サカナ
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サカナ
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二次創作｜成人済（20↑）｜DOD｜ニーア｜ヒプマイ（銃二）｜マッ🍄💪（オタワス⌛🕶/mdl兄弟）｜相手完全固定｜連絡先：https://ssl.form-mailer.jp/fms/1cec00bd14471
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これ（引用元）が、こうなるので本当にデザインするひとってすごい…と感動してる。すごい。めっちゃテンションあがる。すごい。
デザイン：八月さま（ 8gatsu-design.tokyo ）
同人誌の表紙で「愛とか恋とか家族とか」のタイトルが中央にあり、周囲に魔法の杖や本などが配置されている。
November 25, 2025 at 11:29 AM
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これは先月の出張諸々の写真
ヒプムビ入場者特典「フリングポッセ」 東京駅 ホテルのロビー
November 14, 2025 at 11:09 AM
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これを1ヶ月ちょいで見直しか。締切ギリギリかな、どうだろ
Wordの「文字カウント」画面。71ページ、69,053文字と表示されている。
November 9, 2025 at 10:41 AM
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愛とか／オタワス（3/3）終
「そうだな、それがいい。そうしてみるか」 「え？　なに？」 「お前が言った、私が重しになる話だ。つまり私が恋人になればいいと。いい提案だ。試す価値がある」 「は？　マジで言ってんのか？　別にオレのこと好きとかじゃねえだろ」 「好きだが？　好意を抱いていない相手に家の合鍵を渡すほど不用心でも、こころが広いわけでもない」 「えあ？」 　何を当然のことを言っていると息を吐けば、裏返った声で返されて眉を寄せる。 　さんざん今まで我が家で傍若無人に振舞って許されておいて好意を抱かれていないなんて、いささかワースの意識には問題があるのではないだろうか。いくら弟でも好意的に思っていない相手を家に招き入れるほど、まして合鍵を渡して好きなように出入りさせるほど聖人君子ではない。 　向けられている好意にあまりにも無頓着で鈍感なことに呆れてしまうが、今まで言葉にして「好き」だの「好意を抱いている」と伝えたことはなかったと思い至る。反省する部分もあるかと内省をしているあいだも、ワースは混乱からか目を白黒させている。面映ゆいほどに変わる表情に、ついからかうように話しかけてしまう。 「今は恋愛の意味はないが、試してみなければわからないのだろう？」 　試してみろと言ったのはワースだと煽れば、ひくりとワースの唇が震えた。 　本気なのかと問いたげな顔。どうすれば逃げられるかと迷う視線。素直に浮かぶ表情を読み取って、次の手を打つ。 「まずは恋人の真似事からでもいいだろう。何かしたいことはあるか？　一般的にはデートをするようだが、お前はどうしたい？　どこか行きたいところはあるか？」 　矢継ぎ早に質問を投げかける。逃げることを考えているのなら逃げられる前に別の道を示して追いつめるまでだ。混乱の中で考える余裕がないのか、目を泳がせながらワースがしどろもどろに言葉を絞り出す。 「デートなら、どっか行くとか、買い物とかじゃねえの？」 「なら次の休みに行こう。それでいいな」 「あ、はい？」 　語尾が上がって疑問形にはなっているが言質は取れた。どこに行くとも決まってもいないが「どこかに行く」ことは決定したから、ひとまずはこれでいい。 　ワースは瞬きを何度かした後で、とんでもない約束をしてしまったとばかり口元を手で覆い小さく「マジで？」と繰り返し、肩を震わせている。 　あまりにも怯えた様子に多少かわいそうに思うが、この約束自体も「重し」になるのであれば、それはそれでいいだろうと飲み込んでしまう。 「夕食は食べていくか？」 「あ、はい。食べます」 「そうか。なら準備してくる」 　ソファーから立ち上がってワースを見下ろせば、まだ理解が及んでいない顔。その様子がおかしくてかすかに笑う。 「何か食べたいものはあるか？」 「イヤ、ナンデモイイデス」 　ぎこちない喋り方で、こちらを意識してたどたどしく返される。好き勝手に今まで振舞ってきた弟としてのワースでは見られなかった姿。これまでに見られなかった姿も見られる特別な関係になるのだと思えば、恋人の選択肢はとてもいいもののように思えた。
November 3, 2025 at 10:48 AM
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愛とか／オタワス（2/3）
　お前の拠りどころになる――言いかけて口を噤む。正しくない気がして。どう伝えたのもかと迷った末に、日中の話を簡単に説明する。 「ライオが、私は神覚者を辞めればふとした瞬間に消えそうだと。だから重しになるようなひとがいればいいと」 「そうする予定があるのかよ」 「ないが、そう見えると言われた」 「ふーん」 　淡々と返せば、考えているのかワースが手に持ったペンを器用に回している。動くそれを目で追っているあいだ、沈黙が流れる。 　てっきり笑い飛ばされるかと思ったのに「予定があるのか」と質問をされた。つまりワースもライオと同じように、消えそうように見えているのだろうか。心外に感じるがワースに対して自分が感じているのも事実で、誤魔化すようにメガネの位置を直す。 「なるほどな。それで身を固めるで結婚ってことか」 　考えがまとまったのか、納得したと呟いたワースがペンを置き、こちらに向かい合うようにして背を正す。 「誰か繋ぎとめてくれるひとがいれば、簡単に消えることも、いなくなることもできないからってことをライオさんは言いたいんだろうな」 「そうなのか？」 「たぶん、そうだろ。重しっつーか、思い付きとか衝動とか、突発的なことを仕出かしそうになったときに思い留まらせるようなひとがいて欲しいってことじゃねえのか？　いろんなひとがいるだろうけど、わかりやすいのが結婚だったんじゃねえ？」 「なるほど。結婚は相手を縛る契約でもあるからな」 「言い方ァ……まあ、そう違いはねえんだろうけどさ」 　ワースの噛み砕いた説明に、なるほどと納得する。ライオは既婚者で、それに付随するさまざまな事柄を実体験している。もしかするとライオ自身、何か衝動的なことを起こそうとして、それでも妻と子どものことを思い出して踏みとどまったことがあるのかもしれない。ライオは性格的に「ふいに消える」とは縁はなさそうだが今までに思うところのひとつやふたつ、当然あっただろう。結婚生活を「いいもの」だと思っているから勧める、そう単純なものだけではなく、そんな経験も含まれるのかもしれない。頷き、咀嚼していると呆れたような目でワースがこちらを見てくる。 「そんな訳だから、テメェがライオさんを安心させたいっつーなら頑張ってみればいいんじゃねえの？」 「そういうわけではないが」 「ま、やってみねえとわかんねえし、これからゆっくり考えてもいいだろ。