな」
　不二らしくていい選択だ。しかし登山の鉄則として、まぎれすぎない方がいい。妥協点は一緒に探ればいいとして、店に行けるのは――週末か。ちょうど不二と植物園に行く約束をしている。
　完璧だ、と思いつつ、手塚は煮物を頬張った。不二は手を止め、なにかにためらう様子をしていた。
「どうした、不二。食べないのか」
「……ううん。――うん、そうだね。食べるよ、手塚」
　うなずいて、微笑をこぼした唇が、サンドイッチの端をくわえる。手塚も蕨の漬け物をつまんだ。お茶を飲み、あらためて景色を見渡した。
　空がくっきり青かった。山ももっと近づけば、質感の違いも分かる明瞭な緑になるだろう。
　その下で木漏れ日に染まる不二を見る日を考えて、手塚は満足の息をつく。いや、まだ油断してはいけない。植物園の前にはテニスも予定している。待ち合わせを一時間早くと提案してみよう。

May 14, 2024 at 11:44 AM

いったん

@ittan.bsky.social

塚不二の師匠に腐女子を教わったのにこれといって塚不二にはハマらなかったの草でも、男の娘とまではいかない絶妙な中性的な美形の男、萌え〜！の気持ちはここで育てられたのかも

January 4, 2024 at 8:39 AM

Yudai Kato | 加藤雄大

@yudaikato.bsky.social

窪塚洋介「身土不二」Akio Nagasawa Gallery Aoyama #窪塚洋介 #yosukekubozuka #身土不二 #akionagasawagalleryaoyama

May 26, 2025 at 3:13 AM

調

@seitea21.bsky.social

XのTLで短冊をお見かけして書いてみました、先ほどの七夕の塚不二のその後です。年齢制限はない七夕です。よろしくお願いいたします。

「恋人らしいこと」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「一歩進んだ、七月七日/塚不二」と記載されています。
画像情報：generated by 文庫ページメーカー / Image by ぱんじ / フォント：源暎こぶり明朝

以下は本文の内容です。

　七夕に手塚の家に招待された。庭のキキョウを見せてもらって、同じ花を届けてもらったうちにもあるのが嬉しくて、不二自身にも自分が少し浮かれているという自覚はあった。
　手塚の部屋でリンゴジュースをいただいたのもあるだろうし、今ではすっかり恋人の日だねと笑ったら、「そうだな」と首肯をもらったもあった。
　とにかく不二は少し浮かれて、同意をくれた手塚に尋ねた。
「恋人らしいこと、する？」
「恋人らしいこと」
　オウム返しの彼に微笑む。すぐさましないと言わない手塚はやっぱり不思議で面白くって、――恋や愛を知っているけど、そういうことには詳しくなくて――かわいいなあと思ったら、覚えず笑みがこぼれたのだ。
「ふふ。知らない？　あのね、たとえば――」
　鋭利だけれど優しい顔に、そっと自分の顔を寄せる。すっきりとした頬に軽く唇をあて、不二はその場でまた笑んだ。
　不二自身にも浮かれている自覚はきちんとあったから、これ以上は控えたが

――うん、これ以上。いつかそのときがきたらまた、色々教えてあげようと思、――……。
「……え」
　おとがいが熱に包まれ捉えられた。手だ。手塚の――？　当たり前だ、手塚しかいない。持ち上げられた視線の先で、手塚の顔はあまりに近くて、少しぼやけてかげろう越しのようだった。
　唇も熱にとらわれる。大きな口にはまれたそこを、厚い舌が割り開く。舌、誰の――手塚しか――……。
「ん、う」
　受け入れた不二の歯列はなぞられて、舌もたちまち絡め取られて――深く、深くあわさる口から、くちゅ、と水音が聞こえている。口の中が熱くって、頭も熱くてぼうっとして――。
「あ、ん、は、……ぅ」
　ぷは、と息をついだ手塚が、燃える瞳で不二を見た。
「ぁ、う……」

