床を掃いていたアダムは手を止めて、エンジェルを見た。自身の不幸さを嘆くなんて。神から愛された原初の人間であったアダムが自己憐憫に浸るなんてことがある訳がない。
「お、やっとなんか、ぽい反応じゃん」
「人であった時も天使であった時も幸せだったさ。堕天して死ぬまでなんて瞬きの間、瑣末なことだ」
「……んー?なんか……?適当言って、誤魔化そうとしてない?」
「誤魔化してなんかない。私が、私を可哀想だなんて思うことはないってことだ。これから何があろうとな。惨めに自己憐憫に溺れる様が見たかったなら、他を当たれ。地獄なんだからクソほどいるだろ」
床を掃いていたアダムは手を止めて、エンジェルを見た。自身の不幸さを嘆くなんて。神から愛された原初の人間であったアダムが自己憐憫に浸るなんてことがある訳がない。
「お、やっとなんか、ぽい反応じゃん」
「人であった時も天使であった時も幸せだったさ。堕天して死ぬまでなんて瞬きの間、瑣末なことだ」
「……んー?なんか……?適当言って、誤魔化そうとしてない?」
「誤魔化してなんかない。私が、私を可哀想だなんて思うことはないってことだ。これから何があろうとな。惨めに自己憐憫に溺れる様が見たかったなら、他を当たれ。地獄なんだからクソほどいるだろ」
苦手なことは苦手なままかぁ〜〜
苦手なことは苦手なままかぁ〜〜
「チャーリーにチクるってさ。……言っててそれ情けなくならない?」
「ならないな〜!!使えるモンは何だって私は使う。……………つか、ラジオデーモン。お前、さっきの私まで一纏めにしてないだろうな?」
「素晴らしい!!辞書はもういらないようですね?」
「チャーリーにチクるってさ。……言っててそれ情けなくならない?」
「ならないな〜!!使えるモンは何だって私は使う。……………つか、ラジオデーモン。お前、さっきの私まで一纏めにしてないだろうな?」
「素晴らしい!!辞書はもういらないようですね?」
「めちゃくちゃボコボコにされてたじゃん」
「いつのこと言ってる!?こんなちょっとしたおしゃべり程度で毎回殴られてて堪まるか!??」
「ちょっと小突いただけで喚くな!そのちょっとしたおしゃべりが、上手くできるように……もう一発いっとくか?」
「ハハっ遠慮する。…………バーテン野郎っ!!調子に乗るなよ!??あんまり私をイジメるとお嬢ちゃんに言いつけるからな!!」
「まぁ陛下は、……塵芥(じんかい)なんて一切気にもされないくらい温厚な方ですからね」
「めちゃくちゃボコボコにされてたじゃん」
「いつのこと言ってる!?こんなちょっとしたおしゃべり程度で毎回殴られてて堪まるか!??」
「ちょっと小突いただけで喚くな!そのちょっとしたおしゃべりが、上手くできるように……もう一発いっとくか?」
「ハハっ遠慮する。…………バーテン野郎っ!!調子に乗るなよ!??あんまり私をイジメるとお嬢ちゃんに言いつけるからな!!」
「まぁ陛下は、……塵芥(じんかい)なんて一切気にもされないくらい温厚な方ですからね」
「オムレツでもいいが、……もう少し手の込んだものの方が作り甲斐があるものがいいだろ」
「…………て、言っても?ここにあるのは小麦粉、ベーキングパウダー、砂糖、はちみつ、そして……卵。まぁ、見事に食材はパンケーキの材料しかない訳だが?」
「そんなことない米粉もあるし!ベーコンも冷蔵庫にはある」
「ベーコンは、私がパンケーキ食うときにいるんだよ……」
「というか、作る過程を楽しみたくて料理するんじゃなくて、食べたいもん食うためにするんだろ。順序が逆なんだよ」
「オムレツでもいいが、……もう少し手の込んだものの方が作り甲斐があるものがいいだろ」
「…………て、言っても?ここにあるのは小麦粉、ベーキングパウダー、砂糖、はちみつ、そして……卵。まぁ、見事に食材はパンケーキの材料しかない訳だが?」
「そんなことない米粉もあるし!ベーコンも冷蔵庫にはある」
「ベーコンは、私がパンケーキ食うときにいるんだよ……」
「というか、作る過程を楽しみたくて料理するんじゃなくて、食べたいもん食うためにするんだろ。順序が逆なんだよ」
「余計なことするな……自分でできる」
「はは!こんなの、意地を張るところじゃないだろ!」
ルシファーはアダムの意固地を笑い飛ばすと、背後に回って、大きな手からするりと紐を奪う。形の良い蝶々結びを作ってやる。アダムは少し眉間に皺を寄せたが、何も言わなかった。
「さて、今日は何を作る?……パンケーキ、以外で、だが」
