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な御剣を、成歩堂は哀れむように見つめていた。 「キミにおいていかれるのは、もうたくさんだ」 　悲痛な呟きだけが、事務所に宙ぶらりんになる。御剣になんと声をかけるべきか成歩堂が逡巡していると、御剣がテーブルの上に何かを静かに置いた。テーブルに置かれていたのは、小さな長方形の紙――いわゆる、名刺であった。 「執務室の場所が変わった。そこには、今の私の仕事場と連絡先が書かれている」 　そう言うと、御剣はゆらりと立ち上がった。そのまま事務所の扉に手をかけると、御剣は成歩堂を一瞥した。 「私は、立ち止まりはしない。キサマが前へ進むのか、立ち止まるのか。どこへ向かうのかはキサマ自身が決めろ」 　それだけ言い残すと、御剣はさっさと事務所を去って行った。 　ただ一人、事務所に残された成歩堂は、目の前に置かれた名刺が視界に入らないように、あからさまに顔を背けた。 「おいていかれるのは、もうたくさん……？　そんなの、こっちのセリフだよ」 　相手においていかれないために、自分に何ができるのか。成歩堂は、その答えをすでに知ってしまっている。
May 9, 2025 at 12:46 PM
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前々回？のワンドロで没にしたやつを～～～供養～～～～する～～～～～！🔥🔥🔥🔥🔥
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「みくづ」と記載されています。 画像情報：generated by 新書ページメーカー / オリジナル素材 / フォント：源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 「お前もしつこいなあ」 　半笑いでそう言った成歩堂は、無感動に御剣にコーヒーカップを差し出す。中身は、もちろんインスタントコーヒーである。 「誰かさんに似たおかげでな」 「ずいぶんとイイ性格をしてるらしいな。その人は」 　成歩堂の言葉を鼻で笑うと、御剣はコーヒーカップに口をつけた。雑な苦みが口の中で広がって、少しだけ気が滅入る。 　成歩堂が弁護士バッチを失ったと聞いた後、御剣は折に触れて成歩堂の元を訪ねていた。だが、最初の頃は、成歩堂と会うこともままならない時間が続いていた。こうやって事務所の中にあげてもらえるようになったのは、つい最近のことである。 「でも、不思議なもんだな。昔はぼくの方がお前を追いかけてばっかりだったのに、今ではお前がぼくの所にやってくるんだから」 「そうか？」 　そう言って、御剣はさらにコーヒーを口にする。過度に熱く、過度に苦い。御剣は、暗に歓迎されていないことの表れなのでは？　と疑いだした。 「『そうか』って、お前なあ。意外と薄情だな」 「そうではない。キミばかりが追う側ではなかったということだ。むしろ、私の方がキミのことを追っていた気がするな」 　その言葉に、成歩堂は少しだけ不機嫌そうに顔を歪めた。 「お前がぼくを？　お前においていかれた記憶ならいっぱいあるけど」 　皮肉げにそう言われても、御剣は軽く流す。そ ういう所作は、ここ数年で大分身についたように思う。 「キミは、いつだって私の先を行っていた。私より何年も遅くに法曹界にやってきたくせに、キミはいつだって私の先を歩いていた。私の未熟さを、突きつけてきた」 「それで、お前は死んだってわけ？」 「ああ、そうだ。私は、キミの姿を見て、自分に足りないものが多くあると知った。私は、法廷でキミと対等にありたいと願った。だからこそ、キミに追いつくために、検事としての私は一度死んだ」 　御剣は、当時のことを思い起こす。自分の信じていたものが一気に崩れて、そして自分の信じていたものが一気に蘇った時のことを。周りの道が全て分からなくなった時であっても、成歩堂だけは燦然と輝く道しるべのようにまっすぐとそこに立っていた。だから、御剣は決心したのだ。再び、法廷に立つにふさわしい人間になるのだと。成歩堂と、対等に真実を追い求められるようになるのだと。 「藤見野イサオの事件の時、キミと共に真実を追い求められたことが嬉しかった。ようやく、キミと同じ目線に立てたのだと。だが、それでもキミは、さらに前へと進んでいった。私は、それにおいて行かれまいと必死だった。私の方こそ、キミのことを必死に追っていたよ」 「それじゃあ、よかったじゃないか。今は、もうぼくのことを追う必要もない。誰が見ても、お前の方が立派に前を歩いてる。逆に、ぼくの所に来ると後退しちゃうんじゃないのか？」 「そんなわけないだろう。これからも、私はキミ のことを必死に追い続ける。キミが、私のことを追って法曹界にまでやってきたように。今度は、勝手に法曹界から消えたキミのことを、私が追う」 「勝手にってヒドいなあ。こう見えて、色々と経緯はあったんだけど」 「勝手だろう！」 　コーヒーカップの水面に波紋が生じているのを見て、そこで初めて御剣は声を荒げてしまったことを自覚した。 　へらへらとしている成歩堂の軽薄な笑顔と現実とのギャップに、たまに自分でも分からない苛立ちを覚えることが御剣にはあった。御剣以上に、成歩堂の方が複雑な感情を持っていることは想像に難くないはずなのに、それでも御剣は、まだこの感情を制御し切れていない。 「勝手に消えて、勝手に終わった風を装って。私は、キミの勝手なところが嫌いだ。勝手に私のことを追ってきたと思ったら、勝手に私の先を行き、勝手に私に弁護の仕事を押しつけてきたと思えば、勝手に弁護士を辞めた！」 　御剣は、いつの間にか肩で息をしていた。一呼吸置いた後、御剣はコーヒーカップの水面を見つめながら、ぽつりと話し出した。 「キミはいつだって勝手だ。勝手だが、キミの勝手さが羨ましかった。