「…すみません…最近、昔の事をよく思い出してしまうんです。あまり思い出したくないんですが、薬を止めているのもあって、上手く忘れる事が出来なくて……何かしていないと、どんどん頭の中に浮かんできてしまって…」
微かに肩を震わせる青年を見て、海は身体を起こしてから、そっと肩に触れた。
「ケイ…」
「…」
「……なぁ、ケイ。今日はこのまま、俺の寝室で一緒に寝ない?」
「え…」
「膝枕だけじゃ足りなくてさ。抱き枕になってくれない?」
青年の顔を覗き込むようにして、お願いをする。
「…貴方が、そう望むなら……」
「ん、ありがとう」
「…すみません…最近、昔の事をよく思い出してしまうんです。あまり思い出したくないんですが、薬を止めているのもあって、上手く忘れる事が出来なくて……何かしていないと、どんどん頭の中に浮かんできてしまって…」
微かに肩を震わせる青年を見て、海は身体を起こしてから、そっと肩に触れた。
「ケイ…」
「…」
「……なぁ、ケイ。今日はこのまま、俺の寝室で一緒に寝ない?」
「え…」
「膝枕だけじゃ足りなくてさ。抱き枕になってくれない?」
青年の顔を覗き込むようにして、お願いをする。
「…貴方が、そう望むなら……」
「ん、ありがとう」
「ふぅん…」
「それで、寧々さんにお願いして、海さんに関する映像や雑誌を見せてもらっているんです」
興味を持ってくれた事は嬉しいのだが、少しばかり恥ずかしいような気持ちになり、海は視線を少し逸らした。
「…海さんは、僕の友達にちょっと似ています」
「お前の友達?」
「…」
青年は何か思い出したのか、口を閉ざしてしまう。表情もどことなく暗くなる。海はそんな彼の頬を指先で撫でた。
「ふぅん…」
「それで、寧々さんにお願いして、海さんに関する映像や雑誌を見せてもらっているんです」
興味を持ってくれた事は嬉しいのだが、少しばかり恥ずかしいような気持ちになり、海は視線を少し逸らした。
「…海さんは、僕の友達にちょっと似ています」
「お前の友達?」
「…」
青年は何か思い出したのか、口を閉ざしてしまう。表情もどことなく暗くなる。海はそんな彼の頬を指先で撫でた。
「おまたせ。遅いのに起こしてごめんな」
「いえ、大丈夫です」
ソファに腰掛けて、慣れた様子で青年のヒザに頭を乗せる。テレビからは何故か、過去に己がインタビューに応じた番組の映像が流れていた…。
「…最近、寧々が何かしているなぁとは思っていたけど…」
「止めますね」
「んー」
リモコンで映像を止めた青年は、残り少ないホットミルクを飲み干した。
「俺に興味を持ってくれたのは、どんな心境かな」
「…貴方が時々見せる表情が気になって…」
「表情?」
「おまたせ。遅いのに起こしてごめんな」
「いえ、大丈夫です」
ソファに腰掛けて、慣れた様子で青年のヒザに頭を乗せる。テレビからは何故か、過去に己がインタビューに応じた番組の映像が流れていた…。
「…最近、寧々が何かしているなぁとは思っていたけど…」
「止めますね」
「んー」
リモコンで映像を止めた青年は、残り少ないホットミルクを飲み干した。
「俺に興味を持ってくれたのは、どんな心境かな」
「…貴方が時々見せる表情が気になって…」
「表情?」
さて、今回の共同生活のキッカケとなった件についてだが…青年を不当な理由で退学にさせた例の理事長サマが関わっている。宙たちからの情報によると、外部から私立ヴェルス学園の理事長サマこと西.門 景.勝の不祥事が指摘されたらしい。否定する学園側はそれに反論する為、かつて追い出した生徒達に証言をさせようとしている…相当追い詰められているのがよく分かった。
このまま時間が経過すれば、理事長サマ側が負ける可能性も高い。それまで青年は身を隠していればいい。少しでも早く決着が着くのを祈ろう。
さて、今回の共同生活のキッカケとなった件についてだが…青年を不当な理由で退学にさせた例の理事長サマが関わっている。宙たちからの情報によると、外部から私立ヴェルス学園の理事長サマこと西.門 景.勝の不祥事が指摘されたらしい。否定する学園側はそれに反論する為、かつて追い出した生徒達に証言をさせようとしている…相当追い詰められているのがよく分かった。
