ご主人が病気の治療でずっと休業だった和菓子屋さんが再開してた。本当に嬉しい。職人の技術というのは多くの場合、その人だけのものだから、ひとりの職人がいなくなるってことは、その人の作っていたものがごっそり無くなるってことなのだ。それが世の摂理とはいえ、なるべく長く元気に、ものを作り続けて欲しいと、いちファンとして強く思います。

僕は劇場に演劇を観にいったり、個人経営の尖ったレストランへご飯を食べにいったり、美術館へ絵や彫刻を観にいったり、ジャズバーへライブを聴きにいったりするのが好きなのですが、なにもそれは高尚な文化と教養を求めているわけではなくて、文化芸術の衣を被りながら誰に頼まれるわけでもなく「え！？そこまでやるの！？」「え！？そんなに自分を追い込むの！？」という領域までイッちゃってる人間たちの狂った所業に出会いたいからです。

出演する舞台が間も無く初日を迎える。2020年2月のに新型コロナウイルス感染症の拡大防止に係る文部科学大臣からの要請によって途中で公演を自粛した作品だ。演劇も音楽も不要不急の存在で、大勢の命を守るために舞台人演劇人たちはステイホームをすることでしか当時の社会での責任を果たせなかった。あれから5年弱。世界では戦争がいくつかはじまり、あらゆる物価は上がり、国内の庶民の所得は増えず、チケットも本も昔ほど売れなくなった。けれどどっこい、オイラは生きている。あのとき中止になった舞台を、また新たに始め直す。今日も劇場には人々が集まる。もしくは、今日も人々の内側に、劇場が立ち上がる。

高校生のときに買ったけどなかなか読み通せなかった『闇の左手』を今年読んでみたらとても面白かったので、先月あたりにルグィンをまとめて買った。今は『所有せざる人々』読みはじめた。先月までは横溝正史を続けざまに読んでた。合間に、竹内銃一郎とピーター・ブルックを挟んでる。ずっと本を読んで暮らせたら幸せだろうなぁと思う。

八百屋さんに、冬のお野菜が潤ってきたぜ。豊かな生活のための大いなる一助だ。

谷川俊太郎という詩人。彼は戯曲も書いていて、劇団四季に書き下ろした「お芝居はおしまい」や、「部屋」という題名の三人芝居。あと、日本ミュージカル映画の秀作である「君も出世ができる」では作詞も担当している。テレビドラマや映画の脚本もいくつも書いている。文学という広大なフィールドの、ありとあらゆる場所で活躍されてたわけだ。すごすぎるー。

歌ってひとりで練習できるけど、お芝居ってひとりじゃ練習できないからむつかしいなぁと思う。生きていくこととか、ちゃんと喜ぶとか、ちゃんと悲しむ、悔しがる、みたいなことをコツコツやっていくしかない。あとは舞台に立つ。

日生劇場ではスタッフさんたちが必死に仕込みの作業をしてくれているが、俳優部は足手纏いになるだけなのでお休みだ。昨日は包丁を研いだ。冷凍庫の霜取りをした。自分のソロライブのための選曲をした。台所の排水溝の掃除もした。楽譜をひとつ書いた。年賀状の大まかなイメージを決めた。友人の演出家と今後について電話で話した。できたことはたくさん。お休みって本当にありがたいなぁ。

インターネットって、底の見えない井戸に向かって石を投げるように、虚空に向かって言葉を放つという、一種の儀式めいた楽しさが魅力だった時代があった。SNSにいないと現世界にもまるで「いない」かのようになった今では、インターネットは繋がるための手段になったんだよね。人間は寂しがりやだから、繋がることはきっと原始的な欲求のひとつで。けれど、たった一人で夜空を見つめ続けることの豊かさだって、原始的な欲求のひとつだよ。僕はちゃんと、寂しさを傍らに置いておける世界が好きだよ。

本日は晴天なり。
僕は山野靖博なり。