キミの勝手さに、救われたこともあった。私は、そんなキミのことが好きだった」 　そこまで言って、成歩堂のことを見据える。成歩堂は、最近の彼にしては珍しく、あからさまに困惑した表情を浮かべていた。 「……お前のことを振り回してたなら謝るよ。だけど、御剣だって大概勝手だ。勝手に検事になっ てるし、勝手に死ぬし、勝手に事務所にやってくる。でも、全部いまさらのことだ。もう、ぼくはお前に追いつけないくらい、おいてかれちゃったからさ。だから、もういいんだ。お前も、ぼくにばっかり構ってないで、もっと世のため人のために働けよ。お前なら、それができるんだから」 　成歩堂の言葉に、気がつけば再び腹の底からふつふつと怒りが沸いてきた。 「ふざけるなよ！　何を勝手に諦めたように話しているんだキサマは！　おいていかれているのだと思うなら、キサマがここまで来い！」 　御剣の態度に思うところがあるのか、次第に成歩堂も語気を荒げながら反論してきた。 「ぼくがそこに行けないことくらい分かるだろ」「疑惑をかけられているのなら晴らせばいいだけだ！　第三者として話を聞いていても、キミの捏造騒動には不可解な点がいくつもある。自身に降りかかった疑惑は、キミ自身で振り払え！　キミにはそれができるはずだ。それを為しえるだけの能力があるはずなんだ。キミはいつだって、そうしてきただろう。疑惑に包まれた真実なんて許されるべきではない。成歩堂龍一ならそうするはずだ！」 「成歩堂龍一は、もう弁護士じゃない」 「弁護士だとか、検事だとか、真実の前ではそんな立場など些事だ！　一人で真実を追い求めるのが難しいのなら頼ればいいだろう！　誰かに助けを求めろ！　どうして、そうしないんだ。どうして……私を、信頼しない。一緒に真実を追い求めてきた相棒を信じてはくれないんだ……」 　自分で言っていて悲しくなってきた御剣は、その場にへたり込むように項垂れてしまった。そん
May 9, 2025 at 12:45 PM
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「つまり……、私に遠慮する必要はないということだ。私の前でくらい、自由気ままに生きればいい。私もキミに遠慮はしない」 　成歩堂は、困ったように視線を右往左往させた。その仕草は、法廷で見る彼のようで、御剣の胸中に懐かしさが滲んでくる。 「そんなこと言って、わがままな猫に育ったらどうするんだ？　いや、もうすでに御剣のせいで、わがままに肥えたデブ猫になってるかもしれない」 　そう言って、成歩堂はそっと御剣の首に腕を回した。 「それは、『幸せ太り』。……というやつだろうか？」 「お前って、時々呆れるくらいバカだよね」 　成歩堂は、それ以上何も言わず、御剣の顔を引き寄せて口を重ねた。言葉を交わすのには飽きたと言いたげだ。御剣も、そろそろ問答には飽きてきていた。言葉を交わさなければ分からないこともある。そして、行動で表さなければ伝わらないものがあると信じて、今日という夜に祈りを捧げるのだ。 「ん」 　目覚めは朧気だった。そこにあって然るべき存在が欠けてしまった感覚。心地の良い温度を取り上げられてしまった感覚。そんな、曖昧で不安で不愉快な感覚が、御剣の意識を揺り起こした。 「ム……」 　それでも眠たいものは眠たいので、横着だと思いながらも、目を瞑ったまま、腕を動かしてベッ ドの中を探る。けれど、どれだけ探しても御剣の目当ての存在が見つからない。ふと、御剣の頭に何かが置かれた。それは、御剣の頭の形をなぞるように動く。欠けた存在が補われる感覚。心地の良い温度が戻ってきた感覚。ああ、これで安心して眠れそうだ。 「お前も、よく眠るようになったよなあ」 　昔は、ぼくの身じろぎ一つで目を覚ましてたのに。クスクス笑う声は、どこまでも優しい。それがなんだか嬉しくて、御剣はさらに幸福感に包まれる。 「それじゃあ、そろそろ行こうかな。ゆっくり休めよ、御剣」 　しかし、御剣の側からその存在が離れていく気配を感じ取って、御剣の意識は一気に覚醒する。反射の勢いで、頭から離れていく温もりを掴めば、掴まれた本人は分かりやすくビクリと震えた。 「うわ！　びっくりした！」 　温もりを繋ぎ止められたことに安堵すると、再び睡魔が御剣を襲う。ここ一ヶ月は忙しい毎日を送っていたので、体が休息を取りたがっている。薄っすら開いた目で横を見ると、成歩堂が呆れたように御剣を見ていた。 「……まだ、早いだろう。もう少し……いればいい」 　御剣の口から出た声は掠れていた。怠さと眠さも、これでもかと含まれている。 「お昼には、みぬきが帰ってくるから、迎えに行ってあげないと」 　ああ、そうだった。みぬきくんが林間学校に行っていたから、成歩堂は昨日、私の家で過ごしたのだった。働かない頭で御剣は昨日の出来事を 辿る。 　みぬきくんが帰ってくるのであれば、それを迎えに行くのは成歩堂の大役。他の誰にも務まらない、最優先されるべき仕事だろう。 「それなら、リビングにある私の財布から何枚か抜いていけ。帰りに何か美味しいものでも食べればいい」 　子供は意外と、そういう小さな思い出を覚えているものだ。御剣は、実体験からくる親切のつもりで成歩堂にそう言った。けれど、成歩堂は小さく笑って首を横に振った。 「その申し出はありがたいけど、生憎、そんな直接的な施しを受けるわけにはいかないな。あ、事務所の家賃の支払いは、いつでも歓迎だけど」　 　成歩堂の言う、「直接的な施し」と「事務所の家賃の支払い」がどう違うのか、御剣にはイマイチ分からない。だが、成歩堂なりに、線引きというものがあるのだろう。それなら、無理強いができるはずもない。御剣は、掴んでいた成歩堂の腕を解放してやった。 「……気をつけろよ。キミはそそっかしい」 「はいはい。御剣も、ゆっくり休めよ。忙しかったんだろ」 　そう言って、成歩堂は寝室を出た。と思ったら、すぐに戻ってくる。