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20↑ hrak:出勝、(マイ相、ミリ環、セロ上が少し気になる)木公:カラ一
一生終わらず捏ね回してるのを放流するかも。
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出勝。
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いったん、区切り。
『その日は、かっちゃんと〇〇に行く予定なんですよ！新しく出来たところで！〇〇が話題なんで！！』 『あ、それかっちゃんが好きかも。どこで買ったんですか？？』 『クリスマスですか？もちろん、仕事ですよ！！クリスマス忙しすぎて、ないです！！』 『かっちゃんから、その日のうちに家に帰るのが大事って、言われてるので！』 出久は様々『かっちゃん』と言い、便利な言い訳にも使いやがる。 天然と、わざと、である。 最悪な野郎だ。 特に飲み会やご飯の誘いに関しては、『今日、〇〇なので！食べたいので帰ります！！』と、本当に食べたいメニューの時に無意識で使う時もあれば、行きたくないから口実に使う時もある。面倒な飲みや二次会、合コンの誘いなども、『かっちゃんが～』と言えば、『あーそうか、“かっちゃん”か～なら仕方ないか』な空気になるらしく、便利に使うのだ。恐らく、この“かっちゃん”は恋人だと思われているだろう。最悪である。 出久が意識的にただの口実として使っているだけならまだマシで、そこに無意識も混ざっているからタチが悪いのだ。どちらなのか、分からなすぎて。 依存とまでは言わないが、雛が最初に見つけたモノを親だと思い健気に付いて行くように、出久はそうやって世話をする勝己を、親か何かのように認識してしまったらしく、どうにも優先順位の先頭に置いてしまっているところがある。 何をどう説明すれば良いのか分からないし、伝わりもしない。 勝己には、どうしようもないし、SNSも似たようなものなので、どうしようもない。 『見てください！！誕生日だからと、かっちゃんにおねだりして作って貰った、特製のオールマイトケーキです！！』 『今日は、かっちゃんの特製カツ丼です♡』 『かっちゃんのカレーは辛すぎます…』 『この前、早めのクリスマスってことで、かっちゃんにご馳走様作って貰っちゃいました！特製のローストビーフ、最高でした～♡』 『バレンタイン！と言うことで。いつもかっちゃんにはお世話になっているので、ちょっと良いお菓子をあげたいんだけど、オススメありますか？甘さ控えめだと嬉しいです』 おかげで、出久に“かっちゃん”と言う同居人が居ることは、周知の沙汰である。 何かあれば必ず連絡しろとは勝己は言ったが、誰ともどこにも行くなと言った覚えはないし、好きにしてくれと思っている。だから、誰かとご飯に行くことを止めるわけもない。成人男性、何を制限のしようもない。 それなのに、コレである。 特に女性からのお誘いに関しては、怖いから『かっちゃんのご飯が待ってるからごめんね』を、意識的な口実に使いやがるらしく、迷惑しかない。 他の言い訳にしろと言っても、『上手く断れないんだよ』としょぼくれるし、むしろ誘いに乗ってみればいいんじゃねぇのと言ってやれば、『そりゃぁ、良いなと思う子がいれば行くよ。でもそうじゃないし、ヒーローの方が大事だし、週刊誌に変な書かれ方しても困るし』なんてことを言われてしまえば、それはそうでしかないので困る。 『そりゃぁ、良いなと思う子がいれば行くよ。でもそうじゃないし、ヒーローの方が大事だし、週刊誌に変な書かれ方しても困るし』なんてことを言われてしまえば、それはそうでしかないので困る。 出久が何かと“かっちゃん”と言いやがるせいで、勝己の束縛が激しいように見えるが、現実的には全くそうではないので、出久にどう説明すれば良いか分からないし、伝わりもしないし。 女から目の敵にされるわけである。 こうやって、『かっちゃんって貴方ね？』なんて、突撃されるのだ。 気持ちは分かる。 大・爆・殺・神ダイナマイトではない、可憐で可愛い“かっちゃん”を探したくなる気持ちも分からなくもない。 が、そんなものは居らず、勝己だけが迷惑を被っている。最悪だ。 ちなみに、親しい人から誘われた場合は、素直に行くことも多いから、まだ大丈夫だと思っている。何が大丈夫で、何が大丈夫ではないのか、よく分からないが。 ただ、『かっちゃんのご飯が食べたい』と『誘ってきた人とご飯も食べたい』がせめぎあった挙句、連絡もなく家に連れてくることが多々あるのは、普通に困る。どうにかしろ。 それこそ連絡をしろと思う。 ご飯の量は勝手に増えない。 今や、家に連れてこられる方から連絡が来るのだから、アイツはやっぱりクソゴミ野郎である。
October 3, 2024 at 8:58 AM
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一生捏ねてる同居の出勝。
5コ目。
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出久との同居の当初、出久の生活はそれは酷いものだった。 事務所で寝泊まりする習慣が染み付き、一週間は帰ってこないのはざらで、帰って来たと思えば疲れ果て一日寝ている。それで、また仕事に行ってと、出久自身も部屋も荒れるのは当然であった。 倒れるわけである。 身体が持つわけが無い。 そして、実際倒れて生活見直せと言われ、幼馴染との意味不明な同居を命じられた上でコレである。直す気がない上に重症。 あまりに馬鹿にしている。 これでは、またいつ倒れてもおかしくはない。 泣きながら頼んできた出久の母の姿が浮かび、勝己は、これは自分がどうにかしなければいけないと、一種の義務のような正義感のようなものが湧き上がった。そして、このゴミ野郎を世話し殺したるわクソ、と決めたのだった。 百歩譲って、事務所で寝泊まりするのは別に良い。 それをとやかく言うつもりもなかった。休みの日にきちんと休んでいるのなら。しかし、案の定、そんなわけがなく、何だかんだ仕事をしているらしい。誰も止めようがない、と。 それはそうだ。 だから、勝己は、とりあえず説教し殺し、休みの日はきちんと家に帰ってくるように言いつけた。分かったと言うクソゴミが、口だけなのは分かっていたので、出久の事務所から勤務表を貰って、休みの日は強制的に家に連行した。 帰って来たら、きちんとご飯を食べる。余裕があれば風呂に入る。寝てからでも良い。とにかく、きちんとご飯を食べる。ぐっすり寝る。風呂に入る。休みの日に休む。そんな、あまりにも基本のことを覚えさせることから、はじめた。 それから少しずつ、勝己の勤務に合わせてになるが、仕事を終えたら迎えに行き家に連行することで、その日のうちに家に帰るという、哀しくなるほどの基本を叩き込んだ。 面倒なので、実力行使で黙らせると言う手段を取る事も多々あり、おかげで、デクと大・爆・殺・神ダイナマイトの不仲説などなど飛んだりもした。実力行使に出るのは現在も変わらないし、同居について世間に公表しているわけではないので、不仲説は健在だったりもする。故に三角関係のもつれなど、下世話な話になりやすいらしいが。コアなファンは、不仲では無いことを分かっているらしいので、それで十分である。 事務所の協力と勝己の頑張りで、出久はその日のうちに家に帰る、休みの日は休むと言う何とも普通の生活をやっとのことで、するようになった。 それから、少しずつ家事についても教えて、今では普通に、やれば出来る子である。自分のためにはやらないし、誰かいなければ事務所に住む生活にすぐに戻るだろうことは確実であるが。 実際、勝己が二週間ほど仕事で家を空けると、出久はあまりにも荒んだ状態で勝己を出迎える。一週間ほどは、それなりに生活出来るが、それを超えるとダメなようである。