試してみたら意外といけるかもしれねえし」 　散々、愛だの恋だのがわからない。できるわけがないと豪語した口が不思議なことを吐き出す。 　確かに、今まで興味もなかったから恋愛は未経験だ。積極的にかかわろうとしたこともない。ただ、やってみたことがないからといって、できないわけではない。やってみればいいと言うワースの意見も一理あるが、すこし考えるだけで「無理だ」と判断できる。 　恋愛、恋や愛。世間一般で尊いとされているもの。知識として「いいものだろう」と頭の中にも入っている。ライオの幸せそうな姿を見て感じるところがないわけでもない。その一方で、自分のこととなると欠片も想像できない。だから「できない」と試してもいないのに最初から判断をしている。間違いなく無理な自信がある。 　では、ワースはどうなのだろうと目の前の弟を見る。ワース自身も「できるわけがない」と言った。それは自分と同じように最初からできないなのか、体験をした上で無理だったのか。どちらだろうかと気になった。 「お前はどうなんだ？」 「オレェ？」 「そうだ。私のことよりも、お前だ」 「なんで？」 　ぱちりと瞬き、わずかにワースが目を泳がせる。驚きと若干の後ろめたさを隠すように。その仕草に、何故だか不快感を覚えてしまう。 「お前は、そういった予定はないのか」 「ねえよ。そんなの」 「予定はなくとも、今までに相手はいなかったのか？」 「ンだよ。コイバナでもしてえの？」 「そうではない。……いや、そうなのか？」 　煩わしそうに口を曲げられて、踏み込みすぎたかと軽く咳ばらいをして口を閉ざす。 　過去にワースに恋愛関係にあった相手がいたとして、どうするのだろう。参考にしたいわけでもないし、コイバナをしたいわけでもない。なぜ、こんな気持ちになるのかわからなくて戸惑ってしまう。妙な焦りの中で、どうにか納得のいく結論を出そうとしてみる。 　ワースはいつか何も言わず消えてしまうかもしれない。そのために、繋ぎとめてくれるひとがいればいい。だが、どうやらワースにはいない。つまり不安が残る。それを払拭するためのものが欲しい。例えば恋人が既にいれば問題がなくなる。だから気になる。そう考えれば、今の焦りもなんとなく理由付けできる。つまりはワースに何かあったときに、踏みとどまれるような約束やひと、ライオの言う「重し」や「拠りどころ」があれば、自分が安心できるからだ。 　とつとつと、そういった旨を伝えていくうちにワースの顔がしかめられたり、呆れたり、天井を仰いだりと変わり、最終的に話し終わったところで「あのなあ」と大きく肩を落とした。 「なんでオレのことになるんだよ」 「私のことはどうでもいいからだが」 「テメェがライオさんに心配されてるんだろうが」 　自分のことを考えろと言外に含められるが、心底どうでも良かった。 「私はお前のことが心配だ。だからお前のことを言っている」 「あ～！　話通じねえなあ！」 　乱雑に髪を混ぜてワースが吠える。怒っているのではなく、面倒くさげに。そんなにおかしいことだろうか、と髪を乱したワースを眺めながら話を振り返るが特段、おかしいところはないはずだと結論付ける。 　自分がライオが言っていた「消える」つもりなんて欠片もなく、心配されるようなことはない。しかしワースは危険地帯に行くことも多い。ふとした瞬間に帰って来なくなる可能性があり不安は常につきまとう。だから自分よりもワースのほうが心配だ。実力を侮っているのではない。単純に、見えないところで何かあっても自分が手出しをできない焦燥と言い換えられるかもしれない。 「はあ～……もうそんなに言うならテメェが重しにでもなればいいだろうがよ」 　深い息を落としたワースが面倒くさそうに、投げやりに零した小さな呟き。それに雷に打たれたような衝撃を受けて目を見張る。 「なるほど、そうか」 　いい案だと頷く。ワースが言うとおりに、自分が重しになればいい。愛だの恋だのに当てはめて考えていたから、他の誰かを想定しただけで、別にそれは自分がなってもいいのだと気付かされる。 　兄弟としての情はある。ワースが幸せであればいいと願い、気を配っている。しばらく姿が見えなければ、何をしているのか、どこにいるのか、何事もなければいいと思いを巡らすこともしばしばだ。恋とは違う感情。愛でもきっとない。しかし抱いている気持ちに好意があるのは間違いない。普通とは違っても恋や愛に、近いものでもあるはずだ。何よりワースが「テメェがなれ」と言った。それは自分が重しになることを許容していると受け取れる。ならば構わないだろうと頷き「ワース」と名前を呼ぶ。 「なんだよ」 　ぶっきらぼうに返し、眉間に皺を刻んだ顔がこちらを見る。癖のある髪からのぞく深い銀緑の目。ずっと昔から変わらないいろを見て、再度頷く。
November 3, 2025 at 10:48 AM
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愛とか／オタワス（1/3）全9枚
12月新刊目途が立ったので、ほぼ完成版（ページ数が4からなのは同人誌のテンプレートだからです）
愛とか 「身を固めるつもりはないのか？」 　今日のランチは何を食べた？　そんな気軽さで尋ねられて手が止まった。 　視線を上げれば見慣れた腐れ縁の顔。一足先に神覚者を辞し後進の育成に携わっているが、その輝きはまだ衰えていない。そんな男が読んでいる書類から顔も上げずに投げてきた言葉に眉を寄せる。 「お前に言われるとは思わなかった」 「辟易している姿を見ていたから、言ったことはなかったな」 「なら今さら、なぜそんなことを？」 　二人でテーブルを挟んで向かい合うように座り、書類を確認していた。十数年と長く神覚者の地位にいれば引継ぎも多い。誰にどれを託すのか、辞した後も主導で行うものはどれにするのか。ひとつひとつを見極めていた最中での相応しくない話題。集中力が切れたと溜め息を落とせば、困ったような表情を浮かべられる。 「どうしてだろうな。区切りだからかもしれないな」 「区切りだとして、私のすることに変わりはない」 「そうだな。お前は、あの時から前だけを見て歩いてきた」 　神覚者になるきっかけも知られている相手からの言葉はそれなりに重い。かと言って「身を固める」は流石に突飛すぎて、黙ったままで続きを促す。 「理由はいろいろあるんだが、一番はお前が心配なんだ」 「心配？」 「お前はこれからも変わらずに仕事を続けるだろう。その信頼はしている。だが、ふとした瞬間にどこかにいなくなりそうで、だから重しが欲しいと思ったのかもしれない」 「それで身を固めろと？」 「あくまで例えだ。お前の拠りどころになってくれるひとがいてくれればいい、ぐらいの気持ちだな」 　軽い気持ちで、深刻な意味でもないのだろう。軽快に笑うライオに、肩で息をする。 「そんな相手はいない。無理につくるものでもないだろう」 「そうだな。押しつけられるものでもない」 　たわ言だから聞き流してくれればいい。そう言って話題を終わらせ、仕事の話へと戻る。それまでの会話なんてなかったかのように滞りなく業務を進めていく。ライオ自身が家庭を持ち、いいものだと感じているから「お前もそうであればいい」と思ったのだろう。それこそ深い意味もない、たわ言として零した程度。 　ライオにはマドル家の家庭環境が世間一般とは違うことも、自分自身がそもそも恋だの愛だのに興味を持っていないことも わかられている。押しつけではなく、単純な「もしいるのなら」程度の雑談。 　そうただの雑談だった。日中、そんな話をしたなと。