なにか、忘れ物でもしたのかと思い、サイドテーブルに目をやる。 「一つ、言い忘れた」 　そう言って、成歩堂は御剣の左手を握る。 「ぼくはお前に飼われる気はないし、これからも自分の思うように生きるけど」 　成歩堂は、そっと御剣の左手を持ち上げて、口元に寄せる。 「でも、ぼくって案外……御剣にだけ懐いて、最後には必ず御剣の所に帰ってくるカワイイ猫だよ」 　チクリと走る痛みは、成歩堂が御剣の薬指を甘噛みする痛み。それだけすると、成歩堂は何でもないように笑って「それじゃあ、今度こそ、バイバーイ」と言って寝室を出ていく。 　御剣は、しばらくボーっとしながら一連の流れについて考えていた。 「私にだけ懐いて、私の所へ帰ってくる猫、か」 　そうは言うものの、きっと彼のことだ。昨日と今日の言動を顧みて、恥ずかしがることだろう。そして、その恥じらいから、しばらく御剣の元へは顔を出さないはずだ。猫の気持ちは分からないが、成歩堂の気持ちには詳しいのだ、私は。 　果たして、成歩堂が『カワイイ』猫になる日はくるのだろうか。そう思いながら、御剣は先ほど成歩堂に噛まれた左手の薬指に口づけた。
February 22, 2025 at 5:07 PM
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🐾🐈🐾
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「キミの気持ち」、「みくづ」と記載されています。 画像情報：generated by 新書ページメーカー / オリジナル素材 / フォント：源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 　ベッドの上に作られているスリット窓からは、星の光も月の光も入ってこない。昼間はあんなに麗らかな陽ざしに包まれていたというのに。今の御剣には、この夜空が何かの暗示に思えて仕方なかった。いや、実際は何も変哲の無い夜空なのかもしれないが、今の御剣は感受性豊かなロマンチストであったから、そう思うのも仕方がなかった。 　横で寝っ転がっていた彼は、機嫌がいいのか、珍しく御剣にすり寄ってくる。 「今日は、珍しいこと尽くしだ」 　御剣にすり寄ってきた彼――成歩堂は、不思議そうに瞳を丸めて御剣を見つめた。 　今日は、珍しく成歩堂の方から連絡がきた。「今日って暇？」と、何とも軽い誘いだったが、御剣は一も二もなく、その誘いに応じた。成歩堂から連絡がくることは、あまりない。ひどい時は、連絡がつかないこともザラにあった。だからこそ、こういう機会を逃してしまえば、成歩堂と次に会える日がいつになるか分からなくなってしまう。御剣自身だって、忙しい身だ。成歩堂によると、今日は彼の愛娘であるみぬきが林間学校に行ってしまったらしい。そんな成歩堂に誘われるまま、仕事終わりに二人で食事をして、そのまま御剣の家へと赴いて、二人でこうしてベッドに沈んでいる。 「『キミは、さっさと寝たい派だろう』って？　その通りだけど。まあ、たまにはいいよね」 　そう言って、成歩堂は御剣の肩口に顔を寄せて甘えていた。 　元々、彼には気まぐれな気質が備わっていたが、バッチを失ってからはさらにその気質に拍車がかかったような気がする。それが、わざとなのか、 わざとではないのか。真偽は未だ見抜けないでいる。 　彼はふらりと現れて、そしてふらりと消える。以前、「心配だから、せめて連絡ぐらいはつくようにしてくれないか」と言えば、「ああ、そうだね。じゃあ、これからは置手紙を置いてから消えることにするよ」と、いい笑顔で言われてしまった。御剣自身が、件の騒動の張本人なことに加え、言葉のチョイスを間違えれば彼が御剣の前からしばらく姿を消すのは分かっていたので、その言葉に対して下手なことは言えなかった。だが、これでもまだマシになった方だ。バッチを失ってから数年は、成歩堂は御剣の前に姿を現さなかった。それを想えば、今こうして睦言を交わしていることが奇跡に思えてくる。この奇跡の時間が現実のものか確かめたくなって、御剣は成歩堂の頭に手を伸ばす。普段の髪型からは想像できないが、彼の髪は他の人間と同様、柔らかい。 「はは、甘やかしてくれるの？」 　どうやら今日の成歩堂にはお気に召したらしい。成歩堂の笑い声につられて、御剣の髪が揺れる。汗ばんだ肌同士がくっつくのも、成歩堂となら不快じゃない。むしろ、幸福感さえ込み上げてくる。 「なんか、嬉しそうだな」 「キミと一緒に過ごしているのだから、嬉しくもなる」 　そう言うと、成歩堂は考えるように瞳を伏せる。そのまま、頭に置かれた御剣の手からするりと抜け出してしまった。成歩堂と御剣の間に、人一人分ほどの冷たい間ができる。 　彼が何を考えているのか、正確なところは分からない。だが、彼の様子はまるで 「キミは、猫のようだ」 「猫？」 　成歩堂は、おかしそうに口元に笑みを浮かべていた。 「気まぐれで、ふらりと消える」 　成歩堂は、やっぱりおかしそうに笑っている。 「猫は、ちょっと可愛すぎる気がするけど」 「まあ、確かに、キミに可愛げはないが」 「おい」 　そうは言いつつも、成歩堂の機嫌は上向いてきたようだった。それに少しだけ安心する。 「でも、こんな良い家に住みつけるなら、猫も悪くないかな」 　そう言って笑う成歩堂に手を伸ばす、今度は、それを大人しく受け入れていた。 「キミが望むのなら、いつでも住みつけばいい。猫ではなく、『成歩堂龍一』として。もちろん、キミの大切な人も一緒に」 「本気にするなよ」 　そう言うと、成歩堂は寝返りをうって、御剣に背を向ける。シーツに半分包まれた背中は何も語らない。 「……そうか」 　御剣は、残念な気持ちを滲ませながらそう呟いた。彼がこう答えることは分かっていたが、好きな人に袖にされると、やはり少し寂しくなる。寂しさを埋めるように、成歩堂の背中にくっつけば、彼はくつくつと肩を揺らしながら笑った。 