途中、監視として誰かにご飯に連れ出すよう命じなければいけないほどだ。子どもか。 勝己としては、出久をマトモにするために必死だったし、よくやった方だと思う。 勝己としては、出久をマトモにするために必死だったし、よくやった方だと思う。ただ、副作用が酷いもので、勝己にはどうしようもないだけで。 あのバカは、食事に誘われても『かっちゃんのご飯が待ってるので』と断るらしい。 初めて聞いた時、教えてきた上鳴を爆破するところだった。断るにももう少しまともな理由を作ってくれと切実に思うし、別に気にせず行けよと思う。そして、爆破混じりにいくら言っても直らない。ふざけてる。 『知らない人と食べるご飯より、かっちゃんのご飯の方が美味しいよ？』 と宣うのだから、本当にふざけてる。 『デク、この後食事でもどうですか？』 『う～ん。ごめんなさい。かっちゃんの美味しいご飯が待ってるので、帰ります！！』 『じゃぁ、〇日はどうですか？』 『あ、その日は、かっちゃん特製スパイスカレーの日なのでダメです！すみません！！』 『デク、この後二次会どうですか♡』 『かっちゃんが待ってくれてるので、帰りますね！！』 『あ、それ、かっちゃんのリップですか？良いですね！』 『あ、ここ、かっちゃんと来たことあります』 『次の休みですか？いつもかっちゃんにお世話になってるから、その日は僕が家事を頑張るので、忙しいです！』 『最近、忙しくてかっちゃんのご飯が食べれてなくて～恋しいです……』
October 3, 2024 at 8:53 AM
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出勝
［6/6ページ］
「うん。だから僕はデートの時も、かっちゃんに服を選ぶのを頼むように思われているのかなって」 思っている。 デリカシーと言う概念がおよそ欠落しているこの男は、それくらい平気でしそうだとハッキリと思っている。だから、こちらから聞いている。不意に知らされて、ダメージを受けないように。もしかしたら、否定されるのを期待して、安心感を得ているかも知れないけど。我ながら女々しくて呆れる。 「違うのか？」 そもそも、男の同居人に服を選んでもらうことの不自然さに気付けよと思う。デートの服云々じゃない。誰か指摘しろよと思うが、出久の周囲はポヤポヤしていてそんなの期待出来ないやつらである。轟など、『俺も選んでもらおうかな』なんて斜め上の回答をしてきそうですらある。 苦い記憶が蘇る。 同居してから初めての元A組の集まりの時だ。 出久が現れた時点で、空気が変わった。当然である。高校で寮生活だったのもあって、出久の服装センスは、全員、大体把握済みだ。それが、急にマトモになれば、ざわつきもする。 勝己は、すぐにやばいと思った。『今日、みんなに会うからさ、かっちゃん服選んでくれる？』すっかり慣れてしまったその言い分に、何も考えずに応じた己を、ぶん殴りたくて仕方なかった。良いわけねぇだろ。 その上、アホは、『今日、かっちゃんに服選んでもらったんだぁ』などど大きめの爆弾を放り込む。 それで、勝己は己の過ちに気付いたのだ。時すでに遅し。 時すでに遅し。 当然、場は凍りついた。轟が個性暴発事故でも起こしたのかと思うレベルで。 誰も何も言えなかった。 そして、それまでの短時間ですっかりと習慣になってしまったそれを、止めると言う上手い理由が見つけられずに、だらだらと、続けてしまっている。 やはり、女からの八つ当たりの三割くらいは勝己が悪いのかもしれない。 「流石に、そんなこと頼ま……」 出久は苦笑しながらそう言って、途中で言葉が止まった。何かを考えるように視線が動く。 「頼ま、ないよ？」 予定通りの言葉を吐き出せたようだが、動揺しすぎである。ちょっと、その方が良いかも知れない、とか何とかクソみたいなことを思ったことが丸分かりすぎだ。 「お前、場所にも寄るが初デートでスーツなんてドン引きだから止めとけよ」 どうやら勝己には、好きなやつのデートの服をコーディネートする覚悟が必要らしい。その上、デートプランまでお伺いを立てられたらどうしたら良いんだろうなと、勝己は思った。容易に有り得る未来だ。サイアク。 「いや、流石に大丈夫だよ。そもそもデートに行く機会なんてそうそう無いし」 これである。 出久は全く分かってない笑顔でそう言い切りやがった。 この男、モテる自覚が無いのだ。いっそ怖い。 「抱かれたいヒーロー、結婚したいヒーロー、彼氏にしたいヒーロー」 出久は首を傾げる。 「そのどれもに上位ランクしといてよく言う」 ちなみに勝己も上位にランキング入りしているのだが、それはそれである。 「いや。それはそもそもチャート上位とか名前が売れている人がランキング入りしやすいからね？」 出久の分析は正しくはあるが、あまりにも感情的な部分を削ぎ落としすぎている。確かに勝己の世代は雄英黄金期と呼ばれ、学生の頃から何かと話題を振りまき(出久は特に)、その手のランキングに名を連ねることが多い。けれども、それだけでランキングの上位に入れるわけが無い。その需要が無いと。 「お前はいい加減、現実を見直せ。女からの誘いも無くはないだろ」 現実を見ろなんて、普通逆の意味でしか使わないだろう。このやり取りも何度したか分からない。抱かれたいヒーローランキングなんて、かなりあからさまなそれでさえ、イコール人気になったなぁくらいの、感想しかないのだから、その手の回路の歯車が一つ二つ抜けてるんじゃないかと思う。 「かっちゃん、社交辞令を真に受けるのはどうかと思う」 このクソ、かなり真剣なアドバイスのつもりであるらしい顔で言ってくるから心底腹立つ。社交辞令じゃないお誘いくらいあるわ。そして、女のアプローチをほぼ社交辞令だと受け取っているなんて、どっちを哀れんだら良いんだろうなと思う。やっぱり、いっそ哀れなのは、己のような気がしてくる。 「全部が全部、社交辞令じゃないだろ。いつか痛い目見ろ」 ごちそうさまと手を合わせ、食べ終えた食器を片付ける。 本当に……そもそも俺を殴るなら、コイツを殴れよと勝己はイライラした。 何度言っても分からない男だ。 出久がああまで鈍いのは、中学時代までの扱いの問題も大きいような気はしている。自分がその土俵に立つわけがないと認識するのに十分な時間を過ごしただろう。 そして、その原因が己である。 つまり勝己はそれに関して、イマイチ出久に大きく出られないのだ。 誰か他のやつが言ってやれよと思うが、適任もいない。出久の周りは例のごとくポヤポヤしたやつらばかりなのだ。期待のしようもない。 では、出久のところの事務員やサイドキックはどうかと言うと、変な女に引っ掛からない方がマシくらいに考えている。急にモテるようになって調子に乗り、スキャンダルを巻き起こしまくるよりは、現状が最善と言うことだろう。気持ちは分かる。分かるが、その“マシ”と引き替えの代償が勝己に全てのしかかっているのはおかしいと思う。おかしいと思うが、そもそもが自業自得でしかない気がして、世の中上手いこと出来てるなと悟りを開く勢いである。
October 1, 2024 at 7:24 AM
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プロヒ出勝。
一緒に住んでるけど、特に進展は無い。
思わせぶりなだけの出。
［3/6ページ］
