勘違いした方がいいのか、悪いのか。
そんなの、答えられるわけない。なにせ私にもわからないんだから。
私は今、どんな顔をしているのだろう。

end

「そんなやついるかぁ？」 　
いるかもしれないだろう。どこかに。
「いいかアダム、言葉には力がある。例えば…」 　
両手をアダムの頬に挟み、じっと目を見つめて言う。 　
「私も好きだよアダム」
「！！」
顔を赤くして「な、バ、が、あ」と意味不明な羅列。とりあえず怒ってるんだな。
「ふふん。どうだ。勘違いしそうになっただろ？」 　
「ぐっ…チッ、わかったもう言わねぇ。クソルシが。クソクソ！」 　
もはや私を罵倒しているのか自己嫌悪に苛まれてるかの区別がつかない。
「………貴様も」
「え？」　
アダムが私を見下ろしながら問いかけてきた。
「貴様も「勘違い」したのか？」 　
「…あ…」

「こんな感じか？…オイどうした？」　
違う。今のは、ただのフリだ。告白するならこうするというフリ。
なのに、なぜだ？顔が熱い。ドキドキと動悸が激しい。相手はアダムで、しかも真似事をしただけじゃないか。
「んなあからさまに目を逸らすなよ。どこか変だったか？」
この男が気付いていないのが救いだ。本当なら今すぐここから逃げたい。だが、これだけは言わないと。
「あ〜アダム？さっきのは、あんまりやらないほうがいいと思う」 　
「さっき？」 　
「告白まがいのことだ」 　
「別にいいだろ。ちょっとした練習だ練習」 　
「万が一、そう！万が一、勘違いしてしまう子がいるかもしれない！だから練習はやめとこう」

自信たっぷりだ。そういえばこいつはバンドをやってるんだったな。物好きな女がいるものだ。
「でー、私から告白するとしたらなんて言おうか考えてたんだ」 　
「…疑問なんだが、好きな、というか告白しようと思っている女はいるのか」 　
「バァカ！いるわけないだろ！」 　
「こっちのセリフだ馬鹿！まったく。そういうのは相手が出来たときに考えればいいだろ。それに相手の都合とか場所とか考えて…」
「イヤ違うね。告白ってのは自分の感情を一方的に伝える手段だ。だから…」 　
アダムの目が私をまっすぐに見つめて
「お前が好きだ」
と言った。はっきりと。その瞳には私だけが映っている。