アダムに向き直りパンケーキ以外と口にしながら、手に小麦粉と卵を持ってしまっていて苦笑するしかない。ついルシファーの身体がパンケーキを作ろうとしてしまう。ゆっくりとキッチンにその二つを置いた。その卵の方をアダムが手に取る。
「余計なことするな……自分でできる」
「はは!こんなの、意地を張るところじゃないだろ!」
ルシファーはアダムの意固地を笑い飛ばすと、背後に回って、大きな手からするりと紐を奪う。形の良い蝶々結びを作ってやる。アダムは少し眉間に皺を寄せたが、何も言わなかった。
「さて、今日は何を作る?……パンケーキ、以外で、だが」
アダムに向き直りパンケーキ以外と口にしながら、手に小麦粉と卵を持ってしまっていて苦笑するしかない。ついルシファーの身体がパンケーキを作ろうとしてしまう。ゆっくりとキッチンにその二つを置いた。その卵の方をアダムが手に取る。
人の原罪を赦さずそれでも主が、アダムを天国に迎え入れたのは、やっぱり人間がお気に入りだからなんだろう。
そんな始まりの男は、渋々といった様子でエプロンに袖を通し始めたが、着けるのに少し手間取っていた。背中の後ろで結ぶやり方が分からないらしい。頭の硬い老人のようなことを口にしていた癖に、子供のように困っていて、ちょっと笑ってしまう。
人の原罪を赦さずそれでも主が、アダムを天国に迎え入れたのは、やっぱり人間がお気に入りだからなんだろう。
そんな始まりの男は、渋々といった様子でエプロンに袖を通し始めたが、着けるのに少し手間取っていた。背中の後ろで結ぶやり方が分からないらしい。頭の硬い老人のようなことを口にしていた癖に、子供のように困っていて、ちょっと笑ってしまう。
「だから、食べる前にいつも祈るんだ。生きる糧を頂いたことに感謝するなんて当たり前だ。お父様のおかげで今日は餓死を免れたってな。……食事の度に祈れなんて、わざわざ言われなかったさ」
「随分と、真面目な話だ」
ルシファーはアダムの話に耳を傾け、あえて軽く返しながら、キッチンの棚から小麦粉の袋を取り出した。
「だから、食べる前にいつも祈るんだ。生きる糧を頂いたことに感謝するなんて当たり前だ。お父様のおかげで今日は餓死を免れたってな。……食事の度に祈れなんて、わざわざ言われなかったさ」
「随分と、真面目な話だ」
ルシファーはアダムの話に耳を傾け、あえて軽く返しながら、キッチンの棚から小麦粉の袋を取り出した。
アダムはエプロンを手にしたまま、しばらく黙っていた。何か言葉を続けようとしているのがわかって、キッチに必要そうな器具を並べながら、口を開くのを待ってやることにする。
「……感謝を忘れるってのは、料理をしないと、って意味じゃない。食べ物があることを意識しなくなるんだよ」
ようやく口を開いたアダムの声は、少しだけ遠くを、キッチンの窓からみえる空を見た。
見たかったの色は紺碧だったのかもしれないが、地獄には赤黒い空が続くばかりだ。どうやら、ただの天使らしい答えでもないらしい。
アダムはエプロンを手にしたまま、しばらく黙っていた。何か言葉を続けようとしているのがわかって、キッチに必要そうな器具を並べながら、口を開くのを待ってやることにする。
「……感謝を忘れるってのは、料理をしないと、って意味じゃない。食べ物があることを意識しなくなるんだよ」
ようやく口を開いたアダムの声は、少しだけ遠くを、キッチンの窓からみえる空を見た。
見たかったの色は紺碧だったのかもしれないが、地獄には赤黒い空が続くばかりだ。どうやら、ただの天使らしい答えでもないらしい。
意地の悪い顔をしてルシファーが笑って、ぱちんと指を弾くと、プラスチックでできた明らかに女児用のデザインの包丁が本当にキッチンに現れて、趣味の悪さにアダムは舌打ちをした。
「やめろ!しないなんて言ってないだろ?動物の解体からなんてもう、めんどくさ過ぎてやらないが。食事の用意はたまにやらないと、忘れるからな」
「忘れるってレシピをか?まぁ、普段からやってないとそうだろうな」
「は?感謝をだろ」
意地の悪い顔をしてルシファーが笑って、ぱちんと指を弾くと、プラスチックでできた明らかに女児用のデザインの包丁が本当にキッチンに現れて、趣味の悪さにアダムは舌打ちをした。
「やめろ!しないなんて言ってないだろ?動物の解体からなんてもう、めんどくさ過ぎてやらないが。食事の用意はたまにやらないと、忘れるからな」
「忘れるってレシピをか?まぁ、普段からやってないとそうだろうな」
「は?感謝をだろ」
