ْ
LightNews LightNews
banner
y-t-r-u.bsky.social
ْ
@y-t-r-u.bsky.social
9 followers 1 following 480 posts
だいたいTwitterにいる、ここはお前のお喋りとか興味無いよって人向けかもしれない
ご期待には添いかねます 20↑

諸々
https://privatter.net/u/Y_T_R_U
Posts Replies Media Videos
y-t-r-u.bsky.social
10/13開催の #GLFes45 #CSM12 で頒布するもの一覧です。何事もなければドロオブ(はつさき)R-18オマージュ文庫小説本¥1000の他に、ういまな+ドロオブの魔女世界線コピ本¥100(後日全文公開)があるはずです。
スペースはC27。よろしくね
October 12, 2025 at 10:06 AM
y-t-r-u.bsky.social
10/13開催の #GLFes45 #CSM12 にドロオブ(はつさき)R-18小説本が出ます。HOTLINE MIAMI、ドグラ・マグラのオマージュです。暗い話かつグロ描写を含むためなんでも許せる人向け
スペース：C27
文庫小説本/本文約四万五千字/¥1000
詳細、エロやグロ込みサンプルはpixivで
www.pixiv.net/novel/show.p...
October 4, 2025 at 3:25 PM
y-t-r-u.bsky.social
らなたき+りり
らなたき+りり① 「そっかぁ。楽奈ちゃんが大人になるまで『そういうこと』はしないんだ」 「……」 「言わなきゃよかったって顔だね」 「心読まないでください」 楽奈はふるい付き合いのようだったから、もう少し微妙な反応をされると思っていたのに。凛々子はとてもご機嫌そうに立希の打ち明け話を聞いていた。 「言うのけっこう緊張したんですけど」 「えー。私楽奈ちゃんの親でもなんでもないのに」 「でもあいつ、家族みたいに懐いてるじゃないですか」 「やきもち？……って、そんなにだるそうな顔しないでよ」 ため息が出ていた。しかしこんな、惚気ですらないような話ができるのは凛々子くらいで。 要するに浮かれているのかもしれなかった。立希にとって経験の無い関係性をよりによって楽奈と結ぶことになって、いずれ起こりうる触れ合いに対する期待や不安を持て余してしまっているのだった。 「昔からあの子を知ってて懐かれてる私から一つ言うとね」 「はい」 「楽奈ちゃんは、待てる子だよ」 らなたき+りり② 「そうですか？」 「それに約束も守れる。納得できる理由があって、守った先にいいことがあると信じられる時はね」 「……はぁ」 「立希ちゃんと約束したってことは、ね。そういうことだよ」 「……」 「愛されてるね、立希ちゃん」 本当に？と思うけれど。凛々子の言葉には信憑性があった。 楽奈がもう立希の心に欠かせない一部なのを受け入れた時。それでもまだ決定的な一線を超えるほどの勇気は無いと自覚した時。待てと約束させた時の顔が、脳裏によぎる。 「あいつ子どもみたいに頬膨らませてました。でも笑ってた……『待ってる』って」 「へぇ」 「軽率でしたかね、私」 「さぁ？」
November 13, 2024 at 9:52 PM
y-t-r-u.bsky.social
たき→さき
たき→さき① 「燈のこと神様か何かだと思ってた。でもそうじゃない。考えてること、気持ち、燈は伝えようとしてくれてる。向き合ってわかろうとすればわかる。だって燈は……人間だから」 声を切る。相槌が返り、沈黙が降りる。告解でもしているみたいだ。妙に厳かな雰囲気に立希は小さく笑みをこぼした。 「神様が本当にいるとして、そういう全能の存在が何を思って人間を見てるかなんて。私みたいにちっぽけな生き物にわかるわけがない……だから」 頭に浮かんだのは一人の少女。天から注ぐ光を一身に背負ったように眩しくて美しくて、立希の目には完璧な存在として映っていた彼女の——今は亡き笑み。 「私たちに与えるだけ与えて、同じだけ多くを奪って消えた。なんでそんなことしたのか少しも話さないまま……それも、私があいつの愛に相応しくなかったからなのかなって、ならなんで他のみんなまでって。どれだけ考えてもわからないから。あいつは、祥子は、本物のかみさまになったんだって、思った」 なんでこんな話を聞いてくれるのだろう。でも相槌のタイミングが心地よくて、聞き上手に甘えて立希は話し続けていた。 「もうあの頃のあいつには追いつけない。触れられない。永遠に、勝てない。祥子みたいになれたらと思ってたこと自体身の程知らずで、もしかしたらその罰があの雨の日だったのかな」 たき→さき② 反応に困っている様子に申し訳なくなる。しかしもう吐き出さなければおさまらない。考えるほどに暗く澱んだものが立希の中に満ちる。笑えなくなる。初めから笑える話なんかではなかったとようやく気づいて、立希はかぶりをふった。 「そのまま、かみさまになったまま消えてくれてればよかったのに」 怒りや悲しみ、卑屈さ、劣等感、憎悪。輝きに満ちていた思い出を裏返した場所にあるものが声を震わせる。椅子にかけたまま立希は俯き頭を抱える。 「燈と同じ、私がいた学校でピアノ弾いてるって。私たちのライブをみにきたって。バンドを始めたって。これが悪い冗談じゃないなら、なんなんだよ」 頭が重い。割れそうなほどに痛い。固く閉じた目からは涙が滲む。 「私と同じように息して、音楽といて、私の目に入るところで、人間みたいに……」 情けない声も姿も隠さず立希は縋る。問う。なんでもいい、こたえが欲しかった。 「お前にとっての祥子ってなに？かみさま？人間？それとも——」
