かふ
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かふ
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WT本誌派
くるせん.いこさん.みずいこが好き
妄言しか言わないし、解釈はゆるい
創作中の独り言用

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🥦誕生日おめでとう短文
　財布を開くたびに視界の端にちらつく小さな紙切れは、指先で触れればぺらりと薄い感触がする。 　生駒はもう忘れてしまっただろうか。 「今はこれで許してね」 　そう言って互いにまだ高校生だった時分、学ランを着た生駒が古典のノートをちぎって作った『なんでもしたる券』はその名の通り生駒になんでもお願いできるという夢のようなチケットだった。 　このどこにでも売っている大学ノートの切れ端が、どれだけ水上に勇気を与えてくれるのか。きっと生駒は知りもしない。 　力強い筆圧で添えられた有効期限は発券からぴったり一年間。しかし、結局は使われることのないままに、それはただの紙切れへとなり果てた。そうして数年、今も印字のかすれたレシートやパン屋のポイントシールに紛れてひっそりと仕舞い込まれている。 　それは水上にとっての最強のゲン担ぎであり、手放せない秘密そのものだ。　 | 秘密 | かふ＠mochimoti123
December 5, 2025 at 10:32 AM
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在室率が高い🥦
November 13, 2024 at 4:27 AM
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みんなに心配されながら料理をする隊長とこっそりパーティをする遊撃手
November 7, 2024 at 1:39 PM
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🥽さんと出会ったかいくんのサビはこう！
November 4, 2024 at 10:34 AM
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SEが後発的に発言した記録ないって情報が出た時に書いたやつ
小学生じんさんの未知との遭遇
カメラ目線🥽さんにビビるびっくりするじんさんはいくら書いてもいい
November 1, 2024 at 10:24 PM
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夜に稽古してる🥽さんの話
たちかーさんから見たじんのともだち
November 1, 2024 at 9:56 PM
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October 24, 2024 at 11:39 PM
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みずいこ
ボーダーを去ったあの人はいつか自分のことを忘れてしまうんじゃないか、そうならないようにせっせと通ってはマーキングをする話
October 24, 2024 at 11:38 PM
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Bluesky のユーザー数は現在 1,000 万人を超えており、私は #3,112,529 番目でした。
September 19, 2024 at 9:34 AM
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加味すると他の知り合いは弾かれてしまう。程度の差こそあれ、この場にいる全員がそれをわかっているから水上が問答無用で生駒を呼び出してもアイツまたやってんな～とただの景色として流される。 　現に国近と顔を見合わせてほくそ笑んでいれば呆れた声が周囲からはかかったが、ほとんどみんな笑っていた。冷やかしのガヤに水上は羨ましいやろ、と返してのんびりと迎えが来るのを待つ。 　想定していた時間よりずっと早く、生駒は現れた。店の入り口で顔だけ覗かせて控えめに「たのもーう……」と様子を伺っている。もちろん気付いた酔っぱらいたちの手によりあっというまに店内へと引きずり込まれていた。 　絡んでくる後輩たち一人一人に返事をしながら、それでもまっすぐ水上の元へと向かってくる。どんどんと近づいてくる声に水上が突っ伏していた机からのそりと身を起こせば音もなく横に生駒が座っていた。 「お迎えきたで」 「ありがとうございます。大阪帰りそびれましたわ」 「まだ三門（ここ）におれってことやな。立てる？」 「無理っすね」 「おんぶとだっこ、どっちがいい？」 「おんぶでお願いします」 「帰る前にトイレ行っとく？」 「いや、こうなる前にトイレは行ったんで平気すわ」 「あらそう？　ほな帰ろか」 　先に立ち上がった生駒が水上の前にしゃがみこんで背中に乗るよう促した。その首に腕を回してしがみつくと、よいしょ、と軽い掛け声と共にゆっくり立ち上がる。重くないすか、そう聞いたら全然平気と返ってきて、生駒は軽く身動ぎをして水上のポジションを調 整するとそのまま歩き出した。 「かーちゃんが来てくれて良かったじゃねーか」 「うっさいわ」 「逞しいな、水上のお母さんは」 「こうなったの八割おまえのせいやからな」 「こら、さとくん！　お口悪いで」 　すれ違いざま影浦と穂刈に悪態をついたらお叱りを受けた。どうやら生駒のスイッチが入ってしまったようだ。 「ちゃんとご挨拶しとき。