「ふふ、いじけるなよ」 「ム、いじけてなどいない」 　成歩堂は、首だけ御剣の方に向けると、カチンと歯を鳴らして、御剣の鼻先を噛む真似をした。 「ぼくが『人間』として、お前の横に立てる日は、まだまだ先だ。飼い猫になる趣味もない」 　しっとりと唇同士が重なり合う。息遣いが分かるほどの、互いの瞳以外焦点が合わないほどの距離で、成歩堂は続けた。 「ぼくは誰にも縛られない。だから、お前も……御剣も、誰かに縛られる必要はない」 　気丈に振舞っているが、きっと、その言葉は成歩堂の本心なのだろう。瞳の奥の奥で、不安に揺れている。臆病で、優しい本心。 「キミがどう思っているかは分からないが、私は私の意思で生きている。誰にも縛られてなどいない。キミとこうして過ごしているのも、偏に私自身の意思だ。キミにだって分かるだろう？」 「ん～、猫だから分からないにゃ～」 　知っていたが、本当に分からず屋な男だ。御剣は、お返しするように成歩堂の上に乗った。 「では、猫にも分かるように教えてやろう」 「あはは、なんかオヤジっぽかったぞ。今の」 「オヤジで結構」 　何がおかしいのか、成歩堂はずっとケラケラ笑っている。これではムードもへったくれもない。手の甲で頬を何度か撫であげると、成歩堂は次第に静かになり、チラリと御剣のことを見上げた。手の甲に刺さるチクチクした無精髭の感触にも、もう慣れたものだ。 「成歩堂、キミの人生はキミの意思で歩んでいけばいい。キミが望めば、家に住みついたっていいし、離れたかったら離れてもいいんだ。まあ、私も私の意思で生きる以上、みすみす逃がすような真似はしないが」 「……結局、なにが言いたいの？」
February 22, 2025 at 5:07 PM
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普段推し引けないのに、引けちゃった〜！ｱｰｰｰｰｯ!! ｳﾚｼｰｰｰｰｰｰｯ!!!!
February 12, 2025 at 11:06 AM
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御剣は、成歩堂の肩を揺さぶる。 「おい、起きろ。こんな所で寝ては風邪をひくぞ」 「ん、……むぅ、み、つるぎ？」 　成歩堂は手の甲で目を擦りながら、とろとろと瞼を押し上げた。その瞳は、今にも閉じてしまいそうなほどに頼りない。 「ほら、立ち上がれ。せめて、ベッドに行かないと」 「あはは、みつるぎがいる。夢みたいだ」 「夢じゃない。現実だ」 　複雑なことに。と御剣は心の中で付け加える。 成歩堂は体に力が入らないのか、御剣に体をほとんど預けた状態でようやく立ち上がれる有様だった。すり寄せられた成歩堂の頭から、先ほどのレモングラスの香りが香ってきて、御剣の心臓に冷や汗が流れる。御剣は、そんな情けない自分を押し殺して、なんとか成歩堂をベッドまで引きずっていく。成歩堂の部屋が狭いことが不幸中の幸いであった。 　成歩堂は、ベッドに入るとすぐに御剣の腕を引っ張った。急に引っ張られてしまい、御剣の体はベッドの方向へぐらりと傾く。 「はやく、みつるぎ。ぼく、もう眠いよ」 　まさか、私もここで寝ろというのか？　驚きのあまり、御剣は疑問を声に出すことができなかった。成歩堂のベッドは、どう見てもダブルサイズではない。ここで男二人が寝るのは無理がある。 「まだ眠くないのか？　もっとしゃべる？」 　成歩堂は、中々ベッドに入ってこない御剣のことを不思議そうに見ていた。 「これじゃあ、狭いだろう。私は、ソファでも借りるよ」 「大丈夫だよ」 　何も大丈夫ではないが？　ベッドのサイズ的にも、私の精神的にも。 　けれど、成歩堂は自信満々に御剣をベッドに引きずり込む。 「あ、おい」 「ふふん、こうすれば二人とも入るだろ？」 　そう言って、成歩堂は横向きになって御剣の体を抱きしめた。さっきから怒涛の展開の連続で、御剣はもはや、成歩堂に恐怖すら抱きそうになっていた。ほとんどゼロ距離といってもいい体勢から、成歩堂の体温が伝わってくる。 　痛いくらいに働いている心臓から、体中にたくさんの血が送られていく。酒や、風呂のせいではなく、顔に熱が集まるのが分かった。 　どうするのが正解なのか分からず、まごまごしていた御剣に痺れを切らした成歩堂が、御剣の体を動かす。御剣も成歩堂と同じように横向きにされ、腕も成歩堂を抱きしめるように、他ならぬ成歩堂自身にセッティングされた。 「こうするんだぞ」 　ニコニコ笑いながら、成歩堂はそう言った。 　真正面から抱きしめ合って、眠る？　御剣の頭を疑問符が埋め尽くしていった。頭の働きは悪くない方だが、今のこの状況を理解することができない。スウェット越しから伝わる温かい体温、硬さはあるが、それでも若干の柔らかさを感じる成歩堂の感触、そしてなにより、成歩堂からするレモングラスのシャンプーの香り。ああ、そうだった。私はいま、試されているのだった。 　御剣の思考回路がショートしていることなど全く知らない成歩堂は、御剣の首元に頭を擦りつけ てくる。もう御剣は卒倒しそうだった。いや、いっそのこと卒倒できた方が楽だったのだろう。 「みつるぎと一緒に飲むの楽しいのに、いっつもみつるぎ帰っちゃうから、さみしかった」 　悲しさが滲んだ成歩堂の言葉に、御剣の意識は一気に現実へと引き戻される。成歩堂の言葉は、なんだかとても自分に都合の良い言葉のように聞こえるが、これは夢だろうか？　いや、現実だ。触れ合う感触、温度、匂い。これらが現実でなければ何が現実だと言うのか。 「な、成歩堂。それは、本当なのだろうか……？」 　成歩堂は、御剣の首元から頭を離す。そして、御剣の目線よりも少し低い位置から、御剣のことを見上げて、微笑んだ。 「うん。でも、今日はさみしくないね」 　同意を求められるように、こてん。と首を傾げられても困る。