「かっちゃんのご飯、今日も美味しいよ」 にこにこと幸せそうに笑いながら出久は言う。勝己はそれにどう返して良いか分からず、「ん」とだけ返す。出久はそれに不満も見せず、また笑う。 穏やかな日常である。 「もうさ、僕、かっちゃんの味噌汁ずっと食べたいくらい」 お前、それ、世が世ならプロポーズの台詞だぞ。 そんなこと、冗談でも言えない勝己は、何でもない顔をして、 「そ」 とだけ返す。 勘違いしてはいけない。何も、嬉しいことなんて言われてない。 その言葉に、その表情に、その瞳に……何の熱も無いことを勝己は知っている。残酷なほどに、コイツは何も考えてなどいない。 それは、ただの感想でしかない。 元々、ブツブツと己の思考を漏らす癖のあるやつだ。素直に思ったことが口に出やすい。その言葉の意味を深く考えもせずに。 『ありがとう』 『かっちゃんの作ったこれ、僕好きだなぁ……』 『かっちゃん凄い』 『かっちゃんがいないと、僕、生きていけないかも』 出久は、これらを全て同じ熱量で言う。 そんな言葉を浴びせられ続け、勝己は、もしかしてコイツ……と何度思ったか分からない。 けれども、それはただの事実、感想でしかなく、そこに何か熱や色が乗ることは一切ないことが分かった。言葉のチョイスが絶望的なだけだった。 そして、さらに絶望的なことに、それのせいで勝己は、自分の中に埋もれていた欠片みたいなそれを見つけてしまうはめになったのだ。 それから勝己は、勘違いと失望を何度繰り返したか知れない。 「あ、ねぇ、かっちゃん。明日、僕出掛けるんだけど、服選んでくれない？」 何でもないように、出久は言う。 コイツの絶望的センスは言葉だけに限らず、服装に関してもそうである。コンビニに行くならまだしも、一緒に出掛けるには躊躇う格好だった。勝己はそれが我慢ならず、トータルコーディネートした。し殺してやった。それから何回かそれが続けば、出久は服を買う時は大体、勝己と行くようになってしまった。これはまずったと思った時には時既に遅し。 クローゼットに並ぶ服が変われば、センスが変わらなくてもそれなりに見えるようになるもので。それなのに、出久は人と会うような時には、勝己に頼むようになってしまっていたのだ。 おかげで、出久のお気に入りクソダサ文字Tシャツが、日の目を見ることは滅多にない。ダサいと話題にならずに済んでいて、ひそかに出久の母引子から賞賛された。それはそれで良いのだが、どう考えてもやってしまった感は拭えない。 「デートか？」 揶揄うように笑ってやれば、出久は「違うよ？！」と、慌てる。 「轟くんとヒーロー展に行くんだ」 それはやっぱりデートだろ、と言いかけて勝己は止めた。あまりにも虚しい。それに、勝己も出久と二人で出掛けることは多々あるから、変な察し方をされても困る。 「それ、先週行ったやつか？」 また行くのかよ、といつものことながら呆れてしまう。そのヒーロー展の初日に、勝己は出久に連れられて行ったのだ。入場特典がどうのこうのと言われて。何回でも行くナード精神が、勝己にはイマイチ分からないが、それが何度もあれば、そういうものだと思うようにはなる。恐らく、初見の轟よりはしゃぐだろうことも目に見えるようだ。そもそも轟がはしゃぐ姿など想像も出来ないが。 「何回行っても最高だよ！」 そう言って笑う出久のそれは、心の底から本心だろうが、目的はもう一つあることは明白である。 「入場特典」 勝己がそう言ってやれば、出久は困ったように眉を下げる。 「そ、そうだけどぉ」 「まぁ、何でも良いけど」 コイツのナード精神はよく分からないが、直らないことはよく分かった。共有スペースにはみ出さなければ何だって良いと思わないとやっていられない。 「ところでかっちゃんさ、最近たまにそうやって、『デートか？』って、聞いてくるでしょ」 「そうだったか？」 「うん。だから僕はデートの時も、かっちゃんに服を選ぶのを頼むように思われているのかなって」
October 1, 2024 at 7:14 AM
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プロヒ出勝
［6/6ページ］
正直、公務執行妨害で逮捕しても許されたのではないかと思う。 「だめだよ～？それに、どうせ君が煽ったんだろう？」 「普通にアプローチしろっつっただけで殴ってくるなんて思わないだろ。どんだけ沸点低いんだよ」 その言葉にどれだけ殺傷能力があるか、煽りになるか分かっていながら言ったのもまた事実だから、当然の結果とも言えるのだが。それにしても、流石に殴ってくるとは、そんなガッツがあるならサッサと他に行けよと思わずにはいられない。アイツほど不毛なやつは居ない。 「それは随分、辛辣だね」 『普通にアプローチしろ』なんてごく当たり前のことが、辛辣な物言いになるなんて、あの男がどれだけ酷いかよく分かる話である。本当に気付かないのだから。八つ当たりもしたくなって当然。焦がれる女に同情したくもなるが、それは健気な女にだけで、ただのルームシェア相手の男を殴る女にじゃない。八つ当たりされる方は、たまったものじゃない。八つ当たりし返したくもなる。そして、健気な女は、勝己になんてわざわざ会いに来ることなどないから、勝己が同情することなんてない。 「かっちゃーん！」 バンッ！と、事務所のドアが開いて、能天気な声が飛ぶ。 聞き慣れたその声に、勝己はうんざりした。何度言ったって聞きやしないのだ、この男は。 「失礼しまぁーす！」 なんて言って、ニコニコと勝己のサイドキックたちに挨拶しながら、緑のモサモサを靡かせて、勝己の元に来る。今やトップを争うヒーローとなった男だが、ここに来る頻度が高すぎて誰も何も言わない。新人が入った時にザワつくくらいで、それもすぐに無くなる。それ程までに、この男の出現は、この事務所にとって当たり前になってしまっているのだ。 ヒーローデク。緑谷出久。目下、勝己を悩ませる元凶である。 そんなことは知らない木偶の坊は、それはニッコニッコと花でも飛ばしそうに浮かれながら、勝己の元に向かってくる。 「かっちゃん、もうすぐ終わるでしょ」 なんて言いながら。 『一緒に帰ろうと思って、迎えに来ちゃった』続く言葉は想像しなくても分かる。これも大体いつも通り。けれども言葉は途切れ、出久の顔から笑顔が消えた。 「かっちゃん？！ど、どーしたの？！それっ！」 嬉しそうな足取りは消え、驚いたようにこちらに向かってくる。 「一体、どんな凶悪な敵が出たんだよ？？」 出久は勝己の目の前まで来ると、冷やしていた勝己の手をやんわりと退け、腫れ上がった頬を確認する。 「でも、そんな大型ニュース無かった、よな？そんなニュースにもならないような事件でってこと？かっちゃんが？」 ブツブツブツブツと、出久の考えている思考が微妙に漏れ出ている。勝己はこれが一等苦手で、昔からゾワゾワする。 「うっせぇ！」 ベチンと額を叩き、思考を止めさせる。 「ハッ！ え、他、他は？？」 他に怪我はしていないかと確認するために触ろうとする出久の手を阻止しながら、勝己は、 「ねェよ！」 と叫ぶ。 「そ、そっか……なら良かった」 そう言って出久は全然、安心していないと分かる笑顔を浮かべる。 「ね、かっちゃん、手当て……僕にやらせて？」 疑問符が付いているようで付いてないことを、勝己は知っている。嫌に決まってんだろうと突っぱねても押さえつけられて手当をされるのは目に見えるので、深々ため息を吐いて、 「好きにしろ」 と、投げやりに言うしかない。 「うん。ありがとう！」 無邪気に笑うこの瞳が、勝己を捉えて離さない。 いい加減、うんざりする。 早く解放されたいと思いながら、ずっと続けば良いなんて女々しく思う自分を殺したい。 出久はこうして、勤務の時間が合う時はほぼ勝己を迎えに来る。別に先に帰れよと勝己は何度言ったか知れないほどだ。
September 27, 2024 at 8:26 AM
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3こめ。
プロヒ出勝。
［3/6ページ］