November 12, 2024 at 9:53 PM
y-t-r-u.bsky.social
うみたき 11/11
うみたき 11/11 「食べますか？これが最後の一本ですが」 「じゃあ聞くなよ……」 とはいえ、寝不足なせいか甘味が食べたい気分だった。立希は海鈴が咥えたチョコ菓子を一瞥する。 「やっぱもらう」 意外そうな目をした海鈴の眼前に手を伸ばす。細く長い菓子に指をかけ、半分ほどの長さで折って自分の口へ含んだ。 「なるほど」 「なに」 「いえ。立希さんらしいです」 淡く笑みを浮かべた海鈴はどこか残念そうにも見えた。チャイムが鳴り、教師が入ってきて授業が始まる。 小テストの用紙、日付を書き込む欄に記入したところで何かが引っかかった。 今日は十一月十一日。自分で書くまで気づかなかった。 日付。お菓子。からかい。立希の返答。海鈴の反応——口内の甘味に、少し苦味が混ざった気がした。 時間となり、後ろからテスト用紙が回ってくる。受け取るため振り返ったついでに海鈴に目をやると、彼女も立希を見ていた。 一瞬目が合ったのに先に視線をそらされたのが、微妙に腹立たしかった。
November 11, 2024 at 11:02 PM
y-t-r-u.bsky.social
ういさき 事後
ういさき 事後① 隣で祥子が寝息を立てているのを確認し、初華はそっと身体を起こした。すぐ隣に裸身があるのは落ち着かない。変にまた昂ってしまう前に、初華は汗の引いた身体が風邪をひかないよう布団をかけてやる。 祥子は無防備に眠っていた。初華と同じ寝床にいるからか、それとも疲れ切っているからだろうか。 初華がそばにいることで安心し切ってくれてるなら嬉しいけれど。実際はたぶん後者だ。 「……さきちゃん」 指先で軽く頬を揉んでみても祥子が目を覚ます様子は無い。初華が与える刺激とそれに対する反応で完全に消耗し、意識を手放したのであれば。それはそれでとても喜ばしいことなのかもしれない。 祥子は変わってしまった。陽だまりのようだった彼女が冷たく寂しい夜の月光のようになったことはまだいい。それよりも初華が度し難いと感じるのは、祥子の変化に初華の知らない傷と悲しみが関わっているであろう点だ。 眠る祥子の頬を少しだけ強くつまむ。閉じられた瞼の上から眼球の形を確かめた。 耳の形をなぞり、唇に軽く爪を立てる。手を下へ滑らせて細い首に手をかけた。 祥子の美しい造形を損なう行為を夢想しながら決定的なことはしない。当たり前だ。法や倫理が許さないし、何より祥子に酷いことはしたくない。 それでも嫌なのだ。誰かのためにできた傷痕に ういさき 事後② 祥子が苛まれてるのを見るのは。 上書きしたい。初華が負わせた痛み以外を抱えさせたくはない。傷も悲しみもすべて初華のものにしたい。そうして何も考えられなくなればいい。それならきっと、祥子はぜんぶ忘れられるはず—— 思考がある地点に至った時。口角が上がるのを感じた。手で触れると深く裂けていて人間の笑顔とは思えない。 祥子を想っての行為。そんなのは建前だ。会えずにいた年月を余さず取り戻し、記憶と現実の齟齬を消そうとするみたいに初華は祥子を求めてる。いつかこの欲が祥子の魂を圧し潰し喰らい尽くしてしまわないか、怖くなる。 祥子が身じろぎする気配で初華は慌てて背を向けた。こんな顔、絶対祥子には見られたくない。
November 11, 2024 at 7:39 AM
y-t-r-u.bsky.social
ういさき+まな
ういさき+まな① インタビューに先駆けていくつか質問事項が共有されていた。その内容を見たまなは楽しそうだ。 「ついにういちゃんの恋バナが聞けちゃうね」 「恋バナって」 「だって今度のインタビュー、恋愛がテーマだよ？」 まなの言う通り。「好きなタイプ」「理想のデート」、そんな文言が質問に並んでいる。 「ね、先に私に答えること教えてよ」 「えー……私恋愛ってよくわからないんだけど」 「好きな子とかできたことないの？オフレコってことで、聞かせてよ」 好奇心に満ちたまなの瞳から目を逸らす。「好きな子」と言える人なら、いる。けれどそれが「恋愛」に該当するのか初華にはよくわからない。 既に決まった相手がいる人ならともかく、そうでないのなら。伝え聞くところによれば恋愛はもっとキラキラしているもののはず。けれど初華が抱いてきた気持ちは—— 「じゃあ予行演習ってことで。一つ考えてみて。これとか」 回想が中断される。まながよりかかり、甘えるように腕を抱いてきたから。 「『付き合ってる人が異性と二人で遊ぶのは許せる？』……」 頭に浮かぶのは、付き合ってはいないけど好きな——祥子の顔。異性どころか同性とだって二人きりにはなってほしくない。でもそんなわがまま ういさき+まな② を言う資格は今の初華には無くて、それはつまり付き合ってすらいないからで。 「ういちゃん？」 無遠慮に頬をつつかれる。顔を覗き込まれ、つい初華は視線をそらしていた。 「顔怖いよ」 「ごめん」 「ちなみに答えは？」 「『好きな子なら絶対誰にも取られたくないから嫌』、とか」 「好きな子いるんだ」 「違うよ」 嘘ではない。だってもう——「好き」なんて言葉ではもう生ぬるいから。
