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20↑腐|tgcf花怜|文章書き|300字SSS投稿のみ
⚠️ネタバレ注意

別アカ▶︎@knd-tgcf-hl.bsky.social
「哥哥、朝だよ。起きて」」
こんもりとした布団の山をそっと揺するが、返ってくるのはむずかる声だけ。やがてのそりと顔だけがはみ出て、寝ぼけ眼が三郎を見上げた。
「やだぁ……私は毛布と添い遂げる……」
この温もりを離したくない。ぼそりと呟くと、精悍顔つきが悲しげなそれに取って代わった。
「そっか……俺では哥哥を温めてあげられないんだね……」
その顔を見上げた瞬間、謝憐は慌てて跳ね起きた。
「そんなわけない! 私を熱くしてくれるのは三郎だけだよ!」
だが、思考回路はまだ起動したばかり。自分の発言をじわじわと理解すると共に、頬がのぼせてゆく。対する彼は、満面の笑みで謝憐を見下ろしていた。
暖 / 花怜
November 12, 2025 at 11:57 PM
「戻ったよ。……何してるの?」
小花が村人たちの手伝いから戻ってくると、菩薺観の軒先で、座った謝憐が子どもたちに囲まれていた。
「おかえり。甘栗を貰ったんだけど、この子たちは自分で剥けないからね」
硬い殻を器用に剥いて、せがむ子どもたちに順に手渡してゆく。微笑ましいはずの光景を、しかし複雑な気持ちで眺めていると、謝憐が手招きした。
「三郎。口開けて」
「……ん、」
素直に開けた口の中に放り込まれたのは、剥いたばかりの栗だった。ほっこりと柔らかく、ほんのり甘い。
「それが一番大きかったんだ。……美味しいだろ?」
悪戯っぽく耳元で囁き、謝憐は笑う。いとおしげに目を細めながら。
とっておき / 花怜
September 17, 2025 at 10:54 AM
「哥哥、焼けたよ」
焼き上がった芋を火挟みで取り出した。皮には程よく焦げ目が付いて、香ばしい。
「ありがと……三郎?」
だが彼は、謝憐にそれを渡そうとはしない。こくりと首を傾げると、彼は手拭いで包んだ芋を半分に割り、少しだけ皮を剥いた。黄金色の身が現れ、ほわりと柔らかな湯気が上がり、甘い匂いが立ち込める。
「はい。熱いから気をつけて」
「えっと……」
「はい」
微笑みながら差し出されたら、従うしかない。それに彼の手の中にあると、何だかものすごく美味しそうに見えるのだ。
「……好」
恥ずかしいやら、むず痒いやら。思いきって大きく頬張った焼き芋は、ほっこり甘い、幸せの味がした。
幸福一半 / 花怜
September 17, 2025 at 4:24 AM
小さな丸い果実を、ぱくり。瑞々しくて、甘くて、思わず頬が緩む。――ああ、もうすぐ三郎が帰ってくるから、残しておかなきゃ。けれど、果実を摘む手は止められない。とうとう最後のひと粒を口に放り込み、そして、
「哥哥、ただいま!」
「んっ……!」
驚いて丸呑みしてしまった。咳き込む背を、大きな手がそっとさする。
「大丈夫? 何を食べ……葡萄?」
「……ごめん。貰ったんだけど、美味しくてつい……」
涙目で、心底申し訳なさそうに言うものだから。小花はくすりと笑い、濡れた唇をそっと塞いだ。
「んっ」
触れるだけですぐに離れ、小花は自分の唇をぺろりと舐めた。
「俺はこれで十分。……ん、甘いね」
初物 / 花怜
September 13, 2025 at 5:21 PM
「哥哥、今日は涼しげな格好だね」