「何、したんすか、いったい……」 事務所に戻れば、当然ながら指摘される。 女に殴られた痕は、それなりにくっきりはっきり主張してるわけで。 「……俺は何もしてねェ」 一応の事実を、勝己は、それはそれは不服そうに返す。 全面的に悪いのは、善人ヅラしたクソ野郎である。勝己は、その男の面倒を押し付けられている上に、女性関係の面倒にまで巻き込まれている哀れな被害者である。例え、そうは見えなくても。 多少、女の劣等感を煽った自覚はある。勝己は、哀れな被害者だが、その役目に従順になるつもりはない。それに、あれくらいで人を殴っていたら拳が足りない。デクの隣になんて、到底居られないだろう。アレは、究極の博愛主義者だ。 「……そっすか」 自身の事務所所長、トップを争うヒーローの顰めっ面の迫力に、若きサイドキックはそれ以上言えず、すごすごと立ち去った。懸命な判断である。勝己はこの件に関して、説明する気も弁明する気もない。 理解されるつもりない。 もう少し、上手く躱せなんて言うアドバイスも要らない。 週刊誌では、『女を弄ぶ』だとか『デクとの三角関係』だとか、それはそれは面白おかしく泥沼のように書かれているのを勝己も知っている。だが、勝己自身はチェックもしないし、抗議もしない。事務所としては、専門の部署に任せているが、勝己自身が対応しようとすれば、疲弊するどころではない。それに、説明しようして、また違う問題が掘り起こされても困る。困るのだ。 。それに、説明しようして、また違う問題が掘り起こされても困る。困るのだ。 だから、バクゴーヒーロー事務所のほとんどが何も知らされていない。デクと自身の所長がどうやら一緒に住んでいると言うくらいは周知の事実なので、余計に謎が深まっていたりする。ただ、自身の事務所所長、大・爆・殺・神ダイナマイト、爆豪勝己への信頼は厚いので、雑誌で書かれているようなゲスな人間では無いことは分かっている。誤解されやすい人だとは思っているが。 勝己としては、サイドキックとして優秀に働いてくれれば、それで十分。週刊誌を鵜呑みにされて、酷い野郎だと思われていても、どうでも良かった。ただ、実際にそれを顕にしているやつを見れば、一つの情報のみを信じ込むのはどうかとは思うが。今のところ、そんなやつは居ない。 勝己の立ち上げたバクゴーヒーロー事務所は、福利厚生等々、待遇が当然のように充実しているので、そんなものかと勝己は思っている。それらについての文句が出たりもしないのは、“ウチは待遇良いからな”で片付けていたりする。もちろん、勝己の人望もあるのだが。 「……デクだね」 事情を知っている当該部署の調辺が、勝己を見て意味ありげに微笑んでくる。その、生暖かい眼差し、ヤメロ。勝己は、それ以外あるわけねぇだろと、睨むことで返事をしてやる。温厚そうな黒縁眼鏡の奥の眼に、愉しみの色があるのを勝己は知っている。良い趣味をしている。 「優しいね、キミは」 主にメディア対策の担当である調辺には、ヒーローデクと同居していること、ある程度の経緯、それ絡みで女に突撃されることなどの事実は報告している。その上、この男の趣味は、情報収集と人間観察。どうにも勝己の隠しておきたい想いや何やらは、全てバレているようなのだ。 「ンなわけねぇーだろ」 そう言ったところで、 「そうかい？」 なんて、胡散臭い柔和な笑みで返されるのだから、厄介である。どうにも勝己と出久の、と言うよりは主に勝己の拗らせぶりを愉しんでいるのだ。しかしながら、この男が居なければ、デクも大・爆・殺・神ダイナマイトも、もう少し面白可笑しく騒がれまくりスキャンダルまみれのヒーローとして名を馳せていたかも知れないことを思えば、それくらいは許容範囲である。余計なことを言ってくるわけでもなく、ただ観察しているだけのうちは。それがゾワッとしたりもするが。 優秀なのだ。敵に回したくないくらいには。 「それにしても今回は、何したんだい？」 一目見て何かあったと分かる勝己の頬を、それはそれは愉しそうに見ながら、調辺は問う。 「何もしてねェ……」 「何も、ねぇ？」 不貞腐れたように答えた勝己に、調辺はそんなわけないよね？と言うように含みを持って言いやがるから、勝己もイラつく。 「いつもいつも俺が何かをしたことはねェんだよ。それなのにグーだぞ？ 思いっきり殴りやがって。アレもう敵だろ？」 正直、公務執行妨害で逮捕しても許されたのではないかと思う。
September 27, 2024 at 8:23 AM
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プロヒ出勝。
［6/6ページ］
、出久に一切の発言権は与えられず(当然と言えば当然)、勝己はと言えば、元より圧が強い母光己と、息子を心配し目に涙を浮かべる出久の母引子、極めつけはオールマイトに頼み込まれれば、流石に首を振ることが出来なかった。若干、ヒーロー協会からの圧力も感じた。 勝己に逃げ場は無かったのである。 出久に、生活能力が皆無だった。 ただそれだけである。 人間に必要な三大要素、衣食住を、そんな簡単に人に握らせてるんじゃねぇ、と心底呆れる。 本当に、出久と勝己の関係はただそれだけなので、甘い雰囲気は欠片も無いし、甘い関係であることも一切ない。恋は鯉？と言うほどには何も無い。それって美味しいの？くらい言いそうである。もちろん、肉体関係なんてあるわけもない。至って健全な同居人。ルームシェアの相手と言うよりは、世話役である。勝己からすれば、手のかかるでっかい犬でも飼っている気分だ。 本来なら罪悪感を抱く必要も無い。勝己はただの巻き込まれている被害者だ。それは事実。だが、それでも、拭えない罪悪感とただ巻き込まれただけの人間にはなれないものが、勝己にはあった。 事実として、女共が心配するようなことは一つも無い。それは確かだ。それなのに、勝己が巻き込まれるのは、偶然じゃないかもしれない、と、どうしても思ってしまうのだ。 女って、何であんなに観察眼が鋭いのだろうか。 勝己はいつも絶望する。 それを指摘されることは無かったから、気付いたやつは居ないかもしれない。それでも、無意識下でそれを感じ取って、勝己を危険と判断し、敵に認定するのだろうと思う。 、勝己を危険と判断し、敵に認定するのだろうと思う。 ──勝己は、ヒーローデクこと、緑谷出久に絶望的に恋をしている。 本当は、恋なんて可愛いものじゃない。 あらゆる感情を煮込んで煮つめて、名前の付けようが無かったそれに、ある日そんな気持ちが紛れ込んでいることに気付いてしまったのだ。そうすれば、どうしようもなくて。気付いてしまえばそれは、そうとしかならなくなってしまって。 以来、それは仕方なく“恋”だなんて可愛らしい名前が付いてしまったのだ。 いつでも変更可能だが、どうにも他の名前が見つけられずにいる。 勝己がそれに気付いて、恋などと可愛らしい名前を付けたからと言って、例のクソほど鈍い男が気付くわけもなく、アプローチのしようも無い。勝己は何度、絶望的な気分を味わったか知れない。 ──解放してほしいのは、こちらの方だ。 クソみたいな気分で、いつも思う。 何も知らない女からすれば、勝己が“デク”を縛っているように見えるらしい。 確かに、生活のほぼ全てを勝己が整えている。 出久は思考のほとんどをヒーロー活動とヒーローに取られていて、生活能力はほぼ皆無。それだけ見れば、勝己が支配しているように見えなくもない。オマケにやつは、ことあるごとに“かっちゃん”と言うらしい。 だけど、実際はどうか。 出久は、家事が出来ないわけではない。 勝己は知っている。だって、勝己が教えたのだ。 料理も洗濯も掃除だって、その時が来たら、きちんと一人で生活出来るように。いつまでもこんなことは続けられないのだから、そのために勝己は出久に教えたのだ。実際、勝己の帰りが遅い時は、出久は自分で用意するし、勝己が忙しい時は洗濯だって掃除だってする。何も出来ないデクは居ない。 出久は、いざとなったら、普通に一人で生活出来る。 出来るのだ。 いつでも手放せるように、勝己が、そうした。 変な執着を持たないように。 だから、デクはずっと自由だ。 勝己が何かを命令しているわけでもないし、そもそも出久は、そんなものを聞く相手でもない。勝己が知らない間に良い相手を作って、ケロッとした様子で報告してくるサマは、容易に想像出来る。 デクは何にも縛られちゃいない。縛られるような人間でもない。 それが出来たら苦労しない。 そう、もっとあっさり、終わらせられるはずだった。 それなのに。 出久は、自分のためには動かない。そこは、きっと変わっていない。今、色々するのは、同居人の勝己のためだからであって、自分一人のためには、恐らくしないのだ。出来るようになったからするわけではない。 一人になったらまた無茶をして、きっと倒れる。 だから勝己は、その時が来るまで出久の傍に居なければいけない。軽々しく、同居を解消するわけにはいかない。 いつでも終わらせられると思っているのに、それが出来ない。実際は、勝己の方が囚われている。自分の考えに、出久に。 本当に、言いがかりにもほどがある。