November 11, 2024 at 7:38 AM
y-t-r-u.bsky.social
やちよとちとせ 11/09
やちよとちとせ 11/09 自分のために買ったケーキと、もう一つ。向かいに置かれたケーキへ小さな蝋燭を立てる。どんなケーキが好きかわからないからやちよと同じものを。正確な年頃もよくは知らないから、蝋燭も一本だけ。 「ハッピーバースデー、あたしとちとせお姉ちゃん」 一人暮らしの家で、お祝いに返る言葉は無い。 誕生日にこっそり行われてきたやちよなりの儀式。「姉」の生まれた日を知らないから、仕方なく自分の誕生日に合わせて彼女の存在を祝福してきた。 「変な姉妹だねあたしたち。あたしぜんぜんお姉ちゃんのこと知らないや」 二十歳になる今年も行われる儀式。一人の部屋、誰に気兼ねする必要もない。 「姉離れできてないって怒る？許してよ年に一度くらい」 蝋燭を吹き消し、二つケーキを食べ、それで終わり。お酒はもう少し慣れてから、来年以降にしようと決めていた。 「……今も見ててくれてるんだよね」 板に立つやちよの、一人目のファン。声も形も無いけれど。今もやちよは、支えられている。
November 11, 2024 at 7:36 AM
y-t-r-u.bsky.social
(あの)ともさき
(あの)ともさき 千早愛音はなんとも複雑そうな表情で音楽室から出てくる祥子を見ていた。燈についてきてここにいるのだろう。祥子が立ち去った背後で、彼女が音楽室に入っていく足音が聞こえた。 つい先日、隣の教室まで響くような声をあげて廊下で喧嘩していたはずなのに。けれど今も、愛音と燈は二人でいる。 そよとの一件から、燈たちのバンドに何か不和が起きたのは想像するに容易い。しかし先日のライブはとても良かったと睦は言っていた。 そよがおかしくなったとしたらそれは紛れもなく彼女を突き放した祥子のせいで、また祥子のせいでバンドが壊れそうになって——でも燈たちはそれを乗り越えた。 燈はどうやったのだろう。縋った？怒った？泣いた？ともかく、彼女は仲間を失わなかった。あの雨の日の繰り返しにはならなかったわけだ。 ——あの日の燈は「わからない」という顔で祥子を見るばかりで、その場から動くことさえしなかった。何もかもを壊して去り行く祥子を止めようとしなかった。 嫌な音がする。強く歯を食いしばっていたせいだ。忘れろとそよに言っておきながら、祥子はまだ自分が壊したバンドの記憶に苛まれている。 どうして今燈の隣にいるのはあの軽薄そうな少女なのだろう。どうして祥子の手を取ってくれなかったのだろう。そんなことを考える資格、祥子には無いというのに。
November 11, 2024 at 7:34 AM
y-t-r-u.bsky.social
らなたき(微らなりり) 少し未来
らなたき(微らなりり) 少し未来 「……危な」 急ブレーキ気味に車が停止する。黄色信号を走り抜けるか迷った挙句、立希が安全な方をとった結果だ。 「りっきー、運転下手」 「うるさい。文句言うなら自分で運転して」 苛立った様子で立希の両手がハンドルに添えられる。片手は今まで、助手席にいる楽奈へ伸ばされていたからだ。 急停止する、と悟ったのとほぼ同時だった。慣性から前へ浮きそうになる楽奈の身体をおさえるように立希の手が伸びたのだ。 肩の辺りに触れた手のひら。想起したのは、むかし祖母をおくる凛々子の車へ一緒に乗った時のこと。立希よりは運転が丁寧な彼女だったけれど、時々は急ブレーキが必要な時もあった。 そんな時は決まって、楽奈を気遣うように凛々子は腕を伸ばした。小さい子は後ろに乗ってほしいな、と困り顔をされたものだった。 「何ニヤニヤしてんの」 「べつに」 シートベルトがあるから平気なのに。楽奈は昔ほど小さくないのに。凛々子と立希が同じ気遣いを向けるのが、なんだかおかしかった。
November 7, 2024 at 11:03 PM
y-t-r-u.bsky.social
あのとも(さき)
あのとも(さき) ひと雨降るごとに空気が冷えていく。生き物たちが死に、または冬を越すためにじっとうずくまる。燈がいる世界の外はそうして静かになってゆく。 けど人間の営みにそう大きな変化はない。少なくとも燈が生きてきた世界ではどんな季節も人間たちは賑やかだ。燈がそこにまざれないのは、なぜだろう。 「……、ともりん！」 声がして、机に突っ伏していた身体を起こす。愛音が燈の顔の前でひらひらと手を振っていた。 「よく寝てたね。窓開いてるし、風邪ひいちゃうよ」 天文部室の窓が愛音の手で閉じられる。ピアノの音をよく聴くためだっけれど、燈が居眠りしてる間に既に演奏は止んでいた。 「嫌な夢でもみてた？」 「え……」 「寂しそうっていうか、泣きそうな顔してる」 愛音は制服のポケットからカイロを取り出し、燈の手に渡す。少しぬるいけど暖かくて、燈はそれをぎゅっと握りしめた。 「冬の夢、見てた」 「ふーん？」 「そばにあった暖かいものをなくして、すごく寒くて……」 「うわー」 「ひとりぼっちで、すごく、寒い夢」 春の日、手に触れた光が冬の間も燈を照らしてくれるはずだった。けれどそうはならなくて。ずっと一人なら知らずに済んだ寒さを今年も、死ぬまでずっと、抱えるのだと思っていた。 「今はあのちゃんがいるから、平気」 「そっか。よかったよ」 失くしたもののことばかり考えていた。けれど燈を照らしてくれた彼女も、凍えてるのではないか。愛音のように彼女に手を差し伸べる人はいるのか。手が暖まるほどに、そんな考えが浮かぶ。 愛音は静かに燈の声を聞いていた。うまく話せない気持ちを受け止めてくれる。そんな人がいる、はじめての冬。
