(🦅P許可版)

『鳥は恋人』

あの夏の日から幾日が経った。暫く家には帰っていない。あの卵はどうなったのか。考えたくない事柄が頭の中を巡ってやまない。そんな中街をパトロールしている時見掛けてしまった、いないはずの赤い翼。こちらを見つめる猛禽の瞳……
「やあ🍰くん、久し振り」

長い廊下を駆ける、明るくなった筈の家はまた水底のように静かになっていた。家中に散乱する卵の殻、殻、殻。アレは何個目の中身だったのだろう。
最後の部屋に辿り着く。父の寝室。そこに父の姿は無く、ただ「達者で」と書かれた紙切れと一等大きな赤い羽があるばかり。

一年も経たない夏、小鳥は死んでしまった。理由は分からない。
しかしあの時とは異なり悲しみに暮れることもなく、寧ろどこか満ち足りたような父の姿。何故かと🍰は問う。父は答える。「寂しくないようあいつを俺に残してくれた」

訳が分からない、と切り捨てようにも🍰は見てしまっていた。小鳥が死ぬ前日、寝室で🦅の名を呼びながら何かを生む父の姿を。何を、あれは夏の暑さが見せたまやかしだ―――そう言ってしまいたかった。
父の手の上には小さな卵が一つ、愛おしそうに包まれていた。