成歩堂のことを直視できず、視線をそらして返答に窮していると、いつの間にか成歩堂の寝息が聞こえてきた。それと同時に、御剣は悟る。今日は、眠れないな。と。 　自身の予測通り、御剣は結局一睡もできなかった。身動きも取れず、かといって正面を向くこともできず、辛く苦しく長い夜を過ごした。長い長い夜を越えて、ようやく朝が訪れる。成歩堂の瞼が震えて、ゆっくりと開かれる。御剣は、思わずその動作に見入ってしまう。　 　目覚めた成歩堂に、なんと声をかければいいのだろうか。朝一番だから、やはり「おはよう」？　それとも、成歩堂が就寝間際にこぼした言葉の真意を問いただしてみた方がいいのだろうか？ 　悩んでいる御剣よりも先に話し出したのは成歩堂の方だった。一緒にベッドに入っている御剣を 見て、それから二、三度瞬きをして、成歩堂は口を開いた。 「は？　え、なに。お前、昨日泊ったの？　てか、近っ」 　その瞬間、成歩堂の部屋に、御剣がベッドから転げ落ちる盛大な音が響いたという。
January 8, 2025 at 12:54 PM
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（nrhdが）かわいいだけじゃだめですか？（泣）
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「お泊りだ！御剣怜侍！！」、「みくづ」と記載されています。 画像情報：generated by 新書ページメーカー / オリジナル素材 / フォント：源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 　率直に言ってしまうと、御剣怜侍は困っていた。 「帰るのか？」 　目の前で、瞳をゆらゆら不安そうに揺らしている友人に、御剣怜侍は困っていた。縋るように、甘えるように見つめてくる友人に、どう対応すればいいものか。常とは様子の違う友人の瞳は、何を考えているのか教えてはくれない。なにも考えていないような、それでいて、全部知っているような。御剣の心を見透かしたうえで、成歩堂はこんなことを言っているのだろうか。 　――私は、試されているのか？ 　思い直せば、いつからこんなことになってしまったのか。 　御剣は慎重に記憶を辿っていく。 　今日は、成歩堂の家で宅飲みをしていた。その間、特に変わったことはなかったはずだ。話ながら、時々酒や肴をつまむ。それを繰り返して、時計の針がてっぺんを過ぎていった頃、流石にそろそろお暇するか、と御剣が腰を上げた時だった。 　御剣の左手首を、強い力で成歩堂が掴む。 「帰るのか？」 　そして、話は冒頭へと戻っていく。 　困った。御剣は、再び脳内で呟く。成歩堂の家で飲むのは、これが初めてではない。だが、こんなに酔っている成歩堂は初めて見た。そういえば、成歩堂は今日、色々な種類の酒に手を出していた。その中に、酔いやすい酒なり組み合わせなりがあったのかもしれない。それに、自分の家という気安さが、さらに酔いを回しているのだろう。 「みつるぎ？」 　成歩堂は、常よりも舌ったらずな口調で御剣の名前を呼ぶ。御剣の意識を成歩堂に向けさせるた めか、成歩堂は掴んだ御剣の左手首を軽く揺すっていた。 「そろそろ、帰らなければ。もういい時間だ」 「いやだ」 　成歩堂は食い気味に言った。御剣は、さらに困ってしまう。 「だが、キミだってもうベロベロじゃないか。早く休んだ方がいい」 「やだやだやだ！　みつるぎはそんなこと言わないんだ！」 「いや、言うが……」 　成歩堂は、目に大粒の涙を溜めながら首を振っている。 「やーだー！　まだ一緒にいろー！　帰るなー！」 「こら、静かにしろ！　アパートの壁が薄くて、音が筒抜けだと言っていたのは、どこの誰だ」 　段々ヒートアップしていく成歩堂の駄々に、思わず御剣は成歩堂の口を自身の右手で塞いだ。実際に、隣の部屋の物音が聞こえてくるレベルの壁の薄さだ。この調子で成歩堂が駄々っ子になっていると、翌日、騒音で苦情がくることは想像に難くない。 　成歩堂は、御剣に口を覆われてもなお、もごもごと何かを訴えていた。右手を通して感じる成歩堂の唇の感覚に、不覚にも胸が跳ね上がってしまう。そして、そんな自分に呆れるまでが御剣のワンセットだった。 「帰るなと言うが、泊りの用意などしていない」 　御剣は、なんとか正論を説いて成歩堂を納得させようと試みたが、逆効果だったらしい。成歩堂は、目をパッと輝かせると、御剣の右手を口から外した。 「泊まればいいよ！　寝巻は貸すし、下着は……ちょっと待ってろ」 　そう言って、成歩堂は脱衣所へ脱兎のごとく駆けていく。その様子を見て、御剣は、自身が言葉のチョイスをミスしてしまったのだと今更ながら思い知った。それからすぐに、成歩堂は正方形状にパックされた包みを持ってきた。満足気ににこにこ笑っている。 「ほら、新品あったぞ！　この前、洗濯間に合わないかもって思って、コンビニで買ってきてたんだ。やるよ。ほら、これで泊まれる。やったー！」 　御剣は、成歩堂から差し出された下着を渋々受け取る。運がいいのか悪いのか、サイズも問題なかった。 　だが、と御剣は、未だに渋ってしまう。実は、成歩堂の家で飲んだことはあれど、成歩堂の家に泊ったことはまだなかった。多分、泊まろうと思えば、いくらでも泊まれる機会はあったのかもしれない。しかし、当の御剣がその機会を避けていた。自分がこんな気持ちを抱えたまま相手の家に泊るのは、フェアではないと御剣は感じていたからだ。想い人にくらい格好をつけたい。紳士的でいたい。 　すると、ふと御剣の左手に成歩堂の手が繋がれる。 「頼むよ。ぼくを置いていかないで」 　儚いかな。御剣の相手を想う気遣いは、その気遣いたい相手によって、簡単に崩れ去ってしまうのだ。 　率直に言ってしまうと、御剣怜侍は困っていた。 　――私は試されているのか？ 　あの後、先に成歩堂にシャワーを浴びさせて、その間に自分は帰ってしまうか、とも考えた。