November 6, 2024 at 11:02 PM
y-t-r-u.bsky.social
ういさき
ういさき 「よしよし、初華はいい子ですわね」 「子ども扱いしてる？」 「あら。嫌だったかしら」 「違うけど……私もう小さい子じゃないのに」 初華が拗ねたようにギターを抱える。実際、彼女は祥子の記憶に強く残る姿よりずっと背が伸びた。椅子に座っててもらわないと今の祥子では頭も撫でられない。 「いい子だって思ってくれるなら、ご褒美が欲しい」 「大きい子はそんなこと言わないんじゃない？」 きんいろの髪に埋めたままの指先。くすぐるように動かしていると、初華は目を細めて祥子の手に頭をもたれさせる。 「……なら子どものままでいい」 「そういうわけにもいかないでしょう」 「なんだっていいんだ。大きくても小さくても、いい子でも悪い子でも。さきちゃんが必要としてくれるんだったら、私の形なんてどうだっていい」 「だから……私の人形にもなってくれるの？」 そうだよ、と目が語る。祥子を求め、祥子に尽くしてくれる初華にあげられる褒美とはなんなのだろうか。 「……いい子ね。初華」 「うん」 「本当に、いい子」 初華に甘えられた手で顔を上へ向かせる。薄く開いた唇をそっと、舌先でなぞる。 魂さえも委ねてくれてるような初華に報いるなら、自らを差し出すほかない。「食べてもいいよ」という無言のゆるし。手のひらへのキスが、初華の返事だった。
November 5, 2024 at 11:03 PM
y-t-r-u.bsky.social
ういまな
ういまな 「ういちゃんと二人でゆっくりするの、久しぶりな感じする」 sumimiでのMV撮影の合間。ほんの少し生まれた自由時間を指して、まなが言う。バンドで忙しくしてることに何か思うところでもあるのだろうか。浮かぶのは少しの申し訳なさと、冷めた煩わしさ。 「またすぐ戻らなきゃだけど」 「それでも楽しいよ」 そう言ってのけるまなに、太陽を見る。月明かりでさえ眩しい初華には強すぎる光。初華への微笑み方で、どうしても幼馴染と比べてしまうような。 そんな考えを打ち消そうとするみたいに初華は歩き出していた。どうせもう戻るべき時間だ。まなも少し遅れて後ろからついてくる。 「ねぇ、ういちゃん」 「うん」 「撮影終わってホテルに戻ったら、えっちしよっか」 「うん……え？」 振り返りがてら立ち止まる。急だったけれどまなはしっかり距離をとっていて、ぶつかることはなかった。 「やっとこっち見てくれた」 「えっと……」 「冗談だよ。びっくりさせたかっただけ」 夕闇に浮かぶ笑顔。よく知ってるはずのものが、急にそうでなくなるような違和感が、初華の中に浮かぶ。 「ごめんね、変なこと言って。早く現場戻ろう？」 今度はまなが先を行く。「えっち」と言ったのと同じ口で、彼女はこれからまたスタッフらに挨拶を交わす。それがなんだかとても、嫌だと思った。
November 4, 2024 at 11:04 PM
y-t-r-u.bsky.social
ともさき
ともさき① 辺り一面に霧が立ちこめる。前も後ろもわからない中で燈は歩き続けていた。道標は何もない。ただ一つ、懐かしい笑い声を除いては。 ステージ、学校、練習スタジオ、歩道橋——よく見えないが霧が一段と濃くなるたび、場所が少しずつ変化しているようだった。やがて辿り着いたのはとある橋の上。 霧に隠れた橋の向こうでは微かに線路の群れが見える。風に流される花へ手を伸ばして、そうして全てが始まった。今の燈に至る、始まりの場所。 「来てくれましたのね」 「……声、聞こえたから」 「嬉しい。私の声を覚えていてくれてるなんて」 姿は見えない。けれど誰の声か、間違えようがない。 「……この霧って」 「あなたの迷い。燈そのもの。あなたの中にある世界が晴れ渡ることは、きっと無いのでしょうね」 少女の声が燈に語りかける。優しくて暖かな。燈を導いてくれた、あの時のままの声が懐かしい。 「でもそれは私のせいでもあるの。燈の手を引いておいて、突き放してしまったから」 「何か、わけがあったんでしょう？」 「わかりませんわ。私は燈の中にしかいない。あなたの記憶が生み出した、偽物の私だから」 「そっか。それで私に優しいことを言ってくれるんだ」 声が黙り込む。冷たい霧の中で燈は目を閉じた。 確かに燈は迷っている。声の主——祥子のことで、ずっと。 ともさき② 「優しいと思うの。私を」 「優しいよ。だって何も私のせいにしない」 ここはなんだろう。何故ここにいるんだろう。問う気にはなれない。たとえ偽物でも祥子が呼びかけてくれたことの方が、大切で。 「……燈に優しくなくなった私のことを、諦めないでいてくれる。燈の方がずっと優しいですわ」 「そんなこと……」 「だから、もう少し甘えさせてくれる？」 「うん」 「歌を、ずっと歌っていてほしいの。私に聴こえるように——そうしたら、きっと」 「また祥ちゃんと話せるようになる？」 「ええ。あなたと同じ現実を生きる私と。そうしたらきっと、少しはこの霧も晴れるかもしれない」 明るい闇のような霧がいつか晴れるのか。でも歌い続けることはやめない。どこに届かなくたって、それだけで息を続ける理由になると思うから。 「歌うから。聴いていて。私の中で、ずっと」 声が寂しげに笑って、消える。一度目を閉じてまた開けると、燈の部屋。霧ひとつない、一人きりの部屋だった。