帰宅した途端に顔を合わせることになった相手を見て、ふいに思い出した。 「え？　なに？　そんな驚く？」 　おかえり、と。玄関まで迎えに来て声をかけてきたのは弟であるワース・マドル。一緒に住んでいるわけではないが合鍵を渡していて好きなときに来ればいいと伝えている。初めのころは遠慮をしていたようだが、今では家に来ているときはこうして出迎えてくれることがある。連絡もなく来るから驚くことはままあるが、今日はワースが戸惑うぐらいに「驚いた」ことが顔に出ていたらしい。 「なんかあったのか？　来たらヤバかったか？」 「いや、なんでもない……驚いただけだ」 「そうかあ～？」 　心配そうに声をかけられて何もないと返せば、納得していないようで首を傾げられる。しばらくこちらの全身を確認するように眺めていたものの「まあいいか」と雑にまとめてワースが背を向けて中へと入っていった。あとを着いてリビングへ向かえばローテーブルの上に何枚もの紙が広がり、本が積み重ねられている。どうやら何かしらの書類か寄稿か、はたまた論文かを書いていたようだ。 　こちらを気にするでもなく、家主よりも家主らしく堂々とソファーに座って、ワースがああでもないこうでもないと積み上げた本を開いては読み、紙に書いてを繰り返す。見慣れたものだなと思っていると、またライオの言葉が頭を過ぎる。 　ライオ「身を固める」は婚姻関係を結ぶことを指していた。既に三十を越して久しい自分がそう言われるということは、つまりワースも言われている可能性が高い。しかし、そんな話を聞いたことはなかった。 　ワースはイーストン魔法学校を卒業したあと定職につかず、旅に出てその日暮らしのようなことをしていた時期がある。破天荒そのものだったが、探求心を満たすために希少な薬草や鉱石の採掘、その実体験にアレンジをして冒険譚として綴り、さらには発見したものを論文としてまとめてと多種多様なことに手を出し、それぞれで評価された。軌道に乗った今では、定期的な収入もあり金銭的な不安もない。相手さえいるのであれば「身を固める」には何の問題もない。そういった話しをされたことはないが、もしそんな相手がいるのであれば家に来てこんな姿を見せることもなくなってしまうかもしれない。それを寂しいなと思った瞬間に口が滑る。 「ワース、お前は身を固めるつもりはあるのか？」 「は？」 　ぽかんと口を開け、間抜けな顔で見上げられる。驚きで目を丸くして固まった様子のワースを横目にローブを脱ぎ、隣に腰を下ろす。そのあいだもワースは瞬き、視線でこちらの動く先を追うようにしている。まるで何かを確かめるような仕草だ。 「えーと、身を？　なんて？」 「身を固める。婚姻関係を結ぶつもりはあるのかと訊いた。お前と恋愛関係にある相手はいるのか？」 「いや、説明じゃなくてな……え？　何？　テメェ結婚でもすんの？」 「しない。私ではなく、お前の話だ」 「いやいやいや？　え？　マジで何？　急に？」 「その様子だといないのか？」 「いねえけどさあ～！」 　言うと同時に手に持っていたペンをテーブルに投げ、両手で顔を覆って天井を仰ぐ。嘆いているような、黄昏ているような。しばらく、くぐもった呻きを漏らしたかと思うと長い息を吐き出してワースがこちらを向いた。 　どこか恨めしそうな顔。訊いてはいけないことだっただろうかと思うが、思うだけに留まる。私的な質問だったが、特段謝罪が必要なほどのことでもないだろう。そう判断していると、もう一度大きく息を吐き、肩を落としたワースが唇を尖らせた。 「なんで急にそんな話になったんだよ」 「ライオに身を固めないかと訊かれて、お前はどうなのか気になったからだ」 「飛躍しすぎてねえ⁉」 「そうか？」 　今までの流れを思い返すが、筋は通っているはずだ。ワースが言うほど飛躍はしていないはずだし、弟にそういった相手がいるのであれば知りたいと思うのは兄としておかしくない。その通りに伝えれば、ワースは眉間を押さえた。 「あ～……ならテメェは結婚とか、そこまでいかなくても、そういう相手はいねえのかよ」 「いない。作る気もない。そもそも私が――」 　私が、と言って止めて考える。考えて、ワースを見る。 　戸惑ったような様子を見せているワースは同じ親を持ち、似たような教育を施されて成長した、たったひとりの弟である。つまり自分と同じようなことをワースが感じている可能性は非常に高かった。 「私たちが愛だの恋だの、マトモにできると思うか？」 　自虐のような嘲笑を交えれば、ワースが軽く目を見張ったあとでイタズラそうな笑みを浮かべた。 「できるわけねえだろうなあ～」 「そうだろうな」 「テメェに当てはまるなら、オレにも当てはまるってコトだ。 そういう相手はいねえよ」 「なるほど」 「つまりマドルはここで終わりってことだ」 　挑発的な笑みで手を振ったワースは、ペンを拾って再びテ紙に向き合う。これで話しは終わりのつもりなのだろう。鼻歌のようなものを機嫌よく奏で始めたワースの横顔をなんとなく眺め続ける。 　生き生きとした顔は学生時代の重く沈んだものからは遠い。苦労をしていたとしても好きなことに取り組めているのだろう。そのことが嬉しい反面、なんとなく落ち着かない気持ちにもさせられる。 　ワースは、ふらりと家に来る。ワース自身が借りている部屋もあるのだが、不在の期間が長い。無駄を嫌ってか、ずいぶん質素な部屋である。荷物を置く場所の代わり、ホテルに連泊するより安いから、住所がないと不便だから。そういった理由から借りている部屋。鍵も古びた昔ながらのもので、開けようと思えば簡単に開けられてしまう。 　そのせいか集中したい作業があるときは合鍵を使って家に来て、こうして好きに過ごしている。旅先で見つけた貴重な品を部屋に置いておくのは不用心だからと置いていくことも、書籍の管理もこちらのほうが管理がいいからと空き部屋の一角を占有している。ここまでくればいっそ一緒に住めばいいのではないかと思うが、ワースからの申し出はなく、こちらからも言えないまま今まで来てしまった。 　楽しそうに紙に何かを書いては本のページをめくって確認している姿をじっと見つめる。こうして楽しそうにしているのに、一緒に住もうとは言わない。住みたいとも言わない。次に来るのがいつかもわからないし、出ていくのがいつかもわからない。二度と訪れない可能性だってある。それが寂しく、かなしい。これがライオの言う「ふとした瞬間にどこかにいなくなりそう」なのかもしれない。 「マドルが終わるのはどうでもいいが……」 　呟けば「ん～？」と聞いているのかわからない生返事。 　正直、マドル家が末代になろうが一向にかまわない。むしろ血統やら、基準のあいまいな価値とやらに囚われ、変わりつつある世界に順応できない家が没落して消えるのは自然淘汰だ。惜しいと思う愛着もない。血を次代に繋ぐことに興味も関心もない。ただ、目の前にあるものを失くしたくはない。それを、どう伝えたらいいのか迷い、ライオに言われた言葉が一番近いのではないかとそのまま口にしてしまう。 「お前の重しになる相手がいて欲しいと思っている」 　素直に伝えれば、手を止めてワースが顔を上げた。不思議そうな表情で。 「重しってなんのだよ」
November 3, 2025 at 10:48 AM
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マ🧩イベのlv20、Sクリアするまで5〜6回かかりました😠
October 30, 2025 at 11:32 AM