だが、「置いていかないで」と御剣に懇願する成歩堂の表情を思い出すと、どうしても御剣には、そんな非道な行いができなかった。今、自分がこの家から一歩でも外に出ることは、何ものにも代えがたい大罪のように思われたのだ。結局、御剣が頭を抱えている間に成歩堂がシャワーから帰ってきてしまい、御剣の逃げ場がとうとうなくなってしまったのだった。 　御剣は、大きなため息を吐いて、黒いボトルをワンプッシュする。掌にシャンプーである透明な液体が広がった。かすかに、レモングラスの匂いがする。ああ、これは、たまに成歩堂からも香ってくる―― 「みつるぎく～ん、まだ入ってますか～！」 「ムッ！？」 　急に、浴室の外から成歩堂の陽気な声が聞こえてきた。勢いで、先ほど出したシャンプーを握りつぶすように拳に力を入れてしまう。そうすると、一気にシャンプーの香りが広がったような気がして、御剣はさらに焦った。 「入っているから、部屋に戻って大人しく待っていろ！」 　御剣がそう怒鳴ると、成歩堂は「は～い」と上機嫌に返事をして去っていった。再び、御剣の口から大きなため息がこぼれた。 　シャワーを終え、髪を乾かしてリビングに戻ると、成歩堂はソファに寄りかかって眠っていた。
January 8, 2025 at 12:54 PM
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カスみたいなメモ発見
December 27, 2024 at 10:11 AM
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December 24, 2024 at 3:00 PM
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下に揺らしてコーヒーを飲み下していく。不思議と、その光景に私は胸を高鳴らせた。ドキドキする。緊張？　興奮？　喜び？ 　ゆっくりとストローから口を話して、成歩堂は話し出した。 「この事件は、まだ終わってない。終わらせちゃいけないんだ」 　成歩堂の言葉が、私の左右の耳から入り、脳と結びつく。ヂリヂリと火花が散ったように、目の前が小さく爆ぜた気がした。自分が望むものが、すぐそこで燻っている。 「ぼくは、諦めてないよ」 　成歩堂の瞳が、大胆不敵にギラリと光る。 　その瞬間、私は不安になった。ドキンと大きく音を立てるこの心臓の音が、周りの迷惑になっていないか。でも、この鼓動は止められそうもない。心臓を鷲掴みにされたように、切なく締め上げられる。 　まっすぐとこちらを仕留めるように貫く力強い眼光こそが、私の求めていたもの。嗚呼、今にも死んでしまいそうだ。 「バッチを失ったことは、この際、もうどうでもいいんだ。でも、真実だけは、明らかにしないといけない。そこからは、逃げ出すわけにはいかないんだ。ぼくには、その責任がある」 「責任……」 「ああ。捏造の件も含めて、ね。この事件は、多くの人を傷つけた。みぬきも、依頼人である奈々伏さんも、そして……あの検事さんも。その他にも、色々な人にとって良くない結末を迎えてしまった。だからこそ、ぼくの手でなんとかしたいんだ。それに、こう見えても、弁護士としての信 念を持って働いていたからね。一度引き受けた仕事は、きちんと最後までやり遂げたいんだ。どう？　ぼくって案外いい男だろ？」 　冗談めかして笑う表情は、さっきまでのへらへらした繕い笑いではない。無邪気な表情だった。 　何も、変わってなどいない。 　弁護士・成歩堂龍一は、今この場に確かにいるのだと、すぐにでも外に出て大声で言い広めたかった。消えてなんかいない。ましてや、死んでいるなどもってのほか。彼は今もなお、崇高な弁護士の魂を持って生きている。誰かのために、どこまでも強くなれる、そんな何ものにも代えがたい弁護士としての価値を内包している。 　感動した。どこまでも胸を打たれた。私の信じてきたものは、やはり正しかったのだと。足りなかった私の世界に、少しずつ何かが満ちてくる。徐々に、歯車が回っていく。 「弁護士じゃない今でも、できることはある。身軽に情報収集できるし、前の自分じゃ関わりを持たなかったような人たちから聞き込みができる。ぼくのやっていることが、黒に近いグレーであることは分かってるし、危ない橋だから、本当は一人でやり切るつもりだったけど、でも、やっぱり一人の力じゃ限界があるんだ。だから」 「ぜひ、手伝わせていただこう。真実を見つけられるのであれば、どんな労力も惜しみはしない」 「御剣……。ありがとう」 　思わず、成歩堂の手を握りながらそう言っていた。紛れもなく、心の底から出た言葉だった。 　まるで、若返ったかのような気持ちだ。キミと過ごした、あの熱い日々が蘇る。身を削るように、ぶつかり合うこともあった。背中を預け合う戦友 として支え合うこともあった。一番、生きていると実感できた時間だった。このために生きているのだと、本気で信じていた。いや、今でも信じている。あの頃の血が、再び自分の体の中を巡っているようだ。血は、ぐらぐらと煮え立つように体の中を駆け巡る。 　世界が輝いて見える。色彩豊かに見える。こんなにも、満ち足りている！ 「この事件は、ぼくの手で終わらせたい。わがままなお願いだけど」 「もちろん、心得ている」 「ただ、そのためにはまだ足りない。絶対に必要不可欠なパーツ。不正の入り込む余地のない舞台と弁護士。法で追い詰める方法が」 「ああ、そうだな。まだ、足りない」 　足りない。足りない。まだキミが足りない。私の世界にキミが足りない。私の生きる司法の世界にキミが足りない。 　成歩堂は、バッチを失ったことをどうでもいいと言っていた。ともすれば、弁護士への復帰は興味がないような言い方だった。それはいただけない。それに、今更、彼に弁護士以外の生き方なんてできるはずがない。