November 3, 2024 at 1:59 AM
y-t-r-u.bsky.social
らなたき+りり 10/31セリフネタ
らなたき+りり 10/31セリフネタ 「お前なぁ……」 「楽奈ちゃんたら。これも可愛いのに」 凛々子のフォローに複雑そうな立希が手作りのジャック・オー・ランタンを運んでいく。彼女が歩き去る方向を楽奈はじっと眺めてにこりとしていた。 「立希ちゃんが作ったの、気に入ったんだ」 「うん」 「意地悪言ってると嫌われちゃうよ」 「言ってない」 「立希ちゃんにはそう聞こえたんじゃないかな」 視線を斜め上にやり楽奈は考え込む顔になる。意地悪と取られるのは、彼女としても本意ではないらしい。 「おもしろいと思ったから言っただけ」 「そっか」 「他の言い方、わかんない」 「難しいよね。人と仲良くなるのって」 楽奈が凛々子を見上げた。目の前の大人が言ったことを噛み砕き、飲み込んでみようとするみたいに。 「まぁ好きな子に意地悪したくなる気持ちもわかるけど」 からかうと楽奈はふいとそっぽを向く。今よりさらに小さな頃の面影を見てにやにやしてたら、「りりちゃんきらい」と逃げられてしまった。
November 1, 2024 at 11:10 PM
y-t-r-u.bsky.social
立希と初華 ぜんぶ言いがかり
立希と初華 ぜんぶ言いがかり① 立希の髪を撫で、肩へ流れるように手の上を滑らせる。そのまま首筋へ指が触れた。 目の前の彼女。「三角初華」は大人気のアイドルで、クラスメイトで、友人の友人みたいな距離感で——ともかく、立希とは別に仲良くない。 なのになんだこれは。初華は淡く微笑み、しかし瞳は少しも笑っていなかった。 「今から何されると思う？」 「……えっと」 「このまま立希ちゃんの首を掴んで、絞めちゃうかも」 教室の床と椅子の足が擦れる音。立希が座ったままであとずさりしたから。 まさか本気でするはずはないけれど、初華の言葉が冗談だとも思えなかった。身体がうまく動かず彼女の手を振り払えない。 「しないよ」 初華が手を離して一歩離れた。触れられていたところに手を置く。そこだけ虫が這っているみたいに肌がざわざわとした。 「けど、やろうと思えばできる。苦しそうだなと思ってもやめずに続けられる。ただ、しないだけ」 立希が押し黙っていると、初華が申し訳なさそうに眉を下げる。 「……えっと。ごめん。そんなに怖がらないで」 空気が変わった。得体の知れない「何か」だったものが悪戯っぽく笑う。アイドルでクラスメイトで友人の友人——よりはもう少し親近感がある。見慣れた顔の知らない表情に立希は混乱しっぱな 立希と初華 ぜんぶ言いがかり② しだった。 「今度出させてもらうドラマの台詞」 「え？」 無人の教室。空いた机に腰掛けて初華が膝を組む。この人もこんなことするんだ、と素朴な感想が浮かんだ。 「相手役の子に少し雰囲気似てたから。勝手に練習相手になってもらっちゃった」 「なるほど……」 「どうだった？」 「怖かった」 ハッキリ言いすぎだ。が、初華はにこにことしている。 人懐っこい笑い方。古い友達同士と勘違いしそうだ。実際は少しも仲良くないはずなのに。考えていると教室の戸に人の気配がした。 「お待たせしました——もしやお邪魔でしたたか」 「ううん。少し遊んでもらってただけ」 ね？とウィンクが飛んでくる。無言の立希を興味深そうに海鈴が見ていた。
November 1, 2024 at 11:09 PM
y-t-r-u.bsky.social
ういさき+むつさき+うみ 11/1
ういさき+むつさき+うみ 11/1 初華と睦が同時に顔を上げた。スタジオの扉が開き祥子が入ってくる。遅刻だよとにゃむにからかわれる彼女を横目に、海鈴は二人を見た。 「お二人とも、豊川さんが来ると真っ先に気づきますよね」 「うん。だって足音とかするし」 「足音」 「さきちゃんの気配わかりやすいし。ね、睦ちゃん」 初華に言われ睦も頷く。足音や気配。スタジオの重い扉越しでも感じるものか？「とか」とは他に何が？気にはなるが黙っていると睦が首を傾げる。 「海鈴はわからない？」 「まぁ……」 初華と睦。祥子の幼馴染たちが共有する不思議な感覚。「犬ですか」と言いたくなるのを、海鈴はぐっと飲み込んだ。
November 1, 2024 at 11:02 PM
y-t-r-u.bsky.social
ういさき 10/31