ほらお友だちに手ぇ振って」 「は～い。ほな、俺帰るわ。バイバイ」 　幼稚園の前でよく見るやつだ、と笑い声が上がる。酔いたいよりも騒ぎたいがまだまだ強いお年頃、みんなノリノリで手を振り返してくれた。さとくんばいばーい、と上がる声。唯一、振り返してこなかった影浦は笑いすぎて椅子ごとひっくり返っていた。 　こうしてお母さんスイッチの入ったイコママはでっかく成長した長男を背に店を後にする。さとくん親離れする気ないよね、なんて笑いながら同級生はそれを見送った。 　ボーダーへの直通通路への入り口を潜り、人気のない連絡通路を歩く。ボーダー本部内、宿舎住みの水上はタクシーを使って家の前まで帰るということができない。一般人の入れない区画はどうやっても自分の足で歩く羽目になる。つまり腰が抜けてる限り、誰かに引き摺られて帰るしか方法はなかった。 　てっきり換装体で迎えに来ると思っていたが、生駒は生身でやって来て軽々と水上を運んでいる。太ってはいないが縦に長いせいでそれなりの重さがある水上を、おまえはこたつ布団ぐらい軽いなと平気な顔で言ってのけるのだから筋肉とは偉大だ。 「あ。イコさん」 「ん？　どないした？」 「まずいかも」 「気持ち悪くなった？」 「トイレ行きたい」 「えー？？　あんたって子は、さっきあれだけトイレ行っときなさいって言うたのに」 「あの時は行きたくなかったんやもん。今行きたいんやもん」 「困った子やなぁ。……よし、あそこ入るで」 　連絡通路内に必ず設置されている公衆トイレ。一体だれが使うのかと思っていたがこういう時を想定していたのか、と生駒は感動しながらスピードを上げ個室に水上を放り込んだ。そしたら中からまた声が。 「イコさん、ズボン自分で脱げへん。腰上がらん。持ち上げてー」 「も～～！！　手のかかる子やわぁ！」 　こんな扱いをしたりされたりしている生駒のことを水上は心底から慕っている。どの口が、と言われるかもしれないが。自分が少しどころではなく面倒臭い人間だという自覚のある水上にとって、自身の厄介な面を『おもろいなぁ』でさらりと受け入れる生駒との出会いは衝撃だった。それは正しくインプリンティングと呼ばれるもので、水上は生駒を三門における中心点に据えた。 　そこまで狙ってはいなかったが、気が付けば周囲からの認識もそうなっていた。水上に何かあれば生駒の元へ。そうやって集まってきた水上のちょっとアレなやらかしにも生駒は叱ることなく『おまえすごいな』と素朴に感動してくれる。これには勘違いしたひな鳥もぴよぴよ鳴こうというものだ。 　そんなわけで生駒の全てにＮＧなしの水上はいくら迷惑をかけても怒られないという甘えの下に、日々大 暴れしている。それを裏付けるように狭い公衆トイレの個室で水上を持ち上げている生駒は「はい抱っこー」とイコママ風味でノリノリだった。やはり叱られる気配は皆無である。 　好き放題かました末に部屋まで送り届けられた水上だったが酒が抜けたら恥じらいが舞い戻ってきたようで次の日、作戦室できちんと土下座で謝罪はした。生駒は全く気にしていないどころか、そんなこともあったなとすでに思い出として過去の景色になっていた。水上にとっては人生でもかなり上位に入るポカだったのだが生駒の心にランクインするにはインパクトが足りなかったらしい。負けず嫌いが極まっている水上はなぜかここで変な方向にやる気を見せるようになってしまうのだが、それはまた別の話だ。 　ところで残念極まりないその場には後輩たち三人もいた。生駒隊公開土下座である。床に丸まる先輩にいったい何を思ったのか。それぞれ異なる反応を見せた後輩たちだが一つだけ、共通した感想を抱いた。下の世話（あそこ）までならイコさんにお願いしても許されるのか、と。もちろん誰一人としてそんなことを生駒にさせるつもりはなかったが、ひとつの指標が生まれた瞬間ではあった。 　こうして無事、『酒が入ると隊長に甘え倒す生駒隊』が誕生した。厳密にはその素地が。生駒にはさっぱり響かなかったのに後輩たちにはバチバチに響いて共鳴した。これから先、全員が水上先輩と比べたら自分なんてまだまだそんな……と謙遜しながら『あれよりはマシ』を免罪符に酒と向き合っていくことになる。
August 3, 2024 at 10:33 AM
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隊長大好き水上敏志が酔ってイコさんに電話をかける話。
『生駒隊は酒が入ると隊長を呼び出す』 　今ではボーダー内に広く周知されているこの噂が流れ出したのは生駒が大学三回生の冬のことだった。それは彼が可愛がっている後輩が二十歳を迎えて酒を飲めるようになった時期とぴったり一致しており、つまりはその後輩――水上が元凶であり始まりだったことを意味している。 　二十歳を迎えた正隊員はボーダーの金で祝い酒が飲める。先輩隊員たちから聞いていたその言葉の通り、上が手配した店を貸し切り水上を含めた同年の正隊員全員揃っての祝いの宴は開かれた。 　とどのつまりはアルコールを制御できるようになれということらしい。最初に同席していたお偉いさんがいくつかの制約と共に「後は好きにしなさい（意訳）」とのお言葉を残して去ってから全員で顔を見合わせる。さて、許容されたギリギリを楽しむ為にはどうするか。ただ飲むだけはさすがにもったいない。 　踊るか、せっかくだし 　不意に上がった声に、なぜ、と疑問を呈するものは残念ながらその場にいなかった。いつもなら窘めてくる面子もやってみるかとやたらと乗り気で、つまりは全部穂刈のせいだ。 　もちろんボーダー隊員のそのような奇行が許されるはずはないので最初から場所を指定して隔離した上の判断は正しかったといえる。一度は失敗しておけ、ただし人目のないところでな。そのための催しだ。期待されているのならば盛大にやらかさなければ礼儀にもとるだろう。 　