September 26, 2024 at 10:35 AM
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続きのやつ。
プロヒの同居している出勝。
ほぼ勝のモノローグ的な。
一生捏ねてます。
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ヒーロー“デク” 勝己が巻き込まれるトラブルの原因の男である。 優しさと笑顔を振りまき、敵《ヴィラン》に一歩も引くことなく救けるために戦う姿は、まさにヒーロー。敵と対峙した時の迫力と、普段の愛想を振り撒く姿のギャップにやられるやつが後を絶たない。 実際に会う機会のあるやつらを無自覚に沼に突き落とすせいで、恋焦がれるやつらも絶えないのだ。そのクセ、どんなにアプローチしても落ちないどころか、それに気付く様子すら見せないのだから、タチが悪い。デクはクソほど鈍いのだ。押せば簡単そうに見えて、むしろ鉄壁。そういう焦りと苛立ちの矛先が、勝己と言うわけなのだ。 何かにつけて、“かっちゃん”と言うクソ野郎のせいで。 殴られるなんてことは、流石に初めてだったが。 ただ、ビンタされたり水をかけられたり、目の前で泣かれたり、なんてことは、割とあったりする。そのせいで、女を泣かせる色男として濡れ衣を着せられている。風評被害があまりに酷い。 だが、それでもそれを甘んじて受けてしまうのは、勝己の中に、一種の罪悪感があるからだ。女を泣かせる遊び人のように報道されることには怒りしかないが、デクが落ちないのはお前のせいだと泣きたくなる女の気持ちは、分からないでもない。そう思う材料は、残念ながら揃っている。 勝己は、大変、不本意ながら不可抗力によるものによって、ヒーローデク……緑谷出久の衣食住の八割程を握ってしまっているのだ。 所謂、ルームシェアと言うやつなのだが。 きっかけは、デクが倒れたこと。 それも、敵による攻撃でも災害による負傷でも、救助活動中の不慮の事故でもなく、過労と栄養失調で。 ヒーローが聞いて呆れる。 出久は、デビュー後オールマイトと共に事務所を設立し、一人暮らしをしていた。 倒れた理由など、考える意味も無いほどに明確だった。オールマイトは、ヒーローとして間違いなく最高の人間だが、師としてはやはり素晴らしいとは言い難い。どうあっても、ヒーロー側の人間で、緑谷出久と同類で、それを諌めきるには向いてなかったのだ。 出久の今後を大変に心配した出久の母引子が、同じくヒーローをしている息子を持つ、昔馴染みの勝己の母光己に相談をしたのは、自然な流れだった。 そこまでは、勝己だって納得する。 それがどうしてこうなるのか。 出久の母の相談に、勝己の母、光己は、『じゃぁ、うちの勝己と一緒に住めば良いじゃない？』とあっけらかんと言い放ったらしい。息子の意志を確認することなく、だ。何とも己の母親らしいと、勝己は頭を抱えた。 そして、その何とも適当すぎる一言は、なるほど適当、適任であるとなってしまい、あれよあれよという間に話は進んでいったのだ。当の本人である、勝己と出久は全くの置き去りで。 再三のオールマイトの忠告を無視し無理をした結果故に、出久に一切の発言権は与えられず(当然と言えば当然)、勝己はと言えば、元より圧が強い母光己と、息子を心配し目に涙を浮かべる出久の母引子、極めつけはオールマイトに頼み込まれれば、流石に首を振ることが出来なかった。
September 26, 2024 at 10:32 AM
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プロヒの出勝です。
デ←モブ♀の美人モブに絡まれる勝。
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穏便にとか、優しくとか、無難にだとかは、勝己には全くもって向いていない。勝己にとって、デク関連のトラブルは割とあることで、ただの巻き込まれ事故でしかないのに、こうやって風評被害が生まれるのだから、本当に迷惑極まりない。最悪だ。 こんなやり取りを何回しただろうか。 あと何回すれば、解放されるのか。 ──俺だっていい加減、解放されたい。 うんざりだ。 勝手な憧れと焦燥をこちらにぶつけられても困る。 「“デク”とアンタの問題に、俺は関係ない」 勝己はそう言い切って、これで終わりにしたかった。 「あるでしょう？ ずっと、彼を縛ってるわ！！」 だがしかし、そんなに上手くはいかない。 この女、マジで何のつもりなんだろうと、勝己はイライラする。誰の何を、どこを見てそう言えるのか。 どこをどう見たら、勝己があのクソを縛っているように見えるのか。アレが、誰かに縛られるわけがない。この女の言う“彼”が、勝己の知る男なら、そいつは勝己の言うことなど、一度だって聞いたことがないのだ。 一体、何を見てるのか。幻想か。 どいつもこいつも、偶像崇拝にもほどがある。 「そうやって、あいつがアンタに助けを求めたのか？そんな事実は無いが、仮に、それが事実だとしても、それでアンタに何の関係がある？アンタこそアレの何なんだ？人にどうこう言う前に、素直にアプローチでもするべきなんじゃねぇの？」 勝己は、苛立ちを乗せて言葉にしてしまった。 美人が怒ると怖いし、苛烈だ。 「貴方のせいじゃない！」 女はそう叫んで、思い切り振りかぶって、勝己の頬を殴った。 勝己は、避けなかった。 もちろん避けるには充分過ぎるほどの時間はあったが、敢えて受けた。その必要性は、全くと言って良いほどないのに。逃げるなど、選択肢に存在しなかった。 だだ、最初からビンタの一つくらいは覚悟していたが、流石にグーで殴られるとは、思ってもいなかった。 「……満足か？」 それでも勝己は、余裕を崩さず、ニヤリと笑ってやった。こんなの、手を出した方が負けだろ。 「最低っっ！！」 怒りを顕にそう叫んで、女は去っていった。 どっちが。 プロヒーロー相手に拳を振りかざしたとは思えない華奢な後ろ姿を眺めながら、勝己は深いため息を吐いた。 本当に、やってられない。 周囲のざわめきが鬱陶しい。冤罪な上に、こちらは完全に被害者のはずだが、そうは見えないだろうことが憎らしい。 冤罪な上に、こちらは完全に被害者のはずだが、そうは見えないだろうことが憎らしい。 ヒーローが女に殴られるサマは、さぞかし滑稽だなと思うと笑えた。 殴られた頬が、普通に痛い。 あの女、絶対格闘技か何かやってるだろと、華奢な見た目に反した動きと痛みに、勝己はそんなことを思った。
September 23, 2024 at 12:01 PM
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プロヒの出勝です。
勝と美人のモブの会話です。
勝モブ♀の要素は一切ありません。
デ←モブ♀のモブ♀にいちゃもんつけられる勝です。
