「そんでもってスティーブンさんの記憶を取り戻させて、何が何でもどういうことか問いただすんです」ぐっと拳を握りしめたレオくんがザップさんを振り仰ぐ。「ザップさん、行きますよ！」「は？」「まずは聞き込み調査だ！」こうしてザップさんはレオくんとその彼氏のいざこざに巻き込まれていくのだった――。

「だいたい番頭のプライベートだったらオメーのほうが詳しいだろうが。色恋のいざこざに俺を巻き込むんじゃねぇよ」レオくんがぐうっと唸って黙り込む。やれやれ、ようやく落ち着いて食事に集中できる。店内の喧騒に耳を傾けながらラーメンを啜りはじめた。
そうしてザップさんが食事を終えたと同時にレオくんが呟く。「……てみせる」「あん？」「絶対にルカが誰か突き止めてみせる」えぇ…それはやめておいたほうが良いのでは？レオくんの手前言わなかったが、レオくんをルカと呼びかけたときのスさんのあの表情はいかにも特別な相手に向けるものだった。追及してもロクなことにならないって…。そう止めようにもレオくんの決意は固い。

そうしてラーメン屋にやってきたふたり。レオくんはジャパニーズスタイルでずるずると麺をすする。店内にいる客の白い目などものともしない豪快な態度だ。スープも最後の一滴まで飲みほして、ようやく器をテーブルに置いた。「…ルカって何すか」「あ？」「ルカって誰すか」そんなことザップさんだって聞きたい。しかしレオくんは糸目をぎゅむっと綴じて声を落とす。「ザップさん、何か知ってるんじゃないんすか」「知るわけねぇだろ！俺もはじめて聞いたっつーの」「…本当ですか？」「何で嘘つかなきゃいけねぇんだよ！」疑うような視線を向けられて鼻を鳴らす。

今すぐ病室を飛び出してここから逃げたかったが、一緒にここまでやって来たレオくんを置いて行くわけにはいかない。と言うかレオくんの反応を見るのもこわい。スさんはやたら親しげにルカルカ言っているが、そんな名前ザップさんだって聞いたことがないのだが…。恐る恐るルカと呼ばれた少年のほうを振り向くと、レオくんは困ったように笑って「すみません、誰かと間違えているみたいですけど、俺はレオ。レオナルドです。ルカって名前は聞いたことがありません」と告げた。それを聞いたスさんは驚いた顔をしていたものの、レオくんの顔を見て「…そうか。すまない。混乱していたようだ」と引き下がったのだった。

「少年……ルカ？どうして君がこんなところに？」ところがスさんはレオくんを一目見るなり目を丸くして言った。「いや、番頭。ルカって何すか」と言うか番頭って記憶喪失じゃなかったのか？その疑問を口にする前にスさんはザップさんを見て訝しげに首を傾げる。「…君は？ルカの友達か？」
その眼差しには警戒心がにじみ出ているものの、スさんの持つ底知れない冷たさや張り詰めた緊張感がない。まるで牙刈りもライブラも知らず表社会で生きてきた普通の人間のような表情だ。「…番頭、本当に記憶喪失なんすか」「ああ…そうらしい。君のことは覚えてないんだ。悪いな」本当に申し訳なさそうに言われてザップさんは鳥肌が立った。

そう、問題はレオくんとお見舞いに行くことではない。本人たちはみんなに内緒にしているつもりのようだがスさんとレオくんは付き合っているのだ。記憶喪失の恋人に会いに行くのに付き添うなんて、絶対気まずい。できれば居合わせたくない。それを訴えようとしかけて気づく。ふたりが恋人同士であることに気づいているのがザップさんだけであることに。「ザップ？」「…何でもねぇっす」一体どうして自分が男、それも鈍くさいほうの後輩の事情を慮って気を使わなきゃいけないのか！そう怒りたい気持ちはあったがクラウスさんに言うわけにもいかず結局レオくんとお見舞いに行くことになったのだった。

そうなると当然のようにレオくんとペアを組まされるのはザップさんである。「はあ？！俺が陰毛と番頭のお見舞いに行けって？！」「ああ、見舞いに行くときこれを。スティーブンが好きなコーヒー豆だ」「…病室に豆なんて持ってってどうするんすか」「個室にコーヒーメーカーがあった」「どんな病室だよ…って、いや、そうじゃなくて！！」「何か問題が？」「問題も何も陰毛は番頭と…」

もしよろしければ私もほしいです🥺