欲しがりの子の息強ししゃぼん玉
欲しがりの子の息強ししゃぼん玉
春の夜の蒲団かぶりて話しけり
行春の魚のはらわた腐りけり
故郷やどちらを見ても山笑う
春の夜の蒲団かぶりて話しけり
行春の魚のはらわた腐りけり
故郷やどちらを見ても山笑う
椿は散るのではなく花ごと落ちる。それを不吉と嫌う向きもあるようですがわたしは好ましく思います、あなたはいかがですか、姉さん。あなたが首を傾げますと長い黒髪が横より首すじに流れまして、そこから頭が落ちてしまいそうでした。なのにあなたは、わたしを、不出来な妹を叱るとき、いつも首をお傾げになる。どうしてこのような道理が分からないのかと、不思議そうに。わたしはうつむくふりをしてこっそりとその様をうかがっておりました。わたしの過ちが、あなたの頭を傾け、黒髪が流れて、何かの香がすこしーーあれは椿の香?ーー立ち上り、あなたの唇が、わたしを呼ぶ様を。
椿は散るのではなく花ごと落ちる。それを不吉と嫌う向きもあるようですがわたしは好ましく思います、あなたはいかがですか、姉さん。あなたが首を傾げますと長い黒髪が横より首すじに流れまして、そこから頭が落ちてしまいそうでした。なのにあなたは、わたしを、不出来な妹を叱るとき、いつも首をお傾げになる。どうしてこのような道理が分からないのかと、不思議そうに。わたしはうつむくふりをしてこっそりとその様をうかがっておりました。わたしの過ちが、あなたの頭を傾け、黒髪が流れて、何かの香がすこしーーあれは椿の香?ーー立ち上り、あなたの唇が、わたしを呼ぶ様を。
寒椿落ちたるほかに塵もなし 篠田悌二郎
インク:五島椿ホワイトレッド
寒椿落ちたるほかに塵もなし 篠田悌二郎
インク:五島椿ホワイトレッド
学校の七不思議の一つに、昼間にひとりでに鳴るピアノがある。夜中ではない。音楽室の、古い、マホガニーのピアノ。冬の、よく晴れた日にだけ、ひとときの暖かさを喜ぶようにピアノはひとりでに鳴るという。やさしい、静かな曲を奏でるという。だから、たとえば昼休みに、音楽室からピアノ曲がきこえてきても、好奇心で覗いてはいけない。人に見られると、ピアノは鳴るのをやめてしまうから。
「ーーっていう噂を流したの、君?」
白鍵から指を上げて、彼がたずねる。音楽室の床に座り込んだ俺は目をそらす。彼は少し笑って、どうして? とたずねる。俺は答えない。この時間を邪魔されたくないなんて、言葉では、言わない。
学校の七不思議の一つに、昼間にひとりでに鳴るピアノがある。夜中ではない。音楽室の、古い、マホガニーのピアノ。冬の、よく晴れた日にだけ、ひとときの暖かさを喜ぶようにピアノはひとりでに鳴るという。やさしい、静かな曲を奏でるという。だから、たとえば昼休みに、音楽室からピアノ曲がきこえてきても、好奇心で覗いてはいけない。人に見られると、ピアノは鳴るのをやめてしまうから。
「ーーっていう噂を流したの、君?」
白鍵から指を上げて、彼がたずねる。音楽室の床に座り込んだ俺は目をそらす。彼は少し笑って、どうして? とたずねる。俺は答えない。この時間を邪魔されたくないなんて、言葉では、言わない。