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12月の新刊、どうがんばってもうまくつくれないので初めてデザイン依頼してみた。このイメージから、どんなのが出来上がるのか楽しみ
同人誌の表紙デザイン。 文字のみで「愛とか恋とか家族とか」と書いてある。
October 16, 2025 at 11:36 AM
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愛とか（続き）／オタワス
October 9, 2025 at 10:45 AM
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day2準備万端
October 5, 2025 at 7:47 AM
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楽しみすぎて飲みながら観てる🍸💃✨
October 4, 2025 at 8:22 AM
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愛とか／オタワス
12月の新刊これでいこ🎶で書き始めた話のキリいいところまで。原作＋15年ぐらいのアラフォーオタと、三十路越えワスのあれこれ（健全）な予定
愛とか 「身を固める気はないのか？」 　今日のランチは何にするんだ？　ぐらいの気軽さで尋ねられて手が止まった。 　視線を向けた先には見慣れた腐れ縁の顔。一足先に神覚者を辞し、後進の育成に携わっている男は最盛期からすれば大人しくなったが、その輝きはまだまだ衰えを見せない。そんな男が書類から顔もあげずに向けてきた言葉に眉を寄せる。 「……お前に言われるとは思わなかった」 「辟易しているのを知っているから、今まで言ったことはなかったな」 「今さらなぜ、そんなことを言う」 　二人で向かい合うようにして、引き継ぎの書類を振り分けていた。十数年と長く「神覚者」の地位にいれば引き継ぎも多い。誰にどれを振るのか、辞した後も自分が主導で行うものはどれにするのか。ひとつひとつを見極めている最中での相応しくない話題に溜め息を落とせば、困ったように首を傾げられた。 「どうしてだろうな。適齢期だからもあるかもしれないし、ひとつの区切りだからかもしれないな」 「区切りだとして、私のすることには変わりない」 「そうだな。お前はあの時から真っすぐ歩いてきたな」 　神覚者になるきっかけも知られている相手からの言葉はそれなりに重い。しかし「身を固める」には突飛すぎて、黙ったまま続きを促す。 「そうだな。理由はいろいろあるが、お前が心配なんだ」 「心配？」 「神覚者として邁進してきて、これからも仕事はあるといっても、ふとした瞬間にどこかに消えそうだから重しが欲しいと思ったのかもしれない。わかりやすく誰かがお前の手綱を握ってくれればいいと思ったんだ」 「それで身を固めろと言うのか」 「あくまで例えで、お前に拠りどころになってくれるひとがいればいい、ぐらいの気持ちだな」 　本当に軽い気持ちで、本気でもないのだろう。はは、と軽く笑われて肩で息をする。 「いい加減な気持ちで向かい合えば相手にも失礼だろう」 「そうだな。まあ、そういうひとが現れたならいいなんてことも、オレの勝手な想いだからな。押し付けられるわけでもない」 　たわ言だから聞き流してくれればいい。 　そう言われて話しが終わり、そのあとは滞りなく業務を進めた。 　ライオ自身が家庭を持ち、いいものだと思っているから「お前もそうであればいい」と思ったのだろう。ただ、ライオはマドルの家庭環境がいいものではないことも、そもそも恋だの愛だのそういったことに興味がないこともわかられている。それゆえに「たわ言だ」と押しつけではない、単純な興味程度の、それこそ天気の話題程度の雑談。 　そう雑談。それで終わりであったはずなのに帰宅をしたとたんに顔を合わせることになった相手に、ふと疑問が過ぎった。 「え？　なに？　そんな驚くほどのことか？」 　おかえり、と。 　玄関まで迎えに来てくれて声をかけてきたのは弟である、ワース・マドル。「神覚者として邁進してきて、これからも仕事はあるといっても、ふとした瞬間にどこかに消えそうだから重しが欲しいと思ったのかもしれない。わかりやすく誰かがお前の手綱を握ってくれればいいと思ったんだ」 「それで身を固めろと言うのか」 「あくまで例えで、お前に拠りどころになってくれるひとがいればいい、ぐらいの気持ちだな」 　本当に軽い気持ちで、本気でもないのだろう。はは、と軽く笑われて肩で息をする。 「いい加減な気持ちで向かい合えば相手にも失礼だろう」 「そうだな。まあ、そういうひとが現れたならいいなんてことも、オレの勝手な想いだからな。押し付けられるわけでもない」 　たわ言だから聞き流してくれればいい。 　そう言われて話しが終わり、そのあとは滞りなく業務を進めた。 　ライオ自身が家庭を持ち、いいものだと思っているから「お前もそうであればいい」と思ったのだろう。ただ、ライオはマドルの家庭環境がいいものではないことも、そもそも恋だの愛だのそういったことに興味がないこともわかられている。それゆえに「たわ言だ」と押しつけではない、単純な興味程度の、それこそ天気の話題程度の雑談。 　そう雑談。それで終わりであったはずなのに帰宅をしたとたんに顔を合わせることになった相手に、ふと疑問が過ぎった。 「え？　なに？　そんな驚くほどのことか？」 　おかえり、と。 　玄関まで迎えに来てくれて声をかけてきたのは弟である、ワース・マドル。 　一緒に住んでいるわけではないが、合鍵を渡して好きなときに来ていいと言っていて、たびたび家に訪れてはこうして家に帰れば迎えてくれることがある。勝手に来ているものだから驚くことはままあるが、それでも今日はワースが戸惑うぐらいに「驚いた」ことが顔に出ていたらしく、心配そうに声を掛けられる。 「なんかあったのか？　来たらヤバかったとか？」 「いや、なんでもない……」 「そうかあ～？」 　納得いってなさそうに首を傾げつつも、まあいいかと雑さに放り投げてワースがリビングへと向かう。玄関で軽く埃をはらい、あとをついていくようにリビングに向かえばテーブルの上に何枚もの紙が広がり、本が積み重ねられていた。何かの書類か寄稿か論文かを仕上げているようだ。 　こちらのことを気にするでもなく、家主よりも家主らしく堂々とソファーに座ってああでもない、こうでもないと本を開いては何かを書いてを繰り返すワースの姿。見慣れたものだなと思いつつ、またしても疑問がわき出てくる。 　ライオの言っていた「身を固める」とは婚姻関係を結ぶことを指している。既に三十も後半になる自分が「適齢期」と言われたということは、つまりワースも「適齢期」である。 　ワースはイーストンを卒業してから破天荒に旅に出てその日暮らしのようなことをしていた時期がある。 　しかし探求心を求めて希少な薬草や鉱石の発掘、くわえて冒険譚としての文筆業、さらには発見したものの論文発表と多種多様なことに手を出して、今ではそれぞれで評価されている。 　仕事が軌道に乗り、不安定な時期からすれば金銭的な不安もない。相手がいれば、それこそ「身を固めてもいい」頃合いだ。そうであればこうしてここにきてこんな姿を見せることもなくなるのかもしれない。それは、すこしさびしいなと思っていると口が滑った。 「ワース、お前は身を固めるつもりはないのか？」
October 3, 2025 at 10:56 AM