このまま時間が経過すれば、理事長サマ側が負ける可能性も高い。それまで青年は身を隠していればいい。少しでも早く決着が着くのを祈ろう。
それから、海は青年に対して、時々ではあるが、簡単な"問い掛け"を与えていた。それは主に料理に関するもので、青年はその問い掛けに対しての答えを考える。答えはしっかり当たる時もあれば、惜しい解答の時もある。惜しかった場合、海はヒントをあげて、答えを導いてあげるのだ。
青年はそれがなかなか面白くて、いつもより表情もやわらかくなる。
それから、海は青年に対して、時々ではあるが、簡単な"問い掛け"を与えていた。それは主に料理に関するもので、青年はその問い掛けに対しての答えを考える。答えはしっかり当たる時もあれば、惜しい解答の時もある。惜しかった場合、海はヒントをあげて、答えを導いてあげるのだ。
青年はそれがなかなか面白くて、いつもより表情もやわらかくなる。
…こうして、期間限定の共同生活が始まったのだった。
―――――
ただ帰って寝るだけのイメージしか無かった家に、暖かみを感じるようになったのはいつからだろうか…。
鍵を差し込み、玄関の扉を開ける。フロアに向かうと、そこには…
「おかえりなさい、海さん」
自分を出迎えてくれる青年がいる。その状況に、海は頬が緩むのを感じた。
「ただいま。夕飯は何か食べられた?」
「少しだけ…」
「じゃあ、俺の晩酌に付き合ってくれる?」
フロアにあるキッチンへと向かえば、その後ろを青年がついてくる。
…こうして、期間限定の共同生活が始まったのだった。
―――――
ただ帰って寝るだけのイメージしか無かった家に、暖かみを感じるようになったのはいつからだろうか…。
鍵を差し込み、玄関の扉を開ける。フロアに向かうと、そこには…
「おかえりなさい、海さん」
自分を出迎えてくれる青年がいる。その状況に、海は頬が緩むのを感じた。
「ただいま。夕飯は何か食べられた?」
「少しだけ…」
「じゃあ、俺の晩酌に付き合ってくれる?」
フロアにあるキッチンへと向かえば、その後ろを青年がついてくる。
「…嬉しそうですね」
「久しぶりだからね。本当ならいつもの庭園でやってほしかったけど、室内なら人目を気にしなくて済むから良いな」
本当にこんな事で良いのだろうか…と少し眉をひそめる青年の眉間をチョンチョンと軽く突く。
「気になる事は沢山あるだろうし、不安もあるだろうけど…此処にいる間は少しでもゆっくりしてくれよ」
「ゆっくりする……」
「宙たちも話していただろ?長めの休みって事で息抜きしておいでって。息抜きも大事だぞ?少しの休憩を挟むと、その後の仕事効率も良くなるって聞くし。」
「…そう、ですね…」
「…嬉しそうですね」
「久しぶりだからね。本当ならいつもの庭園でやってほしかったけど、室内なら人目を気にしなくて済むから良いな」
本当にこんな事で良いのだろうか…と少し眉をひそめる青年の眉間をチョンチョンと軽く突く。
「気になる事は沢山あるだろうし、不安もあるだろうけど…此処にいる間は少しでもゆっくりしてくれよ」
「ゆっくりする……」
「宙たちも話していただろ?長めの休みって事で息抜きしておいでって。息抜きも大事だぞ?少しの休憩を挟むと、その後の仕事効率も良くなるって聞くし。」
「…そう、ですね…」
「時々そういうお願いごとを聞いてくれたら俺は嬉しいな」
「それでいいんですか…?」
「お前は暫くは此処に篭りきりになるし、不自由な生活をさせてしまうから、せめて衣食住は気にしないでほしいんだよ。その代わりに俺は癒しを補充したい。だからこんなお願いごとをしている」
割と真剣な表情で癒しを求める様子に、青年はパチパチと何度も瞬きをしてしまう。
「……わかりました、そんな事で良ければ…」
「ん、ありがとう。それじゃあ早速ヒザ借りてもいい?」
「えっ、あぁ……はい…」
彼の座る二人掛けのソファーに移動し、端の方に座る。海は横に座った青年の膝に頭を預けた。
「時々そういうお願いごとを聞いてくれたら俺は嬉しいな」
「それでいいんですか…?」