決めてしまえば迷いはない。テーブルを壁際に寄せ て場所を作った。誰かが乾杯のコールをする。それに合わせて手拍子が上がった。だんだんと早くなっていくリズムに乗って一人、また一人とステップを踏み出す。まだろくにアルコールは入っていないというのに全員が場の空気に酔っていた。ボーダーにいる限り外で好き勝手できる機会はまずありえない。だったら余すところなく堪能しておかないともったいないというものだ。 　案外踊れるものだなあ、と一通り体を動かしやりきってから改めて酒を飲む。そこからはまったりだらだらと盃ばかりを重ねていった。お高い店でテーブルを除けてまで全員が踊り狂うのはいかがなものかと自分たちでも思う。コース形式で始まったはずなのにいつの間にか立食形式になっていた。もう滅茶苦茶だ。そのくせ店には確認を取って料理の出し方など諸々対応してもらってるのだから行動力と決断力と交渉力と、まあなんか色々揃ってるやつらの悪ノリって質が悪い。 　余談だがこの次の年から祝い酒でコース料理は振る舞われなくなったらしい。おかしなところで爪痕を残してしまったと後日、笑い話となった。 　一筋縄ではいかない人間の集まりだが幸いなことに酒癖が終わってるやつはいなかった。おかげで最後まで楽しい宴で幕を閉じそうだ。上の想定していたものとは異なっているだろうが、好きにしろと言われたからこうなったと思って諦めてもらおう。 　さて、ここにきて水上の身には困ったことが起きていた。ちょっと休憩と椅子に腰かけたら運動不足が祟ったか、酒が回りすぎたのか。おそらくはそのどちらもだろうが、腰が立たなくなってしまったのだ。酔ってふらついて立ち上がれないといったわけではなく腰から下に全く力が入らない。もうすぐ〆の茶漬け（鰻）も出てくるというのに、このままでは帰ること ができない。 「あかん」 「どした～？」 「俺立てへんわ。足がまったく動かへん」 「タクシーいる～？」 「いらんいらん。どうせ歩かなあかんし」 「なら這いつくばって進むしかないねぇ」 「段差どうすんの？」 「転がってこ～！」 「俺の死因、階段落ちなん？？」 　隣に座った国近がケラケラと笑い声を上げるのに釣られて水上もテーブルに突っ伏して笑う。腰が抜けても楽しいお年頃だが、これは困った。 「ゾエさん担いで行こうか？」 「おまえも酒入っとるやないか」 「でも動けないんでしょ？」 「悪いからええよ。大丈夫大丈夫」 　後ろを通りかかった北添からの救いの手を断り、緩慢にデバイスを取り出す。電話帳から目的の人物を見つけた水上は画面を何度かタップしてコール音が鳴り始めたのを確認するとスピーカーモードにしてからまたテーブルに突っ伏した。 　――もしもし？ 「あ、イコさん？」 　――あれ、今日ってお祝いの日やなかったっけ？ 「飲んでます飲んでます」 　――せやんな。どしたん？　なんかあった？ 「それがですね、困ったことになりまして」 　――気持ち悪くなった？ 「いえ全く。至って普通です。そうやなくて立てへんのですよ」 　――ふらついてんの？ 「いやいや。足に力はいらへんの。まったく動かれへんのです」 　――……それってやばない？ 「やばいすね。今トイレ行きたくなったら俺ボーダーやめて大阪帰ります」 　――強気に漏らしていく気やん。……大丈夫？　大阪帰ったりせえへん？ 「そっちは今んとこ問題ないんで平気っす。ただこのままやと三門のお家にも帰れへんのですわ」 　――あ～なるほどな～ 「だからねイコさん、迎えに来てください」 　――どこで飲んでんの？ 「駅の連絡通路を右に出てパチンコ屋の向かいの路地進んだとこにある青い看板のビルの地下にある店」 　――こういう時って店の名前教えてくれるもんやないの？ 「忘れました。ヒントは鴨とチーズの燻製が旨いとこです」 　――まあわかるからいいけど。なるべく早めにつくようにするからトイレは我慢しててな 「はい。ご迷惑おかけします」 　――ええよ～。大阪帰らんといてな 「は～い」 　電話を切って顔を上げる。これで安心、と氷が溶けて薄くなった酒を飲み干した。 「お迎え来てもらえてよかったね～」 「ほんまになー」 　水上にとって三門で無条件に頼れる年長者は生駒しかいない。声をかければ助けてくれる相手はいるが、水上が損得勘定考慮せず寄りかかれるかどうかまでを
August 3, 2024 at 10:33 AM
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隊長は「かっこいいけどかわいい派」三人と、隊長は「かっこいい派」一人には認識の断絶がある。
July 29, 2024 at 3:12 AM
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みずいこ
今日は暑いから隊長のかわいいところを上げてく日とする。
July 29, 2024 at 3:12 AM
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のセレクトといえど手は抜かない。 「ウチはタコ食べたいわ」 「ええな、タコ。そういえば俺が下処理でタコ叩いてたら絵面が事件現場すぎて水上ドン引きさせたって話したっけ？」 「全部言ってるやん」 　他愛のない話をしながら二人で夜を歩く。気まぐれに入り込んだ路地を探索し、元来た道を引き返して、まだ賑わう人波に二人して身を潜ませる。新しいものを見つけては足を止める生駒に付き合って。興味があっちこっちに飛ぶ生駒に振り回されながら。それを楽しんで時折りというには高頻度な生駒のボケにもしっかりツッコミを返しつつ街灯が照らす先へと進んだ。 「案外見つからんもんやな」 「迅さんのお墨付きやなかったん？」 「辿り着くまでの時間は聞いてへんかったわ。