まぐろ🐟️
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成人済。ダ🍚（カブミス）/dcst（🚬✖）に元気に狂っている。基本左右はボルトで固定。
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（2/2）
た〝彼〟の気配が手に取るようにわかった。 　息を潜め、こちらを見ている。 　はやる気持ちを抑え、一歩踏み出そうとした時。 「かえれ」 　鋭い言葉だった。迷宮で悪魔と対峙した時の、肌をひりつかせるような気迫の籠もった声色だった。 　いつもであれば〝彼〟の言葉を尊重するが、今回はそうもいかなかった。寧ろその言葉はカブルーの背を押した。寝台へと歩を進める。 「くるな」 　速度を上げる。あっという間に寝台に詰め寄ると、壁のように重なる布を左右に開く。見た目は重厚そうな布だったが、触れてみると軽かった。隙間から体を滑り込ませ寝台に手をつき乗り上げると、カブルーの体重でギシリとマットが沈む。 　寝台の中は部屋よりもさらに暗かった。 　真夜中を思わせるような暗さのその中心に、淡く光る〝彼〟がいた。 　見えない何かからその身を守るよう、両手で自身を抱き締めながら蹲っている。肌に食い込む手はシーツよりもさらに白い。 「なぜ、きた……」 　掠れた声のその奥に熱の燻る気配が色濃くでている。 　重そうに頭を上げ、柳眉を苦しげに歪めながらこちらを睨めつける。しかし、その瞳の鋭さは目元から滲み出る甘さによって薄れている。荒い吐息、少し乱れた髪は汗ばんだ肌に張りついている。 　その姿に脳が揺さぶられるような感覚がする。胸に湧き上がる仄暗い思いと、焼かれるような劣情がぐるぐると渦巻くのを悟られまいと、全てを飲み込むようにカブルーはごくりと喉を鳴らす。　そうして全てを覆い隠すと眦を下げ、努めて柔く囁くような声で答えた。 「あなたを助けるためですよ。ミスルンさん」
September 2, 2025 at 1:12 PM
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8/31に出す予定だったエア新刊です。
『本編終了後、長らく失っていた性欲のコントロールができずに日常生活ができなくなってしまった隊長をカブがリハビリする話』です
進捗がご覧の通りトンチキなので尻叩きであげます（1/2）
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「エア新刊1」、「まぐろ（@maguro-dondon）」と記載されています。 以下は本文の内容です。 　ガタガタと激しく揺れる馬車に合わせて体が動く。 　酷い揺れの原因はこの地に着いた時から降っている雨のせいで、ここ三日ほど続いているというのは御者から聞いた話だった。 　元々冒険者として迷宮に潜っていた身である。いつもならこの程度の揺れなど気にならないが、仕事を前倒しするため机に齧りついていたのが響いている。船での長旅を終えた体にこの揺れはいささかこたえた。 　港に用意されていたこの馬車は一目で上等とわかるもので、停車場に止まっている中でも一番目を引き、周りのものより浮いていた。そんな馬車でここまで揺れるのなら、辻馬車ではこの道は走れたものではないだろうと、窓の外を見ながら考える。 　雨で車輪が滑りやすいのもそうだが、何より今走っている道自体がほぼ整備されていないような荒れたものだった。 　つまりは人が殆ど通ることのない道。 　その先に目的地があるという事実が重くのしかかる。 　窓に映る表情は暗く、雨は激しくなるばかりだった。 　短くない時間が過ぎ、打ち付けていた雨が弱まった頃、馬車は目的地へと着いた。 女王の座する都から離れた緑深い森の奥に、その建物はあった。 　外観は至ってシンプル。白で統一された壁にはなんの飾りも見当たらない。