ういさき 10/31① 「あ、それ」 SNSで見かけて何気なく再生した動画。端末の音量が大きく設定されていて、近くにいた初華が気付いて画面を覗き込んでくる。止めなかったのはそれが彼女の出演する動画だからだ。 「黒猫と、初華は狼男の仮装かしら」 「うん。sumimiのハロウィン企画で、少し前に撮ったんだ」 「二人とも似合ってますわ」 「ありがと。まなちゃんにも言っとく……」 「初華？」 「さきちゃん。トリック・オア・トリート」 思い出したように初華が言った。このままでは悪戯されてしまう。辺りを見ると、テーブルには事務所の誰かが置いていったらしい土産物の菓子がある。 「はい、どうぞ」 「あはは。悪戯失敗かぁ」 「初華。トリック・オア・トリート」 「えっ」 お返しに言ってみる。お土産は最後の一個で、他に初華は菓子の持ち合わせは無いらしい。つまり祥子は、悪戯の権利を得たことになる。 「私の負けだね」 「勝負事じゃないでしょう、ハロウィンって」 「そうだけど」 じっと祥子を見つめる初華。律儀に悪戯待ちらしい。 しかしどこかわくわくした様子の彼女に何をし ういさき 10/31② たものか特に思いつかない。少し考えて、祥子はついさっき見た動画からヒントを得る。 「こっちに来て、初華」 祥子が両手を広げると初華は素直に近づいてくる。その髪を、くしゃくしゃと撫でる。 目を細める初華は人によく懐いた犬のよう。狼から連想するかっこよさはどこにもない。 「もう。なんで嬉しそうなんですの」 これじゃ悪戯の甲斐が無い。さりげなく初華の目元に手をやり視界を塞ぐ。そうして、鼻の先にそっと唇を触れさせた。 「え、さきちゃん！？」 「お望みの悪戯よ」 「……」
October 31, 2024 at 11:03 PM
y-t-r-u.bsky.social
ういさき 子どもの頃 オペラ座の怪人パロ
ういさき 子どもの頃 オペラ座の怪人パロ まだあまり仲良くない女の子。それでも、悲しそうな顔を見たら居ても立っても居られなかった。 「大丈夫だよ、わたしがとってきてあげるから」 初華が砂浜を駆け出すのと祥子があっと声を上げるのはほぼ同時だった。初華は服のままで海へ飛び込み、風に飛ばされ遠い波間を漂っていた帽子を目指す。 「はい、これ。濡れちゃってるからかぶれないね」 「……濡れてるのはあなたもでしょ」 全身ずぶ濡れになって戻ってきた初華にしばらく祥子は目を丸くしていた。しかし帽子を受け取った彼女はおかしそうに微笑んで、一歩初華へ近づく。 祥子の顔が間近に迫る。やかて、頬に柔らかなものが触れた。 「あなたのほっぺ、しょっぱいわね」 「うん…」 祥子が、初華に、キスをした。嫌じゃないけどびっくりしたけど嬉しくて、変な感じがした。 「かっこよかった。ありがとう、初華」 海辺の風と陽射しと祥子の笑顔。何もかも眩しくて、うまく言葉が出てこなくて。初華は何度も頷くしかできなかった。
October 30, 2024 at 11:09 PM
y-t-r-u.bsky.social
うみたき(うみむつ)
うみたき(うみむつ)① 「……すみません。別にそれ、好物なわけじゃないんです」 「え」 「立希さんが好きだから買ってただけです。餌付けですよ。少しでも私に、好意を持ってもらえたらと」 パンダ印の紙パックを二つ手にした立希は気まずそうに立ち尽くしていた。結局海鈴の隣に一つ置き、それを間に挟んで立希も座る。 校庭のベンチに腰掛けた二人は無言でいた。自分の分のジュースを飲み干し、しばらく名残惜しそうに空の中身をストローで吸ってから。ようやく立希が口を開く。 「鍵を探してた、ずっと」 「鍵？」 「海鈴のそばはすごく心地よかった。自分の部屋のドアを開けっぱなしにしてても平気って感じで」 「それは光栄ですね」 「茶化すなって」 強い言葉ながら立希の語気はやわらかだった。心の内を語るのが得意じゃないくせに彼女は何かを話そうとしていた。おそらく、海鈴のために。 「海鈴はどうなんだろうって……お前何考えてるかよくわからないから。私といて何が楽しいのかもわかんなくて」 「……」 「隠してるのか、ただ見せてないだけなのか。海鈴は私のこといつも気にしてくれてたのに、私はお前のこと何もわからないって、気づいた。私にしてくれたみたいに、お前の中のドアを開けられたらって」 立希の手が紙パックの四隅を開き、潰した。空虚な乾いた音が二人の間に響いて消える。 うみたき(うみむつ)② 「そのための、鍵。結局見つからなかった」 「立希さんは誠実でしたよ。私のことを見ようとしてくれた。それだけでどれだけ……」 「あんな顔させたかったわけじゃない」 「私が臆病者で、立希さんは少し遅れただけ。巡り合わせですよ。誰が悪いわけでもない」 「……ごめん」 「こちらこそ」 冬の暮れ。とうに日は沈み、最終下校を知らせる放送が響く。部活などで時折他の生徒が近くを通るけど。声はかき消されて誰にも聞かれない。小さな二人だけの世界で、さよならに至る会話劇は続く。 「鍵が必要なわけじゃなかった。ただこの扉を蹴破って、手を引っ張ってくれる人を待っていたんです」 「会えたの。そんな奴に」 「ええ。蹴破られはしませんでしたが。初めから鍵のないドアを、そっと開いて中を覗き込んでくれた方が」 生きて交わることへの恐れをほどく。死と消滅への誘惑から引き戻す碇となる。互いにはっきりそう言ったわけじゃないけど、海鈴はとうとう、永遠へ至る道に立てた。 「海鈴のベース好きだよ。取られたなんて言う資格無いけど、あいつのバンドはたぶんずっと好きになれない。でもお前がそこにいられて、良かったって思う」 海鈴に福音をくれたのが立希じゃなかったのは、寂しいけれど。海鈴がそこにいなくても立希の旅路が幸ある場所に至ればいい。心から、そう思う。