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7年前（‼️）につくったゼクフィのアピール画像が残ってて物持ちいいな！？となってる。
まだPS4版が出ていないのでPS3版で作ってるのも懐かしすぎる
September 27, 2025 at 10:12 AM
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二稿終わりましたが気に入りませんので寝かすしかない🛏️💤
September 23, 2025 at 9:54 AM
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届いて2週間放置してたグッズを開けました
September 15, 2025 at 10:12 AM
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オタワスの原稿、二稿でこのあたり全部消えたので供養🪦
September 14, 2025 at 4:15 AM
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2枚ともブクロで豪運✌️
September 7, 2025 at 12:26 AM
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←初稿／二稿（006.txtは書いてる途中）→
やっぱりちょっと増えてる…
September 3, 2025 at 11:27 AM
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ニーア展と魔女森のコラボメニュー
August 31, 2025 at 9:49 AM
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さよならの向こう側（2/n）2/2
何かを持ち出すことは殆どない。逆に言えば、持ち出せないために急ぎの仕事があるときは泊まり込みになって家に帰らない。それでもワースと共に暮らすようになって格段にその頻度は減った。繁忙期以外は、日をまたぐ前には帰って来られるようになった。それも全て、ワースと少しでも話をするために共に朝食を摂ろうとしているからだ。一言二言でもいい、話せることが何にも代えがたい。 （またワースのことを考えているな） 　ふと、そんなことを思う。最近はワースのことを考える時間が増えてきた。仕事をしているときはそうでもないが、休憩をしているときだとか、仕事へ向かう途中だとか、こうして家でひとりになったときだとか。不意に考えてしまう。 　ワースは今何をしているだろう。疲れているように見えたが仕事が忙しいのだろうか。 　気にかけているからだと言われればそうで、嫌ではないからそのままにしている。ワースのことで思考の一角が占められるのは、自分を慰めているような気持ちになる。それから、もっと話したいがどうすればいいのだろうかと思う。何を話したいか話題は思い浮かばないのに、声を聞いていたいし、些細なことでも知りたい。ただの血縁の繋がりである弟なのではなく、ワース・マドルという個人に興味がある。だからこそ一緒に住んでいるし、朝食を共にしようと努めるし、夕食に誘いもする。伝えたことはないが、ワースもそのことを感じ取ってはいるはずだ。 「何が食べたいか訊けば良かったか」 　おごりかと尋ねられたときに肯定で返したが、何を食べたいのかを訊きそびれたと今になって気付く。自分自身は食に対してあまりこだわりがないがワースはそうでない。つくってくれる夕食も、日を増すごとに上達し、さまざまなメニューが並ぶようになった。食を楽しむことのできるワースには好きな物を食べさせたい。が、ワースの好きな物を知らない。今まで自分が買ってきたものも文句を言うことなく食べていたから未だに嫌いな物すらも知らないと思い至る。記憶を辿り幼いころを思い出そうとするが当てはまるような出来事もない。嫌いなものを嫌いだと言える家ではなかったから、あったとしても隠していただろう。 　そうなるとますますわからない。ならば待ち合わせで合流したときに改めて聞けばいいかと、ひとつ頷いて終わらせてしまう。知らないことを知らないままにしておくのは落ち着かないし、食事の席で嫌な思いをさせたくはない。好きな物を食べようと言えばワースも教えてくれるはずだ。 　手早く身を整えて玄関に向かう。もしも急ぎの仕事が舞い込んできたなら誰かに振るためにカルドあたりに定時で退局することを言って、魔法局近辺で気軽に食事のできるところをライオあたりに聞いて置く必要がある。こちらから誘ったのだからどこに行くかぐらいはある程度調べておくべきだ。 　魔法局近辺は軽食から、それなりのディナーまでできる店がたくさんある。今まで特に気にしたことはなかったが、いくつか選んで気になるところがあるのであれば「また次に」と、そう言えばワースも嫌な顔はしないはずだ。今日だけでなく、何かきっかけがあればまたこうして約束をして出かけるのもいい。そんなことを考えながら玄関のドアを開けた。
August 24, 2025 at 4:34 AM
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さよならの向こう側（2/n）1/2
さよならの向こう側（2） 「今日の帰りって遅くなりそうか？」 　質問を投げてきたワースに視線を向ければ、トーストに嚙りついているところだった。 　朝食は可能な限り席を共にする。どちらかが言い始めたわけでもないが一緒に住むようになって自然とできた決まりのようなもの。自分が家に帰る時間は不規則で、深夜になることもままある。そんな中で同居をするにあたり、どうにか話をする時間を確保するために考えた結果でもある。 　二人とも社会人でそれなりに忙しいため、魔法を使っても、それほど凝ったものはテーブルに並ばない。トースターで焼いたパンに、目玉焼きとベーコンかハム。気力があれば適当にちぎられたサラダにプチトマトが乗っていればじゅうぶん。飲み物は牛乳か水。そんな有様である。 　それでも文句もなければ欠かすこともなくワースは共に席に着き、ぽつりぽつりと会話を交わす。今日は何時に帰るとか、仕事が忙しいだとか。どこの家庭でもされているような普通の会話。今までしてこなかったものが続いていて、些細な話でも聞けることも、尋ねられることも、どちらも心地いいものだと思っている。 　そんな中で零れたワースからの質問に答えるために、頭の中に入っている予定を確認してから口を開く。 「それほど遅くはならないと思うが」 　特筆して急ぐ用件はない。不測の事態で勤務時間がずれることもあるが、予定通りであれば定時で帰ることが可能だろう。そう判断して返せば「ふーん」と、どこか気の抜けたような声が返ってくる。 「何かあるのか？」 「いや、オレも帰り早くなりそうだからメシどうしようかなって」 「そうか……」 　頷いて返して、ならば定時で帰ろうかと頭の中で算段をつけ始める。 　ワースは魔法局ではない、首都にある研究機関に就職をした。繁忙期には自分よりも遅く帰るときもあるが、落ち着いているときには基本的に定時に帰ってくる。そのため夕食はワースが準備をすることが多い。 　しばらく前までは忙しそうにしていたが最近は落ち着いたようだから、帰ってきてから夕食の準備をするつもりなのだろう。