あるのは鉄製の扉のみ。正面から見ると大きな白い箱のようだった。 人が過ごす場所のはずなのに、この建物は人を拒むかのような雰囲気がある。硬く閉ざされたなんの色も感情も見せない冷たい箱。 　ここに〝彼〟がいるのだと思うと胸が締め付けられるような思いがした。 　御者が馬車の扉を開け、カブルーを外へと促す。御者が広げた傘の下、ぐちゃりと音を立てて地面に降り 立った。 　数時間ぶりの外の空気は嫌になるほどの深い緑の香りがした。へばりつくような湿気が体に纏わりつき、地面の泥濘みはまるでここに縫いつけられるような不快感があった。 　ギィ、と重苦しい音が響く。音の方へと顔を向ける。 　鉄製の扉が開いたそこには、詰襟のワンピースを身にまとった人物がいた。白色のワンピースは足首までの長さがあり、足元はブーツを履いているため相手の肌は殆ど見えない。 　金色の髪は後頭部で団子状に纏められており、一切の乱れがなかった。 　体つきと耳で女性のエルフということはわかったが、その表情は全くわからなかった。なぜなら女の顔前には白い布が垂れ下がっているからだ。 「カブルー様ですね。お待ちしておりました」 「お世話になります」 　カブルーは微笑みながら言葉を返す。 　相手は「待っていた」と言うものの、その言葉からはなんの感情も読みとれなかった。 高くもなく低くもない抑揚のない声は人間味を感じさせないものだったが、この建物で働いている人間だと思えば不思議と違和感はなかった。それほどまでにここは異質な場所だった。寧ろこの場では自分の方が異物とさえ思えた。 　女は無言で屋内へとカブルーを誘う。 　カブルーが御者に目配せすると御者は静かに歩を進め、カブルーを濡らさないように建物の入り口へと誘導した。 「ここまでありがとうございました。オブリンさんにもよろしくお伝えください」 「無理なお願いをして申し訳ありません。……よろしくお願いします」 　そう言って御者は傘を畳むと、濡れるのも構わずカ ブルーに深々と頭を下げる。その真摯な姿に彼の主人の姿が重なって見えた気がした。 　扉がゆっくりと閉まる。扉が閉じきる最後まで、御者は頭を下げたままだった。 　硬く閉ざされた扉から女へと顔を向けると女もカブルーを見ていたが、すぐに踵をかえすと奥へと続く廊下へと歩き始めたのでカブルーも後を追った。 　前を歩いている女からは足音すらしない。ただカブルーの足音だけが無機質な廊下に響く。 歩いていくうちに気づいたのは、この施設が外観からは想像できないほどに広大だということだった。 　長い廊下に一定間隔ではめ込まれている窓の景色は緑一色で変わり映えしない。 　ただ真っすぐ歩いているはずなのに、同じ場所をぐるぐると歩いているような錯覚に陥ってくる。 (まるで迷宮だな) 　そんなことを考えていると一つの部屋の前で女がピタリと止まる。 人差し指をドアノブにあて何かを呟くと、ガチャリと開錠の音と共に扉が開く。 　扉の軋む音が酷く耳障りだった。 　女に続いて部屋に入ると、そこは白い壁に囲まれた小部屋だった。部屋の真ん中に置いてあるのはさほど大きくもない四角い木製テーブルのみ。そしてテーブルの向こうにはまた扉がある。 「基本的に私共が入れるのはこの部屋までです。こちらのテーブルに食事や消耗品を用意いたします。中に運ぶのは妖精がします。リネンなどの取り替えも全て妖精がします。ほかに必要なものがありましたらベッドルームの白い服の妖精を使って連絡してください。黒い服の妖精は部屋を整えるためのものですので通信はできません」 「わかりました」 「では私はこれで失礼いたします」 　そう言うと女は一礼して静かに部屋から出ていった。 　取り残されたカブルーは静寂に満ちた部屋を改めて見渡す。入ってきた扉には微量な魔力の流れは感じるが、特別なにかあるようには感じない。開錠用の術式のみ施されているのだろう。壁にも手を当ててみるが、ザラリとした感触のみで特に名にもなかった。