ルシファーの城のだだっ広いキッチンに、やる気に満ち溢れたルシファーの声が響いた。シャツの袖を捲り上げながらそう言って、ルシファーはエプロンをアダムに手渡す。所在なさげにそれを受け取り、アダムは顔を顰める。
「それ、……地獄に落ちた罪人の言葉だぞ」
「細かいことは良い!!お前もパンケーキに飽きてきたところだろ?それともあれか?斧は振れても包丁は握れないか?」
「まぁ……料理なんてやらなくても食べ物なんていくらでも手にはいるからな、地獄でどうかなんて知らんが」
ルシファーの城のだだっ広いキッチンに、やる気に満ち溢れたルシファーの声が響いた。シャツの袖を捲り上げながらそう言って、ルシファーはエプロンをアダムに手渡す。所在なさげにそれを受け取り、アダムは顔を顰める。
「それ、……地獄に落ちた罪人の言葉だぞ」
「細かいことは良い!!お前もパンケーキに飽きてきたところだろ?それともあれか?斧は振れても包丁は握れないか?」
「まぁ……料理なんてやらなくても食べ物なんていくらでも手にはいるからな、地獄でどうかなんて知らんが」
「ならないな〜!!使えるモンは何だって私は使う。……………つか、ラジオデーモン。お前、さっきの私まで一纏めにしてないだろうな?」
「素晴らしい!!辞書はもういらないようですね?」
「ならないな〜!!使えるモンは何だって私は使う。……………つか、ラジオデーモン。お前、さっきの私まで一纏めにしてないだろうな?」
「素晴らしい!!辞書はもういらないようですね?」
「なんだよ?べつに皮肉じゃないぞ」
「………………えぇ、?……どうも?アリガトウゴザイマス??」
「ほら、皮肉のない褒め言葉って、地獄の住人って慣れてないんだよ」
「ふわふわのねこちゃんも私にとっては褒め言葉なんだが?」
「おい!?その酒返せ!!!今度言ったら叩き出すっつったよなぁ?」
「まぁ、そんなに怒るなよねこちゃ……いっだっっ!??」
「気をつけてくださいね、ハスクは私とは違って普通に手が出るタイプですよ。……相手は選びますが」
「なんだよ?べつに皮肉じゃないぞ」
「………………えぇ、?……どうも?アリガトウゴザイマス??」
「ほら、皮肉のない褒め言葉って、地獄の住人って慣れてないんだよ」
「ふわふわのねこちゃんも私にとっては褒め言葉なんだが?」
「おい!?その酒返せ!!!今度言ったら叩き出すっつったよなぁ?」
「まぁ、そんなに怒るなよねこちゃ……いっだっっ!??」
「気をつけてくださいね、ハスクは私とは違って普通に手が出るタイプですよ。……相手は選びますが」
「それに、罪人の癖に選ぶスウィングやブルースの選曲のセンスは悪くない。この前聴いた12-Bar Bluesじゃない曲、逆に新鮮だった。あんなのどこで見つけてくるんだ?」
「…………」
ラジオノイズのような耳障りな甲高い音が、アラスターから聞こえたあと本人はというと、時間が止まったように固まった。
「それに、罪人の癖に選ぶスウィングやブルースの選曲のセンスは悪くない。この前聴いた12-Bar Bluesじゃない曲、逆に新鮮だった。あんなのどこで見つけてくるんだ?」
「…………」
ラジオノイズのような耳障りな甲高い音が、アラスターから聞こえたあと本人はというと、時間が止まったように固まった。
「バーテン祝酒だ!いい酒くれ!!」
「お、いいな。……酒を奢ってやる」
「……アラスターが言い負かされちゃったじゃん」
「なんだか勝手に、勘違いして喜び出しただけだけでしょう?……下品な舌を、引っこ抜いてやりたいですね、全く。食欲も沸きませんよ」
「論点で負けてる時点で私に、口先だけで勝てる筈ないだろうが?私はいつだって正しいんだからな!!」
「…………はぁ、長々とよく話せますね?私の放送のファンより貴方のほうが余程、ラッパーなのでは?そのラッパーとやらがなんなのか……いまいち分かりませんけど」
「バーテン祝酒だ!いい酒くれ!!」
「お、いいな。……酒を奢ってやる」
「……アラスターが言い負かされちゃったじゃん」
「なんだか勝手に、勘違いして喜び出しただけだけでしょう?……下品な舌を、引っこ抜いてやりたいですね、全く。食欲も沸きませんよ」
「論点で負けてる時点で私に、口先だけで勝てる筈ないだろうが?私はいつだって正しいんだからな!!」
「…………はぁ、長々とよく話せますね?私の放送のファンより貴方のほうが余程、ラッパーなのでは?そのラッパーとやらがなんなのか……いまいち分かりませんけど」