October 29, 2024 at 11:06 PM
y-t-r-u.bsky.social
ういさき 七話後
ういさき 七話後① ゆっくり湯船へ浸かる気にはなれなかった。髪を乾かすのもそこそこに初華は祥子の様子を確かめに行く。いなくなってたらどうしよう、なんて思ったが初華がお風呂に向かった時と変わらず祥子はソファで静かに座っていた。 「さきちゃん？」 近づいてわかった。祥子は目を閉じ、寝息を立てている。 そっと隣に座る。祥子が起きる気配は無い。目元には泣き腫らした痕。ずっと会いたかったのに、電話で久しぶりに聞いた声も再会した顔も涙に濡れていた。 縋られるまま家へつれてきて、お風呂や簡単な食事で祥子を暖め、時間をかけて彼女を落ち着かせた。その効果が多少は出ているようで安心する。 寝室で寝るのを勧めたら遠慮がちに頷くばかりだった。ソファとはいえ東京の初華の家という彼女にとって慣れない場所で眠りに落ちてくれて、嬉しい。傷つき弱りきった姿に自分まで泣きそうになるような気持ちも和らいでいく。 気づけば日付も変わる時刻。祥子がすぐそばにいるのを、改めて自覚する。 泣いていた時よりは穏やかで、しかしあまりよく眠れてるとは思えない寝顔を観察する。触れようと思えば簡単に触れられる。そんな距離に祥子がいるのは本当に久しぶりのことだ。 片時も忘れたことはない大好きな幼馴染。彼女に何が起きたのか、まだ訳を聞けていない。今の彼女のことを何も知らない。 ういさき 七話後② そう思ったら手が伸びていた。髪、目元、頬を巡礼した指が、唇に触れる。 少しかさついているけどやわらかい。感触の残る指にそっと口付けた。瞬間、己の欲を自覚する。悪いことをしてそれを誰かに見られたような、嫌な冷たさが心臓を這う。 「……初華？」 「あ……ごめん、起こしちゃったかな」 触れたせいで起きたのか。だが初華の部屋着を着た祥子は欠伸を噛み殺してぼんやりとし、何も言わない。余った袖から出た手で目を擦る彼女はまだ疲れた顔をしていた。 「ベッドで寝てきなよ」 「夜遅くにお邪魔してる身よ。私はここでいいですわ」 「じゃあ、二人で行こう。ここじゃ風邪ひいちゃう」 申し訳なさそうに腰を上げた祥子はふらりとし、転ばぬよう初華が抱き止める。昔より大きくなったはずなのに、小さく、細く、軽い身体。 「……髪、乾かさないと風邪ひきますわよ」 掠れた小さな笑い声。先刻まで触れていた唇の感触が生々しく指に、口元に思い出されて。たまらなく、苦しくなった。
October 28, 2024 at 11:07 PM
y-t-r-u.bsky.social
ともさき
ともさき 破れた腹からこぼれ落ちた内臓を、抱えて歩いているような。むしろ抱えきれずに腕からこぼれたものを、ずるずると引きずっているような。あの雨の日からずっと祥子はそんな心地でいた。 死んでないだけで生きてもいない日々が終わったのは。弱い祥子が死んだのは、あの歌を聴いてしまった瞬間だった。 大切だった女の子が、大切だった歌を、歌ってのけた。新たな仲間たちに支えられる彼女の歌はやはり魅力的で、彼女が綴った言葉も相まって魂の最奥を揺らす力があって。 そばにずっとあるはずだったものが、もう手の届かない場所にあると知った。祥子が切り捨て、傷つけ、彼女との居場所を壊したから。 自ら招いた因果を受け入れられずに泣いて幼馴染に縋った後で、考えた。彼女にもう祥子は必要ない。それなら祥子も、自分の生を生きてやらなくては。 腐りかけた臓物のような、過去への未練と執着と、愛らしきもの。捨てられぬなら、と裂け目から押し込んで、傷を縫い合わせて——今の祥子は生まれた。 かろうじて人の形をしてるだけ。中身の肉がただしい位置でただしく機能してるかなんて知らない。 どうせ元々人間の出来損ないだったのだ。だから彼女の歌に救われた気がしていた。見た目さえ整っていれば十分。音楽と生きて、目的を果たしさえすれば、それで。 けれど。過去は祥子を逃してくれない。 「……暖かい。昔と同じ。祥ちゃんは、生きてる人間だよ」 捕まってしまった。祥子無しで幸せになれるはずの少女に、過去と地続きの現在に。 ほぼ同じ背丈で抱きしめられ、鼓動が重なる。祥子の心臓だけは未だまともに動いているらしい。知りたくなかった。燈にそんなこと、教えられたくなかった。
October 27, 2024 at 11:17 PM
y-t-r-u.bsky.social
ういさき 自傷