靴に仕込んである隠しナイフを取り出し、柄尻で壁を軽く叩くと、通常の邸宅の壁ではありえないほどの厚みがあることがわかる。 （まるで牢獄だな） 　特に何もなさそうなので、奥に続く扉へと手を掛ける。 　扉を開くと、その先にはさらに左右と正面に扉があった。右の扉を開くと浴室があり、左の扉を開くとトイレがあった。どちらも上等な造りで、綺麗に整えられている。あまりの綺麗さに本当にここに人がいるのかと疑いたくなったが、ここに〝彼〟がいるのは間違いなく事実だった。 　最後の扉の前に立ち、滑らかなドアノブに手をかけたまま動きを止める。ヒヤリとした感触は次第に自身の体温であたたまり、違和感がなくなる。そうしてやっとドアを開け放った。 　目に入った空間は天井が高く開けたものだった。本来ならば陽光を惜しみなく取り入れる大きな窓は全てカーテンで閉ざされており、時間帯としては昼を少し過ぎたくらいなのに、夜に紛れ込んだような錯覚がした。部屋は寒々しいほどに広く、真ん中には成人トールマンが三人寝てもまだ余裕がありそうなほど大きな天蓋付きの寝台が鎮座している。 　天蓋から垂らされた布は四方に広がり寝台を覆い隠している。厚手ではないものの、重なり合った布のその奥は見えない。 　しかし、気配がする。 　生涯忘れないであろう、あの六日間と祝宴を過ごし
September 2, 2025 at 1:12 PM
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（3/3）
　晴れやかな青空の下で、トールマン式の厚手の生地に派手な刺繍が施された正装に二人は身を包んでいる。人種関係なく大勢の人々が見守るなか、悪食王が二人の結婚に祝福の言葉を述べると、二人は指輪を交換し口づけを交わす。 　その瞬間、色とりどりの花と共に祝いの言葉が飛び交い場は一気に盛り上がる。ミルシリルは人目も憚らずわんわん泣いて、おめかしした子供たちはそんな彼女を囲んで慰めている。俺は呆れた表情でハンカチを差し出す。 　その様子を見たカブルーとミスルンは、顔を見合わせて人形たちと同じように朗らかに笑いあっている。 　なんとなくそんな気がした。
August 30, 2025 at 6:21 PM
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（2/3）
ルーが何をしてくれたか。自分がどのように感じ何を思いカブルーと交流を深めたか。いかにカブルーが自分を深く愛しているか。そして自分自身もどれほどカブルーを愛しているか。 　口調は淡々としていたものの、俺等はミスルンから発される〝見えない力〟みたいなものに圧倒されて動けないままだった。あれはおそらく〝自信〟だった。カブルーから全身全霊で愛されているという鉄壁の自信が、ミスルンを神々しいほどまでに輝かせていたのだと思う。わからんけど。 　ミスルンの隣にいるカブルーはというと、熱烈な愛の言葉に目を見開いたり潤ませたり頬を赤く染めたりと、胸焼けしそうな百面相をしている。 俺はお前のそんな姿見たくなかったよ……ミスルンの話は終わりが見えないしどうしたもんかと隣のミルシリルに目をやると、いつの間にやら剣を構えていた。カナリアの時に使っていた懐かしの剣だ。何度もこの剣が魔物を屠ってきたのを見てきたし、俺が助けられたのも一度や二度じゃない。 　だが今は迷宮じゃないし、目の前にいるのは魔物じゃない。 　俺は現役時代以上の速さでミルシリルを羽交い締めにし渾身の力で抑え込んだが、ミルシリルの動きは完全には止まらない。叫ぶ。暴れる。暴れる。暴れる。 　俺はミルシリルを止めるのに精一杯で、カブルーたちに「逃げろ！」とかそんな言葉を出すこともできなかった。 　しかしさすがというかなんというか、カブルーは状況を飲み込むのも動くのも早かった。カブルーは耳を下げたミスルンを肩に担ぎ上げると 「俺たちは本気です！　