朝まで迷子やったらどないしよ……」 「いつか着くなら迷子やないやろ。ほら行くで。ウチもうタコ食べんと帰られへんわ」 「それは俺もそう！」 　自分にとって馴染んだリズムで会話ができる。それだけのことが三門ではとても得難い。……いや、地元にもここまで自然体でツッコミ所の多い人はいなかったが。 　ボーダーに来て、生駒隊に入っていなければ。きっとこんなに長く三門にはいなかっただろう。大学進学を機に地元か、他の地方都市か、とにかくどこか他の場所へと引っ越していたに違いない。もしかしたら高校卒業まで持たなかった可能性 だってある。それは水上や隠岐も同じだ。自分たちを見つけた生駒が錨となってくれたから、自分たちは三門に居続けることができた 　隊が解散してもそれは変わらない。本当にどうしようもなく、生駒隊の男たちのことを強く言えはしない。居心地の良すぎるその場所があまりにピタリとハマってしまったから、どうしたって細井は三門を離れられずにいる。そういった諸々の結果として二十二時過ぎに二人でタコを求めてさ迷う羽目になったとしても、それも楽しいからまあいいかで済ませてしまうのだった。
July 27, 2024 at 10:30 PM
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隊長大好き細井真織が酔ってイコさんに電話をかける話。
　生駒隊は酒が入ると隊長を呼び出す、というのはボーダー内で生駒隊についての意識調査をすれば七位あたりに上がってくる、立派なパブリックイメージだ。なぜわかるかって？　以前、生駒が個人ランク戦で無作為に百人に声をかけて取ったアンケート結果がそんな感じだったから。なにしとんねん、と呆れるが生駒という人は戦ってる時以外は概ねしょうもないことしかしないので仕方がない。 　そんなしょうもないことを全力で楽しむ人の元に集った男どもは生駒に輪をかけたどうしようもなさを誇る。特に酒が入ると本当に駄目だ。普段は飄々とした参謀も、人当りの柔らかい狙撃手も、お調子者の遊撃手も、軒並み揃って返事だけが一丁前の甘ったれと化す。そしてその甘えのターゲットはただ一人、隊長である生駒へと向けられていた。 　最初こそ驚いていた周囲だったが、そこは対応能力と処理能力に長けたボーダー隊員たち。あっという間に『生駒隊は仲が良い』と受け入れられて日常となってしまった。 　なんとも頭が痛いことだ。誰か一人くらいは止めに入れやと思うのだがまったくもって不本意なことに、この『酒を飲んだ生駒隊』には細井自身もばっちりと含まれている。誠に遺憾であるが、どうしようもないのはお互い様と細井も早々に居直った。 　――もしもし？ 「……」 　――マリオちゃん？ 「イコさん」 　――うん。どないした？ 「……さっきまでお酒飲んでて」 　――うん 「この後、二次会なんやけど」 　――うん 「そんな気分やないからどうしよかなって」 　――そういう日もあるな 「嘘やん。イコさん、そんな日ないやろ」 　――あるある、あるで。前に迅たちとジンギスカン食べに行ったんやけどな、ラムチョップ食べてたら差し歯取れてしもてん。しかもな、それが前歯やねん 「ぷっ」　 　――歯が取れるってけっこう大ごとなのになぁ。なんで前歯って無いとあんなに間抜けになるんやろ？　俺がニコッてするだけで笑ってもらえたのはお得やけど、調子のってずっとニコニコしてたらだんだんみんなひぃひぃ言いながら痙攣しだした上に笑い声がデカすぎてお店から叱られてしもたわ 「アホや」 　――でも注意しにきたおじちゃんも笑わせたからな。事情はわかりましたって下がっていったで 「事情しょうもな！」 　――さすがにその夜は反省して二次会は行かずにまっすぐ帰ったわ。歯もないし。まあみんなも横腹痛いって帰ってったから二次会なかったんやけど。迅のあばらにひび入れてしもたわ 「なんかちゃうなあ」 　――マリオちゃん、マリオちゃん 「なに？　ウチの歯は無事やで」 　――そら良かった。そうやなくてな、道路の方見てみて 「え？」 　――来ちゃった 「は？　はぁ！？」 　ビルの出口でたむろして二次会をどこにするか、そもそも行くか行かないか。上手く話が纏まらず揉めているのを横目に時間潰しに電話をしたらその相手がすぐそこにいた。完全にホラーの文脈でジャンルはおそらくサイコスリラー。ちっちゃく手を振ってるのが生駒だから驚きだけで済んでいるが、他のやつなら即通報案件だ。 「ごめんっ、迎え来てしもたわ。ちょっとウチ今日はパスで。ほなおやすみっ！」 　完全に勢いだった。断りを入れて通りへと踏み出す。後ろから刺さる視線が痛い。きっと明日大学で色々と聞かれるだろう。ただもう一時間近く何も決まらずもたついて、オチのない話をするななんて狭量なことは言わないがそれにしたって限度はある。最悪、あそこに残ってる出水が何とかするやろ、そう開き直って生駒の元へと走った。 「あら、あっちはええの？」 「はぁ～……ええよ、もうダルかったし」 「楽しいお酒やなかったん？」 「雑にいじられて疲れただけやったわ」 「ふーん。あ、出水おるやん」 　こちらを見てくる好奇の視線に生駒はぺこりと礼をした。つられて向こうもお辞儀をしてくるのが少し可笑しい。 「イコさんは何してたん？」 「ん？　俺はな、いま迷子中やねん」 　さっさとこの場から離れたくて生駒を引っ張り歩き出す。自分を迎えに来たわけではないことはわかっていたが、こんな時間に何を一人でふらふらしているのか。気になって問いかければずいぶんと気の抜けた答えが返ってきた。 「イコさんて三門何年目やったっけ？」 「ちゃうねん。最近な、この辺におでんの屋台が出るんやって。駅の周り何ヵ所か転々としてるらしいけど、まだ出会ったことなくてなぁ」 「それで徘徊してたんか」 「今日なら辿り着けるて迅のお墨付きもろたから散歩がてら探してた。マリオちゃんも一緒にどう？　隠岐のオススメやから外れなしやと思うで」 　ここで行かないと言えば、きっと生駒は迷子を切り上げて細井を部屋まで送り届けるだろう。女の子の一人歩きは危ないから、とおでんは諦めて。食べて送られるか食べずにおくられるか。どっちにしろ結果は同じなら一緒に夜の散歩をするのも悪くはない。 「そんなに食べれへんで」 「ほな吟味して挑まなあかんな」 　何事にも全力な生駒はおでんの具にも妥協を許さない。俺は冬瓜が食べたいんやけど屋台にあると思う？　まっすぐ前を向いてそう言う生駒はいつだって真剣に生きている。もちろんおでんの具