連日の暑さは、神の身にも堪えるのだ。長い髪を一つに纏め上げ、いつもの道袍の襟を少し緩め、袖を捲って紐で括っている。
「こう暑いとね……だらしない、なんて言わないでくれよ?」
「言わないよ。でも……」
火照った白い肌は、高い体温のせいで透き通るように美しく、まるで匂い立つようだ。首元をゆっくりと伝い落ちる雫から、一瞬も目が離せない。甘い香りに誘われるように唇を寄せ、そして――
「んっ」
「あんまり無防備だと、蝶に蜜を吸われちゃうかも。気をつけて」
「……」
(そんな不埒な“蝶”は君だけだろ……)
暑さからではなく頬を染め、謝憐は襟をそっと直した。
花香 / 花怜
July 12, 2025 at 11:44 AM
「わ、珍しい」
「たまにはね。……どうかな?」
淡い色合いの衣を纏い、長い髪を高くひとつに結った伴侶の姿に、謝憐は目を丸くした。真夏の折、鬼は暑さを感じないが、人の身には随分と堪えるのだ。いつもの紅衣と濡れ羽色の髪を下ろした格好では、見ているだけで暑苦しいだろう。見目だけでも涼やかにと、そう考えたのだが。
謝憐はしげしげと全身を眺めたあと、「素敵だ。よく似合ってる」と褒めた。そして――
「んっ、」
首元におもむろに近づき、唇で触れる。ちくりと感じた、微かに甘い痛み。
「でも……あんまり可愛いことされると、心配になっちゃうな」
触れた箇所を指差し、にこりと微笑む。
「気をつけて」
虫除け/ 花怜
July 11, 2025 at 10:31 AM
「三郎……」
伴侶に後ろから抱きつき、広い背にぴたりと頬をくっつける。身の内にこもっていた熱気が瞬く間に霧散してゆき、ほうと息をついた。
「どうしたの?」
「……ん」
ひややかに乾いた手が、上から重なる。花城は伴侶の手を捕らえたまま、顔だけを後ろに向けた。
「哥哥」
「ん? ……っ」
唇を塞がれ、口内に冷たい舌が這わされる。熱い吐息ごと食むような深い口づけ。唇までひんやりとする頃、ようやく解放された謝憐は、耳まで真っ赤に染めてくたりともたれ掛かった。
「どう? これで涼しくなった?」
「……うん」
口実がなければねだれない、恥ずかしがりな伴侶に、花城は艶やかに微笑みかけた。
おねだり / 花怜
July 6, 2025 at 6:29 AM
――からん。
小さく軽やかな音を聴きつけて、花城は伴侶の背に歩み寄った。
「哥哥。何食べてるの?」
「飴、君もひとつどうだ?」
包みの中には、琥珀色の小さな塊が入っている。彼の瞳のようだと思いながら、飴を差し出す手をそっと包んだ。
「うん。……じゃあ、貰おうかな」
言うがいなや、ほんのり湿った朱唇を塞ぐ。塊を舌で転がして、甘い唾液を吸って飲み下し、溶けかかったそれを器用に舌で掬い取ると、自分の口内に納めてしまった。
「……ぁ、」
唇を離す。ぽかりと開いた唇に、新しい飴をひとつ、そっと差し入れる。
「……ん。甘いね」
艶やかに濡れた唇を引き上げ、貰い受けた飴を、ころんと鳴らした。
糖果 / 花怜
June 24, 2025 at 4:41 AM
「哥哥,我回来了」
外の気配を纏ったまま、頬に口づけをひとつ。
「……晚安,哥哥」
遠のく意識の中、額に唇が触れたのを感じて。
「哥哥,走吧」
繋いだ指先に吸い付かれ、離れた唇が笑みを刷く。
頬に、額に、指先に。
触れる唇は溢れんばかりの愛に満ちているのに、彼はなぜか核心に触れようとはしない。
(……もしや、試されてる?)