「お前は暫くは此処に篭りきりになるし、不自由な生活をさせてしまうから、せめて衣食住は気にしないでほしいんだよ。その代わりに俺は癒しを補充したい。だからこんなお願いごとをしている」
割と真剣な表情で癒しを求める様子に、青年はパチパチと何度も瞬きをしてしまう。
「……わかりました、そんな事で良ければ…」
「ん、ありがとう。それじゃあ早速ヒザ借りてもいい?」
「えっ、あぁ……はい…」
彼の座る二人掛けのソファーに移動し、端の方に座る。海は横に座った青年の膝に頭を預けた。
「…海さんにはデメリットしかないのに。」
「そんな事はないよ。ちょっとお願いごともあるし。」
「お願いごと?」
「ほぼ無償で衣食住を提供する代わりに、ケイにしか出来ない事をしてもらいたいんだ」
「なんですか、僕で良ければなんでもやります…!」
海はニッコリ微笑んで、お願いごとを口にした。
「休みの日とかは、俺の抱き枕になってくれよ」
「へっ」
「膝枕とかでもいいし」
「…それって、いつもと変わらないんじゃ…」
「俺からしたら死活問題だよ。ここ暫くはぜんっぜん出来てなかったんだから!」
青年は数時間前に海が言っていた発言を思い出す。
「…海さんにはデメリットしかないのに。」
「そんな事はないよ。ちょっとお願いごともあるし。」
「お願いごと?」
「ほぼ無償で衣食住を提供する代わりに、ケイにしか出来ない事をしてもらいたいんだ」
「なんですか、僕で良ければなんでもやります…!」
海はニッコリ微笑んで、お願いごとを口にした。
「休みの日とかは、俺の抱き枕になってくれよ」
「へっ」
「膝枕とかでもいいし」
「…それって、いつもと変わらないんじゃ…」
「俺からしたら死活問題だよ。ここ暫くはぜんっぜん出来てなかったんだから!」
青年は数時間前に海が言っていた発言を思い出す。
そう言って、微笑みを浮かべながらブラックコーヒーを優雅に一口飲んた。
「それじゃあ、今後の事だけど…暫くはこの家で過ごしてもらう形になるから、明日には必要な物を買いに行こうか。うちの店も明日は休みだから、一緒に付き添うね」
「ありがとうございます…」
「寝る場所は2階に部屋があるから、そこを使ってもらうとして……」
明日買うものをリストにまとめたり、最低限のルールの確認をしたり、二人はコーヒーを片手に話を進める。大体の話がまとまった所で、青年には海に深く頭を垂れた。
「個人的な事情に巻き込む形になってしまい、申し訳ありません」
そう言って、微笑みを浮かべながらブラックコーヒーを優雅に一口飲んた。
「それじゃあ、今後の事だけど…暫くはこの家で過ごしてもらう形になるから、明日には必要な物を買いに行こうか。うちの店も明日は休みだから、一緒に付き添うね」
「ありがとうございます…」
「寝る場所は2階に部屋があるから、そこを使ってもらうとして……」
明日買うものをリストにまとめたり、最低限のルールの確認をしたり、二人はコーヒーを片手に話を進める。大体の話がまとまった所で、青年には海に深く頭を垂れた。
「個人的な事情に巻き込む形になってしまい、申し訳ありません」
「荷物も置きなよ、遠慮しないで。」
青年はバッグをギュッと抱きかかえていた事に気づき、おずおずとソファの横に置いてみる。
目の前に出されたコーヒー、それからお好みで砂糖とミルクが添えられる。砂糖を一つ、ミルクを少し入れて、スプーンでくるくると混ぜていく。
いただきます…と言ってから、コーヒーを口にする。
「っ……おいしい」
「専門店で俺好みにブレンドした特別製だ。クセがあるから好みも分かれるんだけど…」
「その…普段は投薬の事もあって、カフェインは控えてて……でも、普通のコーヒーよりも飲みやすい、です」
「荷物も置きなよ、遠慮しないで。」
青年はバッグをギュッと抱きかかえていた事に気づき、おずおずとソファの横に置いてみる。
目の前に出されたコーヒー、それからお好みで砂糖とミルクが添えられる。砂糖を一つ、ミルクを少し入れて、スプーンでくるくると混ぜていく。
いただきます…と言ってから、コーヒーを口にする。
「っ……おいしい」
「専門店で俺好みにブレンドした特別製だ。クセがあるから好みも分かれるんだけど…」
