■ episode Ⅲ:
「めくらの国からこんにちは」
涼香:EXPO’70の“偽りの未来”に立ち会った人間
■ episode Ⅲ:
「めくらの国からこんにちは」
涼香:EXPO’70の“偽りの未来”に立ち会った人間
選んだんは、「前に出ること」やった。
「利用されたってかまへん。
そのぶん、こっちもこの国を診断したる。」
だからこそ、日本館のホステスという立場で、
この国の“演技された平等”を現場の内側から見極める決意をする。
『 叫ぶことも、泣くことも許されへん社会で、ほんまに“健康”って言えるんか?
この国には「かたわ」しかおらんのか? 』
選んだんは、「前に出ること」やった。
「利用されたってかまへん。
そのぶん、こっちもこの国を診断したる。」
だからこそ、日本館のホステスという立場で、
この国の“演技された平等”を現場の内側から見極める決意をする。
『 叫ぶことも、泣くことも許されへん社会で、ほんまに“健康”って言えるんか?
この国には「かたわ」しかおらんのか? 』
廊下の向こう、背を向けて立ち去る母親の後ろ姿。
涼香がそれを見送る。
「今度は…いつ来るやろなぁ」
―看護師のつぶやき
「この国の“未来”が、あの塔の顔やとしたら…うちは、あの子らの声も診なあかん。」
廊下の向こう、背を向けて立ち去る母親の後ろ姿。
涼香がそれを見送る。
「今度は…いつ来るやろなぁ」
―看護師のつぶやき
「この国の“未来”が、あの塔の顔やとしたら…うちは、あの子らの声も診なあかん。」
病院のベッドで酸素マスクをつけた子ども。目を輝かせて見上げる小児患者。
「せんせ、うちの町に万博こんの?」
涼香は一瞬、答えに詰まる。
病院の外には工場の煙、地図にすら載らん町。その子の“未来”が万博のパンフレットに描かれてるはずもない。
でも——
それでも、目を輝かせるこの子に、嘘も絶望も渡したくなかった。
病院のベッドで酸素マスクをつけた子ども。目を輝かせて見上げる小児患者。
「せんせ、うちの町に万博こんの?」
涼香は一瞬、答えに詰まる。
病院の外には工場の煙、地図にすら載らん町。その子の“未来”が万博のパンフレットに描かれてるはずもない。
でも——
それでも、目を輝かせるこの子に、嘘も絶望も渡したくなかった。
涼香は休日に街へ出た際、御堂筋の路上でゼロ次元の儀式に遭遇。
通行人が眉をひそめる中、白塗りの全裸の青年が奇声をあげ叫びながら、
「未来が来るぞォォォ!その前に死んどけェェェ!赤ん坊を捨てる国に、未来なんてねぇんだよ!」
涼香は一瞬目をそらす。けれど、目を背けきれずに見てしまう。
ゼロ次元の儀式を見て
「...気が狂っとる。キチガイや…けど、この叫びは、ウチらが見失った本当の未来への叫びかもしれん…
病院で子どもが喘息で死んでいくのも、見舞いに来ない親たちの背中も、
あたしの白衣の中に染みついとる。
誰も叫ばんだけや。あの人らは叫んどる。それだけや..」
涼香は休日に街へ出た際、御堂筋の路上でゼロ次元の儀式に遭遇。
通行人が眉をひそめる中、白塗りの全裸の青年が奇声をあげ叫びながら、
「未来が来るぞォォォ!その前に死んどけェェェ!赤ん坊を捨てる国に、未来なんてねぇんだよ!」
涼香は一瞬目をそらす。けれど、目を背けきれずに見てしまう。
ゼロ次元の儀式を見て
「...気が狂っとる。キチガイや…けど、この叫びは、ウチらが見失った本当の未来への叫びかもしれん…
病院で子どもが喘息で死んでいくのも、見舞いに来ない親たちの背中も、
あたしの白衣の中に染みついとる。
誰も叫ばんだけや。あの人らは叫んどる。それだけや..」
背景:
1969〜1970年、万博の準備が進む中、社会は激しく動揺している。
舞台:尼崎市
背景:
1969〜1970年、万博の準備が進む中、社会は激しく動揺している。
舞台:尼崎市
けれど、それ以上に許せんのは——
日本がそのコピーを誇らしげに掲げる姿だった。
けれど、それ以上に許せんのは——
日本がそのコピーを誇らしげに掲げる姿だった。
《意思で人を救う医師》
へと涼香が変化する瞬間。
以降、彼女は「選ばされる現場」に抗う生き方を選び続ける。
[それがやがて、娘:陽が持つ“他者を癒す”思想の源泉になっていく。〕
《意思で人を救う医師》
へと涼香が変化する瞬間。
以降、彼女は「選ばされる現場」に抗う生き方を選び続ける。
[それがやがて、娘:陽が持つ“他者を癒す”思想の源泉になっていく。〕
「どっちかを見捨てる未来に、“進歩と調和”なんかあるか!“技術”が未来を創るんとちゃう。
“覚悟”や。“怒り”、“抗う手”やろ。
患者は2人とも覚悟持ってる」と