乾いて、寂しいままの唇をなぞり、悩ましげなため息をつく。

「哥哥,晚安」
「三郎」
頬を引き寄せ、唇を塞ぐ。深く触れ合わせ、舌を絡め、強く吸い上げて。
「……私にできないとでも思ってた?」
濡れた唇をぺろりと舐め、ぽかんとする伴侶に艶やかに笑いかけた。
亲亲我吧 / 花怜
May 24, 2025 at 3:47 PM
「……熱っ!」
熱々の肉まんに齧り付き、謝憐はびく、と肩を跳ねさせた。
「見せて」
赤くなった舌先を見るなり、小花はすかさず口づける。そっと舌を絡めて具合を確かめながら、癒すように舐める。重ねた唇はすぐに離れていった。
「……ありがとう。もう大丈夫」
「気をつけて」
ふたりは近い距離で囁き、微笑み合う。そのやり取りの傍で、南風は顔を背け、扶揺は白目を剥いた。
「……あのねえ、すぐにいちゃつかないで。見せつけられるこっちの身にもなってくださいよ!」
「なら見るな。失せろ」
「三郎。……もういいから」
困り笑いで嗜める。肉まんを割って彼に手渡し、少し冷めた片割れに大きく齧り付いた。
治癒 / 花怜
May 6, 2025 at 5:56 AM
「だめ。触らないで」
伴侶の胸元に手を伸ばすと、持ち主はさっと身を引いた。
「あげたのは俺なのに?」
「そうだけど、今は私のものだ」
私のもの――その甘美な響きに胸が打ち震えると同時に、こみ上げたのは幼い悪戯心だった。
「だめって言われたら、逆に触りたくなるな。三郎は悪い子だし?」
細い鎖に指先を引っ掛け、持ち上げる。心許なく揺れる指輪を、謝憐は慌てて取り返した。
「悪戯するなら……こうだ!」
言うが否や、指輪を口の中へ入れてしまった。
「これでもう触れな……三郎?」
顔を覆い、俯いてしまった伴侶を、謝憐は不思議そうに覗き込んだ。髪の合間に見える、ぎらついた瞳に気付くことなく。
戒指 / 花怜
April 22, 2025 at 11:44 PM
目覚めると、身体が全く動かせなかった。原因は言うまでもない。背後から腹に回された長い腕を、とんと叩く。
「……三郎、これじゃ動けない」
しかし腕は緩むどころか、ますます強くなるばかり。思わず苦笑が漏れる。
「……もう少しだけ」
「君の顔が見たいんだけど」
その途端に、頑なな腕はあっけなく緩み、謝憐はようやく身体の向きを変えた。乱れた黒髪をさらりと撫で、額に、頬に、鼻先に、緩く閉じた右瞼の上に軽く口づけ、微笑む。
「早,三郎」
不意を打たれた花城はぱちりと左目を瞬かせ、ゆるりと細めた。
「早,……哥哥」
溢れんばかりの笑みを湛えた、艶やかな唇が向かう先はもちろん、伴侶の唇だ。
早上的吻 / 花怜
April 14, 2025 at 3:58 AM
(……珍しい)
牀榻に横たわり、目を伏せる伴侶を見下ろして、謝憐はほうとため息をついた。彼は呼吸をせず、休む時もぴくりともしない。今も、本当に眠っているのか定かではないが、こちらに視線を向けていない彼は、美しさよりも凍りつくような冷たさが先立つ。けれど、その危うい美しさに惹かれずにはいられない。息を殺し、そっと近づいて――伸びてきた腕の中に、あっという間に抱き込まれてしまった。
「……三郎」
びくともしない腕の中で、謝憐はむすりと唇を尖らせる。
「襲ってくれると思ったのに。……待ちくたびれちゃった」
そう楽しげに笑う伴侶の顔に、先ほどまでの冷たさは微塵も残ってはいなかった。
氷中花 / 花怜
March 27, 2025 at 3:54 PM
小花が観に戻ると、謝憐が茣蓙に横になっていた。入口に向けた背が微かに上下している。春めいてきたとはいえ、室内は肌寒い。起こさないよう気配を消し、上掛けを取って振り向き――ぴたりと動きを止める。
ぞっとする程の殺気。眠っていたはずの謝憐が小花の真後ろで、首筋に刃を当てていた。
「……哥哥」
呼びかけると、謝憐ははっと我に返った。
「ごめん、つい癖で! ……ふあ、あと一時辰だけ、君も一緒に……」
欠伸をして剣を放る。屈んだまま固まる小花を抱き込んで、再び茣蓙に寝転がった。すぐに寝息を立て始めるが、小花は身じろぎすらできないまま。
だが今はこの、栄誉ある抱き枕の役目を全うしなければ。
気配 / 花怜
March 17, 2025 at 3:46 PM
三郎バージョンもあります🌸🤧