だから帰りの時間が気になって尋ねてきた、と。 　そこまで考えてワースに視線を向ければ、一枚目のトーストを平らげて二枚目に手を伸ばしているところだった。 　ワースは自分よりも健啖家だ。きれいに食べるから見ていて気持ちもいい。年配者が後輩に「たくさん食べろ」と言うのは、おそらくこういった気持ちになるからだろうと察せられる程度に。そう感じて、ふと思いついたことを口にする。 「なら、夜は外で食べるか？」 「あ？」 「そうだな。魔法局で待ち合わせて店に行くのはどうだ」 　早く仕事が終わりそうなのであれば、時間を合わせて外で食べるのもいい。ワースの職場は離れているといっても、それほど遠いところにあるわけではないから魔法局まで来てもらえれば夕食の時間ちょうどになる。 　ワースの手料理が食べられないのは心惜しいが、仕事が忙しかった相手に家事を担ってもらうのも気が引ける。それほど多くはない夕食の席を共にするなら、ふたりでゆっくりと落ち着いて話すほうが好ましい。 　なにより、待ち合わせをしてどこかに行くことを今までしたことがない。思い返せば外食も初めてだ。たいていがハウスキーパーが作り置いたものか、ワースがつくったもの、それから自分の買ったデリバリー。外食の機会をこれを期に習慣化して、ゆくゆくは気に入りのバーに連れだって行くのも悪くない。 　まだ先の未来を思い描いて、今回はいい切欠になるだろうと誘ったが、ワースは二枚目のトーストを咀嚼するのに必死で何も返さない。こちらの真意を探るように見て、どこか必死に口を動かす姿がどことなく小動物を彷彿とさせる。 「おごりだろうな」 「当たり前だ」 「……なら行く」 　咀嚼が終わり、口のふちを指先でぬぐったあとに向けられた問い。当然だと返せば、逡巡して是と返される。口元が僅かに下を向いて、いびつな表情。 　不機嫌なように見えるそれは、照れ隠しをしている顔だ。嫌がられているわけではないと安堵して話を詰めていく。 　仕事終わりにワースが魔法局の一般ロビーまで来て落ち合うと決まったところで、壁にかかった時計が時間を知らせた。ワースがいつも家を出る時間だ。その音に、ぱっとワースが顔を上げて慌てたように立ち上がる。 「オレ、先に出るからな」 　そばに置いてあった仕事鞄を持って玄関に向かうワースのあとを、なんとなく着いていく。今までそんなことをしたことはないが約束をしたことで浮足立っているのかもしれない。 「またあとで」 「……おう。あとでな」 　ローブを羽織り、玄関ノブに手をかけたワースに声をかけると一瞬だけワースが固まった。ちらりと肩越しにこちらを振り返り、それからぶっきらぼうに返された。玄関が開いて、閉じて。ワースの気配が遠のいて、感じられなくなるまで見送ってから食事の席へと戻る。 　自分は食べかけであったが、ワースのために準備されていたものはいつの間にか魔法を使ったのか食器もキッチンのほうへと片づけられているようでテーブルの上はきれいなものだ。そのことにかすかに寂しさを感じる。正直、食欲はそれほどないが自分のために準備されているものを残すわけにもいかずに食事を再開する。あまり楽しいものではないが、残せばワースに見付かったとき、なかなかに面倒くさい。 　ゆっくりと咀嚼をして飲み込む。反復作業のあいだに、頭の中で今日の予定していた業務の内容を整理して優先順位をつけていく。急ぎのものはない目途がついているものは、いいくつか後回しにしても構わない。猶予のあるものの順位を下げて、明日以降の予定にずらせば影響はさしてない。何も問題はないなと結論付けたところで食事を終えて、杖を振る。 　食器を片付け、テーブルの上がきれいに整ったのを確認して一つ頷き、そのまま仕事へ行く準備をする。準備といったところでワースと違って、神覚者の証であるローブを身に纏うだけだ。 　ワースは書類や本が入った仕事鞄を持って行くが、秘匿性の高さや公私の切り替えのために自分が魔法局から
August 24, 2025 at 4:33 AM
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うつくしく輝いている／リュユディ
ユディットが輝いて見えるリューディガーの小噺。
コミック1巻7～8話のあたり。
うつくしく輝いている／リュユディ 　人の美醜に、さして興味がない。周囲が騒ぐ美人や愛らしい人とやらも、そうなのかと今まで気にもしたことがない。 　世間一般的な審美眼はヴィンターバルトとして教育を受け、持ち合わせてはいる。それに照らし合わせると、自分の容姿がそれなりに目を惹くものだということも理解している。理解すること、納得することはまた別の問題ではあるが。 　とにかく、自分も含め人に対して「美しい」や「好ましい」といった感情を抱いたことが、記憶のある限りなかった。それなのに、どうしてなのだろうと困惑したようにこちらを見上げてくる女性を眺めて首を傾げる。 　ヴィンターバルトに向かうための準備をするために立ち寄ったノイハルト。そこでとりあえずのドレスを選び、ドレスに合う小物を買うために次へと向かおうとした。すると店を出たとたんに、これ以上必要ないと止められてしまった。これでも相当に遠慮をしたつもりで、そう伝えたがそれでも納得していない様子で、焦ったようにやめて欲しいと言われてしまい、ほんのすこしだけ落ち込んでしまう。 「私からのプレゼントがそんなに嫌ですか？」 「い、いえ……嫌なわけじゃなくって……」 　否定をするように手を振ってみせる女性をじっと見つめれば、困ったように目を逸らされてしまった。プレゼントとして服を贈られるのが嫌なのであれば、多少は考慮しようと思わないこともないが嫌ではないという。ならば構わないだろうと、次の店に向かおうと足を進めてしまう。 　甥の存在を知って迎えに行ったマイバウム家。そこで出会ったユディット・マイバウム。甥であるルカを今まで育ててきた女性は、ルカの叔母だ。そうと知らずに初めて町でぶつかったときから彼女から、ずっと目が離せない。没落した子爵家だけあって、お世辞にもきれいに着飾った服ではなかった。それこそ平民と同じような服を着ていた。なのに自然と彼女に目が向いてしまう。 　彼女の着ていた服を貶すつもりはないが、もっと似合いのものを着ればさらにうつくしくなるだろう。そう思ってさまざまなドレスを着てもらえば、やはり輝きがさらに増した。まるで彼女がそこにいるだけで光を集めているように見えるほどに。 　そしてどのドレスを着ても彼女自身のうつくしさは損なわれることなく、むしろドレスが負けるほどで、もっと、もっとと似合うものを、より良いものをと欲がでる。他の誰かが同じものを身に着けていても、きっとこれほどまでに魅かれはしない。彼女だけが、どうしても輝いて見える。 （どうして、なんてわかりきっている） 　諦めたのか、ルカを伴ってうしろをついてくる彼女をそっと盗み見る。淡い水色のドレス。それも良く似合っている。このドレスに合うブーツや帽子はどんなものだろうかと考える。きっと何でも似合うが、一番似合うものがいい。今以上に彼女を惹きたててうつくしく見せるだろう。彼女のうつくしさを、自分の手で選んで着飾ることができる。そのことに気持ちがうわつく。 　どんなものも、彼女にはかなわない。世界で、彼女だけが自分の中で輝いている。
August 16, 2025 at 6:18 AM
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同じ話の改訂版。削ったつもりが削れてない🤔
