すぐに膝丸に視線を戻して、兄は膝丸の頬に手を添える。
「今度こそ絶対に間違えないように僕の神気を注いできたからね、さすがのあるじも間違えはしなかったね」
「兄者」
胸がいっぱいだ。
そうまでして、兄は自分を求めてくれたのだ。
「お待たせしてすまなかった。あなたの弟、膝丸――参上した」
お会いできて嬉しいと、待ち望んでいてくれて嬉しいと。一度は自分には兄は存在していないのではとまで思った兄にこれほどに望まれて幸せだと。
「うん」
万感の想いをこめて告げると兄はやはり何かをこらえているように頷き、そして膝丸の唇に己のそれを重ねた。
おしまい。
すぐに膝丸に視線を戻して、兄は膝丸の頬に手を添える。
「今度こそ絶対に間違えないように僕の神気を注いできたからね、さすがのあるじも間違えはしなかったね」
「兄者」
胸がいっぱいだ。
そうまでして、兄は自分を求めてくれたのだ。
「お待たせしてすまなかった。あなたの弟、膝丸――参上した」
お会いできて嬉しいと、待ち望んでいてくれて嬉しいと。一度は自分には兄は存在していないのではとまで思った兄にこれほどに望まれて幸せだと。
「うん」
万感の想いをこめて告げると兄はやはり何かをこらえているように頷き、そして膝丸の唇に己のそれを重ねた。
おしまい。
「……兄者!」
「うん」
兄の広げた両腕の中へ飛び込んだ膝丸を、兄は強く抱きしめる。
「やっと――やっときたね、僕の弟」
兄の腕の中から、膝丸はそろりと兄を見上げる。
「あるじが、……|四度《よたび》間違えた、と」
「そうなんだよ」
むん、と唇を結んで、兄はきまじめな表情で頷いた。
「まったく、三度めの正直どころじゃないよね。仏の顔は三度というのに、僕は仏でもないのに四度も間違われてさ」
ぷん、と唇を尖らせた兄がちらりと見やった先、面布の人物が困ったように頭を掻いている。若い男のようだ。
「……兄者!」
「うん」
兄の広げた両腕の中へ飛び込んだ膝丸を、兄は強く抱きしめる。
「やっと――やっときたね、僕の弟」
兄の腕の中から、膝丸はそろりと兄を見上げる。
「あるじが、……|四度《よたび》間違えた、と」
「そうなんだよ」
むん、と唇を結んで、兄はきまじめな表情で頷いた。
「まったく、三度めの正直どころじゃないよね。仏の顔は三度というのに、僕は仏でもないのに四度も間違われてさ」
ぷん、と唇を尖らせた兄がちらりと見やった先、面布の人物が困ったように頭を掻いている。若い男のようだ。
「源氏の重宝、膝丸だ」
誰に教えられたわけでもなく、唇が動いて言葉を紡ぐ。
「ここに兄者は」
「いるよ」
口上を遮って甘い声が膝丸を呼んだ。
はっと、反射的にそちらを見る。
微笑を浮かべた端正な美貌がそこにあった。
歓喜と慕わしさが胸を満たす。
「兄、者……――」
「源氏の重宝、膝丸だ」
誰に教えられたわけでもなく、唇が動いて言葉を紡ぐ。
「ここに兄者は」
「いるよ」
口上を遮って甘い声が膝丸を呼んだ。
はっと、反射的にそちらを見る。
微笑を浮かべた端正な美貌がそこにあった。
歓喜と慕わしさが胸を満たす。
「兄、者……――」
脳裏に兄の甘い声がよみがえる。
あの兄は――膝丸の兄だったのだろうか。本当に?
膝丸には兄はいないのではなかったのか?
――達者でな
――励めよ、俺
――兄者と仲よくな
――よくお仕えしてかわいがっていただくのだぞ
ふわふわと、はっきりとした言葉にはなっていない激励の餞を膝丸は感じ取る。
かつては、膝丸がそうして顕現する同位体を送り出していたように。
今度は、膝丸が――
脳裏に兄の甘い声がよみがえる。
あの兄は――膝丸の兄だったのだろうか。本当に?