春の三郎は、三割増しで可愛い。くしゅん、と控えめなくしゃみをした彼に、ティッシュを差し出す。
「……ありがと」
礼を言う声は鼻にかかって、目も潤んでいる。おまけに薬のせいで常にぼうっとして、動きもどこか緩慢だ。彼は毎年この時期、この症状に苦しめられているのだが……。
「……哥哥、何笑ってるの? 俺はこんなにも辛いのに、見てて楽しい?」
「ちが、そんなつもりじゃ……!」
涙目で睨まれ、慌てて首を振る。彼の苦しさをわかってやれないことは、謝憐だって歯痒いのだ。
「ごめんなさい、こんなの八つ当たりだ。……さっきのは忘れて」
ぐす、と鼻を啜りながら言う彼はやっぱり――可愛い。
春*現代AU / 花怜
March 15, 2025 at 5:08 AM
「くしゅん!」
「大丈夫?」
「……あんまり」
すかさずティッシュを差し出す。ありがとう、の声は鼻に掛かって、気怠げだ。風邪さえ滅多に引かない謝憐も、花粉の猛威には勝てないらしく、春は毎年こうだ。恋人を苦しめる忌々しい木を、何度燃やして根絶やしにしたいと歯噛みしたことか。だが――赤く腫れて潤んだ目と、舌足らずな鼻声、ぼんやりした受け答えは夜を想起させ、妙に色っぽくて……
ぐい、と袖を引かれ、我に返る。
「三郎、早く家に帰ろう? ……もう我慢できない……」
涙目で訴えられ、こくりと喉が鳴った。
……前言撤回。春だけならば、猛威を振るうことを許してやろう。仕方なく、だけど。
杉 / 花怜*現代AU
March 15, 2025 at 4:52 AM
身支度の仕上げにひと吹き。背後から顔を覗かせた謝憐が、恋人の手にある瓶をひょいと取り上げた。
「君の匂いの正体はこれかい? ……華やかで、色っぽくて、ちょっとピリッとする。うん、いい香りだ」
首元に顔を寄せ、香りを吸い込むようにすんと鼻を鳴らす。花城はくすりと笑って身を捩った。
「興味あるなら付けてみる? ……でも、哥哥の方が体温高いから、同じように付けたら香りが強すぎるかも」
謝憐を包み込むように、ぎゅっと抱きしめる。
「ん、これくらいで丁度いい。……あまり三郎を誘惑しすぎないで?」
花城は艶やかに微笑む。抱き合うふたりの間から、妖艶な香りがふわりと立ちのぼった。
夜来香 / 花怜*現代AU
March 8, 2025 at 4:56 AM
ベッドが僅かに沈む感覚とコーヒーの香りで、謝憐は目を覚ました。霞む視界に入るのは、スウェットのパンツだけを穿いた、広くて白い背中だ。そこには、赤い掻き傷と痣が一面に広がっている。考えるまでもない。それは昨夜謝憐が付けたものだ。
「……早,哥哥」
湯気の上がるマグを片手に、恋人の目覚めに気づいた三郎が振り向いた。
「ごめん、私また君に……」
「いいよ。そうさせたのは俺だし。それに……」
起き上がった謝憐のぶかぶかのスウェットの襟口を少し引き下げ、艶やかに笑う。
「俺こそごめん。我慢できなかった。今日はハイネック着た方がいいね」
首元をちょんと指先で撫でられ、謝憐は頬を赤らめてそこを押さえた。
March 5, 2025 at 5:02 AM
「喵」
かすかな鳴き声を聞きつけて裏手に回ると、そこにいたのは一匹の黒猫だった。大きくてしなやかな身体に、艶のある毛並み。小さな顔に収まる両眼は、右が紅で、左が黒の、稀有な异色瞳だ。長い尾を揺らめかせ、瞬きもせずじっと謝憐を見つめている。まるで誘っているかのように。
「……もしかして、三郎?」
驚かせないようそっと抱き上げると、肯定のつもりかざらついた舌先で頬を舐める。擽ったさに笑いながら、喵と鳴く猫に、同じように返す。
「ふふ、可愛いね。喵、――」
「……喵」
背後から聞こえてきた、艶やかで甘い、少年の声。
謝憐はぎこちない動きで振り向き、赤らんだ頬を恥ずかしげに掻いた。
一模一样 / 花怜
February 23, 2025 at 4:48 PM
広い背に顔を埋め、深呼吸をひとつ。胸を満たすのは深く、甘く、冷たい香りだ。
「君、いつもいい匂いだけど、君自身の香り?」
「いや、薫き染めた香がそのまま香ってる」
体臭はなく、体温で香りが立ち昇ることもないのだ。彼がとうに死しているという事実をふいに突き付けられ、謝憐はぐっと押し黙る。
「でも俺は、哥哥の香りの方が好きだな」
「……そうか?」