今回は帰りますがまた来ますから！！」そう言うや否や、走り去っていった。途中二人の姿が消えたのはミスルンの転移術によるものだろう。 　二人が見えなくなって気が緩んだ俺はミルシリルの後頭部で頭突きを食らい、そのままぶっ倒れた。 　以上がカブルーの結婚報告時の顛末だ。 　あれからミルシリルは鬱憤を晴らすかのように、毎夜得意でもない酒を胃に流し込むようになってしまった。 　そんなことをしてもなんにもならないのは本人が一番わかっているので口を出すのは野暮だと思っていたが、そろそろ頃合いなのかもしれない。子供らもアイツ等も、なによりミルシリル自身のためにも。 （仕方ねぇなぁ） 　俺は最後のナッツを口に放り込み、飲み込んだ。 「アイツらさ、決めたら聞かないじゃん」 「そうだな……」 「別に結婚なんて好きにしたらいいのに。船に乗ってわざわざ足を運んできたのは何でだろうな」 「……」 「報告だけなら通信妖精を使えばいい。そうだろ？二人とも世話になったお前にちゃんと伝えたかったからここまで来たんだ。違うか？」 「わかってる……わかってるんだ。二人の気持ちもちゃんと……」 「じゃあ、なんであんなに拒否したんだよ」 　俺に頭突きまでしやがって、という恨み言を飲み込み訊ねる。 　少しの沈黙の後、ミルシリルは顔を伏せたままぽつりぽつりと答えた。 「昔よりもよくはなったが短命種と長命種が付き合うとなると色々な壁があるのは変わらない。しかも同性となるとさらに厄介だろう」 　ミルシリルの言いたいことはわかっている。 　新興国とはいえカブルーは宰相だ。そうなると他国との縁談とか跡継ぎとか、つまりは子供だ。ミルシリ ルも貴族の端くれだ。そういった話は彼女自身も色々言われてきたことなのだろう。 「けどさぁ……」 「なにより寿命差だ。順当にいけばカブルーはミスルンを置いていく。カブルーのことを話すミスルンは幸せそうだったよ。応援したい気持ちがないわけじゃない。でも、あの子が死んだあとミスルンがあの時のようになったら？　私は二人が傷つく姿は見たくないんだ……」 　ミルシリルの言いたいことはわかった。 　周囲の偏見が、蔑みがどんなに人の心を擦り減らしてしまうのかも。人種が違う故の別れの辛さも。二人のことを心配しているのはよくわかった。 　わかるんだが、でもそんなのアイツらとっくに織り込み済みだろ。 　あの日、ミスルンと並んで俺たちを見つめるカブルーの瞳に俺はアイツの本気を感じた。 　本気というか空気感というか、まあとにかく冗談でも遊びでもなくミスルンと一生を添い遂げたいという気持ちは、色恋ごとに興味のない俺でもわかるほど伝わった。 　苦難もわかったうえで、それでもと覚悟を決めた男がそこにいた。 （もう子供じゃねぇんだな） 　情報としてはわかっていたが、この時に俺はようやくカブルーが成人トールマンだと理解したように思う。 「過保護もいい加減にしろよ」 　それまで頭を下げていたミルシリルがこちらを向く。 「そんなのはなぁ、本人たちがどうにかするんだよ！　アイツらだってバカじゃないんだ。そんなことわかりきってそれでもだろ！」 　ミルシリルが目を見開きながら俺の言葉を聞いている。こんなにも熱くなるなんて思わず、自分自身も驚いている。でも口が止まらなかった。 「アイツ等が『迷宮に行く』と言ったときみたいに信じて送り出してやれよ」 　その瞬間ミルシリルの顔がくしゃりと崩れ、肩を震わした。それまでの激しい感情表現と違い、すすり泣く声が静かに部屋に響く。 　どうしたもんかと手を彷徨わせたが、ふとこの前のカブルーとミスルンの姿が浮かんだ。 　彼女の背に手を回し、ぐっと体を密着させ抱きしめる。一瞬ピクリと体が跳ねたが、ミルシリルは俺を払い除けなかった。こんなふうに彼女に触れることなどなかったから、変な心地がして心臓が落ち着かない。 　いや、違う。迷宮ではあったな。 　ドラゴンの尾で薙ぎ払われて吹っ飛んだミルシリルを全身で受け止めたというか、クッション代わりになったというか。