医療関係者なら必ず遭遇する問題を起こす患者・モンスターペイシェント。奴らの存在が医療従事者から寛容さとやる気を奪い、医療の現場は疲弊している。こと、治療の全てが外科処置である歯科においては深刻で、歯科医のみならずスタッフまでもが歯科医療の現場に背を向けつつある。

５０㎞以上も離れた町、Ｘ市から投函された2通のイヤガラセ手紙。筆跡は間違いなくあの野郎だった。5年も前から憎しみの炎を燃やしていたのか、それとも記憶がフラッシュバックして一方的な怒りに火がついたのか…… 　直接クレームをつけてくるならまだ理解できる（いや、できやしないが）のだが、とにかく異常人格であることは間違いなく、それはハナから──飛び込みでやって来た時からわかっていたことだった。 　前回の...

守られるべき弱者は患者ではなく、医療従事者なのかもしれない 　ちょっと規模が大きい病院には制服姿の警備員や、顔面威圧係と自嘲する警察ＯＢが常駐しているのは今や常識となりつつある。それだけ患者トラブルが多い証左なのだが、零細経営の個人開業医では、いざという時のために体制を整えるのは不可能に近い。それも、殆どが女性職員で構成され、不可逆的処置を伴う歯科診療所ならなお悩ましい問題となる。 　相互にかか...

歯医者を辞めたい。 　最初にそう願ったのは、ライセンスを取って二年目の夏だった。そのように思い至るまでには、様々な要因が重なっていたのだが、決定的だったのが医療事故だった。今にして思えば、防ぐことは容易だったし、当時の自分を振り返って、 なんと愚かな！ としか思えない。しかし、当時は必死だったし、それがベストの選択で、その結末が不幸であったわけであるが、どう転んでも他に帰着点はなかったように思うし...