目が熱い。涙が出ているような気がする。体を起こしてぬぐいたかったが支えることすら不二にはできず、そのまま手塚に落ちていく。彼の腕に包み込まれた耳元で、くっと喉が鳴る音がした。――笑った……？
　手塚の笑みが、「不二」と自分の名前になった。不二の体は抱きしめられてなお頼りなく、応えすらもおぼつかない。
　頭が芯からふわふわとして、ちかちか光がまたたいている。天の川に沈めばこんな感じだろうか。分からない。手塚に聞けば分かるだろうか。恋や愛を知っていて、そういうことにも詳しい彼に――不二の名前を、呼ぶ彼に。

July 7, 2024 at 12:28 PM

調

@seitea21.bsky.social

Xに22時22分投稿予定の塚不二です。その他大勢誰かの視点で、中学2年の2人をお届けいたします。全世界のカワイイとカワイイを愛する皆さまに幸あれ🐱🐱

"え、＂カワイイ＂――？"

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「お仲間疑惑/塚不二」、「調@seitea21」と記載されています。
画像情報：generated by 文庫ページメーカー / Photo by Sabri Tuzcu on Unsplash / フォント：源暎こぶり明朝

以下は本文の内容です。

　ネコチャン、カワイイ、ガッコーノコ、あるいはミケというときもある。色々な名で呼ばれる彼女は知っている。そんな風に自分を呼ぶ生き物たちが、いかに愛をたむけてくるかを。
　体のサイズが違っても、目玉は同じ丸い形で、そこを見れば分かるのだ。ぽかぽかあたたかなひだまりにごろんと寝転んだつやめきで、キラキラとぬくとまってこちらを見る。そして色んな名で呼びかける。

　その日「あ」とやわらかな声で彼女を呼んだのは、見たことのある生き物だった。
「寿限無の友だちだったよね。今日はひとりかい？」
　ジュゲムというのは知らないが、仲良くしているあの子の別の呼び名だろう。他にはシロとか、彼女と同じネコチャン、カワイイとかガッコーノコとか呼ばれている。
「前に写真を撮ったネコだな」と、その生き物の隣にいるさらに大きいのがうな

ずいた。
　よく一緒にいる二匹だった。覚えている。大きいのは、彼女を抱いてぴたりと静止したことがある。
「こうか」
「かたいよ」
「撮るならば動かない方が」
「そうでもないよ。自然なところの一瞬がいいんだ。その子に悪いし、ほら」
　促された手つきはたどたどしかったが、手も大きくて背中をすっぽり撫でるから、そう悪い心地ではなかった。片方もあとからちゃんと撫ぜてくれた。小づくりな手が頭を包む優しい感触はそれなりに――喉を鳴らすくらいにはよかった。

　今回は、二匹は彼女と少しの距離を保っていた。ジャンプ二回と半分くらい。小さいのが地面近くにしゃがみ込み、ちょこんと膝に頬杖をつき、にこにこ自分を見つめはじめる。

「ふふ、今日会えて嬉しいな。知ってる？　キミたちの日なんだよ」
　大きいのが、そんな小さいのを見おろして――彼女の敏感な耳が空気の震えをとらえる。
　え、〝カワイイ〟――？　ネズミの足音よりも小さく言ったけど、小さいの、小さいといっても自分たちのようなサイズではないけれど――。
　もしかしたらお仲間なのかもしれないと彼女は考える。大きいのが、それこそまるでひだまりにいる目を小さいのに向けている。しっぽも見当たらないけれど、ちゃんと挨拶してみるべきかしら――？
　フジ？　――それが呼び名だろうか。カワイイと、あとはネコチャン、ガッコーノコ以外の呼び方はさまざまだ。彼女が聞いたことがなくても、別におかしくないだろう。

February 22, 2025 at 1:00 PM

調

@seitea21.bsky.social

これは10月18日、冷凍食品の日の塚不二です。いつかの未来のふたりです。今日生まれたあなたへ、今日を生きるあなたへ。ほかほかの優しい時間がありますように。

「チンだよ？」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「チン/塚不二」と記載されています。
画像情報：generated by 文庫ページメーカー / Photo by Alexander Grey on Unsplash / フォント：源暎こぶり明朝

