この午前の祈りの時間を終えれば後はお兄様を構えることだろう。ゆっくり目を開ければ差し込む光に何度かゆっくりと瞬きをして目を慣らす。
「今日も、すべてにーーーー」
お兄様のことを記憶の中で描き直し、小さくなったその背を見つける。見つけると言うよりも隠れきれていないのだが本人は至って真剣らしい。
「お兄様?」
「いないぞコノヤロー」
感動してしまう。何度目のかくれんぼに、傍まで歩み寄ったものの顔を逸らされ見つかっていないことにされる。
「お菓子」
その一言で追いかけっこに駆け出す。
俺様は今もまだ、黒を脱げずにいる。
この午前の祈りの時間を終えれば後はお兄様を構えることだろう。ゆっくり目を開ければ差し込む光に何度かゆっくりと瞬きをして目を慣らす。
「今日も、すべてにーーーー」
お兄様のことを記憶の中で描き直し、小さくなったその背を見つける。見つけると言うよりも隠れきれていないのだが本人は至って真剣らしい。
「お兄様?」
「いないぞコノヤロー」
感動してしまう。何度目のかくれんぼに、傍まで歩み寄ったものの顔を逸らされ見つかっていないことにされる。
「お菓子」
その一言で追いかけっこに駆け出す。
俺様は今もまだ、黒を脱げずにいる。
「俺は主人公じゃない」
ギルなら映えるであろうその場所に俺は居ない。それがどうしようもなく悔しくて苦しい。脚本と台詞があるように、俺はどこかの航海図に思いを馳せるだけ。
「お兄様? 何してるんですか」
「なんもしてねぇぞこのやろー」
咄嗟に両手で覆い隠したが、紙の海の方が俺の手よりも大きかった。
「おっ懐かしいもん見たな」
「え?」
示しているのは何十年も前のものであり、この村から何週間も歩かなければまず出発地点にすら到達できない代物なのに。
だから俺は率直に普段よりも躊躇なく口にした。
「なぁ海ってどんなだ?」
ギルがわらう。瞼の裏に映っているのだろう。
「俺は主人公じゃない」
ギルなら映えるであろうその場所に俺は居ない。それがどうしようもなく悔しくて苦しい。脚本と台詞があるように、俺はどこかの航海図に思いを馳せるだけ。
「お兄様? 何してるんですか」
「なんもしてねぇぞこのやろー」
咄嗟に両手で覆い隠したが、紙の海の方が俺の手よりも大きかった。
「おっ懐かしいもん見たな」
「え?」
示しているのは何十年も前のものであり、この村から何週間も歩かなければまず出発地点にすら到達できない代物なのに。
だから俺は率直に普段よりも躊躇なく口にした。
「なぁ海ってどんなだ?」
ギルがわらう。瞼の裏に映っているのだろう。
「いらっしゃいませお兄様」
祈っていたその背が振り返ると、いつも胸の辺りがポカポカするんだ。俺は……こんなに笑いかけてくれる人を他に知らない。ここを訪れるような者は元々多くない。それでもギルは向き直り、きちんと一人一人にカテーシーを行う。
「……来てやったぞ」
「はい、今日は何にしましょうか?」
黒に覆われた長い足がスラリと見え隠れするその挨拶に、俺は戸惑ってばかりいる。布擦れの音と靴底の音。裾に隠れるのを見届けると息がつける心地だ。
「お前の話か、騎士物語がいい」
「いらっしゃいませお兄様」
祈っていたその背が振り返ると、いつも胸の辺りがポカポカするんだ。俺は……こんなに笑いかけてくれる人を他に知らない。ここを訪れるような者は元々多くない。それでもギルは向き直り、きちんと一人一人にカテーシーを行う。
「……来てやったぞ」
「はい、今日は何にしましょうか?」
黒に覆われた長い足がスラリと見え隠れするその挨拶に、俺は戸惑ってばかりいる。布擦れの音と靴底の音。裾に隠れるのを見届けると息がつける心地だ。
「お前の話か、騎士物語がいい」
そう言われて俺は石になったように動けなくなった。はくりと一度口が震えるだけで何を言おうとしたのかは俺にも分からなかった。ただ見下ろしてくる赤い目がいつもと違う。眉を下げ、判りやすくギルが俺に言い聞かせるようにまた首を横に振る。
「どうして」
俺はただ、お前に喜んでほしくて。好きになってほしくて。俺のことをもっとって思ってほしいと願っただけなのに。
「羽はもう受け取れません」
だってそれじゃあ……俺は渡せるものが無い。俯いても頭の中はそれでいっぱいになったままだ。
「大事なお兄様の羽、抜かなくていいんですよ」
俺の手にギルが口を重ねて笑ってくれた。
そう言われて俺は石になったように動けなくなった。はくりと一度口が震えるだけで何を言おうとしたのかは俺にも分からなかった。ただ見下ろしてくる赤い目がいつもと違う。眉を下げ、判りやすくギルが俺に言い聞かせるようにまた首を横に振る。
「どうして」
俺はただ、お前に喜んでほしくて。好きになってほしくて。俺のことをもっとって思ってほしいと願っただけなのに。
「羽はもう受け取れません」
だってそれじゃあ……俺は渡せるものが無い。俯いても頭の中はそれでいっぱいになったままだ。
「大事なお兄様の羽、抜かなくていいんですよ」
俺の手にギルが口を重ねて笑ってくれた。