膝丸には兄はいないのではなかったのか?
――達者でな
――励めよ、俺
――兄者と仲よくな
――よくお仕えしてかわいがっていただくのだぞ
ふわふわと、はっきりとした言葉にはなっていない激励の餞を膝丸は感じ取る。
かつては、膝丸がそうして顕現する同位体を送り出していたように。
今度は、膝丸が――
ほかの膝丸たちもいささか呆然とした様子でざわついている。
と。
膝丸は己が光に包まれていることに気づいた。
この、光は。
ついに膝丸が顕現される時がやってきたのだ。
ほかの膝丸たちもいささか呆然とした様子でざわついている。
と。
膝丸は己が光に包まれていることに気づいた。
この、光は。
ついに膝丸が顕現される時がやってきたのだ。
膝丸を放すと、兄は朗らかな声でそう呼ばわった。
『いや』
どこからか、誰かが兄のその声に応じた。
『兄者を俺が邪魔にすることなど決してありはしないが、――それにしても無茶をなさるものだ』
「まあ、そこは蛇の道は蛇っていうか? この場合蛇じゃなくて鳩? いや、でも蛇でいいのかな、とにかく、やりようはあるんだよ、とくに僕らはね。なにせ僕らは二振一具の双剣なのだからね」
『おっしゃるとおりだが――無理はかかっておるだろう。御身いとわれよ』
「うん。ありがとうね、おとうと――大好きだよ」
兄はにっこりして頷き、そして今度は柔らかな光に包まれて姿が見えなくなった。
膝丸を放すと、兄は朗らかな声でそう呼ばわった。
『いや』
どこからか、誰かが兄のその声に応じた。
『兄者を俺が邪魔にすることなど決してありはしないが、――それにしても無茶をなさるものだ』
「まあ、そこは蛇の道は蛇っていうか? この場合蛇じゃなくて鳩? いや、でも蛇でいいのかな、とにかく、やりようはあるんだよ、とくに僕らはね。なにせ僕らは二振一具の双剣なのだからね」
『おっしゃるとおりだが――無理はかかっておるだろう。御身いとわれよ』
「うん。ありがとうね、おとうと――大好きだよ」
兄はにっこりして頷き、そして今度は柔らかな光に包まれて姿が見えなくなった。
「うん」
どれほどの長さだったのか、ほぼ一瞬でしかなかったのか。
膝丸の唇を解放して、兄は満足げに頷いた。
すっきりと形のよい指先がいとおしげに膝丸の頬をなぞる。
「これでよし。いくらあるじでも、これでおまえをほかの弟と間違えたりはしないだろう。……待っているよ、おとうと」
ふたたび、気が遠くなるほど甘い声で囁き、もう一度、兄は膝丸の唇を啄んだ。
「うん」
どれほどの長さだったのか、ほぼ一瞬でしかなかったのか。
膝丸の唇を解放して、兄は満足げに頷いた。
すっきりと形のよい指先がいとおしげに膝丸の頬をなぞる。
「これでよし。いくらあるじでも、これでおまえをほかの弟と間違えたりはしないだろう。……待っているよ、おとうと」
ふたたび、気が遠くなるほど甘い声で囁き、もう一度、兄は膝丸の唇を啄んだ。
「だからね、もう、今度こそちゃんと僕の弟を呼んでもらおうと思ってさ、あるじが絶対に間違えないように目印をつけにきたんだ」
「っ――?」
言うなり。
兄はぐいと膝丸を引き寄せて、膝丸の。
唇に。
己が唇を密着させた。
「だからね、もう、今度こそちゃんと僕の弟を呼んでもらおうと思ってさ、あるじが絶対に間違えないように目印をつけにきたんだ」
「っ――?」
言うなり。
兄はぐいと膝丸を引き寄せて、膝丸の。
唇に。
己が唇を密着させた。