まぁ、ミルシリルに触れるなんてそんな時くらいのもんだ。 （大丈夫。お前が鍛えた奴等なんだ。なんも心配いらねぇよ） 　そんな思いで宥めるように、励ますように背中をポンポンと叩くと、俺の背中にミルシリルの手が回った。そして伸びた手は俺を強く強く抱きしめ返した。 「うぅ～……！！」 「わかった！　わかったからそんな力入れんな！　骨が折れるっ！！」 　ミシミシと嫌な音が体中に響く。必死で体を離そうとしたが、筋肉には勝てなかった。俺ははうはうと泣き声をあげるミルシリルに締め上げられたまま、一晩中過ごすことになった。 　こうしてミルシリルはいつものミルママに戻った。 　今は機嫌よく二人の結婚式にプレゼントする人形を作っている。人形同士を近づけると、仲良く手を繋ぐという謎仕様な人形だ。だが、アイツらの姿を模した人形は仲良く笑っている。 　俺は招待されている結婚式のことを想像する。
August 30, 2025 at 6:21 PM
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カブミスの結婚に関するヘルとミルのお話。カブミスは添える程度。ヘル視点。目つきは悪いけど面倒見の良い兄ちゃんで好き。
（1/3） https://sscard.monokakitools.net/shinsho.html
印刷された本の本文の体裁で画像化されたテキストです。付記に「とにもかくにもめでたい話」、「まぐろ」と記載されています。 以下は本文の内容です。 　家主が自室から出てこない。 　正確には子供たちが寝静まった後に一人で部屋に籠もるようになってしまった。元々内にこもりやすい奴ではあったが、子供の世話をするようになってからは大分改善されてきていたというのに一体どうしたことか。 　いや、実際のところ理由はわかっている。 　こうなるであろうことは予想もできていたし、　日中は部屋から出て色々と動いて問題なく子供たちと生活しているので、俺としては気が済むまで放って置くべきかとも考えていた。 　だが、子供というのは大人が想像するよりも敏感な生き物だ。いつもなら目つきの悪い俺を怖がって近寄らないノームの子供が、緊張した面持ちで声をかけてきたのだ。 　心配と不安の入り混じった声で「ねぇ、ヘルキ。ミルママげんきないの？」なんて言われてはさすがに放っておくことはできなかったし、子供の勇気を無視することもできなかった。 　こうして俺はミルママ、もといミルシリルとの話し合いに臨むことにした。 ◇◇◇ 「おい。入るぞ」 　返事も聞かずに扉を開ける。明かりもついていない暗い部屋の中にはアルコールの匂いが漂っている。部屋の真ん中に目を向けると、テーブルに突っ伏す彼女がいる。 　その周りにはいつもであればミルシリルの良き理解者である人形たちがいるのだが、今日は人形の代わりに空の酒瓶が彼女を取り囲むように所狭しと並んでい た。 　こりゃ想像以上に面倒だと、内心溜息をつきながらテーブルと同化しそうなミルシリルに近づく。 「おーい」 　声をかけても耳すらピクリとも動かない。 　その様子はどこぞの次男が迷宮で倒れていた時の姿を思い出させた。そして、その次男こそが目の前の人物を荒れさせた張本人の一人だった。 「なぁ、ミルシリル。いい加減機嫌直せよ。結婚だなんてめでたい話じゃんか」 「めでたくないっ！！」 「うぉっ？！」 　先程まで死人のように動かなかったくせに、急に立ち上がるとものすごい気迫で睨まれた。カナリアを除隊してかなり経つが、副長まで務めた底力はまだまだ健在だ。迷宮でドラゴンと対峙したときと同じように、肌がピリつき背に嫌な汗が伝う。 「落ち着けって」 「落ち着けるわけないだろう！　カブルーが結婚するとか言いだしたんだぞ？！　あの子が、あんな小さかったあの子が！！」 「あー……うん。そうだな。ほんと立派になったよな。