July 27, 2024 at 10:30 PM
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心に植え付けられそうになったが、それを防ぐのもまたボーダー隊員の務めである。 「すっげぇ！！　生駒さんあんなに力あんのかよ、かっけぇ……！」 　軽い興奮状態で生駒のパワーに心を打たれた佐伯による怒涛の先輩自慢がここから始まるので「ボーダー隊員は厳つくて怖い」といった印象はある程度は緩和されることだろう。 『眠くなったら信頼できる人に自分を丸投げする』 　つまりは生駒に電話をかける。 　これが隠岐が編み出した安心安全完璧な対策だ。今のところ間違いは起こっていない。 　というより酒が入って眠った隠岐は寝ぼけた状態で歩くなんてできないくらいの本気寝をかますので女性に持ち帰られる恐れは実はない、ということに周りが気付いたのは生駒のお迎えが常態化してからだった。 　ただしこれは必ず迎えが来るという安心感から熟睡するに至っている部分が大きい。以前の隠岐はうつらうつらと半端に覚醒していて隙が多く、手を引かれたら付いていきそうな危うさがあった。だからこそ同級生は気を揉んでいたのだが。生駒を呼ぶようになってからはそちらの心配はなくなった。今のところ、脱力しきってぐっすり眠る成人男性を担いでまで持ち帰ろうとするガッツのある女の子は出てきていない。 　意識のない隠岐を人力運搬する生駒にも見慣れてきた頃のこと。「寝てる人間て運びにくいわ」と生駒が動力運搬の導入を検討しているとの噂が ボーダー内を駆け抜けた。そこまでするのかと俄かに周囲が騒がしくなり、生駒へと総ツッコミ（生駒隊を除く）が入ったが時すでに遅し。二年落ち走行八千キロのＳＵＶは生駒の元へと納車された後だった。 　ここまでくると同級生たちもさすがに苦言を呈するようになる。いくらなんでも負担をかけすぎじゃないか、そう窘めてはみたものの当の隠岐は「イコさんずっと車欲しいて言ってたし」とどこ吹く風。一番に諫めそうな細井がまったく気にせず生駒の迎えに便乗しているのを目の当たりにして同級生一同は思った。 　こいつらには何を言っても手遅れだ。 　眠った隠岐を助手席に乗せてのドライブを生駒が楽しんでいる限り、生駒隊にストッパーは生まれない。 　こうして芯まで甘やかされた隠岐は世界一安全な場所で目を覚ます。生駒隊カラーのＳＵＶの助手席はやたらと寝心地が良くていくらでも寝ていられる。実は最初から隠岐が眠ることを想定してシートは張り替えたらしい。こっそり水上が教えてくれたそれは何度思い返しても隠岐の胸を温かくする。心地良い振動と見覚えのありすぎる車内に安堵し、思わず口元を緩めれば運転席から「おはよ」と声がかかった。 「……おはようございます」 「声ガラガラやん。お茶飲んどこか」 　目覚めた時、ドリンクホルダーにはいつでも温かいお茶が置かれている。夏になればきっと冷たいドリンクに変わるだろう。こういうの女の子に してあげればモテるのに。毎回そう思うが生駒に伝えたことはない。隠岐のために整えられた助手席がいつか別の誰かのものになるのだとしても。今はまだ、自分たちだけの隊長でいてほしいから、隠岐はそれを教えてあげないのだった。
July 24, 2024 at 6:24 AM
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隊長大好き隠岐考二が酔ってイコさんに電話をかける話。
　隠岐はアルコールの摂取量がある一定値を超えると眠くなる体質だ。ただしその値はその日の天気や飲んだ酒と肴の組み合わせ、誰と飲んだかなどの諸々の外的要因によって大幅に変動する。グラス一杯のチューハイでうとうとすることもあれば一人でワインを空けてもけろりとしていることもあった。酔ったから眠くなるというのとはまた違うからか対策が難しく、急にすこんと寝落ちするものだから友人たちも最初は驚いた。 　やわらかい印象に反して図太いのかけっこうどこでも眠る。店の中はもちろんのこと、二次会に向かう途中で姿を消したと思ったらコンビニの駐車場で車止めを枕に寝ていたこともあった。季節は冬、いくら三門が温暖な地域と言えど普通に死ぬ。危険すぎる。 　同じ隊の誼でその度に細井が叩き起こしては連れ帰っていたのだがボーダー外の飲み会ではそうもいかない。実はこの二人、狙ってやってるのかと疑問に思うほど大学での交友関係が被ってない。ボーダー隊員ゼロの飲み会にはまだ参加していないが、それも時間の問題でいつか一人で飲みに行っては知らない女性に持ち帰られる日が来そうだと同級生たちは危惧している。ボーダーにスキャンダルは御法度だ。 　そんなわけで飲み会に行くたびに細井をはじめとしたボーダー面子から耳にたこができるほど言われ続けた隠岐はある対策を編み出した。こうすれば絶対大丈夫、という最良で確実な方法を。 　――もしもし？ 「イコさんやぁ」 　――そういうおまえは隠岐やな 「ちゃいます」 　――えっ、隠岐ちゃうかった？　ほな俺と話してるあなたはいったいどなた……？ 「おれ考二です」 　――……なるほど。考二くんの方やったか 「もうイコさん、間違えんといてくださいよぉ」 　――ごめんて。