「その…普段は投薬の事もあって、カフェインは控えてて……でも、普通のコーヒーよりも飲みやすい、です」
「あぁ、任せてくれ」
今度は海に促され、青年は院内寮の裏口の方へ行けば、タクシーが待機していた。それに乗り込んで、海の家へと向かった。
…
……
………
海の住む場所はとても広く、備品が至る所に置かれていて、それがまたオシャレな装いをしていた。フロアにはキッチンがあり、とても綺麗だし、家具もあまり統一性がないものの、バランスが取れていて素敵だ。
不安でいっぱいながらも、いつもと違う場所の鮮やかな雰囲気に、青年は少しだけ胸が弾んだ。
「適当に座って。コーヒーをいれるから、飲みながらこれからの事を話していこうか」
「はい」
青年は一人用のソファにちょこんと座る。
「あぁ、任せてくれ」
今度は海に促され、青年は院内寮の裏口の方へ行けば、タクシーが待機していた。それに乗り込んで、海の家へと向かった。
…
……
………
海の住む場所はとても広く、備品が至る所に置かれていて、それがまたオシャレな装いをしていた。フロアにはキッチンがあり、とても綺麗だし、家具もあまり統一性がないものの、バランスが取れていて素敵だ。
不安でいっぱいながらも、いつもと違う場所の鮮やかな雰囲気に、青年は少しだけ胸が弾んだ。
「適当に座って。コーヒーをいれるから、飲みながらこれからの事を話していこうか」
「はい」
青年は一人用のソファにちょこんと座る。
「ケイくんは悪くないよ」
「そうだよ。強引に仕掛けてきた相手が悪い」
「色々と気になるとは思うけど、長めの休みが出来たと思って、ゆっくり息抜きしておいで。」
暫く投薬も休みだな、と言われた青年は「えっ」と声を漏らす。
「それもお休み、ですか」
「環境も一時的に変わるからな。どういう作用が出るか分からない状態で投薬を続けるのは危険だ」
「栄養剤は飲んでも大丈夫だから。でも、薬を飲まない分、食事や睡眠とかはしっかり取るようにしてね」
「…分かりました…」
不安そうにバッグを抱き締める青年の肩と頭がそれぞれ優しく叩かれる。
「ケイくんは悪くないよ」
「そうだよ。強引に仕掛けてきた相手が悪い」
「色々と気になるとは思うけど、長めの休みが出来たと思って、ゆっくり息抜きしておいで。」
暫く投薬も休みだな、と言われた青年は「えっ」と声を漏らす。
「それもお休み、ですか」
「環境も一時的に変わるからな。どういう作用が出るか分からない状態で投薬を続けるのは危険だ」
「栄養剤は飲んでも大丈夫だから。でも、薬を飲まない分、食事や睡眠とかはしっかり取るようにしてね」
「…分かりました…」
不安そうにバッグを抱き締める青年の肩と頭がそれぞれ優しく叩かれる。
「まあ、半分くらいは下心もあるけど。」
「下心…?」
「今は内緒にさせてね」
ぽんっと軽やかに頭を撫でた頃、丁度院内寮の前に着いた。青年が住む部屋の前には、宙と陸がいた。
二人に促され、青年は必要なものをまとめてバッグに入れていく。元々あまり物は無い為、最小限の荷物で済む。
それから、二人から渡されたのは、タブレット端末と携帯だった。
「ケイは暫く有給の扱いって事になるけど、何かあればこのタブレットで仕事の書類とかを送るから。連絡はこの携帯で。」
「夜桜さん、南美さん…」
「後のことはこっちに任せて。」
「まあ、半分くらいは下心もあるけど。」
「下心…?」
「今は内緒にさせてね」
ぽんっと軽やかに頭を撫でた頃、丁度院内寮の前に着いた。青年が住む部屋の前には、宙と陸がいた。
二人に促され、青年は必要なものをまとめてバッグに入れていく。元々あまり物は無い為、最小限の荷物で済む。
それから、二人から渡されたのは、タブレット端末と携帯だった。
「ケイは暫く有給の扱いって事になるけど、何かあればこのタブレットで仕事の書類とかを送るから。連絡はこの携帯で。」
「夜桜さん、南美さん…」
「後のことはこっちに任せて。」
「病院関係者である宙や陸の家だと、もしかすると相手に尾行される可能性があるから、避難は難しい。その点、俺は"北田 岳"ではなく、あくまで"ケイ"と面識があるだけだから、恐らく上手くいくだろうって話になったんだ」