細々のチビだったのが今では一国の宰相だってんだから驚きだよ。俺も体を張った甲斐があったってもんだ」 　詳しい話はわからないが、ある時カブルーがミルシリルから戦い方を学ぶことになった。 　それにあたって人体の構造を知りたいからと、なぜか俺が実験台としてミルシリルに技をかけられることになった。アホほど痛かったのでよく覚えている。 　俺の体で人体の構造を理解したカブルーは、それから間もなくミルシリルと模擬戦をするようになった。模擬戦といっても真剣を使ってするやつだ。 　ミルシリルは甘やかす時は甘やかすが、物事を教えるとなったらいつも本気で容赦がない。 　少し間違えたら死ぬんじゃないか、というくらいの激しい指導内容にカブルーもそのうち音を上げるんだと思っていたが、何度も何度も彼女に向かっていき、泥と傷まみれでぐちゃぐちゃになっても諦めなかった。最初は面白半分で見ていたが、物凄い勢いで技の精度が上がっていき、初めてミルシリルに一撃食らわせたときは少し感動さえした。 　そんな日々が過ぎ、カブルーはあっという間に俺たちの背を追い越し、振り返りもせずここから出ていった。そんで冒険者になったかと思ったら、悪魔を食べて世界を救ったというトールマンの王の右腕になった。そして先日、人生の伴侶まで連れてきた。 　が、この伴侶というのがミルシリル的に大問題で、それからずっとこの調子だった。 「結婚なんて認めない！」 「そんなこと言うなよ。俺はアイツがいつか女に刺されるかと思ってたけど、その前にちゃんと身を固めることになってよかったと思うぜ」 「あの子がそんなヘマをするわけないだろう。ヘルキはカブルーのことをわかっていないな……って、そうじゃない！別に結婚するのはいいんだ！　喜ばしいよ！　問題なのは相手だ！！」 「まぁ、予想の斜め上だったな。まさかあのミスルンとデキるなんてな」 「言うな！！」 　そう言うと、ミルシリルはよくわからない叫び声を上げながらまた机に突っ伏し、悲壮感たっぷりにおいおいと泣き始めた。 　そう。カブルーが人生の伴侶として連れてきたのはあのミスルンだった。 　元迷宮の主。悪魔に欲を食われ、死人一歩手前でよくわからないベトベトの粘液に塗れていたアイツは、ミルシリルの一言で〝処理〟されず、迷宮から救出された。 　ミスルンの兄に身柄を引き渡してからは暫く音沙汰が無かったが、ある日からミルシリルがミスルンに稽古をつけるようになった。そんでいつの間にかカナリアに復帰していた。 　廃人同然だったところからミルシリルの厳しいリハビリに耐えぬき、カナリアの隊長にまでなったミスルンと、ミルシリルに鍛えられ迷宮へと旅立ったカブルー。 　迷宮という共通点を持つ二人が出会ったのは、もはや必然だったのかもしれない。 　いや、知らんけど。 　ただ二人を送り出した本人的には悔やまれるらしい。俺は呻くミルシリルの隣の椅子に座り、テーブルに散らばっているナッツを摘んで口に運ぶ。小腹が空いてたのでちょうどよかった。ボリボリと遠慮なく食べるが、ミルシリルは突っ伏したままだ。 　カブルーから「結婚したい人がいるので会ってほしい」。そんな連絡が来てからミルシリルの浮かれっぷりときたらヤバかった。そして連れてきたミスルンを見てからは別の意味でヤバかった。 　一触即発の空気に、俺は珍しく気を利かせて部屋に茶菓子を持っていったことを後悔した。 　ミルシリルは早口のエルフ語でミスルンにまくし立てた。ミスルンの表情にあまり変化はなかったが、反論することなく大人しく聞いていた。 しかし「なんでカブルーなんだ！」という叫びに初めて言葉を発した。 「カブルーが私を愛してくれたからだ。私もそうだ。カブルーを愛している」。 　あのミスルンからそんな言葉が出てくるとはと、俺とミルシリルは唖然としたままミスルンの言葉を聞くことになった。 　どのようにして自分とカブルーが出会ったか。カブ
August 30, 2025 at 6:20 PM