以下は本文の内容です。

　冷凍食品を食べよう、レンジで解凍しよう――そんなとき、不二は手塚に「冷凍のなになにをチンしよう」と誘いをかける。手塚の場合は「冷凍のなになにをレンジするか」だ。言い方の違いは同じ屋根の下にたどり着くまでの生活、それから両者の質（たち）の違いによるもので、お互い特にこだわらない。
「チンしよう」と言うと手塚は「いいな」と応えてくれる。「レンジするか」と言われると、不二は笑って「うん」と応える。通じ合ったふたりにとって、別にどちらでも構わない。わりと色々考えがちな自分がそうであるのだから、手塚はもっとこだわったりはしないだろう。
　だから手塚が「冷凍の鯛焼きをチンするか」と行ったのは、本当にただ、不二の表現が移っただけのことなのだ。
　可愛くて、なんだか凄くくすぐったくて、不二はくすくす笑って手塚に「何回かなあ」と聞いてみた。何回、チンと手塚の前で言ったろう。一緒に暮らして何日だろう――互いの言いようが混ざり合うほど過ごしただろうか。
　それこそ冗談を混ぜて聞いてみたのだが、手塚は指を折り始めた。三百六十六かける幾つ、閏年以外は一日引いて、あとは三十一の月と三十の月が何回に――。いくら手塚

がテキパキやっても、時間がかかる計算だ。笑いながらお皿にのせて、ラップをかぶせてレンジに入れた冷凍食品の鯛焼きが、先にチン、と明るい音を立ててふたりを待ちはじめる。
　ダイニングの椅子から不二が立ち上がったのとほとんど同時に、立ったままですべての指を折った手塚が視線を不二の顔へと戻した。
「ふふ、分かった？」
　不二はオーブンレンジから手塚の方へと向き直る。待っていたように手塚が口火を切った。
「一週間に三回冷凍を解凍して、ひとり一．五回言っていると計算した」
「ふふふ、――うん」
　不二は椅子に座り直す。日々をきちんと覚えていて、冗談のような質問に、真摯に答えをくれる手塚だ。その彼が休日のおやつにと、提案してくれた鯛焼きだ。少しぐらいは食べるまで待っていてくれるに違いない。――甘えかな？
　首をかしげて、手塚に尋ねる。手塚は不二を見下ろす瞳を少し細めた。手のひらをすべて開いて不二に向け、不二の頬を包み込んだ。彼が言うには甘えではなく当然で、そ

れから不二のチンについては、実は聞いた日には何度も脳裏で反芻しているから、回数はさらに五倍したとのことだった。
「え、いや、なんで何度も反芻するのさ、チンだよ？」
「かわいい。……不二、どうした、突っ伏して。腹が減ったか？」
　背に当てられた手がつと離れ、バタンと扉が開く音がした。それからきちんと閉まる音。解凍されたぬくもりと香りがほかほかやってくる。テーブルにことりと置かれた冷凍食品、鯛焼きは二匹、ふたり分――。違うんだけれど、空腹の限界とかじゃないのだけれど。
　だけど鯛焼きはおいしそうだ。あんことカスタードで迷う不二に、手塚はあっさり半分こしようと言ってくれた。手塚が急いで淹れてくれた緑茶ともよく合うだろう。不二はけっきょくまた笑い、手塚を見上げて髪をかき上げ、御礼を言った。今日のは十倍してくれって、――それは、うん、まあ、……いいけれど。

October 18, 2024 at 11:58 AM

調

@seitea21.bsky.social

同夜にあげた塚不二は、今日を、明日をがんばるあなたへ。せっかく一日二枚のSS名刺なので、諸々寄せて書いてみました。こちらも同じく青春家の時空がまじわる中3のふたりです。あなたの隣にいつも変わらず、優しいぬくもりがありますように。

