透明な傘に響く雨 滴りは遅さ速さを争わず落つ
透明な傘に響く雨 滴りは遅さ速さを争わず落つ
鍵の音何度響かす、いつか鍵をかけて戻らぬ夜が来るまで
鍵の音何度響かす、いつか鍵をかけて戻らぬ夜が来るまで
椅子の住む椅子の街にも理不尽な椅子がをるらし獰猛な椅子も
椅子の住む椅子の街にも理不尽な椅子がをるらし獰猛な椅子も
油彩画に描かれし部屋のひとつひとつ訪ひし後の微かなめまひ
油彩画に描かれし部屋のひとつひとつ訪ひし後の微かなめまひ
あをを恋ふこころを知りぬ冬の朝風に崩るる雲間のあをを
あをを恋ふこころを知りぬ冬の朝風に崩るる雲間のあをを
オオスズメバチの羽音鋭し風も人も押し返すそのちから羨しも
オオスズメバチの羽音鋭し風も人も押し返すそのちから羨しも
まあたらしき消耗品がまた届くもうすぐこはれる本体のため
まあたらしき消耗品がまた届くもうすぐこはれる本体のため
薄明の首すぢに掻き寄せる襟 秋はもうこはれてしまつた
薄明の首すぢに掻き寄せる襟 秋はもうこはれてしまつた
ブロックプリントの花くりかへし咲きつづく線と色とのずれもともども
ブロックプリントの花くりかへし咲きつづく線と色とのずれもともども
ゆふかげの消えゆく斎庭犬枇杷のいろづく葉むらそこのみ明く
ゆふかげの消えゆく斎庭犬枇杷のいろづく葉むらそこのみ明く
雨の母趾にやさしく踏まれ石たちの色は濃くなるうつくしくなる
雨の母趾にやさしく踏まれ石たちの色は濃くなるうつくしくなる
叩くなら叩くほどよきものもあるひとが諸手になすわざ拍手
叩くなら叩くほどよきものもあるひとが諸手になすわざ拍手
つよく踏む自転車のペダル 下手くそな塗り絵のやうな今日の終はりに
つよく踏む自転車のペダル 下手くそな塗り絵のやうな今日の終はりに
ひしめく鳩その石の色 大丈夫、叶はぬことの何ぞあらざる
ひしめく鳩その石の色 大丈夫、叶はぬことの何ぞあらざる
開けてはいけない抽斗の中はからつぽでミシン油の匂ひのみ濃く
開けてはいけない抽斗の中はからつぽでミシン油の匂ひのみ濃く
抱えたまま気付かなかつたこの希み手放せばなんと重かつたこと
抱えたまま気付かなかつたこの希み手放せばなんと重かつたこと
西の窓で待ち受けてゐた FMの電波、雨、そしてサンタクロース
西の窓で待ち受けてゐた FMの電波、雨、そしてサンタクロース
車両と車両のあひま刺しくる西日の金詩の生まれない踏切を待つ
車両と車両のあひま刺しくる西日の金詩の生まれない踏切を待つ
踏めば鳴る暗渠の蓋を自転車で踏む前輪と後輪で踏む
踏めば鳴る暗渠の蓋を自転車で踏む前輪と後輪で踏む
あまりにもまつすぐむかつて来られたらこはくないですかボールも人も
あまりにもまつすぐむかつて来られたらこはくないですかボールも人も
玉子色の蛍光ペンで線を引くわからぬ人にわからせぬやう
玉子色の蛍光ペンで線を引くわからぬ人にわからせぬやう
何建つとつたかすぐに忘れる鰻谷安藤忠雄のビルも毀して
何建つとつたかすぐに忘れる鰻谷安藤忠雄のビルも毀して