さよならの向こう側（１） 　弟のワース・マドルが亡くなったのは、夏の暑さが和らいだ秋らしい青空がどこまでも続く晴れやかな日だった。 　その日も、自分はいつもと変わらず魔法局の執務室にいた。運ばれてくる書類を手に取り、目を通し、決裁する。そうやって決められた順番に添って処理をしている最中で不意に廊下が騒がしくなった。魔法魔力管理局は魔人の強襲や、急を要する事案が飛び込んでくることもある。その類だろうかと視線を上げた途端、ノックもないままに扉が勢いよく開かれた。 　現れたのは弟子でもあるランス・クラウン。普段は冷静さを失わない分別があるランスが息を乱し、青い顔で唇を震わせていた。いつもなら決してない姿。軽く目を見張る一方で、急ぎでも最低限の礼を失するなどあってはならないと指導をしようと口を開こうとしたところに、わななくような声が響いた。 「ワースが亡くなったと知らせが入りました」 　そう伝えられて、なんと返したのかを覚えていない。 　「そうか」だったかもしれないし、「なぜ」だったかもしれない。もしくは何も言えなかったかもしれない。 　それぐらいに記憶は曖昧だ。正直なところ、今も現実ではないような不思議な感覚の中にいる。 　ランスからワースの訃報を伝えられたあと、亡骸が安置されている場所へと赴いた――のだとは思う。遺骸を確認し、葬儀を執り行い、埋葬を終え、流れるように物事が動いていく。半自動的に進んでいった形式的な別れ。それらがつつがなく終わり、そして自分はあの日の続きのように執務室で書類と向き合っている。まるであの人の続きのように何も変わらないまま同じように。 　喪に服す期間が明けてもいないのに現れた自分を周囲は驚いた顔で迎えた。何かを言いたげにこちらを見ている人間も一人や二人ではない。しかし直接何かを言われたわけでもない。それらを相手にする暇もない。 　たった数日、席を外しただけで机の上には書類が積みあがっていた。目を通し、右から左へと動かしていく。決裁、却下、修正指示。淡々と行い、魔法局という巨大なイキモノを動かすひとつの機関になる。そこに自分の意思はないが、それで構わない。 （どうせ誰もいない） 　ふとした瞬間に頭の中に滑り込んだ言葉。すぐに散らして目の前のことに集中をする。 　おかえりも、ただいまも。やっと言うことに慣れてきたところだった。もう言う相手がいないのであれば意味はない。意味がないことに費やす労力は無駄でしかない。無駄ならば切り捨ててしまうほうが効率的だ。 　効率を求めて極限まで無駄を省いて、同じような日々を過ごす。執務をして、討伐をして、ときどき食事をして、わずかに睡眠をとる。目が覚めれば同じことを繰り返し、ほとんど変わることのない日々を過ごしていく。手元に届く書類が変わっても、討伐対象が変わっても、家に帰らなくても一日一日と時間は勝手に過ぎていく。 　無理をするなとライオが声をかけてくる。休むことも仕事の一つだとカルドが苦言を寄こす。食事をしようとドットが無理に作った笑顔で誘ってくる。それらに「そうか」と返して、いつもと違うことをしたところで、おおよそは変わらない生活を繰り返し繋いでいく。そうしていれば何も困ることはない。 　生きていくのは簡単だ。必要な栄養を摂り、体が動かせる程度の休息を得る。それだけで息をして、思考は回り、血が全身を巡る。生きていくのは、ひどく簡単だ。その簡単なことを、もうワースはできない。 　ふと、思考のふちに浮かんだワースの欠片に書類を捌いていた手が止まってワースのことを思い出す。「おかえり」と迎えてくれた声。「ただいま」と言ってくれた顔。「兄さん」と、たどたどしく呼んでくれた日。いつでも記憶の中のワースは静かに、穏やかに笑っている。 　無邪気な淵源の事件からあと、ワースが卒業することを契機にぎこちない会話や交流を重ねて数年。就職したときに借りたアパートメントが本で手狭になってきたから新しい家を借りるか、中古の家を買おうかと悩んでいる。世間話のような相談のようなものをされて「家に来ればいい」と誘えば、驚いて目を落としてしまうのではないかと思うぐらいに大きく見開いていた。それから、しばらく考えて、確かめるように「いいのかよ」と尋ねられた。返事は当たり前に「もちろん、構わない」で。 　兄弟としてもぎこちないまま同居をして、不安がなかったと言えば噓になる。しかし今までになかった日々のやりとりは不安を簡単に蹴散らした。 　同じ本を読んで感想を語り合うのも、食事の場でぽつぽつと零される日常の会話も、話すことがなくても一緒にいる時間も全てが心地いい。お互いに、遠慮をしながらも近付きたい気持ちが一緒なのならば、これほどに穏やかに過ごせるものなのかと驚きもした。そんなふうに日々を二人で重ねていって、ぎこちなかった「兄さん」と呼ぶ声に躊躇いも遠慮もなくなってきたばかりだった。 　まだまだ自分たちには未来があるはずだった。時間をかけて、これからゆっくりと近づいて。もっともっと兄弟らしくなれるのだと、そんな希望を持っていた。 　急いで進めばきっと自分たちはうまくいかない。一歩ずつ進んで、ときには止まって、そうやって、けれど確かに近づいていく。そんなことを口にしたことはなかったが、きっとワースも同じように思っていたはずだ。今となっては確かめることもできなくなってしまったけれど。 　もう二度と話をすることができない。同じ気持ちだったのかと訊くこともできない。お前は、無理をしていなかったかと尋ねることもできない。 　軽く息を吐き、手に持っていた書類を机の上に戻して天井を見上げる。気が付けば、部屋の明かりが煌々とついていて夜になったことを知らせる。また今日も一日が終わろうとしている。何事もなく、つつがなく、日が暮れていく。窓の外に視線を向ければ、明々とした光が街を彩っていた。前ならば「帰ろう」と思っていた時間。今では眺めるだけで何も思わなくなってしまった光景。 「ワース……」 　名前を呼んでも、返ってくるのは胸の空虚な音だけだ。記憶の中で、ワースはただ静かに笑っている。穏やかに、静かに。呼べば「なんだよ」と軽く、時にはぶっきらぼうに、照れたように返してくれていた声。その声が、耳の奥にまだわずかに残っている。今はもうそれだけになってしまった。
August 16, 2025 at 4:24 AM
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どこからが罠／オタワス
きのうつぶやいたやつ。でも思ったの方向と違うところへ着地した。