「……どうして…」
「どうして、ねぇ……」
少し逡巡してから、海は青年の頭をいつものように撫でた。
「あいつらのせいで、俺の貴重な癒し時間がなくなった。それが許せない。だから早く解決する為に協力したいと思ったんだ」
「癒し…?」
「前にも話しただろ。お前と会う時間を失いたくない…お前の傍は心地いいって…俺はお前に癒されてるんだよ?」
「病院関係者である宙や陸の家だと、もしかすると相手に尾行される可能性があるから、避難は難しい。その点、俺は"北田 岳"ではなく、あくまで"ケイ"と面識があるだけだから、恐らく上手くいくだろうって話になったんだ」
「……どうして…」
「どうして、ねぇ……」
少し逡巡してから、海は青年の頭をいつものように撫でた。
「あいつらのせいで、俺の貴重な癒し時間がなくなった。それが許せない。だから早く解決する為に協力したいと思ったんだ」
「癒し…?」
「前にも話しただろ。お前と会う時間を失いたくない…お前の傍は心地いいって…俺はお前に癒されてるんだよ?」
「やぁ、ケイ」
「………海、さん…?」
午前の実験を終えた青年を待っていたらしい海は、凭れながら立っていた壁から離れ、彼の傍に行く。
「…今日は、仕事の日じゃ…」
「ディナータイムのみの日だから、昼は休みだよ」
わしわしといつものように髪を撫でながら、顔を覗き込む。
「宙から事情は聞いている。勝手に話を進めて悪いけど、この後、俺の家に一緒に行こう」
「え…」
「とりあえず、移動しながら話をしようか」
院内寮へと向かう道中、海は青年に説明をした。簡潔にまとめると、事態が落ち着くまで、別な場所に避難する…という事だった。その場所が、海の家だというのだ。
「やぁ、ケイ」
「………海、さん…?」
午前の実験を終えた青年を待っていたらしい海は、凭れながら立っていた壁から離れ、彼の傍に行く。
「…今日は、仕事の日じゃ…」
「ディナータイムのみの日だから、昼は休みだよ」
わしわしといつものように髪を撫でながら、顔を覗き込む。
「宙から事情は聞いている。勝手に話を進めて悪いけど、この後、俺の家に一緒に行こう」
「え…」
「とりあえず、移動しながら話をしようか」
院内寮へと向かう道中、海は青年に説明をした。簡潔にまとめると、事態が落ち着くまで、別な場所に避難する…という事だった。その場所が、海の家だというのだ。
だが、色々と考える内に息苦しさを感じてきた。胸元をギュッと掴みながら、呼吸を落ち着かせようとするが、辛い記憶が脳内を駆け巡っていって、眩暈がしてくる。
病院の敷地内にある院内寮の一部屋…壁に凭れて頭をゴツンと当てる。弱い自分が出てきてしまっている…嫌だ、出てくるな……じわりと弱さが染み出してくるように、花が数輪咲き出した。マリーゴールドが傍らにぽとりと落ちれば、深く息を吐いた。
「…なんで、今になって……」
過去の因縁が青年を静かに追い詰めていく…。
だが、色々と考える内に息苦しさを感じてきた。胸元をギュッと掴みながら、呼吸を落ち着かせようとするが、辛い記憶が脳内を駆け巡っていって、眩暈がしてくる。
病院の敷地内にある院内寮の一部屋…壁に凭れて頭をゴツンと当てる。弱い自分が出てきてしまっている…嫌だ、出てくるな……じわりと弱さが染み出してくるように、花が数輪咲き出した。マリーゴールドが傍らにぽとりと落ちれば、深く息を吐いた。
「…なんで、今になって……」
過去の因縁が青年を静かに追い詰めていく…。
特別病棟まで来て、暫く待つ。警備員から情報が入り、二人が渋々いなくなっていった事を聞かされる。一先ずは安心…かと思われたが、それからも数日、彼等は青年を探しにやってきた。
青年は外に出ず、特別病棟近くで出来る仕事をしたり、実験の方に参加するなどして、対面を避けた。
だが、それらも長くは続かない。しつこい来訪に対して、青年の心労がたたってしまいそうだ。病院側もどう対処しようかと悩んでいる。青年の事情を考えれば、簡単な彼らと会わせる事は出来ない。だが、このままでは他の患者や職員にも迷惑がかかってしまう。