弁護士バッチのない今でも、弁護士としての生き方をしているのだから。だから、予言しよう。キミは、再び弁護士になる。真実を掴み取ったその時を迎えたら。私が今決めた。 「本当は、誰にも言うつもりはなかったのに。御剣のせいだぞ」 「フッ。どうとでも言ってくれて構わない。それでキミの気が済むのなら」 「いや……その、ありがたいよ。本当に」 　照れた顔を隠すように、成歩堂はふいっとそっ ぽを向いた。 　こうと決めた時の成歩堂は強い。だから、きっと万事うまくいく。私はそう確信していた。そして、こうと決めた成歩堂の顔は、何よりも美しかった。真実だけを見つめる瞳は、宝石にも花にも比肩するものはない。目的のために時に大胆な行動に出る仕草は、私の官能をくすぐられる。成歩堂には、自分の信じる道をまっすぐ歩いてほしい。自分が信じるべきだと思ったものを、誰よりもまっすぐに信じてほしい。 　私以外の人間に、してやられるな。成歩堂。私は、キミに勝ちたいのと同時に、私の予想を超えていくキミが見たいのだから。 　嗚呼、欲しい。キミが欲しい！ 「あのさ、いつまで握ってるんだ？　手」 　成歩堂の声で、私はそれまで忘れていたことを思い出した。もう一度強く成歩堂の手を握る。 「言い忘れていた。父親のキミは、存外、似合っている」 　それだけ言い残して、私は机の上に置いてあった伝票を取った。それを持って会計へと向かう。外は未だ雨が降っていた。傘はない。けれど、今の私には、雨だろうが晴れだろうが、そんなことは関係なかった。
December 12, 2024 at 4:09 PM
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ミツナル
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。 付記に「信仰」、「みくづ」と記載されています。 画像情報：generated by 新書ページメーカー / オリジナル素材 / フォント：源暎こぶり明朝 以下は本文の内容です。 　何かが足りない。何が足りない？　足りない。足りない。キミが足りない。私の世界にキミが足りない。ぽっきり欠けている。キミのパーツが。 「戻る気はないと？」 「気がないっていうか。戻れないだろ。どうやって戻るんだよ」 　目の前の男は、興味もなさそうにアイスコーヒーの氷をカラカラ回した。まだ一度も口をつけていない。コーヒーの中の氷で遊んでいるだけだった。 「魔法でも使って、時間が戻れば、あんなバカなことしないんだけどなあ～」 　バカなこと。成歩堂は笑っている。 　もしも、時が戻れば、変に賢い彼のことだ。うまいことやったのかもしれない。だが、考えても仕方がない。時間は戻らない。アイスコーヒーに溶け出した氷が元には戻れないように。 　どちらにしろ、あの段階では、依頼人の有罪は決まっていた。そして、キミが捏造の証拠品を提出する仕組みになっていた。キミの性格も考慮されたうえでの罠だった。気に食わない。 「もっと上手くやれたはずなんだ」 　成歩堂は、ストローを使って氷をコーヒーの底に沈める。悔恨の言葉も、私たちの足元に沈む。その言葉の中に、氷なんかよりもずっと複雑な絡まりがあることは、他人である私が聞いても分かった。 「まあ、今さら遅いんだけどね」 　にこにこ笑う成歩堂の微笑みは、完璧にほぼ近い。その表情が、私には非常に癪に障った。 「けれど、キミは、いつだって絶体絶命の状況から逆転してきたではないか」 　成歩堂の笑顔が引っ込む。 「逆転もなにも、もう全部終わったことだろ」 　つまらなさそうに、成歩堂はアイスコーヒーをかき回す。カラカラカラカラ。店に入った時は晴れていたのに、いつの間にか雨が降っている。喫茶店の中に入っている客は、私たち以外いなかった。暗く、湿った気配が店内にも侵食している。 「それに、今の生活も結構気に入ってるんだ。誰かと生活するのって、面倒くさいだけだと思ってたけど、案外いいもんだね。少なくとも、気は紛れるし」 　再び、成歩堂がにこにこと笑う。 「その日暮らしみたいなところもあるけど、それは昔も今も変わらないし。気ままに暮らして、みぬきと遊んで、適当にピアノを弾くだけの生活だけど、案外、ぼくの性に合ってるみたいだ。今は楽しいよ」 　やはり、成歩堂はアイスコーヒーに口はつけない。 　もう、私はイライラしてたまらなかった。コーヒーに口をつけないのも、へらへら笑っているのも、法律家としての矜持を捨てようとしているのも、私という存在も過去に置き去りにしようとしているのも、全て許せなかった。 　性に合っている？　ふざけないでほしい。楽しい？　馬鹿馬鹿しい。 　では、なぜキミは苦しんでいる？　なぜ私はこんなにも満たされない？　 　終わったこと？　いいや、まだ終わりじゃない。 　ホットコーヒーに口をつける。運ばれてきて時間が経っていたが、そのコーヒーは驚くべき熱さをしていた。 「キミに、あの今にも霜の声が聞こえてきそうなレストランは似合わない」 「霜どころか、ツララも生えてるけどな。あそこ」 「キミに、ピアニストもポーカープレイヤーも似合わない」 「そんなこと言わないでくれよ。ようやく得た天職なんだからさ」 「キミに、そんな服は似合わない」 「それは普通に悪口だろ」 「キミに、諦観は似合わない」 　成歩堂は、もう何も答えなくなった。ただ、困ったような、うざったそうな顔をしながら、手持ち無沙汰にアイスコーヒーのグラスを握ったり、離したりしている。 「キミには、法廷が似合っている」 　成歩堂の瞳をまっすぐと見つめながら、私はそう告げた。さながら、愛の告白めいた言葉だった。今になって、先ほど口にしたコーヒーの苦みを自覚した。コーヒーの苦みは、私の脳を締め上げて、冷静にさせてくれる。その冷静な脳で考えても、私の持論は変わらなかった。 「だから、どうやって戻るんだよ」 　成歩堂は、その言葉に対して、肯定も否定もしなかった。 