「あなた自身の匂いと花の香りが混じって、甘くて涼やかな香りがするんだ。ねえ、三郎にも移してよ」
隙間なく抱きつき、首筋に頬を擦り付ける。
「あっ! ……んもう」
苦笑し、ふっと力を抜く。脈動に合わせて、立ち昇る香りはいっそう濃くなった。
做标记 / 花怜
February 10, 2025 at 10:32 AM
「違うよ。ここはね……」
身を乗り出し、花城の手を取って導く。美しい顔が真横に迫り、真剣に半紙を見つめている。耳に心地よい声を聞きながら、花城はそっと朱唇に触れた。
「っ、三郎!」
「ふふっ」
頬を赤らめ口元を覆う謝憐に対し、花城は悪びれもしない。そこに唇があったのだから、触れて当然だろう、と言わんばかりだ。謝憐はぐ、と言葉を飲み込み、黙って半紙を追加した。
「……ごめんなさい。もうしません」
……怒らせてしまったか。しおらしく答えて筆を持つと、温かな手がそっと重なった。
「違う。……ちゃんと口づけしたいから、早く終わらせて」
花城は目を見開き、しかし真剣に筆を動かしてゆく。
手習い / 花怜
February 2, 2025 at 1:07 PM
繋いだ手は柔らかく、謝憐の手にすっぽり収まるほどに小さい。だが、合わせてゆっくり歩くこと、気遣うように時折様子を伺うこと。当然のように謝憐がする子ども扱いが、どうやら不服らしい。……大きい姿の時こそ「年下の特権」で甘えたがるくせに、本当に子どもの姿の時は寧ろそれが嫌だなんて、子ども心は複雑だ。ぷくりとむくれる白い頬をつんとつつき、苦笑する。
「私だって男だし、神だ。君がそうしたいように、私も君を守りたいんだ。……なあ、愛しい三郎。私に守らせて?」
「……その言い方はずるいよ」
小花花は唇を尖らせ、めいっぱい背伸びをして短い腕を伸ばした。
「哥哥、抱っこ」
「うん。……おいで」
想保护 / 花怜
January 31, 2025 at 10:28 AM
わずかな重みを感じて、謝憐は目を覚ました。見下ろす先には艶やかな黒髪。隣で眠っていたはずの伴侶が、今は胸元にぴたりと頬を寄せている。まるで、縋り付くような体勢だ。謝憐は黒髪を梳き、冷え切った大きな手を握り込んだ。
「……よしよし、大丈夫だよ」
「哥哥……?」
幼子をあやす手つきに、花城は困惑の表情を浮かべて伴侶を見上げる。
「君、不安なときはそうやってくっ付いてくるだろ? ……怖い夢でも見た?」
顔を布越しの胸に埋め、吐息を震わせる。くすり、と頭上で笑う声がした。
――没事、没事。穏やかな声と、鼓動。頭を撫でる優しい手のぬくもりが、悍ましい悪夢の記憶をたちまちかき消してゆく。
大丈夫 / 花怜
January 25, 2025 at 7:15 AM
美しい細工物に、蜜がけの菓子。事あるごとに花城は、伴侶へ贈り物をする。そしてそのどれもが、負担にならない心ばかりの品だ。
「ありがとう。でも私が貰ってばかりだな」
いつもの困り笑い。だが、ちゃんと喜んでくれていることを、花城は知っている。
「俺が贈りたいだけだから。なら……お返しをねだってもいい?」
冷たい指先で唇に触れると、ぽっと頬が染まる。
額か、それとも頬か。
だが予想に反して、温かい唇は花城のそれに重なった。
「んっ!」
深い口づけに思わず目を丸くする。たっぷり時間をかけたあと、ぽかんとする伴侶に、謝憐は艶やかに微笑んでみせた。
「ん、足りなかった?」
「……十分だよ」
返礼 / 花怜
January 22, 2025 at 4:45 AM
同時にお神籤を引くと、謝憐は大凶、花城は大吉だった。何百回と繰り返してきた、新年恒例の光景である。
「……私はいつになったら運気が上がるのかな」
ため息混じりに肩を落とす謝憐の手からさっと取り上げ、花城はくすりと笑う。
「上昇しかない、って考えれば大凶も悪くないけどね。気になるなら、こうやって……」
“凶”を塗り潰し、隣に“吉”を書き足してみせる。謝憐は目を瞬かせ、柔らかく微笑んだ。
「……そうだね。君と一緒なら、私はいつだって大吉だ」
蒼生を救う神の幸いを願うのは、傍らに寄り添う鬼だ。昔も今もこの先も、それは変わらない。
――そして、一向に上達の兆しを見せない、鬼の悪筆も。
運試し / 花怜
January 6, 2025 at 12:44 PM