どこからが罠／オタワス 　新調する余裕がないわけではない。必要であれば、季節ごとにあつらえてもいる。今年も生地から選んで、採寸してつくってもらった浴衣がないわけではない。ただ、なんとなく。なんとなく、そちらよりも目に入った兄の浴衣のほうが「いいな」と思ったから着ただけだ。 　そんなことを、自分が数年前に着ていた浴衣を身に着けた弟に言われて肺の奥底から大きく息を吐き出す。 　その息を呆れと取ったのか、もしくは否定と取ったのか。びくりと肩を震わせて縮められてしまった。もちろん、そんなつもりはないから「違う」とだけ言えば、そろりと伺うようにこちらを伺ってくる。 　背はいつの間にか抜かれていた。体重も、おそらくも負けている。体格も認めないわけにはいかない程度にワースのほうがいい。 　なのに、どこか小動物を思わせるような、幼いように見える仕草なのは弟だからなのだろうか。わからないが、ただ、そうやって向けられる不安な顔に嗜虐心のような庇護欲のようなおかしなものが胸に湧いて出る。 　それらを今度は軽い息で払い、眼鏡を押し上げるように誤魔化してから頭に浮かんだ言葉を口にする。 「彼シャツ？　というものか？」 「……は？」 「浴衣だからシャツとは違うが、定義的には同じだと思うが」 　違うだろうかと疑問を口にする。 　恋人関係にある者が、相手の衣服を着用すること。 　それが知識としてある「彼シャツ」である。正確にはシャツである必要があるようだが、しかし「恋人の衣服を着用する」であるなら、現状ワースがしている「オーター・マドルの浴衣を着る」も広義では「彼シャツ」であろう。 　そう言えば、ぱちぱちとワースが目を瞬かせた。それから理解をしたのか、徐々に顔が赤くなり、口を開けたり閉めたりとせわしなく動かす。 「ち、ちげえだろうが！」 「違うのか？」 「違うだろ！！」 　叫ぶようにして首を振ったワースの顔が赤く染まっている。それこそ頬から耳、首元まで一気に色づいて。じわじわと染まっていく色を眺めながら首を傾げれば、必死にワースが首を振り、手を振り、違うと否定をする。 「違うのか……」 　そうだったら、嬉しかったのに。言外に込めて言えば「ぐう」と喉を鳴らすようにしてワースが押し黙った。黙るということは、つまりワースにもそんな気持ちがあった証拠だ。だから、なるほどと頷き次の手を考える。 「ワース」 「なんだよ」 　名前を呼べば、ぶっきらぼうに、けれどどこか動揺した様子で返してくるワースに内心でほくそ笑む。こういうところはまだまだ甘い。もしくは害されることなどないと信頼されているのか。 　どちらだとしても自分にとって都合がいいのには変わりない。 「このまま今日は私の家に来てくれるか？」 　言った言葉の意味を正しく受け取ったのかワースの体が震えて、それから赤くなった肌がさらに紅潮していく。黙ったままで何も返せないワースをじっと見つめていれば、しばらくして小さく頷かれた。 　その姿のいじらしさに、内心で舌なめずりをする。 　選ばせているようで、ひとつしか選べない選択肢。その罠の中にかかった、かわいそうな弟を今日はめいいっぱいに愛でようと小さく笑みを浮かべた。
August 14, 2025 at 10:52 AM
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2回目の話／オタワス
2回目のお誘い（？）の話。昨日呟いたネタ。
2回目の話／オタワス 　兄であるオーター・マドルとの関係に恋人の属性が足されて、それなりの時間が経った。しかしそういった関係――性的な接触を持つようになったのはここ最近のことだ。 　別に嫌だったわけではなく「タイミングをはかっていた」とは兄の言葉だ。 　男性同士であることはもちろんだが、兄は神覚者というこの国で最上位に入るほどに多忙だ。ワースも学生という身分から離れ、社会人となって毎日を忙しく過ごしていた。生活環境になれるまでは負担のかかる接触を控えるべきだろうと慮っていたと伝えられたとき、純粋にうれしいと思った。 　てっきり兄にはそういった欲がないのだろうと勝手に考えていたのは自分の判断ミスだろう。何気ない会話で「そういうことがなくてもいい」と言ってしまったときの兄の苦い顔。あんな顔はなかなか見られない。そも、ワースにしてみれば何年も話をしていなかった相手だ。毎日、顔を合わせて食事をし、話ができるだけでじゅうぶんに満たされていた。もちろん、そういう欲がないわけではないからスることはシていたのだが。 　まあ、とにかく、そんなこんながあって、なし崩しのように初めてそういった欲を持って触れられたし、触れた。そのときのことは未だに夢のように思っていて、思い出すだけでふわふわしてしまう。 　あの兄が、誰かに対してそういう欲を抱き、あまつさえその先が自分であるなんて未だに信じられない。 「……夢か？」 「何がだ？」 　つい声に出してしまったせいで、不思議そうに目の前にいる兄に尋ねられた。ちょうど朝食の時間でふたりで一緒に食事を摂っている最中だった。そんな中、カトラリーを動かすのを止めて、じっとこちらを見つめられている。そのことに、どっと背中に汗をかく。 「あ、や、たいしたことじゃねえから……」 「大したことがないのなら言えるだろう」 「や、ほんと、マジで……その、」 　墓穴を掘った。いや、本当になんで声に出した。馬鹿か。最悪。 　さまざまな暴言が自分の中で荒れ狂う。こんな朝の始まりの朝食の場で、考えるようなことではなかった。人であるから、もちろんそういった欲はあるが、それにしてもタイミングが悪すぎる。朝からサカっていると侮蔑されたって仕方がないが、言うには憚られる。どうにか誤魔化せないだろうかと視線を泳がせるが、それを許してくれる相手ではない。 　じっと、こちらを見つめて「どうした」と問いかけてくる。叱責のような雰囲気ではないが、ただ逃げるのは許さない強さもある。その目が「どうした」と無言のまま訊いてくる。逃げるに逃げられない状況に、体を小さく縮めて「あ～」だの「う～」だの、どうにも煮詰まらない声をあげる。きっと顔は真っ赤だ。 　それでも兄は見つめる態度を崩さず、じっとこちらを待っている。その沈黙と視線に耐え切れずに、どうにでもなれと、言い訳のようなたどたどしい言葉を連ねる。 「に、にかいめは、いつスんだろうなって……」 　思って。一回目は夢みたいだったから。 　た言葉の最後は、か細く消えていく。もしかすると聞こえなかったかもしれない。そうであれと願って自然と落ちてしまった視線を、探るように上げる。 　その先には、驚きと、ほんの少しの喜色があふれる兄の顔があった。どこか照れているような雰囲気でもある。その反応に、ちょっとだけこちらも気持ちが上向く。 「そうか……そうだな。いつでも、と言いたいが……」 　ごほん、と。何かを誤魔化すように咳ばらいをして、兄がカトラリーを置いて考えるような仕草をする。そのことに「あ、二回目ってスる日を決めてヤるもんなのか？」なんて変な疑問がわいてきた。他の誰かの話をきいたこともないし、なんなら全部が初めてであるので世間一般がわからない。しかし、別に決めて悪いということはないだろう。予定があれば、いろいろと準備もしやすいのだし。 「今週末、私もお前も休みが被っているだろう。そこでなら、いいんじゃないか」 「そっか、休み」 「ああ。休みならゆっくりできるだろう」 「わかった」 　頷けば、「では週末に」と言って兄がまたカトラリーを握って食事を再開する。まるで、なんでもないかのように。その様子につられて自然と会話は日常のものに戻っていく。食事を終え、兄と一緒に魔法局へ向かい、それからそれぞれの部署へ別れる。いつもと変わりない日常。 　それらを淡々とこなし、与えられている自分の席に着いてから大きく息を吐いてから頭を抱える。 （……え？　スんの？　二回目？　週末にって約束して？） 　スると決めてスるほうが、実は大変なのではないだろうか。どんな顔で兄とこれから毎日過ごせばいいのか。嫌なわけではないし、したくないわけではないし、なんなら二回目もできることに嬉しさも感じている。 　でもどうしていいのかわからない。準備ってナニ。初めてしたときってどうだっけ。思い出せない。世の中の人々は、どうやってこの二回目を乗り越えているのか、わからないが誰かに相談するわけにもいかない。 　いろいろなことを考えて、考えて、考えすぎてしまって困惑の渦に叩き落されて、その日はうっかりミスを繰り返して残業をする羽目になった。
August 12, 2025 at 11:26 AM