「パートナーのお前にずいぶん叱られた」

ごくごく普通の夢を見た。日常とまるで変わらない。いっそ区別がつかなくて、目覚めてしばらく手塚は迷った。
だから不二に謝ったのは、きわめて自然な流れだった。
「すまない。たしかに油断をしていた。体調管理が第一だ」
　夢の中で頑張りすぎだと手塚を叱った不二だったが、中学三年生の彼はきょとんと手塚を見上げた。
「そうか」と手塚はうなずいた。彼――彼女？　まあいい、不二には違いない。夢の中の不二は既に伴侶であり、たしかに時間軸が違う。
「パートナーのお前にずいぶん叱られた。忙しくて体調を崩してな」
「ううん、もはやなにから聞けばいいのか分からないんだけれどさ」
　きっぱりと、不二は手塚が一番大事と教えてくれる。無理をしなきゃいけないこともあるだろうけど、それは覚えておいてね、手塚――。
　夢と変わらず寄り添われ、手塚は満ち足り息をつく。それからふと、思い出す。夢の中の不二にも同じことを言われた。ならばやはり、夢でも不二は不二であり、手塚は手塚で、ふたりは伴侶に違いない。 | Alles gut, Q.E.D./塚不二 | 調 @seitea21

May 5, 2024 at 3:04 PM

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今日この頃の塚不二です。散る桜、これからひらく桜に寄せて、菊丸くんの視点でお届けいたします📱🌸

「行く。だが、どうしてだ」

姉ちゃんからもらった特別展のチケットが二枚――。菊丸は、携帯電話を前にううんと首をかく。どうしようかと定まらぬ結論はひとまず放置して、迷う指を代わりに親友の名前にあてた。それこそ不二も博物館とか嬉しいタイプだけれど、だからこそあまり興味のない自分と一緒はなんだか悪いし――。
　故に不二に向けたのも、今日どうだった？　という質問だ。部活終わりに手塚と桜のある公園を通って帰る話をしていた。あそこは毎年遅いけど、さすがに散っていると思うし――なにげに繊細な親友は大丈夫だっただろうか。
「ほとんど散っていたよ」と、不二のメッセージは微笑んだ。正確には、いたよの後ろで絵文字が桜と微笑んだ。
「そっか、残念」
「ふふ、うん。そうしたらさ、手塚が北海道はこれからだって」
「そーゆー話じゃなくない？」
「ふふふ、そうだね。だけれどなんだか納得しちゃった。北海道はこれからだし、もっと北もあるだろうし、ぐるりとまわれば来年の桜もこれからだし」
「ま、そうか。来年は俺とも見よーね、不二」

「うん、楽しみにしているね」
　ばんざいをする猫のスタンプを送り、こぐまにお辞儀で返されて、菊丸はううんともう一度逃げていた思考に立ち戻る。そりゃあちょっと、考えたけど。なんかシャクだし話すのあんまり得意じゃないし、全力で気づかないふりはしたけれど。
　リストの下の方から名前を呼び出して、菊丸は手塚に手短かに尋ねる。
「不二と特別展とか行かない？」
　すぐについた既読にひえっと身をすくめ、返事にやっぱりひえっとすくめて、――だけどやっぱりこれが一番、正しかったような気がする。
「行く。だが、どうしてだ」
　言う順番、逆じゃないかと思うんだけれど。だからこそ正しいみたいなやつだ――。
　しかし菊丸ははたと困った。手塚相手に説明するのは、やはりいささかハードルが高い。困った脳裏にぱあっと花が咲くように笑顔がひらめいて、菊丸は「あ」とつぶやいた。
　不二の方に話しとこ――。それは我ながら名案だった。ええと、じゃあ、手塚には――、詳しくは不二に聞いて、と――……。

April 15, 2025 at 12:34 PM

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てにちゃさんの事態を把握しました今夜、これは突発の塚不二です。荒野の王子様内のふたりでおおくりいたします。

「今度こそ来ないと思ったのに」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「荒野にとばり/塚不二」と記載されています。
画像情報：generated by 文庫ページメーカー / Photo by Jeremy Thomas on Unsplash / フォント：源暎こぶり明朝