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「“かっちゃん”って貴方よね？」 カツカツカツとハイヒールを鳴らしてこちらに向かってきた女は、警戒して立ち止まった勝己の前に来ると、そう言ってこちらを睨みつけてきた。 何度目か分からないほど言われたその台詞は、明らかに面倒を呼び寄せるくちぶえのようなものだ。出来れば無視したい。無かったことにしたいし、聞こえないふりでどうにか出来ないだろうかなんて、らしくないことを考えるほどには、厄介だった。 そして、タイミングも最悪だ。 現在、勝己はパトロール中。 つまりは、ヒーロースーツを着て大変目立つ状況である。出来ればトラブルは避けたい。だが、ヒーローの姿であるからこそ、一般人に声を掛けられたら、応えないわけにはいかないのだ。 勝己も大人になった。 ヒーロースーツを着る意味を、パトロールをする意味を、ヒーローがそこに居る意味を分かるようになった。声を掛けられればそれに返す意味さえも。 それでも、大・爆・殺・神ダイナマイトは基本的にファンサはしないが。ファンサしないのがファンサと勝己には分からないことを言われるし、態度と口の悪さをどうにかしろと未だに言われるが。 だが、こんな風に声を掛けられれば、あからさまに無視はしない。 それに、行動を共にしているサイドキックが、あからさまに女を見て勝己を見て、を繰り返しているから、どうしようもない。 勝己は、深々ため息を吐いて、サイドキックに先に事務所に戻るよう指示した。サイドキックは、野次馬のような好奇心を隠しきれない顔で、未練を残しながら去っていった。 勝己は、自分の格好を深く意識する。 自分はヒーロー。大・爆・殺・神ダイナマイトである。爆豪勝己では無い、と。 恐らく相手は、善良な一般市民であることを盾にするつもりだ。だからこそ、今のタイミングを選んだに違いない。無視すれば、大声で暴れるだろうし、対応したとしてもこちらを悪者に仕立て上げてくるだろう。どっちにしろ、詰みだ。タチが悪いどころじゃない。どこも善良では無いだろうと辟易する。 「そうだが？」 勝己が“かっちゃん”なのは、紛れもない事実でしかないので、そう返す。今さら、何の確認も必要が無い事実だ。残念ながら。 「プライベートなことは、プライベートな時間にしろ」 勝己は、面倒だと言う態度と呆れを隠すことなく言い放った。続く女の言葉など想像に容易く、聞く意味などまるで無いことは、分かりきっている。 「貴方、どうせ時間なんて、取ってくれないじゃない」 馬鹿にするように笑う女は、それなりに美人だが、こうした姿を見せられれば、どうしたってそうは思えない。 どんなタイプの美女だって、そう言う一面があることを勝己は嫌というほど見てきてしまった。 「知らんモブに使う時間は無いからな？」 こんなやり取りが傍から見れば、痴話喧嘩のように見えてしまうことに辟易する。勝己は、この女を知らない。 心当たりは、残念ながらないとも言えないが。 「“デク”を解放して欲しいの」 立ち去ろうとする勝己の腕を両手でがっしりと掴み、女は切実さを訴えるようにそう言った。 心当たりの名前を出され、やっぱりとすら思わないほど、勝己はその言葉を嫌というほど聞いている。そもそもとして、『“かっちゃん”って……』なんて言うやつは、デク絡みでしかない。推理など要らない、ただの事実だ。そうして、そう言って声を掛けてくる女は、大抵がそんなことを言ってくるのだ。 『デクを解放して』 『デクから離れて』 『貴方、デクの何なんですか？』 勝気な女も、ゆるふわな女も、健気な可愛い女も、正義感に溢れる真面目な女も、どれもみんな変わらない。恋は盲目？恋する乙女は可愛い？そんなものは、幻想である。勝手に自分でストーリーを作って、人を悪者に押し込めて、上手くいかない理由をそこに上手に押し付ける。あの人さえ、居なければ……などと。 傍から見れば、健気な可愛い女かも知れないが、押し付けられる方からすれば、ただの勘違いクソ野郎だ。 傍から見れば、健気な可愛い女かも知れないが、押し付けられる方からすれば、ただの勘違いクソ野郎だ。可愛くないし、迷惑である。 「それを俺に言ってどうする」 女の小さなその手を振り払うことは、簡単に出来る。簡単すぎるからこそ、勝己はそれを上手く選べない。穏便な方法がいつまでも見つからない。勝己はヒーローだから、こんな時でも、万が一、相手に怪我をさせる可能性があってはならないのだ。 「こそこそ俺のところになんて来ないで、“デク”に言えば良いだろ」 それが出来ないからこそ、こちらに来ていると分かっていて、勝己は言う。間違ったことは言ってないし、優しく諭してやる義務だってない。迷惑だ。 それに、勝己は、この女の言う“デク”とは、特別な関係には無いし、疚しい関係にもない。そして、恐らくこの女だって、一方的に“デク”を狙っているだけで、デクと何か特別な関係と言うわけでもないだろう。 「貴方に何が分かるのよ！！」 女が叫ぶ。勝己の正論は、人目が気にならなくなるほどの怒りを買ったらしい。 ヒーロースーツを着た人間と一般女性(美人)の言い合いは、当たり前だが注目を集める。今だって、野次馬が興味深そうに集まってきている。クソ。これでまた、あることないこと、ないこと書かれるのかと勝己はうんざりした。いい加減、あのクソに慰謝料請求したいと思う。大抵、勝己が悪く書かれるのだ。 穏便……は無理だと分かっていたが、出来れば注目を浴びずに事を収めたかったのだが、やはり無理だった。
September 23, 2024 at 11:57 AM
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［8/8ページ］
if無個性出×プロヒ勝の出勝です。
「……」 変な沈黙が流れる。 ……何だ。 気まずい。 勝己の予定では、出久が起きたら問答無用で叩き出すはずだった。面倒を見る義理もない。むしろ、夜中に行き倒れていたのを拾ってやったことに感謝奉ってしかるべきとすら思える。 それなのに。 何故か、『じゃぁ、出てけ』と言葉にならない。想定以上に穏やかな時間を過ごしたせいだろうか？これは、あまりにも誤算だ。 「あの……かっちゃん」 かなり神妙な面持ちで、恐る恐ると言った風に出久はこちらを伺ってくる。明らかに、“面倒なお願いがあります”と言った雰囲気しか感じられない。 これを聞いてはならない。 「僕、社員寮に住んでるのですが……」 「……」 嫌な予感的中。 だが、勝己はそれを遮ることは出来ずに、聞いてしまった。この、遠慮がちな敬語に、続く言葉なんて想像に容易い。せめてもの抵抗として、それを促すことも、察してやることもしない。 「それで、住むところが無いんですけど、ここに置いてもらうことは出来ないでしょうか！！」 そう言って、頭を下げる出久の頭にシュンとした犬の耳が見えるのは、幻覚だ。やっぱり疲れている。 助けてやる義理なんて、一つも無い。 絶対に嫌だ。 有り得ない。 勝己にメリットが一切感じられないし、面倒でしかない。 それなのに、こう……罪悪感が湧くのは何故だ。他のやつなら絶対に、悩まない。拒否一択。面倒なお願いを察した時点で、「断る」と一刀両断、話を聞きもせずに問答無用で追い出している。それなのに。 うるうるとして、上目遣いであざとい感じでこっちを伺ってくるんじゃねぇと思う。 そう、デク……緑谷出久で無ければ、悩む余地もない。 だが、だからと言って引き受けようとも思わない。過去のアレコレがあったからと言って、そこまで面倒を見る筋合いはねぇと言うことに躊躇いはないし、それとこれとは違うとも思っている。 それなのに、どうしてか、切り捨てられない。 赦されないことをした自覚はある。だから、それを背負っていく。だからこそ、関わりたくなかった。そうだ。関わらないようにするのが、正解だと思っていたのだ。 それなのに、どうして拾ってしまったのか。 自分でも、よく分からない。 そもそも、コイツは何を思って勝己に頼むのか。意味が分からない。 そこまで切羽詰まっているのか、おが屑でも詰まっていて何も考えていないのか。 どっちだ？ 頭に耳が生えているようにも、花が咲いているようにも見えるのは、否定しない。 