今夜はずいぶんご機嫌やなぁ 「そうやろか？」 　――いつもよりゆるふわやで 「ふふっ。今ね、けっこういい気分なんです」 　――それはええことやな 「でもそろそろ睡魔（アイツ）が来るんですわ」 　――あら、眠たなってきた？ 「ぬくなってきました」 　――ん～？　今日はあかん日なん？ 「あかんですねぇ。あっちの方に誰かおった気ぃしますけど今おらんし帰ったんかなぁ？」 　――置いてかれてしもたんか 「たぶんおると思うんですけど誰やったかなぁ」 　――記憶もゆるふわやん 「もうね、眠いんですわ」 　――隠岐みたいなイケメン落ちてたら魔が差す子もおるからな。女の子に十字架背負わせたらあかんで 「イケメンちゃいますよ。おれ考二ですやん」 　――せやったな。考二くんはお迎えいる？ 「んっふ、うん。ふ、ふふ、ふ。ぐふっ」 　――笑てるわ。これもうギリギリやろ。まだ寝 なや～ 「ふ、実はもう限界、なんで、ふ。ふふっ……ふぅ……あかん」 　――こらこら、落ちるな。もうちょい頑張れ。今どこにおるん？ 「おとうふ屋さんのとなり。厚揚げのうまいとこ」 　――わかった。今から行くからな。我慢できへんかったら荷物抱えて寝とき。店の外に出たらあかんよ 「はぁ～い」 　もにょもにょと居場所を絞り出してから隠岐はそのまますこんと落ちた。きちんと言い付けを守り鞄を抱えて丸くなって眠る。隠岐くん寝てるー！　気付いた誰かが上げる声も、居酒屋の喧騒も、起きろと揺さぶってくる佐伯の手も隠岐の妨げにはならない。セーフティを発動させた隠岐はちょっとやそっとの事では覚醒することはないのである。 　そんなわけで生駒が店に着いた時、隠岐は変わらず眠りこけていた。 「お邪魔しまーす」 　大きくはないのによく通る低音が座敷に響く。上がり框へと目を向ければ筋肉質な強面がじっとこちらを見つめていた。それを受けた室内は「あれ誰？」という声と「あ、イコさんだ」という声で二極化されている。ボーダー外の隠岐の友人たちにとって生駒はそこそこ知られた人物だった。 「生駒さんっ、お疲れ様です！」 　すやすやと健やかに眠る隠岐の隣で番をしていた佐伯が立ち上がる。そしてそのまま直角に礼。それを見て「あれ誰？」派はますますざわついた。 「お疲れさん。佐伯はいつも元気で気持ちがええなぁ」 「あざっす！！」 　顔見知りの隠岐の友人たちに手を振りながら座敷へと上がった生駒は佐伯に金を払ってから酔っぱらいの回収にかかる。大事そうに抱え込んでるサコッシュを拾い上げると肩にかけ、よいしょ、と軽い掛け声で隠岐を持ち上げた……いわゆるお姫様抱っこというやつで。それを見た男連中から、うぉぉ……！　と喝采が上がる。 「生駒さん、オレも手伝います！」 「あ、ほんま？　助かるわ。ほな隠岐のジャケット取ってもらってもいい？」 「はいっ！」 「それをくるくるっと丸めてな、隠岐の腹の上に置いてくれへんか」 「はいっ！」 「あと隠岐の靴ってどれかわかる？」 「はッ！　わかんねぇ……！」 　周囲に靴の特定を依頼した佐伯はハンガーにかけてあった上着を丸めて隠岐の腹に置く。生駒は隠岐を落とさないよう器用に靴も回収すると、そのまま「失礼しました～」と去っていった。その後ろ姿は自分よりでかい男を抱えているとは思えないほど安定していて微塵も揺らぐことはない。ボーダーって近くで見たらあんなに厳ついのか。かなり偏ったボーダー隊員像が「あれ誰？」派の
July 24, 2024 at 6:24 AM
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岡から声がかかる。もちろん先約ありと断った。文句は言われない。仲間内に流れるのはそうなると思ったという空気。南沢は上機嫌で友人たちに手を振って改札の手前で別れると足取り軽く二十二時半まで営業のコーヒーショップに入った。ホットドリンクを注文しガラス越しに改札の見える位置に陣取る。 　生駒の元を離れてからは混成部隊や仮部隊を転々とし、乞われればフリーのＡ級隊員としてどこにでも助っ人に入った。色々やってみたかったからそれ自体は楽しかったしためになったと思う。そんな中で一緒にやっていこうと、うちの隊に入ってくれないかと打診されたこともいくつかあった。だがどこに行ってもしっくりくることはなく、その違和感を誤魔化し続けることは南沢にはできないとわかっていた。 　それなら仕方ないかと結局は自分が隊長として隊を率いている。今はＢ級中位と上位を行ったり来たりと忙しない。ムラがあって安定するにはまだ遠いが爆発力のある部隊（チーム）、それが南沢隊だ。これはこれで楽しいからありだなとそれなりに満足はしている。 　自分で隊長をやるようになり生駒隊を思い出すことが増えた。楽しい思い出しかない奇跡のような場所だった。その中心にはいつでも隊長の生駒がいて、つまるところ南沢は生駒以外を隊長として認めることができなかったわけだ。 　別にそれで良いと思う。別役にとっての隊長が来馬ただ一人なように、笹森や外岡にとってはそれが諏訪や弓場になる。奥寺と小荒井だと東に なってしまうから、あまりに偉大すぎる隊長だと後を追うのも大変だなあ、と南沢は我関せずと眺めている。 　そもそもの話として南沢はそこまで後輩を育てるということに熱心ではない。向いてないのはわかっていたし、そういうのが得意なやつはたくさんいるからそっちに任せておけばいい。長く使える人材ばかりでは回らないのがボーダーで学生のうちだけと割り切ってる人間を引き上げることだって必要だ。適材適所って大事なこと。これも生駒隊で教わった。 　それはそれとして自隊の後輩たちには楽しんでもらいたいとは思っている。したいことを好きに試せる環境を整えて、本当にやりたいことが見つかったのなら出ていってくれても構わない。後で思い出して南沢隊（あそこ）楽しかったな、と思ってもらえれば上々だ。 　