以下は本文の内容です。

　ガンマンとして荒野に生きている以上、恐れるものは特にない。しかし――いや、恐れてはいないが――できれば避けたいものはある。たとえば今、寝台に座る彼女のふくれっ面とか。
「どうした」
　彼女がぷいと横を向く。ほのかの上気した顔が、同色のドレスに咲いた花のごとくに愛らしい。けれども彼女は明らかに、自分に対して怒っている。
「今度こそ来ないと思ったのに」
　唇がサンフラワーの花びらの先ほどとがってつぶやいた。彼はまじまじ彼女を見直す。

　彼女はしばしば誰かにつかまる。身代金うんぬんの場合もあるにはあるが、大抵は彼をおびき出そうと目論む輩にだ。今回もそのパターンだった。彼は少し遠方にいて、汽車の時間もかみ合わず――駆けつけるのが遅れたことを怒っているか、それほどまでに辛かったかと案じたが、どうもそうではないらしい。

「来ない？」
「そうですよ。今度こそ大丈夫だって思ったのに」
　座り直した彼女の動作はすっきりと、縛られていた痛みは既になさそうだ。安心しつつ、彼も覚えず姿勢を正す。これでは見下ろすばかりと気づいて、寝台の脇に膝をついた。彼女はますますぷうっとふくれた。
「いちいちわたしを助けていて、大変なことになったらどうするんです。拳銃だって――なのに、いつも」
「お前がとらわれた時点で既に大変なことだが」
「……」
「……？」　
　ぼふんと枕が飛んできた。彼女は耳までドレスと同じ花色に染め、きゅっと小さく縮まった。シーツにこぼれる髪の横に手をつくと、華奢な体はさらにつぼんで、「そういうところが」とつぶやいた。
「嫌か」

「素敵だって言うんです。だから、……もう！　笑い事じゃなくて！」
　笑っていただろうか、自分は――。彼ははて、と少し考え、そうかもしれないと結論づけた。
　今回も、彼女と過ごす夜にたどり着けたのだ。めでたしで終わる劇場は、笑みこそ似合うものだろう。口づけとともに幕が下りてくる。あとはとばりの向こうがわ――荒野の花は、誰にも見せない。

June 22, 2024 at 2:10 PM

調

@seitea21.bsky.social

げ、と打ったら予測変換に激重塚ですかと聞かれたり、そんなこんなでほんのりと激重塚も含みつつ、これは本日の塚不二です。中学三年四月のふたりと、誕生花のひとつでおおくりいたします。今日生まれたあなたに。今日を生きたあなたに。優しい色が守られる、優しい日々でありますように。

「ああ、行こう」

部活の帰り道だった。隣を歩く不二がちらと手塚を見上げて、首をかしげて微笑んだ。
「ねえ、手塚。よければさ、シバザクラを見に行かないかい？」
　なめらかな頬の白さが夕日を浴びて、鮮やかな赤に染まっていた。「シバザクラ」と応えると、「うん」と小さくうなずいた。
「クラスの子が話していてさ、意外と近くに穴場があるって。お昼以外は日が差さなくて、あまり目立たないみたい。ふふ、気になって――彼に教えてもらったんだ」
「……そうか」
　手塚もうなずいた。燃える夕日が落ちていく。不二の頬を炎が滑り、後のうっすらした暗がりで、ほうっと白く肌が光った。手塚は息をくつろげる。「ああ、行こう」と同意する。
　約束は次の日曜日――中学生がすでに満開の花を見るならば、ふさわしい日は他にない。

シバザクラの英名は、苔の炎であるという。地面に広がるピンクがかった濃い紅は、炎にしては甘い色だ。裏通りの奥、池のほとりに広がるさまを見渡して、手塚は不二に視線を戻す。上気した頬の曙を、淡く優しい色だと思う。あるいはふうっと消えそうな。
　実際写真を撮り終えた不二の頬は落ち着いて澄み、にこりと手塚にほころんだ。
「ありがとう、――手塚、道の方になにかあったかい？」
「いや」
　応えて手塚は目を細める。不二の顎をそっと捉えて引き寄せる。口づけするのに人通りを警戒したと思ったろう。不二は「もう」とはにかんだ。美しい朱が刷かれた頬を包みつつ、手塚は視線の端で小道を確認する。
　ふさわしい日は今日しかなく、時間はお昼と決まっている。もしもばったり会えたなら、たしかに盛り上がったろう。その後、お茶などしたかもしれない。不二は断らないだろう。|だが≪圏≫、|そのような油断はしない≪圏≫――。
　物陰から、影が転がり逃げ出した。手塚と同じくらいの背丈だ。それでいい。