ういさき 自傷① 夏用の制服では袖に隠れていた。だから纏っているものを取り去るまで気づかずにいた。祥子の肩から上腕にかけて、みみず腫れのような傷痕がいくつもあるなんて。初華は少しも想像できずにいた。 「さきちゃん、これ……」 「知ってる？腕のここ。皮膚が薄いんですの。だから刃物で簡単に切れる」 祥子の手が傷痕を撫でる。自分自身で肌に刃物を突きつけ——想像しただけで嫌な震えが背筋に走る。なんで、と初華が尋ねる前に。自らを嘲るようにして祥子が口を開く。 「皮膚を裂く痛み。流れ出る血液。それしか、実感できるものが無かった。私は生きてるのだと、そう証明してくれるものは、何も」 「……うん」 「手首は、あまりにも指先に近いから。ピアノを弾けなくなるのは困るって、そんな理性が自分にあるのが可笑しくて——気づいたらこうなってたの。自分の血の匂いでむせそうになるなんて、もう後にも先にも無いでしょうね」 手を伸ばす。初華が傷痕に触れるのを祥子は止めなかった。 「なんで、こんなことになる前に……」 「初華に話せばよかった？」 幼馴染の微笑み。大好きなはずのそれが、直視できない。だってあまりにも痛々しい。自罰的で、なのに許してもらえるとは少しも期待してないよ ういさき 自傷② うな。挑発的にさえ思える表情で祥子は初華を見ていた。 「変わりませんわ。何も」 胸元に寄りかかってくる、記憶の中の幼馴染からはすっかり変質した何か。それでも愛おしいと、守りたいと、そう思って初華は彼女を抱きしめる。 そばにいられない間に何があったのか、まだ知らない。語りたくないならそれでもいい。今はただ、初華がここにいると、感じでくれさえすればいいと。 そう思って抱きしめるのに。形や体温は確かに感じるのに。今にも初華の腕からすり抜けていきそうなほどに、祥子の存在感は希薄だった。 「初華、そこにいる？」 「いるよ」 「そう……嬉しい」 この傷を他に誰が知っているのだろう。なぜ、初華には見せてくれたのだろう。今はまだ聞けない。
October 27, 2024 at 1:36 AM
y-t-r-u.bsky.social
ういさき 事前
ういさき 事前① 「……出るの？」 「事務所の方からよ。無視するわけにはいかないでしょう」 初華の腕から抜け出しスマホを手に取った。何か言いたげな視線が背中に刺さる。 せっかく二人でいるのに他人を優先して放置されるのは実際いい気分じゃないだろう。なるべく手短に話が済むよう、先方の声に集中する。 ベッドが軋む音。床へ降りた初華に後ろから腕を回される。いじらしくなるような無言の訴えだ。 電話に支障が出るほどじゃない。叱るのは後にしよう、そう思った瞬間。不意の刺激に祥子は声が強張りそうになってしまう。 へそより下に触れた手のひら。何か探るように、初華の手でお腹が押されていた。 お腹の上から探されてるのは、祥子のいちばん奥のようだった。初華の指に何度も揺らされ、掻き回されてきた。彼女以外誰にも許してない、知らない、熱源——鈍い刺激でも肌を重ねた記憶が強制的に呼び覚まされる。 幸いちょっとした確認で電話はすぐに終わった。声も呼吸も、誤魔化せたように思う。 「終わった？」 「……あなた、なんてことを」 「お腹触ってただけだよ、私。何か変だった？」 よそゆきの、たぶんアイドルの現場で人と話す時の声で。初華は悪びれずに言う。怒ろうと思っていたのに、我慢する必要が無くなって力が抜け、祥子は背後の初華に身を委ねた。 ういさき 事前② 「ねえ。拗ねてる？」 「そんなことないけど」 「私が悪かったですわ。でも今回みたいなのはもうやめて」 「うん」 「初華の気の済むまでしていいから。顔、見せてくれる？」 二人でベッドに向かう。初華はずっとくっついたままで、そのまま二人で倒れ込んでしまう。 「私、ちょっと嬉しかったよ」 「何がですの？」 「さきちゃんがちゃんと覚えててくれたこと。私の指がどこまで届くのか、触られてどんな感じがしたか」 「……そう」 「だから、今はしないけど。気の済むまでとか……あまり簡単に言わない方がいいよ」 「え？」 「悪戯じゃ済まなくなっちゃう。泣くことになるのは、たぶんさきちゃんだから」 耳の近くで響く声。首筋にかかる息。身体を抱く腕。見えない顔。それらを急に意識する。これから初華にされること、ようやく慣れたはずの行為が急に恐ろしくなる。 「ごめんね、電話の邪魔して」 「……いえ」 手を離して起き上がった初華は声も表情もいつも通り。それがかえって、不気味だった。
October 25, 2024 at 9:55 PM
y-t-r-u.bsky.social
うい(さき)とむつ(さき)
うい(さき)とむつ(さき) 「……睦ちゃんはずっとさきちゃんのそばにいた！」 「でも、それだけ」 ぐつぐつと煮立つ感情のまま出た声より、睦の声の方がずっと力強かった。気圧され言葉を失う初華に向く瞳。凪が去り、嵐が訪れようとしているみたいに揺らいでいる。 「祥のそばにいた。変わっていく祥をずっと見てた」 「……何もしなかったの？ずっと近くにいたのに」 「世界が祥に牙を剥いて、力無く翻弄されて、大切な人たちも居場所も、手放さなきゃ祥は立ちいかなかった。祥でさえ何もできなかったのに。私に何ができたと思う？」 静かだ。なのに重い声。抱えきれなくなって落としていくように訥々と言葉は続く。 「隣で苦しんでるのに救うこともできない。でも初華は一緒にいなくて済んだから。今でも祥に夢を見ていられる」 「夢……」 「幸せな夢はおしまい。全部壊れて無くなった。とっくに気付いていたでしょう？」 「……私は、壊れていくさきちゃんのことだって欲しかった。だからやっぱり、羨ましいよ」 平行線。同じ人を想っているはずなのに。二人の想い方はまるで違う。 「……初華も、壊れてる」 「さきちゃんと会えた日にとっくにね。睦ちゃんは違う？さきちゃんを識る前の自分がどんなだったか、思い出せる？」 睦の首が縦に動く。首肯したのか、話し疲れて俯いたのか。初華にはわからない。
October 24, 2024 at 11:04 PM