地平線からゆっくりと漏れ出る紅。
「やっとですね……」
そっと細められた瞳に浮かぶ涙がオレンジ色に輝いている。口に含んだら、きっと甘い味がする。
不意に風が吹いて菊がきゅっと瞼を閉じた。ころりと落ちた粒がマフラーに吸い込まれるのを見て、なんだか勿体無いなと思ったんだ。
地平線からゆっくりと漏れ出る紅。
「やっとですね……」
そっと細められた瞳に浮かぶ涙がオレンジ色に輝いている。口に含んだら、きっと甘い味がする。
不意に風が吹いて菊がきゅっと瞼を閉じた。ころりと落ちた粒がマフラーに吸い込まれるのを見て、なんだか勿体無いなと思ったんだ。
並んで歩くと少しリズムの違う足音が響く。それが案外好きだった。
突然アルフレッドの指が袖口を摘む。
握らない。それでも、意識してしまう距離。
「人に見られますよ」
「見られたら離すんだぞ」
言葉とは裏腹に、それは触れたまま。ここで私から小指を絡めたら、彼はどうするのでしょう。
並んで歩くと少しリズムの違う足音が響く。それが案外好きだった。
突然アルフレッドの指が袖口を摘む。
握らない。それでも、意識してしまう距離。
「人に見られますよ」
「見られたら離すんだぞ」
言葉とは裏腹に、それは触れたまま。ここで私から小指を絡めたら、彼はどうするのでしょう。
すごく怖い夢を見た。
だって菊が俺のことをすごい目で睨んでた。そして言ったんだ。「貴方なんて嫌いです」
俺は何も言えなかった。ただ口をぽかんと開けて突っ立ってて。
君は背を向けた。
バクバク鳴る心臓を抑えて横を見る。穏やかに眠る頬に指を滑らせた。
「嫌わないで」
お願いだ。
すごく怖い夢を見た。
だって菊が俺のことをすごい目で睨んでた。そして言ったんだ。「貴方なんて嫌いです」
俺は何も言えなかった。ただ口をぽかんと開けて突っ立ってて。
君は背を向けた。
バクバク鳴る心臓を抑えて横を見る。穏やかに眠る頬に指を滑らせた。
「嫌わないで」
お願いだ。
「まだ恋はしません」
いつだったか、菊はそう言っていた。それがずっと頭に残ってる。
なんの話をしてたのかはもう覚えてないんだけど、そのときの菊の柔らかい笑顔は忘れられない。
まだ、ってなんだろう。始めようと思えばできるってこと?その相手がいるってこと?ねぇ……。俺じゃだめ?
「まだ恋はしません」
いつだったか、菊はそう言っていた。それがずっと頭に残ってる。
なんの話をしてたのかはもう覚えてないんだけど、そのときの菊の柔らかい笑顔は忘れられない。
まだ、ってなんだろう。始めようと思えばできるってこと?その相手がいるってこと?ねぇ……。俺じゃだめ?
「うーー!寒いんだぞ!」
拗ねたような声がして、皿を片づけていた手を止めて玄関に向かう。自然と微笑んでいた。
「いらっしゃい」
「菊!」
パッと明るくなる顔がくすぐったい。長い腕にぎゅうぎゅう抱き締められる。
「あったかーい!」
今夜は鍋ですかね。冷蔵庫の中身を思い浮かべた。
「うーー!寒いんだぞ!」
拗ねたような声がして、皿を片づけていた手を止めて玄関に向かう。自然と微笑んでいた。
「いらっしゃい」
「菊!」
パッと明るくなる顔がくすぐったい。長い腕にぎゅうぎゅう抱き締められる。
「あったかーい!」
今夜は鍋ですかね。冷蔵庫の中身を思い浮かべた。
ふと温もりをおでこに感じた。一瞬だったのに不思議とすごく心地が良かったから、もう一度を求めて手を伸ばした。何かが触れて、焦ったような声がした。グイッと引っ張ると急に重みを胸元に感じた。
「んー?」
うっすら目を開けると頬を俺に掴まれた菊が赤くなってこっちを見てたんだ。
ふと温もりをおでこに感じた。一瞬だったのに不思議とすごく心地が良かったから、もう一度を求めて手を伸ばした。何かが触れて、焦ったような声がした。グイッと引っ張ると急に重みを胸元に感じた。
「んー?」
うっすら目を開けると頬を俺に掴まれた菊が赤くなってこっちを見てたんだ。