ぼんやりと人の流れを眺めていればガラスの向こう、改札の前に生駒の姿を見つけた。人混みの中にいてもすぐにわかる。少し目を伏せてデバイスを操作している姿はガタイの良さと変化の少ない顔面が相まって近寄り難い。ちょっと怖い人みたい。実際は怖さの欠片もない人だけど。 　生駒の指が動くのに合わせて南沢のデバイスが震えだす。タップして通話モードにすれば低く慣れ親しんだ声が聞こえてきた。 　――もしもし？ 「イコさん、ちょっと右見てください」 　――あ、海おった。そっち行こか？ 「飲み終わったんで大丈夫です！　すぐ行きます」 　南沢の知る生駒はいつでも全身で楽しいを振りまく人だから、機械越しの声だけというのはやっぱり物足りない。黙って静止していると落ち着いて見えるのに一声上げると途端に賑やかな雰囲気になる。生駒のそんなところが好きだから、やはり会って直接話せるのがいい。 　返却口にカップを置き、足早に店を出る。南沢の姿を見て生駒は軽く右手を上げた。それに思い切り手を振りながらほとんど駆けるように自分の隊長へと突進する。あの頃よりも伸びた身長、そこそこ筋肉も付いて厚みのある体で、ここに細井がいたら危ないからやめろと叱られること間違いなしだ。ただ南沢も大人になったので今はもう見下ろすようになってしまった隊長の目の前できちんと自重して止まることができる。飛びついたとしてもきっと生駒なら軽く受け止めてくれるだろうけど。 　随分と落ち着いたと言われるようになったが、生駒といると無鉄砲で怖いもの知らずだったあの頃の自分が我慢できないと顔を出す。店へと向かう道すがら、すでにトップギアの自分がおかしくてふつふつと笑いがこみ上げてくる。アルコールでかかったブーストに楽しいこと間違いなしの時間がかけ合わさって逸る心は止められない。時間は有限だ。大好きな人を独り占めして約束された最高の夜へと繰り出そう。
July 21, 2024 at 1:32 AM
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隊長大好き南沢海が酔ってイコさんに電話をかける話。
　酔いが回った南沢は結構な割合でイコさんと遊びたいな～と口にする。大体ピークは二次会の終わりあたり。そして口にするだけでは飽きたらずそのまま生駒を呼び出して二人で夜の街へと消えていく。これは南沢と飲むとたまに起きる突発イベントのひとつだ。 　一緒に飲んでる友人たちはそれを元気なことだと微笑ましく眺めている。当の生駒がまったく気にしていないのもあって、楽しんでこいよ～と笑って見送るのが常だった。 　大学が春休みに入ったからと企画された同級生揃い踏みでの大宴会、からのカラオケ二次会終わり。フロントで今夜の幹事の一人である笹森に金を渡してから一足先に店の外の空気を吸いに出る。三門の冬は暖かいと外から来た先輩たちは皆、口を揃えて言うから。だからきっと近界民さえいなければ過ごしやすいところなんだろう。 　南沢は三門の外をほとんど知らない。修学旅行くらいでしか外に出たことがないからだ。子供の頃は家族旅行があったが大規模侵攻以降はそれもなくなった。そういう家庭は三門では珍しくない。そんな南沢にとって三門の外と聞いて思い浮かぶのは遠征先に浮かぶ星か、作戦室での雑談で聞いた関西の街のどちらかだった。 　話を振ればいくらでもしゃべり続ける先輩たちは地元の話もたくさん聞かせてくれた。名所旧跡、穴場スポットからご贔屓のスポーツチームまでエトセトラエトセトラ……。ダントツで多かったのは食べ物の話題で育ちざかりが集まればどうしたってそうなる。懐かしの味を説明しているうち に全員が釣られてその口になってしまいへそを噛む、なんてこともよくあった。 　だから生駒が料理を覚えてから部屋に押し掛けるようになったのは当然の帰結と言える。おねだりすれば嫌な顔一つせずいらっしゃいと出迎えてくれる、それを当たり前に享受した。 　細井の好きな具沢山のいなり寿司も隠岐が好むふわふわの明石焼きも水上がおかわりする関西だしのうどんも生駒は完璧にマスターして、いつも楽しそうに振る舞っていた。もちろん南沢の好物だってパーフェクトだ。 　生駒はそのために南沢の家を訪ねて母にレシピを教わっていた。家に帰ってキッチンに生駒がいた時の驚きと、見つかってしもた！　と焦る生駒の愛おしいことと言ったら！！　コソ練して驚かせたかったのにとしょんぼりしてたのには悪いことをしたと思う。でも十分びっくりしたし、それ以上に嬉しくてその日は一緒に夕飯を食べた。テーブルの上は南沢の好物ばかりで、離れ難いと駄々をこねたら生駒は南沢家に泊まってくれた。 『楽しむことに労力を惜しんではならない』 　南沢が生駒隊で学んだ最たるものがそれだ。生駒曰く、楽しいと思えることには鮮度があるから逃げられないよう引っ付かんで骨の髄までしゃぶり尽くすが吉。言葉にするとちょっと物騒。でもだいたいそんなことを言っていた。 　何を楽しいと思うかにそれぞれ違いはあったけど、あの隊の先輩たちはそれを実践していたよう に思う。南沢も今はこれを座右の銘とし、日々楽しいの首根っこを引っ付かまえている。 　はぁー……と、少しだけ上を向いて息を吐き出す。熱持つ呼気が白くけぶる夜は三門育ちの南沢からすれば十分寒い。少しずつ冷えていく指先で通信デバイスをタップし、お目当ての人物を表示させた。ちょっとだけ迷って、それでも毎回通話を繋ぐ。コール音を聞きながら今夜は何して遊ぼうかなといくつかあるプランの中で生駒の気を引けるものはどれかを考える。 　――もしもし？ 「イコさんこんばんわ！」 　――こんばんは、海 「実は今、同い年のやつらと飲んでるんです」 　――そうなんや 「はい。てっちり鍋食べてきました」 　――ええな。あったまりそうやわ 「旨かったっす。