「ペット……」 気付けば勝己は呟いていた。 出久が首を傾げる。 「ペットとしてなら置いてやっても良い」 半ばやけくそに言った勝己の言葉に、出久は当然のごとく不審者を見るような目を向けてくる。 「えっと……かっちゃん。そういう趣味が……？」 なんて、不名誉極まりない濡れ衣を被せてきたので、 「んなわけねぇだろ、ボケ」 と強めに反撃しておく。 「犬のように賢く、可愛く、俺の邪魔をしない、観葉植物のように過ごすなら考えてやらんことも無いってことだわ」 面倒だから、相手から嫌だと言わせるためである。これなら、罪悪感もない。何せ、向こうが拒否したわけだから。そんな趣味は断じてねぇ！ 「“ペット”に意味込めすぎじゃない？！それに途中から それに途中から観葉植物って言っちゃってるし！ そうだよね？！犬ってそれなりに手間暇かかるもんね？！」 「そういうわけで、他をあたれ」 しっしと追い払うような仕草で勝己は、出久を追い出しにかかる。これ以上は面倒見切れねぇ。 「いや待って！待ってください！ねぇ！」 出久に反撃する術はないし、勝己はプロヒーロー。一般人相手にどうと言うわけもない。あっさりと出久を捕獲し、玄関まで連れて行く。 「ペット！ ペットで良いので置いてください！」 必死に喚きながら、出久がそう言うので、お前こそ、そんな趣味が？と、勝己はゴミを見るような目を向けた。 「か、かっちゃんが言い出したのに……」 出久は、理不尽を嘆いた。 勝己としては、拒否されるために言ったのだから当然である。まさか、それで良いと頷くとは思わないだろ。 そんなこんなで、勝己は緑谷出久と言うペットを飼うはめになったのだった。 大変、不本意である。
September 22, 2024 at 2:24 PM
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［4/8ページ］
それっぽい描写は一つも無いですが、オメガバースの世界です。
譲渡自体がなかったif世界線。
if無個性出×プロヒ勝の出勝です。
一応の一区切りです。
こいつと、こんな風に笑う時が来るなんて、思ってもみなかったと、勝己は改めて思う。 出久と一緒に、朝ごはんを食べるなんて、尚更。 どんな天変地異だ。 高校時代の自分だって、間違いなく驚く。いや、昨日の自分だって驚くわ。意味が分からない。どんな気まぐれだよと、呆れるしかない。疲労って怖いよな。 緑谷出久。 昨日拾った犬の名前。 ガキの頃からの腐れ縁の、一応、幼馴染ってやつ。 この、世界総人口の約八割が個性を持っている世界で、無個性の、いっちゃんすごくないやつだ。 だからずっと、見下して排除しようとして、中学の時は、自分の、上手くいかないクソみたいな八つ当たりすらも混ぜて、酷く当たった。どんなに振り返っても、赦されない、愚かな過去だ。 高校は同じ雄英だったが、勝己がヒーロー科で、出久は経営科。それでも、科は違えども同じ雄英に通うこと自体が、当時の勝己としては、腸が煮えくり返るほど許し難いことだった。それを、どうせ接点などないと、必死で怒りを収めてやっていたと言うのに、度々接触があり、その度にイラついて、腹が立って、ぶつかって。そんな感じで色々あり、勝己自身、学ぶことも多く、それまでのアレコレを謝罪するに至ったのだった。 だが、だからと言って赦されたわけでも、赦されるわけでもないと、勝己は思っている。当の出久は、すっかり気にしてはいない様子だが。それとこれとは、別だ。 それとこれとは、別だ。 その謝罪の件からは、それなりに関係は改善したが、あくまで科は違うし進路も違う。元々、気が合うわけでもない。高校を卒業してからは、特に連絡を取り合うことも無かったから、会うのすら久しぶりどころではない。どう考えても、向かい合って朝ご飯を食べることになるとは、想像も出来ない相手なのだ。 案の定、出久から、 「あの……ところで、何で僕、ここに居るのか、聞いても良い……？？」 と、恐る恐る聞かれて、そうだよなと、ため息が出た。せめて、事務所であればどんなに良かったか。 でもなぁ？ 出来る説明なんて……さっきと大して変わりはしない。 「まず、昨日、俺は疲れてたし、眠かった」 勝己は大前提を掲げ、釘を刺す。 「うん？」 突然の宣言に、何の関係があるのか、さっぱりと分からなかったようで、出久は不思議そうに首を傾げた。 「そんで、お前が倒れていたわけだ。俺の家の近くに！流石に倒れている人を見捨てるわけにはいかねぇだろ！生存確認のために近付いたら、お前だったから、一先ず部屋で保護することになっただけだ」 事実を述べているが、説明になっているかは謎だ。だが、意味が分からないのは、勝己もである。俺の方が首傾げたいわ！と、思う。何でそうしたのかと問われても、勝己には明確な答えはない。 そんなの、自分が知りたい。 分かるのは、疲れていたのだ。そして、眠かった。 ただ、それだけ。 「むしろ、お前は何であんなところで行き倒れてたんだ？」 勝己の話に、不満そうではないが納得はして無さそうな様子でいた出久に、勝己は当然の疑問を返してやった。お前こそ、何なんだと思う。そもそもの発端。ただの飲みすぎなら別に良いが、危ないから気を付けるべきである。 「えーっと、そう……だよね。うーん」 出久は、気まずげに目を逸らして、ブツブツ言い出すだからイラッとする。正直、そんなん興味無いから出てけと言いたいところだが、昨日のあまりにボロボロな様子と、明らかに不健康な生活をしているのが垣間見えてしまえば、早々に追い出すのも気が引ける。特に、目の前のコイツは。他のやつなら、問答無用で叩き出すのに。 「はよ言え」 と勝己が急かせば、「ごめん、そうだよね」と、出久は苦笑して、うーんともう一度悩んで、何やら気合を入れる。そんな、重大な内容かよと、勝己も少しだけ身構える。 「えーっと、僕……仕事辞めまして……。それで、解放された喜びが爆発して、こう……めちゃくちゃ飲んじゃって……それで、その……そこから記憶が無い……と、言いますか……」 つまりは、ただの飲み過ぎである。 身構えたのがバカみたいだ。恐らく、“仕事を辞めた”の部分が言いにくかったのだろうが、それこそ勝己にはどうでも良い。 恐らく、“仕事を辞めた”の部分が言いにくかったのだろうが、それこそ勝己にはどうでも良い。もう少し複雑な事情や、何かに巻き込まれたわけでも無いのなら良かった。 「酔うのは自由だが、気を付けろ。この辺はそこまで治安が悪いわけじゃねぇけど、犯罪がないってわけじゃねぇ。荷物も、ちゃんと確認しとけよ」 呆れながらそう言ってやれば、出久は今更そのことに気付いたようで、出久の顔色が悪くなる。 「た、確かに！」 慌てて立ち上がった出久は、自分の荷物を探してキョロキョロとするから、勝己はソファの下に置いてある鞄を指差してやった。 「あ、ありがと！」 出久は慌てながらそれだけ言うと、真っ直ぐにそちらに飛んでいく。鞄の中を漁り、財布を取り出して、ホッと息を吐く。それから、中を見て、首を傾げる。 「うーん、そもそもいくら入ってたのか、イマイチ分かんないな……」 呟きながら、恐らく昨日飲んだ時のレシートを見ながら、財布の中身を確認していく。それから、もう一度鞄の中を探って、安心したのか出久はホッと息を吐いた。 「大丈夫そう！」 出久は、さらに鞄の中をごそごそと一通り確認して、そう言いながら戻ってくる。 「それは、良かったな」 何か被害があるなら警察に連れて行かなきゃいけないし、何も無いならそれで良かったと思う。これで心置き無く追い出せる。勝己は、そう思った。
September 22, 2024 at 2:19 PM
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［6/6ページ］
if無個性出×プロヒ勝の出勝。