ナースステーションに飛び込んで、不要になった吸引器を分解し、臨時の酸素分配装置を自作。
ペンライト、ホース、アルコール綿を使って仮設の“Y字コネクタ”を組み立てる
「どっちかを見捨てる未来に、“進歩と調和”なんかあるか!“技術”が未来を創るんとちゃう。
“覚悟”や。“怒り”、“抗う手”やろ。
患者は2人とも覚悟持ってる」と
ナースステーションに飛び込んで、不要になった吸引器を分解し、臨時の酸素分配装置を自作。
ペンライト、ホース、アルコール綿を使って仮設の“Y字コネクタ”を組み立てる
解剖された気管支の写真と、工場地帯の煙の写真が並ぶ。
誰も見向きもしないその相関に、涼香は震えるような直感を持つ。
「“未来”って言うならな、まずこの“空気”を治さな。酸素ボンベよりも、煙突を止める技術が要るんや」
解剖された気管支の写真と、工場地帯の煙の写真が並ぶ。
誰も見向きもしないその相関に、涼香は震えるような直感を持つ。
「“未来”って言うならな、まずこの“空気”を治さな。酸素ボンベよりも、煙突を止める技術が要るんや」
白衣を脱いで、スケッチブックとカメラと吸引器を持ち歩き、
煙突から出る排煙の色、におい、子どもたちの咳の頻度を記録する。
河川の色、油膜、魚の死骸、鉄粉の溜まった窓枠の拭き取り。
気温・風向き・湿度と喘息発作との関連を表にしていく。
「医学だけでは、救われへん。
この“毒の町”を診るには、もっと違う視点が要る」
白衣を脱いで、スケッチブックとカメラと吸引器を持ち歩き、
煙突から出る排煙の色、におい、子どもたちの咳の頻度を記録する。
河川の色、油膜、魚の死骸、鉄粉の溜まった窓枠の拭き取り。
気温・風向き・湿度と喘息発作との関連を表にしていく。
「医学だけでは、救われへん。
この“毒の町”を診るには、もっと違う視点が要る」
尼崎の診療所では、ゼーゼーと咳き込む子どもたちが連日詰めかける。
のどを焼くような痛み、止まらない痰、チアノーゼ——。
だが、彼らの家は、病院から戻っても工場の煙の真下。
涼香は、いつものように聴診器を当てながら、心のどこかで自分に問い続けていた。
「これはほんまに“病気”なんやろか。いや、“症状”ちゃうんか?
原因は…“環境”そのものなんちゃうんか?」
尼崎の診療所では、ゼーゼーと咳き込む子どもたちが連日詰めかける。
のどを焼くような痛み、止まらない痰、チアノーゼ——。
だが、彼らの家は、病院から戻っても工場の煙の真下。
涼香は、いつものように聴診器を当てながら、心のどこかで自分に問い続けていた。
「これはほんまに“病気”なんやろか。いや、“症状”ちゃうんか?
原因は…“環境”そのものなんちゃうんか?」
背景:
1969〜1970年、万博の準備が進む中、社会は激しく動揺している。
舞台:尼崎市
万博に反対する学生運動、安保闘争やゼロ次元、万博キリスト教館推進派と絡み、差別と公害問題が浮上する。
万博建設現場から運ばれてくる倒れた日雇い労働者や、学生運動で怪我をした若者、公害病患者の治療に奔走する。
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背景:
1969〜1970年、万博の準備が進む中、社会は激しく動揺している。
舞台:尼崎市
万博に反対する学生運動、安保闘争やゼロ次元、万博キリスト教館推進派と絡み、差別と公害問題が浮上する。
万博建設現場から運ばれてくる倒れた日雇い労働者や、学生運動で怪我をした若者、公害病患者の治療に奔走する。
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・卒業後は外科医として勤務。都市部の病院ではなく、あえて公害指定地域に赴任。(尼崎市杭瀬)
・「環境が人を病気にし、社会が治療を妨げる」という経験を重ねながら、患者に寄り添う。
・卒業後は外科医として勤務。都市部の病院ではなく、あえて公害指定地域に赴任。(尼崎市杭瀬)
・「環境が人を病気にし、社会が治療を妨げる」という経験を重ねながら、患者に寄り添う。
• 差別と偏見の中、母が倒れたことをきっかけに医師を志し、周囲の冷笑を押し切って医学部に進学。
• 医大での解剖実習中、「差別される身体」への怒りと人間の命のはかなさを知り、インターンで訪れた水俣で命に対する強烈な責任感を抱くように。
• 差別と偏見の中、母が倒れたことをきっかけに医師を志し、周囲の冷笑を押し切って医学部に進学。
• 医大での解剖実習中、「差別される身体」への怒りと人間の命のはかなさを知り、インターンで訪れた水俣で命に対する強烈な責任感を抱くように。