六組の誰かまではもはや問わない。
　手塚はただ、不二の顔を見下ろした。頬を包んだ手を動かして、細い肩にそっと置く。不二が堪能したいなら、もうしばらくはいてもいい。満足したというならば、そろそろ移動してもいい。
　この近くにあるカフェもまた、油断をせずに調べてある。もちろん果汁百パーセントのリンゴジュースがあるところだ。
　ぼうぼうと燃える大地のただ中で、手塚は不二の名を呼んだ。

花に燃える/塚不二/調 @seitea21

April 8, 2024 at 11:48 AM

houjibancha.bsky.social

@houjibancha.bsky.social

もしかして不二てけごﾀﾝがﾂﾞｶに会いたいだろうと思ってて、
CD取りにっつー口実作って会いに行かせたってコト…！？？？？？？

策士やん……

自分で会いに行けお( ^ω^ )
不二パイセンも好きだろ、ﾂﾞｶの事……

でもｱﾆﾒ観てっとずっと自ら追っていた塚の呪縛から逃れられたっぽいんだよね、ふじ。

October 2, 2024 at 5:24 PM

にるぴ

@nilram3.bsky.social

寒いね

December 9, 2024 at 4:35 AM

Sasarin

@sasarin181.bsky.social

若い頃塚不二なんですけど、やはり不二手だ、成長しました😭🫶

November 6, 2024 at 9:15 AM

調

@seitea21.bsky.social

今夜のこれは、ネモフィラから想起しました塚不二です。いつかの未来の一つ屋根の下でおおくりいたします。

「それで、不二」

印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。
付記に「花の咲く地で/塚不二」、「調 @seitea21」と記載されています。
画像情報：generated by 文庫ページメーカー / Photo by Sora Sagano on Unsplash / フォント：源暎こぶり明朝

以下は本文の内容です。

　テレビ画面の一面に青い花が咲いていた。あら、ネモフィラ――。言った家族が、不二に花にまつらう神話を教えてくれた。
　ネモフィラという娘を愛した男がいた。彼女と結婚できるなら命を神に捧げると近い、ふたりが結ばれた後で、正しく命を奪われた。ネモフィラは冥府に彼を求めたが、人が彼の地に行くことはできない。扉の前でネモフィラは泣き濡れ、哀れに思った冥府の王が彼女を花に変えてくれた。
　ネモフィラの花言葉に『あなたを許す』っていうのもあるのは、この神話からきてるのよ――。説明されて、幼い不二は首をかしげたものだった。このお話で、いったい誰が誰を許したんだろう――？

　遠い昔の、花一輪より小さな疑問だ。青い空に紛れて久しかったそれが、大きなテレビ画面にあふれるネモフィラを見て、また一面に咲いて広がる。各地のネモフィラ畑を次々紹介していく番組らしい。青に浸され、不二は思いをめぐらせる。

誰が誰を――置いていかれたネモフィラが男を――？　悲しみこそすれ、許す必要がある感情をいだくだろうか。ならば男がネモフィラを――？　それこそピンとこない話だ。

「俺には神話はよく分からないが」と言ったのは、ランニングから帰ったばかりの手塚だった。
　粉末のスポーツドリンクを、彼の好みの濃さにするにもすっかり慣れた。キッチンに行き、不二が冷やしておいたボトルに気づいたのだろう。礼とともに、手塚は大きく喉を動かす。満ち足りた息をひとつつき、そうして一面青い画面と不二の疑問に、隣で一緒に向き合った。