そう判断した勝己は、そのままその犬はソファに投げっ放しにして、自身も寝ることにした。 だって疲れた。 変なモノを拾って帰ってくるくらいには、勝己は疲れていたのだ。難しいことは明日、考えれば良い。そういうことにして、勝己は身支度をして、ベッドで寝た。 確かに、犬はリビングのソファに寝かせたハズだ。そして、勝己は寝室にあるベッドに寝た。 それなのに、勝己が目を覚ました時、犬は勝己の横でぐっすり寝ていた。 はァ？ ポカンと現状を確認していたところに、ソイツも目を覚ます。パッチリとした瞳と目が合って、数秒……微妙な沈黙が流れる。 「は、え？え？」 犬は、大量の疑問符を飛ばし始める。 「え、かっちゃん？かっちゃん？なの……？え、なんで？は、え、かっちゃ？え？」 必死で記憶を探りながら、犬は、やっぱりかちゃかちゃ鳴いた。うるせぇ。 なんで？なんて、こっちが聞きたい。 緑のモサモサした犬は、混乱しながら勝己と距離を取ろうとし続けて、そのままベッドから落ちた。ざまァ。 「いっっった」 痛みに悶えながら、それでも「何で？」と漏らすあたり、コイツに昨日の記憶は無いのだろうと呆れる。果たしてドコまで覚えているのか。目を覚ましたら、しばらく会ってない知り合いのベッドの上……なんて、確かに、混乱しかないだろう。 だが、勝己からしても、リビングで寝ていたコイツが何でここに居るんだ、図々しいと驚きしかない。何でだ。クソ。 それについての文句は、飲み込んでやることにする。が、勝己がふてぶてしいベッドへの侵入者に対して、優しく慮ってやる筋合いはまるでない。 恐る恐ると言った様子で、ベッドの下から覗き込んでくるヤツには、ため息しか出てこない。 勝己がコイツを家に保護したのは事実だが、ベッドまで連行した覚えは無い。勝手にベッドに入り込んできたのは、お前の方である。被害者ヅラされても困る。優しく説明してやる気も起きない。 「道端に落ちとったんは、テメェだ。保護してやったんだから、感謝しやがれ」 勝己は、実に簡潔すぎる事実のみを伝えてやる。相手に伝わったかどうかは、かなり怪しいが、それを考慮する気もなかった。 「え、え？！」 案の定、犬は『なるほど！』なんて納得するわけもなく、またしても疑問符を量産していた。 が、勝己にはそれ以上、犬を構ってやる気は一切起きて来なかった。疲労困憊で眠った目覚めとしては、最悪でしか無かったからだ。静かにベッドを下りると、状況を整理しきれていないクソを置いて、勝己は寝室を出ていく。 時刻を確認して、思ったよりは寝れたなと思いながら、朝の身支度を軽く整え、朝食を作ることにする。仕方が無いので、拾った犬の分も。 「……良い匂いがする」 まだ混乱を宿しながらも匂いに釣られて来る姿は、鼻の良い犬っぽくて、少し笑えた。 「顔洗って来たら、食わせてやる」 すっかり機嫌の戻っていた勝己が、そのマヌケ面に言ってやれば、「いいの？！」と、飛び上がりそうなほど喜ぶ犬の姿は、悪くない。洗面所の場所を指示してやれば、「ありがと！」と飛んで行く。 どんな豪華な朝食を期待されてるか分からないが、スクランブルエッグと焼いたウインナーにトーストの、至って普通の朝食だ。豪華とは言い難いが、文句を言われる筋合いも無い。 洗面所から戻ってきた犬は、嬉しそうにテーブルに並べられたそれを見る。 「え、これ、食べていいのっ？！」 犬はその大きな瞳をさらに大きくしながら、こちらを見てきた。いいから用意したんだ、なんてことは言わずに勝己は、「好きにしろ」と、返した。 「いいの？！  ありがとう！！」 待てを解禁された犬の様に喜んで、嬉しそうにスクランブルエッグを口にする。 「美味しい！！」 しっぽをブンブンと振るような勢いで喜んで、次々に口に運んでいく。その姿は、まぁ、悪くない。 「流石だ、かっちゃん！」 なんて、褒められるのも悪い気はしない。が、美味しい美味しいと言うそれが、あまりにオーバーすぎて、何か企んでいるんじゃないかと、疑いたくなってくる。大袈裟すぎて。 「僕、こんなに立派な朝ごはん食べたの、すっっごい久しぶり！！」 「僕、こんなに立派な朝ごはん食べたの、すっっごい久しぶり！！」 何でもないように、さらりと爆弾を放り込んでくるなと思う。あまりにオーバーに感激しているが、演技には見えないと思ったら、そんなことを言い出すとは。……コイツ、高校卒業してから一体、どんな生活送っとんだ……と、少しだけ心配になった。ほんの、少しだけ。爪の先、一ミリもないくらい。 「あっそ、大袈裟」 心配するようなことは、絶対に言いたくなかったので、勝己はそう、投げやりに返した。それなのに、へへへっと、バカみたいに出久は笑った。ありがとうなんて、言いながら。
September 21, 2024 at 1:43 AM
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プロヒの勝が“いぬ”を拾う話の出勝です。
一応、オメガバース世界です。が、今のところは特に出て来ないです。
譲渡自体がなかったif世界線の、
if無個性出×プロヒ勝です。
一応の一区切りはありますが、完結は出来てないあれです。ずっと捏ね回してるやつです。

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犬を拾った。 まぁまぁデカくて、可愛くはない。『かっちゃかっちゃ』とよく鳴く犬だ。 仕事からの帰り道、勝己の家の近くに倒れていたものだから、仕方ないので拾ってしまった。 恐らく、魔が差した。 深い理由なんてない。人が倒れているのを発見したら、無視するわけにはいかない。人として、ヒーローとして。 だから、声を掛けた。 ただ、それだけ。 そうしたら、まさかの知った顔で、そいつがうっすらと取り戻した意識で、『かっちゃん』なんて鳴くものだから。 普通なら、警察か自分の事務所に通報して引き取って貰うところだ。それなのに、どうしてか拾い上げてしまったのだ。たぶん、魔が差した、と言うやつだろう。 その日、勝己は疲れていたし、ひたすらに眠かった。思考も大分怪しかったかもしれない。断じて、行き倒れも犬も猫も、何でも拾う趣味は勝己にはない。お人好しでもない。 それなのに、何を間違えたのか、見知った犬を拾ってしまったのである。 疲労と眠気と深夜は、恐ろしいものである。 疲労困憊の中、勝己は犬を抱えて家に帰り、とりあえず、ソファにぶん投げてやった。ご丁寧にベッドを明け渡すわけなんてない。本当は床に転がしてやりたいが、犬のあまりの状態に、不覚にも同情してしまったのである。流石に、床は気が咎めた。 流石に、床は気が咎めた。 ソファに置かれた拍子に、犬はまたうっすらと意識を取り戻して、『かっちゃ』と鳴いた。 とりあえず、生きてはいるらしい。 酒の臭いもすることだし、単なる酔っ払いだろう。 「具合はどうだ」 そう、聞いてやれば、 「んん……」 と犬は唸る。 「とりあえず、水飲め」 勝己は、そう言ってから、冷蔵庫に水を取りに行く。しかしと言うか案の定と言うか、勝己がペットボトル片手にソファに戻れば、犬はすっかり、寝息を立てていた。早くも面倒くさい。が、自分の家で干からびさせるわけにはいかない。こいつ、絶対おぼえてないだろうなァと、イライラしながらも、勝己は犬を揺り起こし、水を飲ませてやった。 「ありがと」 そう言って笑うその顔に、疲労しか見えず、勝己の中のイライラは霧散した。草臥れた、と言うよりは窶れたが正しい。まともな生活を送っているのか甚だ疑問になる様子だ。顔色が悪いのは、酔いのせいだけではきっとない。髪も肌もツヤが無い。そんなやつに、イライラしても仕方ない。 何で、そんなことになっとんだ……そんな別の怒りは湧いてきたが。しかしながら、そんなこと聞く間もなく、犬は再び夢の中に戻っていった。急性アルコール中毒の心配もなさそうなので、これはただの面倒な酔っ払いでしかない。そう判断した勝己は、そのままその犬はソファに投げっ放しにして、自身も寝ることにした。
September 21, 2024 at 1:39 AM