「誰がぼくのこと信じてくれる。言い訳を聞く」 「私が信じる」 「いや、言葉が悪かったな。捏造した証拠品を提出したのは、紛れもない事実だ。誰だって、事実を変えることはしちゃいけない。そのうえで、ぼくの言い訳を聞いてくれる人なんていないさ。だって、聞いたって無駄だから。結果は変わらない」 「確かに、キミにも捏造した証拠品を提出したという落ち度はある。だが、それはあくまでも真実の一端だろう？　まだ私たちの知らない真実があるはずだ。その真実を解明すれば、キミが法廷に戻ることだってできる。いや、してみせる」 　確固たる意志をもって、私はそう言い切った。迷いも、淀みも、どこにもなかった。けれど、成歩堂の顔は苦々しいものだった。 「……どうしてそこまで、必死になれるんだ。お前は、この件とは無関係だろう。どこに、そこまでの価値があるっていうんだ」 「真実には、その価値がある」 　成歩堂の体がピクリと動いた。 「キミにも、その価値がある。無茶をしてでも、どうにかするだけの価値が。今回の件に関しては、真実の先にしか、キミを救える道はない。だから、誰が止めようとも私は追い続けるぞ。真実も、キミも」 　成歩堂は俯いてしまった。雨の音だけが、店内を包んでいた。やがて、アイスコーヒーの中にあった氷が崩れて、カランと音を立てる。その音を合図に、成歩堂は再び御剣を見据えた。その眉は、困ったように八の字を作っている。 「変わったな、御剣。そんな感情に任せたこと言って。お前の大好きな決定的な証拠なんて、どこにもないのに」 「私は、自分が信じる道を行くだけだ。キミにだって、止められはしない」 「分かってるよ。……そうだな。真実の価値を誰よりも知っているお前には、話してもいいかもしれない」 　成歩堂はアイスコーヒーに口をつけた。喉を上
December 12, 2024 at 4:08 PM
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これ、制作陣の言いたかったことなのかなって思うと同時に、１～３を通してnrhdくんが掴み取った「答え」だと思ってる。大好きなセリフ
October 23, 2024 at 10:33 AM
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オド＋ダル
法廷で輝く尊い光にあてられたnrhdが自分の憧れや生きがい、大切な宝物みたいな感情を再確認して、輝かしい可能性を秘めている若者への期待、そして未来がちょっぴり楽しみになる
そんな感じ

『よく生きよ』
October 23, 2024 at 8:40 AM
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休止中に独身子持ちドルになるの中々だけど、まあなんとかなる！！（なれ〜）

なるほよのインライにみつーぎが映り込んでファン騒然の回

二枚目は切なる願い
October 18, 2024 at 4:51 PM
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みつーぎの場合、ジェット機かヘリでライブに登場してほしい
October 18, 2024 at 4:43 PM
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❤️ドルパロだあ〜〜〜いすき🤗💙

バラエティではイジられ役なのに、歌って踊るととんでもなく優雅ななるほよ見たい
October 18, 2024 at 4:39 PM
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October 6, 2024 at 8:55 AM
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結局、自分の煩悩には抗えないよねスペシャル！
＼　　　ﾄﾞﾝｯ!　　　／
October 6, 2024 at 8:55 AM
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好き勝手おしゃべりアカウントなので、好き勝手おしゃべりします！どうか許さないでください！
（2枚目は言い訳）
September 20, 2024 at 11:32 AM
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昨日急に天啓を得たのでジャッと勢いで書きました。
ヤマナシ！オチナシ！イミナシ！ねむねむな話🐏💤
September 18, 2024 at 11:41 AM
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親子の戸籍まわりはよく分かっていませんが
September 13, 2024 at 8:19 AM
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🥰❤️💙😇
August 28, 2024 at 11:37 AM
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キリナル
July 26, 2024 at 9:08 AM
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図書館にあったから借りてきちゃった！！！
ひゃっほーい
July 20, 2024 at 10:33 AM
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やるわよ〜〜〜〜〜！！！！！！
July 1, 2024 at 2:32 AM