特別病棟まで来て、暫く待つ。警備員から情報が入り、二人が渋々いなくなっていった事を聞かされる。一先ずは安心…かと思われたが、それからも数日、彼等は青年を探しにやってきた。
青年は外に出ず、特別病棟近くで出来る仕事をしたり、実験の方に参加するなどして、対面を避けた。
だが、それらも長くは続かない。しつこい来訪に対して、青年の心労がたたってしまいそうだ。病院側もどう対処しようかと悩んでいる。青年の事情を考えれば、簡単な彼らと会わせる事は出来ない。だが、このままでは他の患者や職員にも迷惑がかかってしまう。
「そちらの事情は知りませんが、この辺りは一般の方以外にも、患者やその家族がおとずれる事もあります。騒がしくされたら迷惑です」
僕も仕事中ですので…それでは病室に戻りましょう?と、青年を患者という扱いで対応し、その場を後にする。
…男達は、青年が探し人だとは気づかなかった。小声で陸は青年に話しかける。
「念の為、このまま特別病棟の辺りまで行きますね。あそこは警備も厳重だから、まず入ってはこれない」
「はい……」
「……知っている顔だった?」
「…ヴェルス学園の、校長と教頭、です……」
「そちらの事情は知りませんが、この辺りは一般の方以外にも、患者やその家族がおとずれる事もあります。騒がしくされたら迷惑です」
僕も仕事中ですので…それでは病室に戻りましょう?と、青年を患者という扱いで対応し、その場を後にする。
…男達は、青年が探し人だとは気づかなかった。小声で陸は青年に話しかける。
「念の為、このまま特別病棟の辺りまで行きますね。あそこは警備も厳重だから、まず入ってはこれない」
「はい……」
「……知っている顔だった?」
「…ヴェルス学園の、校長と教頭、です……」
「先程から話している名前の子はいませんよ。それから此処は病院です。あまり騒がれるようなら、警察を呼びますよ」
「我々が雇った探偵の情報では、偽名を使って働いていると聞いたんだ!」
探偵というワードに青年はピクッと反応する。まさか、頻繁に庭園に訪れていた者は探偵だったのではないか…?
「彼がどこにいるか教えてくれ!彼には証言をしてもらわないといけない!」
「証言…?」
「西門理事長の身の潔白の証明の為に、卒業生や中退者の証言を集めないといけないんだ!!」
青年がまたピクリと反応する。
「先程から話している名前の子はいませんよ。それから此処は病院です。あまり騒がれるようなら、警察を呼びますよ」
「我々が雇った探偵の情報では、偽名を使って働いていると聞いたんだ!」
探偵というワードに青年はピクッと反応する。まさか、頻繁に庭園に訪れていた者は探偵だったのではないか…?
「彼がどこにいるか教えてくれ!彼には証言をしてもらわないといけない!」
「証言…?」
「西門理事長の身の潔白の証明の為に、卒業生や中退者の証言を集めないといけないんだ!!」
青年がまたピクリと反応する。
「君の知り合いだと名乗る人物が二人、病院に来てるんだ。なんだか様子もおかしいから、念の為に此処からも離れた方が…」
すると、忙しない足音が聞こえてくる。陸は青年のフードを深くかぶせてから、そちらを振り返った。中年の男性が二人…と、それを止めようとしている警備員が一人……
「北田 岳くんは何処にいる!!」
「そのような方はこの病院にはいないと何度も言っているじゃないですか」
「この庭園にいると聞いたんだ!」
焦りと怒りの混じった声で、警備員に問いかける二人は、陸と青年の姿を見て傍に来る。陸は青年の手を取り、背に隠す。
「なんですか?」
「君の知り合いだと名乗る人物が二人、病院に来てるんだ。なんだか様子もおかしいから、念の為に此処からも離れた方が…」
すると、忙しない足音が聞こえてくる。陸は青年のフードを深くかぶせてから、そちらを振り返った。中年の男性が二人…と、それを止めようとしている警備員が一人……
「北田 岳くんは何処にいる!!」
「そのような方はこの病院にはいないと何度も言っているじゃないですか」
「この庭園にいると聞いたんだ!」
焦りと怒りの混じった声で、警備員に問いかける二人は、陸と青年の姿を見て傍に来る。陸は青年の手を取り、背に隠す。
「なんですか?」