「もう来ないと思った……」
来るなら、起きてたのに。とろとろとした頭のままで呟いた言葉は男に届いたのか、そっと身を屈めた男の、冷たい唇が額に触れた。
「ン……、」
あやすように男の指先が、再び頭を撫でる。地肌を辿り、耳の裏をくすぐって、まるで犬猫の扱いだが、この男にされるのは嫌じゃない。間近で見上げた赤い瞳を見返して、続きをねだる。
身体を起こした男が、コートを乱雑に脱ぎ落とすのを夢現に見守って、夜の匂いを強く纏ったままの男をベッドに引き込んだ。
「もう来ないと思った……」
来るなら、起きてたのに。とろとろとした頭のままで呟いた言葉は男に届いたのか、そっと身を屈めた男の、冷たい唇が額に触れた。
「ン……、」
あやすように男の指先が、再び頭を撫でる。地肌を辿り、耳の裏をくすぐって、まるで犬猫の扱いだが、この男にされるのは嫌じゃない。間近で見上げた赤い瞳を見返して、続きをねだる。
身体を起こした男が、コートを乱雑に脱ぎ落とすのを夢現に見守って、夜の匂いを強く纏ったままの男をベッドに引き込んだ。
「俺もそれは考えました。3日ほど滝にも打たれてみましたが、無心であろうとすればするほど、水の顔が頭から離れない。兄弟たちにも相談すれば、皆口を揃えて言うのです。『絶対に逃がすな!』と、」
今度こそ水が声を上げて笑いだした。
「逃がすなって…!ハハッあんた、ヤンチャばっかして、ご家族の手を焼かせているんだろう。嫁を貰って身を落ち着けろってことじゃないか?」
遠慮なく水に笑われても、天狗は気分を害した様子もなく、眩しそうに水を見つめた。
「俺もそれは考えました。3日ほど滝にも打たれてみましたが、無心であろうとすればするほど、水の顔が頭から離れない。兄弟たちにも相談すれば、皆口を揃えて言うのです。『絶対に逃がすな!』と、」
今度こそ水が声を上げて笑いだした。
「逃がすなって…!ハハッあんた、ヤンチャばっかして、ご家族の手を焼かせているんだろう。嫁を貰って身を落ち着けろってことじゃないか?」
遠慮なく水に笑われても、天狗は気分を害した様子もなく、眩しそうに水を見つめた。
「ああ!楽しかった!だから、もっとアンタと一緒にいたいよ」
「……水を差すようで悪いが、それは誠に恋情かの?ワシにはどうも、気が昂ったのを勘違いしてるように思えるが」
声が上擦りそうになるのを押さえこみ、晒した片目で若い天狗を睨めつける。必死に冷静な顔を取り繕う。一刻も早くこの天狗に立ち去ってほしい。これ以上、水の前でその目を、恋に煌めく目を見せてくれるな。
「ああ!楽しかった!だから、もっとアンタと一緒にいたいよ」
「……水を差すようで悪いが、それは誠に恋情かの?ワシにはどうも、気が昂ったのを勘違いしてるように思えるが」
声が上擦りそうになるのを押さえこみ、晒した片目で若い天狗を睨めつける。必死に冷静な顔を取り繕う。一刻も早くこの天狗に立ち去ってほしい。これ以上、水の前でその目を、恋に煌めく目を見せてくれるな。
「楽しかった!あんなに胸が騒いで、どこまでも飛んでいきたくなる気持ちは始めてだったんだ」
ふは、と隣から吹き出す声に父は視線をやり、ぞわ、と嫌悪が体を走った。
あ。
奪われる。
水が笑う。呆れたように、仕方ない奴だと言わんばかりに!
ど、ど、と心臓が嫌に大きく脈打つ。
「楽しかった!あんなに胸が騒いで、どこまでも飛んでいきたくなる気持ちは始めてだったんだ」
ふは、と隣から吹き出す声に父は視線をやり、ぞわ、と嫌悪が体を走った。
あ。
奪われる。
水が笑う。呆れたように、仕方ない奴だと言わんばかりに!
ど、ど、と心臓が嫌に大きく脈打つ。