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AKIRA好き。成人済み
もっと肩肘張らずにいれば良かった。
今になればそう思う。でもそうするとあの頃の自分がなくなってしまうような、いやでも……。
「隣いい?」
グルグルと同じところを巡り始めた思考を食い止めたのは、柔らかな声だった。
グラスから眼を上げると、しゃなりとした女性が横にいた。綺麗にまとめられた長い髪。派手すぎない化粧。それに反して豊かな胸と腰を併せ持つ女性。正しく女性の主役がそこに居た。
彼女は鉄雄の返事を聞くことなくゆるやかに隣に腰を下ろす。最初からその他大勢の意見など必要としていない。そんな所も主役だな。と鉄雄はぼんやりと思う。
December 14, 2025 at 12:45 PM
あれからもう3年。新入の文字がようやく取れてきた所にいる自分を、こうして俯瞰出来ているのも彼のおかげといえばそうで、学生の頃には味わわなかった感情を近頃認識したりもする。
感謝とかそんなの思いもよらなかった。
ありがとうと言うのは負けだと思っていた。何に対する負けなのかは未だによく分からない。ただそう言ってしまうと自分を保っていられなくなりそうで怖かった。だから必死で遠ざけていた。そんな風に最近では思う。
December 14, 2025 at 10:02 AM
ハイボールのグラスに視線を落とし鉄雄は同居人に思いを巡らす。
彼との付き合いは長い。長くなったというのが多分正解。学校を卒業してなんとなく同居を始めて、気づけば10年。小学生の頃から一緒だったと言えばそうなのだから、少なくとも人生の半分は隣に居る。
ここに就職出来たのもあいつのおかげだったっけ。
その他大勢の自分が曲りなりにも正社員になれたのは、間違いなく同居人のお陰で、それに感謝しつつも、入社までの日々がお世話にも順風満帆とはいかなかったのも彼のせいだったと懐かしく思い出す。
December 14, 2025 at 9:41 AM
オレでも楽しいと思えるんじゃないかって思ってたけど……そうでもなかったな。
2つ向こうの卓で気炎をあげる課長を眺めて鉄雄は何度目かのため息を着いた。
幸い「空気」になるのは慣れている。同居人が隣に居さえしなければ、ずっとその他大勢の中に身を浸せるのが自分だ。そんな事ない、案外目立つし面白い、と昔からの仲間は言うが、鉄雄自身はそう思った事はなかった。
そうかもしれないけど少なくとも主役じゃない。主役っていうのは、場の視線を全てかっさらってかつ平然としてる。そう、同居人みたいなヤツの事をいうんだ。
December 14, 2025 at 9:05 AM
どんな育ち方をしていても、いつもリーダー風を吹かしている奴はマウントを取り、それにへつらうヤツらは追従する。それ以外の人々はうすら笑いでそれを躱して当たり障りのない会話を続ける。それなりに空虚で、でもそれなりに楽しい、宴会の姿だった。
これなら来なくて良かったな。
ハイボールを舐めつつ鉄雄は一人ため息をついた。
少しだけ憧れがあった。普通の人とはどういうものか。ちゃんと育った人達は自分とは違うのではないか。例えば皆もっと微笑んでいるとか。例えば声を荒らげるでもなく騒ぐとか。例えば一人で飲んでいたら誰かが気付いて話しかけてくれるとか。
December 14, 2025 at 8:38 AM