「火星に行ったら……ですか」
「うん!何したい?」
天体望遠鏡を覗きながら一瞬だけ視線を振り向けた彼は、どこか凪いだ顔をしていた。
「そうですね。普通に地質調査とか」
「えー!!君、夢がなさすぎるんだぞ!」
唇を尖らせる。子どものようだ。
「そういう貴方は?」
「そりゃもちろん!探検さ!」
ニッコリと笑うだけで、周囲がパッと明るくなる。星々の煌めきなんか霞むほど。
「君と一緒にね」
そして甘やかに細められた視線。緩んだ口元は隠さなかった。
「光栄ですね」
「何処だって君と一緒なら楽しいんだぞ」
ああ、貴方の瞳に映る場所なら何処へでも。
「火星に行ったら……ですか」
「うん!何したい?」
天体望遠鏡を覗きながら一瞬だけ視線を振り向けた彼は、どこか凪いだ顔をしていた。
「そうですね。普通に地質調査とか」
「えー!!君、夢がなさすぎるんだぞ!」
唇を尖らせる。子どものようだ。
「そういう貴方は?」
「そりゃもちろん!探検さ!」
ニッコリと笑うだけで、周囲がパッと明るくなる。星々の煌めきなんか霞むほど。
「君と一緒にね」
そして甘やかに細められた視線。緩んだ口元は隠さなかった。
「光栄ですね」
「何処だって君と一緒なら楽しいんだぞ」
ああ、貴方の瞳に映る場所なら何処へでも。
「たまには君からキスして?」
悪戯っぽく揺れる瞳に吸い寄せられて、詰まった言葉は呼吸を止めてしまう。あと少しのところで停滞する彼の顔に、自然と顔に熱が集った。
「ね?」
ああ、そんなに可愛らしく乞われては堪らない。
「目、閉じてください…」
「嫌だよ」
唇が触れるまであと──。
「たまには君からキスして?」
悪戯っぽく揺れる瞳に吸い寄せられて、詰まった言葉は呼吸を止めてしまう。あと少しのところで停滞する彼の顔に、自然と顔に熱が集った。
「ね?」
ああ、そんなに可愛らしく乞われては堪らない。
「目、閉じてください…」
「嫌だよ」
唇が触れるまであと──。
「おはよう」
目覚めにニコニコと上機嫌な顔。居た堪れなくて、掛け布団の中に避難する。さながら鎖国だ。
「カイコクシテクダサーイ!」
バッと剥ぎ取られ、その暖かな体が抱きついてきた。裸の胸板に顔が赤くなる。昨日本当に私たちは……。
ああ恥ずかしい!なのに、舞い上がるほど幸せだ。
「おはよう」
目覚めにニコニコと上機嫌な顔。居た堪れなくて、掛け布団の中に避難する。さながら鎖国だ。
「カイコクシテクダサーイ!」
バッと剥ぎ取られ、その暖かな体が抱きついてきた。裸の胸板に顔が赤くなる。昨日本当に私たちは……。
ああ恥ずかしい!なのに、舞い上がるほど幸せだ。
「お天道様が見てますから」
菊はたまにそう言う。それを言われたからどうってことないけど、その時の菊はなんだか神聖に見えるんだ。だからつい手を伸ばしてしまう。
「ねぇ菊。ここにいてよ」
「……いますよ?」
訳がわからないって顔だね。でもさ、俺はお天道様なんかより君がいいな。
「お天道様が見てますから」
菊はたまにそう言う。それを言われたからどうってことないけど、その時の菊はなんだか神聖に見えるんだ。だからつい手を伸ばしてしまう。
「ねぇ菊。ここにいてよ」
「……いますよ?」
訳がわからないって顔だね。でもさ、俺はお天道様なんかより君がいいな。
「アルフレッドさん」
その声は清流の中から届いた。もっと正確に言えば、そう聞こえた。
「なに?」
「呼んでみただけですよ」
その声は多分な幸福を含んでいて、なんだかくすぐったい。その音色で奏でるのが俺の名前なんて、もっとくすぐったい。
「ねぇ菊」
だからね、今度は俺が呼ぶんだ。
「アルフレッドさん」
その声は清流の中から届いた。もっと正確に言えば、そう聞こえた。
「なに?」
「呼んでみただけですよ」
その声は多分な幸福を含んでいて、なんだかくすぐったい。その音色で奏でるのが俺の名前なんて、もっとくすぐったい。
「ねぇ菊」
だからね、今度は俺が呼ぶんだ。