　彼が座るのに合わせてソファーが深く沈んで、少しだけ不二はふわりと上昇する。気持ちも一緒にふわりとして、「ふふ」と笑って首肯した。
「神さまは人気者だから」

「物語成立の仕組みは聞いたが」
「覚えていた？」
「お前が話したことだぞ。――それはそれとして、浮気でもいいからというのはやはり理解しがたい」
「……ふふ」
　彼らしい、まばゆい言葉に不二は覚えず笑みをこぼして、この話はもう十分だと思い、けれども手塚は「それで」と、話を不二のささやかな疑問へと戻した。
「冥府の王が許したんじゃないのか。男も、ネモフィラも」
「王さまが……？」
　そうか、花言葉の言いように、なんとなく人が人をと思っていたが、神話には、たしかに冥府の王も出てくる。
「花なら冥府に行けるだろう。――ネモフィラは男と再会できる」
「……そっか」
　冥府にも花が咲くだろうか。アスポデロスの野には咲いているかもしれない。

それならば、善良な男もその地にいるだろう。
　そうだったんだ――。願うよりも先に感じる。手塚が語る再会は、疑いようもなく真実で、許された男とネモフィラは、冥府で再会できた気がする。

　あらためて見た画面からあふれそうな花園は、再会の喜びの空色だ。――不二はその色を知っている。懐かしく美しい色だ。
　思うと同時に、「綺麗だな」と手塚が言った。微笑む不二をまっすぐ見つめ、小さく咳払いをした。
「それで、不二。――この番組は、いつまでだ？」
　あ、と不二は気がついた。ずっと待っていた手塚に向き直り、頬にお帰りのキスをした。

May 15, 2025 at 12:10 PM

調

@seitea21.bsky.social

昨夜の塚不二にいいねをありがとうございました。続く今日は各地冷えていたようで、皆さま引き続き油断なくご自愛くださいませ。
というわけで今夜突発の塚不二は、中学時代、寒い五月のふたりです。

「あのね、手塚」

L版SSメーカー sscard.monokakitools.net / Image by ぱんじ
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五月にしては寒い日だったが、雷雨のたぐいは特になかった。不二の今日は昨日となんら変わらずに、部活を終えて帰りじたくを整えた。冷え込んだ空気に肌が戸惑って、けれども心地よさもある。深呼吸をしてみると、体がぶるりと小さく震えて、――ふわりとジャージに包まれた。
「……手塚？」
　やはり帰りのしたくを済ませた手塚だが、ジャージはしまわなかったのか。ひとまわり大きな三色の中、不二はことりと首をかしげる。なにか、予定があるのかな。一緒に帰るって言ったけど――。
「帰る」と手塚は応え、不二の片手を取り上げた。――え、繋ぐ？
「後でな。――やはりお前は冷えやすい」
「……」
　後でならば繋ぐんだとか、そういえば冬から触れ合いだしたんだとか。脳裏でぐるぐる思考が走って、少し温度が上がった気がする。手塚が不二を見下ろして、「だが」とさらに付け足した。そろそろ勘弁してほしい。けれどもわりと雄弁な男は、「今日は」と言葉を続ける。
「寒そうだが、嬉しそうだ。――安心した」
「――……」
　あたたかな声にまばたいて、手塚を見上げているうちに、不二は出がけに聞いたニュースを思いだす。北海道では雪が桜に舞ったらしい。
「……ありがとう。あのね、手塚。今日、家を出るときに」
　借りたジャージはそのままに、背伸びして手塚にささやくと、彼はふっと目を細めた。花に降る雪を見たような、しあわせそうなまなざしだった。 | 五月の佳景/塚不二 | 調 @seitea21

May 8, 2024 at 1:19 PM

調

@seitea21.bsky.social

昨日塚不二真ん中バースデーのお祝い、合作および個人作は、ポイピクにアップしています。私ごとかつ偶然に、塚不二を書き始めた日でもありました。おめでとうと感謝を込めて、これからもふたりを書けたらと思います。次は1118本目、またお会いできますように…！

調@大人向け他のポイピクただいま5ポイポイ #poipiku poipiku.com/1944131/