けどやっぱり足りなくて、二次会で焼きうどんとチキンドリア食べちゃいました」 　――海は健啖家やもんなぁ 「そしたら腹はふくれたんですけど今度は飲み足りなくなっちゃったんですよね」 　――今日は三次会はないの？ 「それが学校とか任務で難しくて。このまま解散っぽいんすよ」 　――それは残念やったな 「イコさんって明日は休みですよね？」 　――せやねん。よく知ってるな 「水上先輩に聞きました！　イコさん。良かった ら俺と二人で夜遊びしませんか？」 　――夜遊び……それは、楽しそうやんな！ 「ダーツバー行こうと思うんですけど一緒にどうです？」 　――えっ……おしゃれやん。俺ってダーツとかしたらあかん顔やない？ 「だいじょぶですって！　イコさん絶対ダーツ上手いと思うんだよな～」 　――やったことないけど……難しい？　ルール簡単？ 「色んなルールありますけど将棋よりは全然楽勝です！」 　――ほな俺にもできるかな 「おれが教えてあげますよ！　あ、一緒に飲みたいし駅近だから歩いてきてほしいんですけど……」 　――徒歩で。了解 「じゃあ待ってます！」 　――あったかいとこにおるんやで 「は～い」 　通話を終えてデバイスをしまい小さくガッツポーズ。予定がないのがわかっていても二つ返事で了承を貰えると気分は上がる。南沢は鼻歌を口遊みながら清算を終えて出てきた友人たちの輪に戻った。 「おれたちラーメン行くけど南沢はどうする？」 「オレはやめとく」 「生駒さん？」 「そ！」 　いくつかの固まりに別れて駅へと向かう中で外
July 21, 2024 at 1:32 AM
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July 11, 2024 at 6:54 AM
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みず（→→→）いこ
受けへの後方理解者面が激し過ぎるタイプの攻め。好きな人が幸せになるのは当然と思ってるけど自分の思う幸せ以外は潰していく所存。
July 11, 2024 at 6:54 AM
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なんか順番めちゃくちゃだった。
June 27, 2024 at 11:50 AM
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上げ直し。
みずいこ
脳の容量を煩悩に割り振ってるタイプの攻めがひたすら受けに冤罪被せていく話。
June 27, 2024 at 11:50 AM
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生駒隊が『生駒旋空』呼びをしない理由。
どんなに語呂が良かろうと自分の苗字ってなると素直にかっこいいとはならないよねって話。ただしこれが『達人バスター』だったら嬉々として受け入れてたと思われる。
玉狛支部で闇鍋したら絶品海鮮旨辛雑炊ができあがってしまった話にひと段落ついたところで水上から声が上がった。 「そういえばイコさんの旋空が『生駒旋空』て呼ばれてるみたいすよ」 　生駒が放つ最長４０ｍにも及ぶ旋空弧月はお披露目から今日まで隊員たちの口に上らないことがないというほどにはセンセーショナルな事件だった。実戦に耐えうると証明され後へ続こうとする者が多数いる中でいまだ成功者ゼロというのも話題に拍車をかけている。 「え、なにそれ知らん」 　ただし最近流行りだしたという通称は本人にとっては与り知らぬことだったようだ。 「それウチも聞いたな」 「この前の実況で武富チャンが言ってたらしいっす！」 「えー……なんかはずいんやけど」 　細井の報告に、はいはいっと手を上げて南沢が補足を入れる。実況から広まったのか、それとも流行りを取り入れたのか。どちらだったとしても生駒のお気に は召さなかったらしい。どれだけ注目を集めても変化のない生駒が目立つことを厭うのは珍しい。 「自分だけの必殺技ってかっこいいやないですか」 「速く振れば誰でもできるで。海が撃ってんのに生駒旋空ってなったらめっちゃややこしない？」 「おれには無理ッス！」 　のんびりとした隠岐の見解にも生駒は腑に落ちないようで、この先他の使い手が出てきた時に『生駒旋空』のままだと微妙なことになると話を振った。ただし振られた南沢は大きくバッテンを作って白旗を上げている。 「俺の名前やなくてもええやろ。長い旋空でよくない？　文字数同じやで？」 「語呂がええからやろ。あと実況すんのに毎回長ったらしい説明入れるより聞いて一発でわかる方が楽やねん」 「それに使えるやつなんてそうそう出てこんすわ。名前が売れる、ええやないですか。生駒隊って聞けば長い旋空チラついてノイズになるなら上々。もっと売り込んでいきましょ」 納得がいってない隊長とは対照的にオペレーターと参謀は前向きである。水上に至ってはもっと広まれば色々できるとかなり悪い顔をしていた。 「ふーん。ならおまえの弾も水上アステロイドって流行らそな。手始めに嵐山に教えとくわ」 　生駒の友達はボーダーの顔であり新入隊員への入隊指導も行っている。嵐山に伝えておけばそこから一気にＣ級に広まり、正隊員の耳に入るのも時間の問題となるだろう。 「……この話はなかったことにしましょう」 　水上アステロイドは……ダサいな。同じ名字に技名でこうも変わってしまうのかと一同は戦慄した。いくら語呂がよろしくても自分の名前が付いていると微妙に感じるものなのだと一発で理解ができた。 　その日以降、生駒隊作戦室で『生駒旋空』の呼び名が使われることはなくなった。
June 22, 2024 at 9:31 PM
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June 13, 2024 at 2:40 PM